福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2024年9月号 月報

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

月報記事

生存権擁護・支援対策本部 塩澤 裕樹(70期)

1 はじめに

令和6年7月28日、生存権擁護・支援対策本部の夏合宿において、愛知県弁護士会所属、日弁連貧困問題対策本部事務局次長の森弘典弁護士を講師にお招きし、「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」との題で講演をしていただきましたので、ご報告いたします。

2 講演依頼の背景

令和6年10月に開催される日本弁護士連合会人権擁護大会では、「今こそ、『生活保障法』の制定を!」~地域から創る、すべての人の"生存権"が保障される社会~というテーマでシンポジウムが開かれます。

生存権擁護・支援対策本部としては、日本弁護士連合会の公表した平成20年の「生活保護法改正要綱案」、平成31年のその改訂版について再度学び、さらには権利性を明確にした「生活保障法」制定に向けての運動を今後行っていくために、本講演では生活保護法改正要綱案(改訂版)の内容について取り上げていただきました。

また、当本部が編集し発行している「生活保護の実務最前線Q&A」の改訂作業に向け、生活保護に関する論点についても併せてご講義いただきました。

3 生活保護法改正要綱案(改訂版)について

平成31年2月、日本弁護士連合会が生活保護法改正要綱案(改訂版)を作成・公表しました。

その改正案には、(1)権利性の明確化、(2)水際作戦を不可能にする制度的保障、(3)生活保護基準の決定に対する民主的コントロール、(4)一歩手前の生活困窮層に対する積極的支援、(5)ケースワーカーの増員と専門性の確保という5本の柱があります。

森弁護士の説明で特に印象的であったのは、(2)水際作戦を不可能にする制度的保障についてです。具体的には、簡単に書ける申請書の窓口備置きを義務付けることや、捕捉率の調査・向上義務を規定するといった内容になります。捕捉率とは、生活保護を利用できる人のうち、実際に利用している人の割合をいいますが、厚生労働省が2018年11月に公表したデータでは、所得基準で22.6%、資産を考慮して43.3%となっています。もっとも、相対的貧困率と生活保護利用率からの計算では10.4%となるなど、非常に低い捕捉率であるとのことでした。多くの人が生存権を侵害されているこの現状を打破するためにも、水際作戦を不可能とし、より積極的に必要とする人が利用できる制度を構築していく必要があることがわかりました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

講演の様子

4 生活保護に関する論点

森弁護士からは、生活保護に関する論点につき広く解説していただきました。その中でも、生活保護受給中の自動車保有について、令和3年10月に生活保護問題対策全国会議が作成した「自動車を持ちながら生活保護を利用するために!」というパンフレットを基に説明していただきました。

旧来の「車はゼイタク品」との考えから、福祉事務所等が現行の厚生労働省通知を正しく運用せずに不正確な説明をしたことによって、自動車に乗れなくなるからと生活保護を断念した方の事例を聞き、私たちが生活保護の運用主体に対して正しい知識を伝え適切な運用を広めていく必要性を再確認しました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

研修会場の大丸別荘

5 おわりに

講演でもお話がありましたが、現在、日本中で展開されている生活保護基準引下げに基づく保護変更決定処分の取消等を求める訴訟で、これまでに28の地裁で判決が言い渡され、6割を超える17の地裁で原告である生活保護受給者側の勝訴判決となっています。本講演で学んだことを、本年10月の人権擁護大会でさらに議論を深め、勝訴判決が続く全国の勢いにも乗って、私たちも福岡県から声を上げていきたいと思いました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

研修会場の大丸別荘

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー