福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2024年12月号 月報

来たれ!リーガル女子(10/20)

月報記事

両性の平等に関する委員会 委員 西田 舞季(76期)

秋風心地よい10月20日(日)に、当会主催、男女共同参画推進本部担当で、「来たれ!リーガル女子」(以下「リーガル女子」とします。)が開催されました。

リーガル女子とは、職業としての法律家の魅力を、主に中高生及びその保護者・教員に伝え、法律家志望者拡大につなげるイベントです(「女子」となっていますが、性別に関わらずどなたでも大歓迎です。)。拙筆ながら、今回の活動の様子及び感想を報告いたします。

1、リーガル女子開催に向けての準備
(1) 分担と協力

リーガル女子は3部構成になっています。講師、全体司会、各部責任者、会場設営、グッズの準備、茶話会の用意、司会、資料準備、広報等、ここでは書ききれないくらいその準備は多岐にわたりました。毎月1~2回の会議で、役割を分担し、進捗状況の確認をしました。役割については、先生方が立候補したり、適任者を分担して探したり、とてもスムーズに決まりました。一人一人が責任をもって行動する姿を学ばせてもらいました。

リーガル女子は福岡を会場とするイベントですが、鹿児島大学にもご協力いただき、福岡以外の学生にも参加してもらえるようにご協力いただきました。配信の準備や広報等についても快く協力してくださり、一丸となって学生にとって有意義な時間になるように準備することができました。

(2) 反省と感謝

私は、第1部の対談におけるインタビュアーの役と、第3部のグループセッションにおける講師の役を任せていただきました。

第1部は、元裁判官のご経歴を持つ野島香苗先生(37期)、ずっと弁護士としてご活躍なさっている原志津子先生(51期)、元検察官のご経歴を持つ川本日子先生(53期)に、それぞれの法律家の仕事内容や魅力を話していただく対談になります。

対談のテーマ、時間配分、構成、台本について決めるために、本番までに3回事前打ち合わせをしました。事前打ち合わせにおける私の反省点は、挙げるときりがありません(司会進行役としての役割、能力のすべてが足りませんでした!)。

講師をつとめてくださった野島先生、原先生、川本先生、第1部責任者の山崎あづさ先生(54期)に、「こんなのはどう?」や「こうしたらいいよ!」と温かくフォローやアドバイスをいただき、励ましの言葉も何度もかけていただき、何とか構成や台本を決めることができました。先生方に育てていただいたと感じています。この場をお借りしてお礼を申し上げたいです。本当にありがとうございました!

2、いよいよ当日!
(1) 準備と開会

会場設営やマイク・カメラ等の最終調整をして、美味しいお弁当を食べて開会の瞬間を待ちました。

受付開始後にぞくぞくと学生が会場に入ってきました。学生は保護者と一緒にお越しになったり、おひとりでお越しになったりしていましたが、皆さんどこか緊張している面持ちでした。少しでもリラックスしてもらえるように、事前に会場後方に写真撮影コーナーを設置していました。法務省のホウリス、日弁連のジャフバといったマスコットキャラクターと一緒に、愛知県弁護士会が貸してくださった戦前の弁護士の法服のレプリカ(朝ドラ「虎に翼」で主人公が着用していたデザインです)を着用して写真を撮ったりしてリラックスしてくれたと思います。

開会するとまた緊張した雰囲気になりましたが、德永響会長の親しみのお気持ちのこもったあいさつで空気が和み、いよいよプログラムが始まりました。

(2) 第1部

講師の先生方に裁判官、検察官、弁護士の仕事内容、キャリアアップ、ワークライフバランスを話していただきました。どのお話も、進行の役割そっちのけで「もっと詳しく教えてください!!」という言葉を何度も我慢する程楽しかったです。女性法律家が今より少ない中でご自身の信念と誇りをもって活躍してきたこと、現在はどの法律家も性別問わず充実したキャリアアップやワークライフバランスを形成できることが、学生にも伝わったと思います。私たち若手弁護士が今の法律家の仕事を楽しく行えているのは、先輩たちのおかげなのだろうと感じました。

(3) 第2部

法律家を目指すための進路説明のために、九州大学、西南学院大学、福岡大学の教員の方々も来てくださいました。大学における法律家を目指すためのコースの選択、法科大学院への進学(もしくは予備試験合格)、その後の司法試験受験といった制度やスケジュールを説明し、その中での支援体制をわかりやすく説明していただきました。

社会にインターネットが普及してから、あらゆる情報は昔より得やすくなってきています。しかし、情報が身近にあることが進路の選択肢を必ず増やすわけではありません。その中で、実際に教育に携わる大学の方々が具体的に制度や方法を説明することは、その進路を選択肢に入れ、自分が将来つくる人生の一歩を踏み出す良い機会になると感じました。

(4) 第3部

第3部は、4つのグループに分かれて、女性の裁判官や検察官、弁護士が学生の質問に対して答えるというグループセッションを行いました。裁判官や検察官の方々も講師として参加してくださり、それぞれの進路に興味のある学生の質問や悩みに答えてくださいました。学生は、進路として既に法律家に興味がある方、法学部に進むかについて悩んでいる方、法律家になった後にやっていけるか不安がある方等様々でした。講師の弁護士や裁判官、検察官の方々がとてもわかりやすく答えてくださいました。1時間という時間はあっという間に過ぎましたが、司会役の先生の華麗な進行によって、学生の質問全てに答えることができました。無限の将来の選択肢や可能性を持つ学生が、「法律家っていいな、法律家を目指したいな」と思ってくれたらいいなと思いました。

第3部で学生がグループセッションに参加している間、保護者の方々を対象とした質問コーナーを設け、保護者の方々が感じている不安や疑問に対して、第2部参加者の各大学の教員の方々や弁護士の先生方が答えてくださいました。学生の進路は、学生を大切に思う保護者の方々にとっても重要なものです。学生を応援する側の保護者の方々へのフォローもするのはとても良いことだと思いました。

(5) 閉会

閉会の挨拶をしてくださった深堀寿美先生(45期)のお話の中で、「学生が「やってみたい!」と言ったら、保護者の方々はぜひ「やってみて!」と背中を押してほしい」というお言葉がありました。深堀先生の言葉は、その進路を目指したい学生にも、心配に思う保護者にとっても、心強い支えになったと思います。

終了後お見送りしている中、保護者の方から「とっても感動しました!」と言っていただきました。がんばってよかったと心の底から思った瞬間でした。

(6) 茶話会(振り返りの会)

今回は、全体で42名の学生が参加してくれました。イベント終了後は、参加者と振り返りの会を実施し、感想を言い合いました。皆様「やりきった!」という笑顔で輝いていました。とても実りある時間を過ごせたと思います。全てが終わった後のお茶は最高に美味しかったです。

3、達成感と今後の抱負

参加してくださった方々一人一人が、それぞれの役割を果たし、助け合ってイベントを成功させることができました。私自身も講師の先生方のご経験や思いを聞き弁護士として人として大変勉強になりましたし、イベントの準備を通して組織として行動すること役割の果たし方を学ばせていただきました。とても貴重な経験になりました。

弁護士になって先輩方に助けられたりお世話になる機会がたくさんありましたが、皆「先輩から受けた恩や親切は後輩に引き継いでいくんだよ、バトンだよ」と言ってくださいます。このリーガル女子を通して、私が学ばせてもらったことを、今後法律家となる学生にもそれ以外の道に進む学生にも伝えられていたらいいなと思いました。また、今後もそうあろうと思いました。
お読みくださりありがとうございました。

福岡県弁護士会 来たれ!リーガル女子(10/20)
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九州レインボープライド2024

月報記事

LGBT委員会 委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

2024年11月4日、博多区冷泉公園で開催された九州レインボープライドに弁護士会のブースを出展し、パレードにも参加しました。
当日の様子をレポートします。

2 九州レインボープライドとは

これまで何度か月報で九州レインボープライドのことを書いてきましたのでご存じの方もおられるかもしれませんが、九州レインボープライドとは、性の多様性について社会にアピールするイベントです。

