福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2024年11月号 月報
高度専門分野研修『民事信託の法務』のご報告
月報記事
研修委員会 副委員長 桑田 剛旗(68期)
1 はじめに
令和6年9月27日、福岡県弁護士会館にて、高度専門分野研修『民事信託の法務』が開催されましたので、その内容をご報告致します。
当会では、年1回以上の頻度で「高度専門分野研修」と題し、各種分野の最先端で活躍されている方による研修を企画しています。
今年度は、伊庭潔弁護士(東京弁護士会)をお招きし、民事信託の実務に関するご講義を頂きました。
伊庭先生は、中央大学研究開発機構教授であり、日弁連信託センター、日弁連高齢者・障害者権利支援センター、ひまわり信託研究会などに所属され、民事信託に関する数多くの事件に取り組まれてきました。
『信託法からみた民事信託の手引き』『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』など、著書も多数執筆されており、ご講演も数多く実施されておられます。
2 研修内容について
研修内容について、全体のごく一部に留まりますが、概要をご紹介致します。
(1) 民事信託業務の外観
- 金融機関の顧客側における弁護士業務は、信託契約書の作成、金融機関・公証人・司法書士・税理士とのコーディネーター業務、信託関係人(信託監督人、受益者代理人)への就任、信託紛争の解決といったものがある。
- 金融機関側の弁護士業務としては、金融機関の内部体制の整備、信託契約書のチェック、民事信託関連業務に対するアドバイス(例:信託口座差押えへの対応)といったものがある。
(2) 信託契約書の作成業務
受講者が、実際に信託契約書を作成する際にベースとしつつ、具体的需要に合わせて削除・修正などを行えるよう、信託条項例がデータで配布された。
その上で、各条項について信託法上の根拠、条項作成のポイント、応用条項の具体例などについて、豊富なレジュメと講師の経験に基づく解説がなされた。民事信託業務への第一歩を後押しする内容であり、受講者の関心も特に強い様子であった。
(3) 民事信託に関する事件処理の際の留意点
- 令和4年12月21日から公開されている「民事信託業務に関するガイドライン」について、金融機関側は、弁護士が同ガイドラインに従って業務を行うと考えているため注意すべきである。
- 相談を受ける際には、相談者からのヒアリングは勿論、依頼者は委託者であることを念頭において意思確認を行うべきこと、民事信託以外の選択肢の検討も行うべきである。関係者への説明にはリーフレットなども活用すべきである。
- 民事信託については、解釈が示されていない法律問題や難解な信託税制の問題があるため、共同受任をすることが望ましい。
3 終わりに
今回の研修は、豊富なレジュメと受講者が具体的に使用する際の利便性まで考えられた配布資料、そして講師のご経験に基づく解説により、我々弁護士が民事信託への第一歩を踏み出す勇気を頂けるものとなりました。
研修後のアンケートにおいても、大変な好評を頂いております。誠にありがとうございました。
「市民とともに考える憲法講座第13弾 検証 政治とカネ 上脇博之教授講演会」感想
月報記事
司法修習生 亀家 貴志(77期)
裏金問題の本質とは?
2024年9月9日に、神戸学院大学の上脇博之教授をお招きして、政治とカネに関するオンライン講演会が開催されました。講演会は、福岡県弁護士会館2階大ホールと北九州弁護士会館5階大ホールの2会場のほか、Zoomウェビナーによるオンラインでも同時配信され、合わせて130人以上が上脇教授の講演会を最後まで熱心に聞き入りました。
上脇教授は、いわゆる自民党の裏金問題について刑事告発を積極的に行い、東京地検特捜部による捜査、そして自民党派閥の解散のきっかけを作った、いま大いに注目されている憲法学者です。テレビなどのメディアにも度々出演しており、バンダナをつけた上脇教授の姿は、ほとんどの人が見たことがあるのではないでしょうか。
上脇教授には、裏金問題発覚から改正政治資金規正法の問題点まで、質疑応答を含めて2時間あまり、詳細なレジュメとともに講演していただきました。
裏金事件の発覚と刑事告発
裏金事件は、しんぶん赤旗によるパーティー券2500万円分の不記載スクープ報道が発覚の端緒でした。上脇教授は、この報道記事へのコメントを求められたことをきっかけに裏金問題を調べはじめ、2022年11月9日に清和政策研究会(細田・安倍派)を裏金問題ではじめて告発しました。
その後、2023年12月に入ると、パーティー券の販売ノルマ超過分のキックバックや派閥による中抜きが次々と発覚していきました。
派閥による収支報告書の訂正がなされると、上脇教授はさらに深く追及し、裏金プール事件(パーティー総売上額等の過少記載)、キックバック・中抜き事件(授受した金銭の不記載)の告発も開始しました。このうち清和政策研究会の議員らに対する告発は、2024年3月11日から8月20日にかけて30回も行っており、なんと5~6日に1回の頻度で告発状を送付していたのです。
これらの結果、周知のように、多くの議員が不起訴処分となったものの、一部の議員や秘書が起訴され、失職することとなりました。
パーティー券以外にもあった「裏金」
パーティー券以外で上脇教授が問題として取りあげた「裏金」としては、オンラインによる勉強会・セミナーによる収益がありました。2021年~22年にかけて、敬人会という団体はオンライン勉強会等を開催し、1回につき約1000万円以上の収益を上げていながら、形式的に「政治資金パーティー」にあたらないとの理由で政治資金パーティーに関する諸規制を免れていると指摘されました。
また、法律の不備による「裏金」としては、政党による候補者への寄付や内閣官房報償費(機密費)があるとのことでした。前者については、自民党本部による政策活動費支出が10年にわたって紹介されており、数十人の議員に1年あたり計10億円ほども寄付されているという事実を知らされ、愕然としました。
改正政治資金規正法の問題点
自民党の裏金問題の発覚を受けて、自民・公明党による「政治改革」が実施され、本年6月に改正政治資金規正法が成立しました。
しかし、上脇教授によれば、この改正法は裏金づくりができないようにする政治改革とはおよそ言えないとのことでした。今回の裏金問題を引き起こした政治資金パーティーやパーティー券購入の禁止も定められず(政治資金パーティー券の購入者公開基準が20万円超から5万円超に引き下げられたという程度にとどまった。)、政策活動費の支出も許容される(領収書が10年後に公開されるというのでは犯罪の時効との関係でまったく意味がない。)という状況だからです。
上脇教授による「抵抗運動」の原点
憲法学者である上脇教授がなぜここまで積極的に裏金問題を追及するのかについては、講演会のはじめに触れられました。それは、日本国憲法は議会制民主主義を定めているが、その議会制民主主義が法律において具体化されていないという問題意識に基づくものです。つまり、議会制民主主義は民意が国会に反映されるべきであるところ、1人しか当選しない衆議院小選挙区選挙・参議院選挙区制度、政党助成金や裏金といった制度・事実により民意が歪曲されている。このような現実を前に上脇教授は研究室に閉じこもって見て見ぬふりをすることはできず、ほかに市民運動としてできることがないかと考えた末に刑事告発という行動、「抵抗運動」をするに至ったとのことです。
裏金問題の追及にかける情熱
上脇教授には、不記載の額など、次々に具体的な数字を示しながら裏金問題の実態と本質を明らかにしていただき、裏金づくりの一端をまざまざと見せつけられました。それとともに、実態解明に向けて上脇教授が精力的に情報収集したり告発状を作成したりしていることが伝わり、その情熱に驚かされました。上脇教授が年末年始を返上してまで告発状の作成をしたというエピソードもあり、これには講演会参加者全員が目を見張りました。このようないわば超人的な取り組みがなければ、裏金問題により派閥解散や議員らの起訴に至るということはなかったのではないかと思います。
自浄作用の限界――私たちは何をすべきか?
上脇教授の熱意に感心する一方、権力者がその立場を維持しながら自浄作用をはたらかせるということは、「全国民を代表する」国会議員ですら(だからこそ?)難しいことだと痛感しました。改正された政治資金規正法は、十分な「政治改革」には至っておらず、そもそも、今回の裏金づくりが違法なことであると自民党内で誰かが声を上げていれば裏金事件として問題となることはなかったはずだからです。
そうすると、自浄作用に期待するだけではなく、国会議員の活動に対する市民の監視の目は常に光らせている必要があり、上脇教授の告発とともに、私たちの市民活動は強力な抑止力になっていると改めて思わされました。
あさかぜ基金だより
月報記事
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)
赴任先が決まりました!
月報3月号(NO.626)で事務所の移転を報告してから、久しぶりです。今回は、いよいよ迫った私の赴任が決まったことを報告します。
「あさかぜ」ってなんだっけ?
