福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2024年10月号 月報
「教員向けセミナー~弁護士と考える学校における法律問題~」開催!
月報記事
子どもの権利委員会 委員 井上 祥平(71期)
第1 はじめに
令和6年8月20日(火)、福岡県弁護士会館にて「教員向けセミナー~弁護士と考える学校における法律問題」を開催いたしました。
学校教育の現場においては、いじめ、不登校、保護者からの相談やクレームなど法的紛争に直面することが多々あると思われるところ、当会では、学校現場の隅々にまで法的バックアップを及ぼす体制づくりを検討しており、今回のイベントは、どのような場面で弁護士の関わりが有用か、学校が抱えている法的な問題へのバックアップの在り方など、現場のニーズを把握する機会とすべく開催されました。
第2 当日の様子
1 参加状況
当日は、県内の小・中学校・高校の校長教頭、教育委員会・教育事務所・教育庁の指導主事など特に学校現場で事案への対応や判断を担う中心となっている方々にご参加いただき、会場参加27名、ZOOM参加13名の合計40名が参加されました。
また、当会からは、子どもの権利委員会、業務委員会、民暴委員会、法教育委員会から合計25名の弁護士にご参加いただきました。
2 廣重純理弁護士の講演
まず、北九州市のスクールロイヤーを担当している廣重純理先生よりご自身の経験を踏まえて、学校問題に弁護士が関わる意義と現状についてご講演いただきました。
学校が抱えている課題には、生徒指導・支援上の課題、保護者対応の困難化、学校体制・教職員の課題、地域社会との間で生じる様々な課題があり、学校現場では日々これらの課題への対応がなされていますが、その中には法的には必ずしも学校が対応する必要がないような事柄も含まれているとのことでした。しかし、今後も子どもたちの学習の場として、児童・保護者との関係性が継続していくという学校現場の特殊性もあり、学校の先生としては、「対応できない」と言って簡単に断れるものではない実情があるそうです。
廣重先生は、子どもの最善の利益実現のための学校のサポート役としてスクールロイヤーを担うにあたり、表面的な質問への回答(法的にできるかできないか)だけでなく、真のニーズ(当該事案にとってどのように対応するのがよいか)を意識して対応しておられるとのことで、スクールロイヤーが法的な視点を導入することにより、これまで学校の先生の「頑張り」によってなんとかなってきた部分について、学校の負担の軽減、より合理的な解決、適正な利害調整を図ることが期待できるのではないかとのことでした。
3 グループワーク
講演の後、弁護士・学校関係者混合の数グループに分かれて、事例の検討をしながら、スクールロイヤー制度についての意見交換を行いました。
事例は、いじめの認定、児童への指導・支援の方法、保護者の謝罪・文書開示・別室指導・担任変更の要求等への対応を問うもので、学校の先生方は、「現場でよくあるようなケースですね」と共感されていました。
- 学校でどうにかしようという思いが強いところがある。そのため、学校の先生が相当頑張っている。
- 現場では、弁護士に相談するという発想はなかった。今回のイベントで、弁護士に相談する意義を認識できた。また、弁護士の人柄にも触れられたので、主観的には弁護士の敷居が下がった。
- 例えば、いじめ事案について第三者委員会を設置すべきか、保護者対応の初動としてどのようにすべきかといった、早期の段階で相談がしたい。
- 保護者の要求が過剰要求なのかどうかの判断がつかない場合もあるので、そのあたりを気軽に相談できれば助かる。
- 学校の対応方針が法的に問題ないと背中を押してもらえれば、学校として自信を持った対応ができる。
- 現在のスクールロイヤーの制度は、最前線の教員からスクールロイヤーへの相談に至るまでの手続きが複雑で迂遠なものとなっており、気軽に利用できる制度ではない。そのため、この程度のことで相談に回していいのかと気後れしてしまう。利用の敷居は高い。
- その他のニーズとして、メディア対応、保護者説明に際し、バックアップが欲しい。相談だけでなく代理人的な動きもできないのか。との意見も上がっていました。
また、参加した弁護士からは、「学校の問題に対応する場面では、今後の関係性を意識する必要があるなど、通常事件の処理の考え方にはなじみにくい部分があるから、頭を切り替えて対応に当たる必要があることが分かった」旨の感想が出されていました。
第3 感想
廣重先生の講演とご参加いただいた学校関係者の方々との意見交換を通して、学校問題へのアプローチの仕方や悩みどころを学び、考える良い機会となりました。
ご参加いただいた皆様ありがとうございました。