川端商店街近くの冷泉公園が会場となり、沢山のブースとステージが設置されます。
ステージでは性の多様性をテーマとするトークショーや歌や踊りなどのショーが行われます。

企業、自治体、当事者団体、支援者団体がブースを出し、それぞれ性の多様性に関する情報やアクティビティの提供、物販などを行っています。
ヒューマンライブラリーといって、当事者の来歴を聞いたり対話したりできるブースもあります。

飲食店ブースも多く並び、キッズスペースもあるため、子ども連れの方もとても多いです。
参加者は、ステージの音楽を楽しんだり、ブースでアクティビティに参加したり、旧交を温めたり、芝生やベンチで食事をしたり、思い思いに過ごすことができます。
イベントの期間中、冷泉公園は誰もが安心して自分らしく過ごせる空間になります。多くの方がこのイベントを心待ちにしています。

冷泉公園が狭く思えるほど、たくさんの来場者でにぎわいます。来場者は毎年増え続けており、今年は1万6000人の来場があったとのことです。

3 弁護士会がブース?

そのような中、当会は無料法律相談を行うブースを出しました。
基本的には楽しいお祭りなので、正直、場違いであることは否めません。
ということで、雰囲気を壊してしまわないようあまり積極的に声掛けはしないのですが、安孫子健輔委員デザインのレインボーの垂れ幕や立て看板がアイキャッチになり、今年は12組のご相談がありました。

前から気になっていたことを相談できてよかった!と言っていただくこともあり、場違いかもしれないけどブースを出してよかったなといつも思います。
また、ブースを出していると、弁護士会に興味を持っている方や、弁護士と何かつながりを持ちたいと思っている方が訪ねてきてくれることがあります。他団体の接点としてもとても重要です。実際、立ち話をする中から新たな連携が生まれたことも沢山あります。

福岡県弁護士会 九州レインボープライド2024
4 活動歴が一目で分かる!

ブースに来た方から、弁護士会ってどういう取り組みをしてるんですか?と聞かれることも結構あります。

そこで、今年はこれまでの当会の活動をまとめたページを県弁のホームページに新たに作成し、そのページ(トップページの「LGBT」タブ→「福岡県弁護士会のLGBTQ+に関連する活動歴はこちら」ボタンで見ることができます。ぜひ、ご一読ください。)のQRコードも展示しました。

立て看板に貼り付けておくと、通りすがりにスマホをかざしてくれる方もいます。
弁護士会もアライであるということをアピールするためにも、今後もブースは出し続けたいと思います。

5 いざパレードへ

イベントのメインは、なんといってもパレードです。冷泉公園から天神に向かい、また冷泉公園に戻ってくるルートを歩きます。

今年のパレードには1200名が参加しました。
DJが音楽を流すトラックが先導し、レインボーの旗を振ったり、パネルを掲げたりしながら歩きます。

飽くまで、楽しみながら。
存在をアピールすることが目的です。
天神は連休だけあって観光客も含む多くの人でにぎわっています。その中を1200名でパレードするのですから、多くの人の目に留まります。社会に対するアピールとしてこれほど力強いものはないと思います。

通行人の中には、手を振り返してくれる人も沢山いました。とおりかかった車から窓を開けて手を振ってくれる方もいました。

福岡県弁護士会 九州レインボープライド2024
6 執行部と歩くレインボーパレード

今年のパレードにはなんと、特別ゲストとして德永会長、德永会長の奥様、中原副会長、山田副会長も参加してくださいました。

会長自らパレードに参加していただくのは初めてのことです。
みんなが色とりどりの衣装で歩くパレードの中、德永会長と中原副会長の濃紺のスーツ(withネクタイ+弁護士バッジ)の目立つこと!