その前に、改めて「あさかぜ」を紹介します。弁護士法人あさかぜ基金法律事務所は、司法過疎地域(人口あたりの弁護士の数が少ない地域)に赴任する弁護士を養成するため、九州弁護士会連合会が創設した"あさかぜ基金"から拠出された資金で設立されました。所員弁護士は、2年から3年程度の養成期間を経て、原則として九州の司法過疎地域に赴任します。あさかぜ事務所からは、既に30人近い弁護士が巣立って行き、九州を中心として日本各地で活躍しています。
私は、令和4年4月にあさかぜに入所し、このたび、長崎県対馬市にある対馬ひまわり基金法律事務所の後任所長に採用されました。令和7年3月頃を目安に、引継ぎのため対馬に移住する予定です。ようやく弁護士登録から3年弱、あさかぜを離れることになりました。
さらば福岡、よろしく対馬
あさかぜでは、司法過疎地で十分なリーガルサービスを提供できるよう、多種多様な事件対応を担当しました。司法過疎地で役立つ経験ばかりでしたが、とりわけ、山林の境界確認のため何時間も山中を歩き回ったことや、福祉職の方々から障がい者支援の悩み事をお聞きして回ったこと、薬害訴訟の弁護団に加入して全国的な活動に参加したことなどは、得難い経験でした。
また、あさかぜ事務所外の弁護士と事件を共同受任することも多く、累計で20を超える法律事務所の30人もの先輩弁護士(弁護団事件を除く)から指導を受けることができました。法律事務所によって、また弁護士によって取扱事件や、事件の進め方に違いがあり、特徴がありました。一方で、依頼者と向き合う真摯な姿勢や、依頼者の利益を最大化するという考え方は、どの弁護士も共通していました。これから先、私自身がどのような弁護士となって司法過疎地の1人ひとりを支援できるのか、その指標を得ることができました。この場を借りて、お礼を申し上げるのをお許しください。直接ご指導いただいていない弁護士の方々も、司法過疎問題をご理解いただいていると感じています。誠にありがとうございます。
対馬でも力いっぱい業務にはげみます
私が対馬でできることとは?
国境の離島である対馬は、南北に長く広い面積を有し、端から端まで車で2時間以上かかる大きな島です。また、山林が島全体の89%を占めています。年齢別人口が分かる最新調査(令和2年度国勢調査)によると、65歳以上の人口が全体人口の38%以上を占めます。障害者手帳保持者数は、令和6年3月末時点で合計2736人であり、同時点の総人口2万7416人の1割に迫ります。この情報を聞くだけでも、弁護士が積極的に事務所から出て、アウトリーチ活動をする必要性を感じています。過疎地で活躍したある弁護士は、特定地域の全戸訪問法律相談を実施したそうです。
また、対馬市は、雄大な自然や歴史的建築物を有する観光地です。そのため、多くの観光客が訪れます。対馬市が公表している統計データによると、「宿泊業・飲食サービス業」だけで243の事業所があります。地域の主要産業に対して、私がお手伝いできることはないでしょうか。
視点を変えてみると、対馬市には、15の公立小学校、11の公立中学校、3の公立高校があるようです。近くに弁護士がいない田舎で生まれ育った私としては、「弁護士は身近にいるんだよ」「いつでも相談していいんだよ」と子どもたちに伝えることは、とても大事なことだと考えています。個人的な希望としては、田舎生まれから弁護士になる道があることを伝えて、弁護士になって田舎に貢献したいと考える若者が1人でも増えて欲しいと思います。
こうして自分にできることを考え、準備を進めることは、とても楽しいものです。そして、実際に赴任して活動に取り組むことは、やりがいのある仕事だろうと思います。
対馬の雄大な自然
対馬藩主宗家菩提寺 万松院
単身赴任?私にはムリです
毎度ご紹介している私の娘は、あっという間に1歳半を過ぎました。最近は、福岡市が実施している「こども誰でも通園制度」を利用して、週に1回保育園に通っています。朝の登園は私が送ることにしたのですが、これが楽しみでなりません。保育園でサヨナラをするときの泣き顔に、なんとも胸を締め付けられます。そんな最愛の娘(もちろん妻もです)を置いて、1人で対馬に行くことは考えられません。
対馬には、子どもの成長によい自然が多いこと、本年33に大規模な無印良品店がオープンしたこと、光回線まで開通したこと、さらには韓国、釜山に気軽に遊びに行けることなど、各種証拠をそろえて妻に同行をお願いしているところです。皆様、応援よろしくお願いします。
歩くようになった娘の後ろ姿
あなたもひまわり基金弁護士に!
ひまわり基金法律事務所の所長弁護士になるためには、実務経験を積んだ後、日弁連に応募申込書等を提出し、希望事務所の支援委員会による面接を受けます。実は、あさかぜのような養成事務所以外からも、一定の要件を満たせば、ひまわり基金弁護士に応募することができます。また、各地のひまわり事務所を見学するための旅費補助制度もあります。
ぜひ一度、ひまわり基金法律事務所について調べてみてください。ともに司法過疎地で闘う同士が1人でも増えることを願っています。
かく言う私も、司法過疎地で、しかも1人で弁護士をやっていくとなると、まだまだ不安です。それでも、指導してくれた弁護士の方々、私を待っている対馬の方々のことを思うと、勇気が湧いてきます。赴任までの一日一日を大切に、一層研鑽に励みます。これからも引き続き、より一層のご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
(引用元:日弁連WEBサイト https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/kaso_taisaku/himawarikikin_bosyu.html)