福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2024年11月号 月報
あさかぜ基金だより
月報記事
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)
赴任先が決まりました!
月報3月号(NO.626)で事務所の移転を報告してから、久しぶりです。今回は、いよいよ迫った私の赴任が決まったことを報告します。
「あさかぜ」ってなんだっけ?
その前に、改めて「あさかぜ」を紹介します。弁護士法人あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域(人口あたりの弁護士の数が少ない地域)に赴任する弁護士を養成するため、九州弁護士会連合会が創設した"あさかぜ基金"から拠出された資金で設立されました。所員弁護士は、2年から3年程度の養成期間を経て、原則として九州の司法過疎地域に赴任します。あさかぜ事務所からは、既に30人近い弁護士が巣立って行き、九州を中心として日本各地で活躍しています。
私は、令和4年4月にあさかぜに入所し、このたび、長崎県対馬市にある対馬ひまわり基金法律事務所の後任所長に採用されました。令和7年3月頃を目安に、引継ぎのため対馬に移住する予定です。ようやく弁護士登録から3年弱、あさかぜを離れることになりました。
さらば福岡、よろしく対馬
あさかぜでは、司法過疎地で十分なリーガルサービスを提供できるよう、多種多様な事件対応を担当しました。司法過疎地で役立つ経験ばかりでしたが、とりわけ、山林の境界確認のため何時間も山中を歩き回ったことや、福祉職の方々から障がい者支援の悩み事をお聞きして回ったこと、薬害訴訟の弁護団に加入して全国的な活動に参加したことなどは、得難い経験でした。
また、あさかぜ事務所外の弁護士と事件を共同受任することも多く、累計で20を超える法律事務所の30人もの先輩弁護士(弁護団事件を除く)から指導を受けることができました。法律事務所によって、また弁護士によって取扱事件や、事件の進め方に違いがあり、特徴がありました。一方で、依頼者と向き合う真摯な姿勢や、依頼者の利益を最大化するという考え方は、どの弁護士も共通していました。これから先、私自身がどのような弁護士となって司法過疎地の1人ひとりを支援できるのか、その指標を得ることができました。この場を借りて、お礼を申し上げるのをお許しください。直接ご指導いただいていない弁護士の方々も、司法過疎問題をご理解いただいていると感じています。誠にありがとうございます。
対馬でも力いっぱい業務にはげみます
私が対馬でできることとは?
国境の離島である対馬は、南北に長く広い面積を有し、端から端まで車で2時間以上かかる大きな島です。また、山林が島全体の89%を占めています。年齢別人口が分かる最新調査(令和2年度国勢調査)によると、65歳以上の人口が全体人口の38%以上を占めます。障害者手帳保持者数は、令和6年3月末時点で合計2736人であり、同時点の総人口2万7416人の1割に迫ります。この情報を聞くだけでも、弁護士が積極的に事務所から出て、アウトリーチ活動をする必要性を感じています。過疎地で活躍したある弁護士は、特定地域の全戸訪問法律相談を実施したそうです。
また、対馬市は、雄大な自然や歴史的建築物を有する観光地です。そのため、多くの観光客が訪れます。対馬市が公表している統計データによると、「宿泊業・飲食サービス業」だけで243の事業所があります。地域の主要産業に対して、私がお手伝いできることはないでしょうか。
視点を変えてみると、対馬市には、15の公立小学校、11の公立中学校、3の公立高校があるようです。近くに弁護士がいない田舎で生まれ育った私としては、「弁護士は身近にいるんだよ」「いつでも相談していいんだよ」と子どもたちに伝えることは、とても大事なことだと考えています。個人的な希望としては、田舎生まれから弁護士になる道があることを伝えて、弁護士になって田舎に貢献したいと考える若者が1人でも増えて欲しいと思います。
こうして自分にできることを考え、準備を進めることは、とても楽しいものです。そして、実際に赴任して活動に取り組むことは、やりがいのある仕事だろうと思います。
対馬の雄大な自然
対馬藩主宗家菩提寺 万松院
単身赴任?私にはムリです
毎度ご紹介している私の娘は、あっという間に1歳半を過ぎました。最近は、福岡市が実施している「こども誰でも通園制度」を利用して、週に1回保育園に通っています。朝の登園は私が送ることにしたのですが、これが楽しみでなりません。保育園でサヨナラをするときの泣き顔に、なんとも胸を締め付けられます。そんな最愛の娘(もちろん妻もです)を置いて、1人で対馬に行くことは考えられません。
対馬には、子どもの成長によい自然が多いこと、本年33に大規模な無印良品店がオープンしたこと、光回線まで開通したこと、さらには韓国、釜山に気軽に遊びに行けることなど、各種証拠をそろえて妻に同行をお願いしているところです。皆様、応援よろしくお願いします。
歩くようになった娘の後ろ姿
あなたもひまわり基金弁護士に!
ひまわり基金法律事務所の所長弁護士になるためには、実務経験を積んだ後、日弁連に応募申込書等を提出し、希望事務所の支援委員会による面接を受けます。実は、あさかぜのような養成事務所以外からも、一定の要件を満たせば、ひまわり基金弁護士に応募することができます。また、各地のひまわり事務所を見学するための旅費補助制度もあります。
ぜひ一度、ひまわり基金法律事務所について調べてみてください。ともに司法過疎地で闘う同士が1人でも増えることを願っています。
かく言う私も、司法過疎地で、しかも1人で弁護士をやっていくとなると、まだまだ不安です。それでも、指導してくれた弁護士の方々、私を待っている対馬の方々のことを思うと、勇気が湧いてきます。赴任までの一日一日を大切に、一層研鑽に励みます。これからも引き続き、より一層のご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
(引用元:日弁連WEBサイト https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/kaso_taisaku/himawarikikin_bosyu.html)