あふれる弁護士オーラに、警備に立っている警察官もびっくりして「弁護士も参加してるんやね」とささやき合っていました。
弁護士会としては過去最高の存在感を放つことができました。執行部の皆様、お忙しい中本当にありがとうございました。

7 皆様もぜひ

先日、全会員にLGBTQ+ガイドラインを配布しました。
ご一読いただけましたでしょうか。

皆様の中には、「そうは言っても当事者と実際に会ったこともないし、自分が相談や事件を受けることはないのではないか」と思う方もおられるかもしれません。
そういう方は、ぜひ毎年11月に開催される九州レインボープライドにお立ち寄りください。

性のあり方が多様であり、ありふれた個性の一つにすぎないことを実感していただけると思います。

福岡県弁護士会 九州レインボープライド2024
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「アンドレア・パラさん講演会・シンポジウム」のご報告

月報記事

精神保健委員会 委員 植竹 克典(66期)

令和6年10月26日、コロンビア共和国からアンドレア・パラさんをお招きし、精神保健に関するシンポジウムを開催しましたので、ご報告いたします。

1 アンドレア・パラさんって?

アンドレア・パラさんのことを御存じない方は多くおられるかもしれません。
アンドレアさんは、障がい者の支援活動などを精力的に行い、中南米諸国で成し遂げられた成年後見制度や強制入院制度改革に深く関与されたコロンビア共和国の弁護士です。今回は、日弁連の強制入院制度の廃止に向けた取組みの一環として来日されました。

2 アンドレアさんの基調講演...中南米での後見制度の廃止

アンドレアさんは、自国であるコロンビアや、その他中南米各国における後見制度の廃止に向けた取組みとその成果を中心にご講演されました。その概要は次のとおりです。
コロンビアは、人口4000万人、60年にわたって続いていた武力紛争が2016年に終結しましたが、その武力紛争に起因し、障がいを負った人も多数生活しています。
従来の制度では、家庭裁判所の判断により後見人が選任され、多くのケースでは、親族が後見人を務めていました。そして、後見人には、本人に関する全面的な権限を付与され、その一方的な判断(代行的意思決定)により、本人に不妊手術を受けさせてしまう、本人の財産を遣い込んでしまう、施設入所を強制してしまうといった人権侵害が横行していました。

コロンビアでは、2011年に障害者権利条約を批准し、この条約批准をふまえ、条約の趣旨、とくに第12条(障害者の法的能力の享有など)を忠実に実現する方向での制度改正が進められました。その結果、2019年までに、後見制度は全面的に廃止され、それに代替する「支援による意思決定」の枠組みが整備されました。

支援による意思決定は、(1)本人と支援者との支援合意、(2)特定の法律行為について、本人の支援者を家庭裁判所が選任する手続、(3)本人による事前指示の3つの枠組みがあり、いずれについても、代行的な意思決定が排除され、本人を中心に据え、本人の意思決定を支援する制度とされています。
このような後見制度の廃止など障害者権利条約の趣旨を実現する活動は、アンドレアさんらを中心とする中南米各国をまたがる権利擁護に関するネットワークの尽力により、中南米の各国で進められているとのことでした。

3 パネルディスカッション...強制入院の廃止に向けて・・・

パネルディスカッションでは、アンドレアさんのほか、精神障害がある人の地域生活を多職種チームで支援をしているQ‒ACTの須田竜太さん、精神科病院の強制入院の廃止に向けた日弁連の取り組みの中心メンバーである東京の池原毅和弁護士をお招きし、当会の田瀬憲夫会員のコーディネートのもと、強制入院の廃止に向け、それぞれの立場から熱い意見が交わされました。

本項の執筆者の力量の問題と紙幅の都合により、その全容をご報告することはできませんので、とくに印象に残った部分をご報告いたします。
アンドレアさんからは、かつては「奴隷から逃れたいという考え」が精神疾患と考えられていたなど、診断する側の主観的な判断で精神疾患との診断がされてしまう、本人の感情的な苦痛については、施設への収容による一般的な対応ではなく、個々人の問題として、軽減策を考えることが必要であり、その検討にあたっては、創造力を発揮した医療以外の対策(芸術を楽しむ、カラオケを楽しむなど)が重要と考えているとの発言がありました。

須田さんからは、Q‒ACTの取り組み事例として、強制入院を繰り返してきた男性の支援事例がご報告されました。危機的状況になった場合の対応策を、事前に本人と話し合っておき、調子が悪いとどうなるのか、どうすれば落ち着けるのか(状態が「黄色信号」であれば、「壺に向けて大声を出す」、状態が「赤信号」になれば「入院する」など)、周りの人にしてほしい支援・してほしくない支援を事前に話し合い、支援者間で共有する、この対応策については、何度も見直しをし改善していきながら支援を行っているとのことでした。

また、池原弁護士からは、強制入院中は大便を壁に塗ってしまうことを繰り返していた方が、退院後は、その行動もなくなり、一人で遠方に旅行に出かけたりするなど、社会内で順調に生活を送れるようになった、問題行動は本人なりの抵抗だったのではないかと考えているとの体験談のご報告がありました。

4 雑感

登壇された皆様のご発言を通じ、本人の話をしっかり聞く、そして、支援を一般化するのではなく、個々の当事者本人に適した方法で、寄り添った支援を行うことが重要であると感じました。こうした方向の先に、精神障害者の脱施設化の更なる展開もあるものと思います。

私自身も、今回も学んだことを活かし、今後の成年後見人としての業務や、精神保健当番弁護士などの支援活動により注力していきたいと強く感じました。

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2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

月報記事

弁護士業務委員会 副委員長 福山 聖(64期)

1. フリーランス法の対応は万全ですか?

2024年11月1日から、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)(以下「フリーランス法」といいます)が施行されました。

弁護士業務委員会の経済法研究会では、施行前の同年10月22日に、フリーランス法の施行について、会員の皆様へ周知するとともに、業務に役立てていただくため、研修会をハイブリッド方式で実施いたしましたので、ご報告いたします。

当日は、「フリーランスにかかる取引の適正化について」の講演を、公正取引委員会事務総局九州事務所取引課長の幸屋健太郎氏に、「フリーランスの就業環境の整備について」の講演を、福岡労働局雇用環境・均等部指導課フリーランス就業環境整備指導員の前田佐也香氏にお話いただきました。

2. 対象となる事業者や取引とは?

フリーランス法は、フリーランスの相談者や発注事業者となる顧問先の取引だけでなく、私たち弁護士自身の取引にもかかわってくることがあります。たとえば、私たちが発注事業者として、フリーランスの通訳人に依頼するとき等です。

知識としてだけでなく、弁護士自身の取引がフリーランス法に対応できているのかを確認するためにも、まずは「対象となる事業者」や「対象となる取引がどのようなものか」等、フリーランス法をご確認いただければと思います。

3. 守るべき義務と禁止行為とは?

フリーランス法は、さまざまな業界で活動するフリーランスとの業務委託取引について、「取引適正」と「環境整備」という2つのパートに分けて、発注事業者が守るべき義務と禁止行為を定めているため、今回の研修は、それぞれ実務的な視点でお話しいただくべく、公正取引委員会と労働局から講師をお招きしました。

公正取引委員会からは、「取引適正」のパートにかかる「取引条件の明示義務」、「期日における報酬支払い義務」、「発注事業者の禁止行為(7つ)」のほか、下請法との比較について、福岡労働局からは、「環境整備」のパートにかかる「募集情報の的確表示義務」、「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」、「ハラスメント対策に係る体制整備義務」等の項目について、ご説明いただきました。

4. パンフレット等のご紹介

各項目(義務や禁止行為)のポイント等については、研修時に配布されたパンフレット「ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法 令和6年11月1日施行(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)」が参考になります。同パンフレットは、公正取引委員会のHP中(https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited.html)に掲載されていますので、ご利用ください。また、同HP中には、同法の特設サイトが開設されているほか、YouTube動画等の掲載もありますので、ご参考になれば幸いです。

福岡県弁護士会 2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

研修資料:パンフレット表紙

5. さいごに

ご自身の取引が、フリーランス法の対象となる取引に該当していないか、対象となっている場合には義務を守り、禁止行為に該当するようなことになっていないか等、ご確認等をお願いします。

経済法研究会では、今後も、皆様の業務に役立つ研修等を企画してまいりますので、ふるってご参加ください。

福岡県弁護士会 2024年11月1日からフリーランス法が施行されました!

研修の様子:弁護士会館にて

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手錠腰縄シンポジウムのご報告

月報記事

手錠腰縄PT 鶴崎 陽三(69期)

1 はじめに

去る令和6年10月3日、愛知県(名古屋市)での第66回人権擁護大会の第2分科会として手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました。

聞きなれない会員もいるかもしれませんが、手錠腰縄問題は、身柄事件の被告人が公判廷で裁判官からの解錠の指示があるまで手錠腰縄を装着された姿を晒されることが被告人の尊厳を損なうものであり人権侵害にあたるとして、手錠腰縄姿を訴訟関係者や傍聴人に晒さないための措置を求めるものです。

以下、シンポジウムの内容をご紹介します。

2 報告等及び講演
(1) 報告等及び講演の内容

本シンポジウムでは、最初に手錠腰縄問題に関するドラマが上映され、愛知県弁護士会の櫻井博太弁護士からの基調報告、福岡県弁護士会の稲森幸一弁護士から国際人権法についてのガイダンス、法廷での手錠腰縄経験者であるミュージシャンのSUN-DYU氏による歌唱と同氏に対するインタビュー、海外の調査報告などがありました。

また、基調講演として、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本一氏教授、近畿大学法学部法律学科の辻本典央教授、中央大学の北村泰三名誉教授からご講演いただきました。
最後に、北村教授及び辻本教授に元裁判官で現愛知県弁護士会の伊藤納弁護士、大阪弁護士会の川﨑真陽弁護士を加えた4名をパネリストとしてパネルディスカッションが行われました。

以下、紙面の関係上すべてをご紹介することはできませんので、櫻井弁護士の基調報告とSUN-DYU氏へのインタビュー及び各基調講演について、内容をご報告いたします。

(2) 櫻井博太弁護士の基調報告

櫻井弁護士からの報告によると、最高裁判所と矯正局の協議によって、平成5年に、「特に戒具を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせることは避けるべきであるという事情が認められる場合には」(傍聴人を被告人より後に入廷させ、傍聴人を被告人より先に退廷させることにより)傍聴人のいない所で解錠・施錠することを原則とし、それができない特段の事情がある場合には、入廷直前又は退廷直後に法廷の出入口の所で解錠・施錠する取り扱いとすることが法務省から通知されたそうです(平成5年通知)。

その後、どのような経緯なのか平成5年通知に従った運用は全くなされなくなった中で、2014年、大阪地裁において被告人が手錠・腰縄姿での出廷を拒否し、それにならった弁護人に対して出頭在廷命令及び命令違反による過料決定、大阪弁護士会に対する処置請求がなされました。

これに対して、2015年、大阪弁護士会は「処置しない」決定をするという毅然とした対応をしましたが、この頃から大阪弁護士会で手錠腰縄問題が議論され始めたそうです。
その後、一時的に裁判官がなんらかの対応をしてくれる割合が増加したそうですが、最近は対応割合がかなり低下しているとのことです。

その他、手錠腰縄に関する海外の状況や、日本における裁判例として、手錠腰縄問題を人格的利益の観点から判示した裁判例や無罪推定の原則との関係について判示した裁判例などが紹介されました。

(3) SUN-DYU氏のインタビュー

SUN-DYU氏は、約300日間にも及ぶ勾留期間を経て、最終的には無罪となりました。
長期間にわたって勾留されること自体が極めて重大な人権侵害であり、日本における人質司法の問題点が垣間見えるところではありますが、それはさておき、本シンポでは、手錠腰縄について実際に手錠腰縄を経験したことがある人ならではのお話を伺うことができました。

たとえば、手錠腰縄をしていると、腰縄に引っ張られるような形になり、手錠で両手が体の前にあることも相俟って体勢が前屈みになるため、いかにも悪いことをした人間に見えるというようなお話がありました。
手錠腰縄がまさに人間の尊厳や無罪推定の原則を傷つけるものであることを痛感しました。

(4) 山本一氏教授の基調講演

山本教授からは、「人権の普遍性をどのように実現するか?-国際人権規範と国内における人権保障の実現-」と題したご講演をいただきました。
世界で人権保障がどのように発展してきたかや、日本における人権保障の課題、日本国憲法の問題点などをご説明いただき、今後の国際的な人権保障に向けた展望が示されました。

たとえば、日本国憲法から抜け落ちている視点として、先住民の権利、外国人の権利、戦後補償問題、住国籍問題をご指摘されました。
そして、国境を超える人権保障に向けて、憲法判断における国際人権の重要性を説明されたほか、従来の思考枠組を批判的に検討する必要があることなどが示され、国際人権規範の介入を警戒する従来の思考枠組として「国憲的思惟」(まず国があってこその憲法という見方)の問題性を指摘されました。

また、人権法源について、「拘束的権威」(法的拘束力を持つ規範)と「説得的権威」(参考にする規範ではあるが、従う義務はない規範)の2つに分類する従来の考え方(二分論)を修正し、両者の間に「影響的権威」(法的拘束力を持つ規範ではないがひとまずそれに従うべき義務が生じ、裁判官がそれに反する決定を行おうとする場合には、なぜそれに従わないかについて論証する責任を負う規範)を位置づける三分論を提唱されました。

(5) 辻本典央教授の基調講演

辻本教授からは、「人権問題としての法廷入退廷時における手錠腰縄措置」と題したご講演をいただきました。
手錠腰縄措置によって侵害される利益には(1)行動の自由・人身の自由の制約、(2)防御権の侵害、(3)人格権侵害があり(大阪地裁平成7年判決:人格権=「人間としての誇り、人間らしく生きる権利」)、手錠腰縄措置による権利侵害の違法性は、(1)(2)の直接的侵害については刑事施設収容法78条や刑訴法287条の解釈論によって判断されること、(3)の附随的侵害については本質的に避けるべき権利侵害であることを指摘されました。

また、比例性原則による規律が及び、当該措置をとることの適格性+必要性+相当性が問われることや、手錠腰縄措置の目的は逃亡防止にあり暴行防止は目的外であることなどが示されました。

裁判例としては大阪地裁令和元年5月27日判決を紹介されましたが、同判決の意義として、手錠腰縄姿を公衆の面前でみだりに晒されないことの正当利益は法廷内外で違いはないこと、法定警察権を根拠とする裁判所是正義務の存在、裁量性が否定され比例制原則が適用されることを示したことにあるとご説明されました。
また、刑訴法287条の身体不拘束原則を入退廷時に拡充する立法措置の必要性などを説かれました。

(6) 北村泰三名誉教授の基調講演

北村教授からは、「法廷内での拘束具使用の禁止に向けて 国際人権法からの問題提起」と題したご講演をいただきました。

「鎖、枷、その他の本質的に品位を傷つけ又は苦痛を伴う拘束具の使用禁止」や、「司法または他の行政当局の前に被拘禁者が出頭するときは(拘束具を)外される」ことなどを定めた国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)についてご説明いただいたほか、「被告人は通常、審理の間に拘束具をつけられたり檻に入れられたりまたは他の方法により危険な犯罪者であることを示唆するようなかたちで出廷させてはならない。報道機関は、無罪の推定を損なう報道は避けるべきである。」とする自由権規約委員会一般的意見32をご紹介いただきました。

また、国外の状況として、ヨーロッパ人権裁判所の判例には日本の法廷内における手錠・腰縄問題に直結するものは見当たらないものの、比例性原則により過剰で必要性のない手錠の使用は人権条約違反とされることが示されていること、米国連邦最高裁判決(Deck v.Missouri事件)では、法廷内の拘束具の使用は公正な裁判の場である法廷の尊厳を侵すものであると指摘されていることなどが紹介されました。

3 おわりに

法廷の中で手錠腰縄姿を晒されることが人権侵害にあたる違憲違法なものであると考えたとき、刑事弁護に携わる弁護士の多くは、目の前で違憲違法な人権侵害行為が行われているにもかかわらず何もせずにそれをただ眺めていたことになります。まずは弁護士自身が手錠腰縄問題を認識することが必要です。

翌日4日の大会では、入退廷時に手錠腰縄を使用しないことを求める決議が成立しました。
会員専用ページに申入書の書式が用意されていますので、是非みなさんも決議に沿った働きかけを実践されてください。

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