福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2024年9月号 月報
講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」
月報記事
中小企業法律支援センター 委員 藤家 寛之(76期)
1 はじめに
令和6年7月18日、株式会社悪の秘密結社の代表取締役である笹井浩生氏を講師としてお招きし、第1部には「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」との題でご講演をいただき、第2部では、悪の秘密結社の顧問弁護士である松村達紀弁護士を加え、弁護士による中小企業への伴走支援に関わるトークセッションが行われました。本講演会は、「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」の一環として行われたものになります。
本年は、中小事業者やその他他業種の方々をはじめ多数のご参加を賜り、会場参加が52名、オンラインでの参加が56名の合計108名にご参加いただきました。
本稿では、本講演会の内容と本講演会に関連する中小企業法律支援センタ―の取り組みについて報告いたします。
2 「一斉シンポ」について
中小企業法律支援センターでは、例年、日弁連の要請により、全国の弁護士会と共に「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」を開催してきました。
中小企業庁は、令和元年より、中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としました。本年は7月18日に「一斉シンポジウム」が開催されています。
栁副会長のご挨拶
3 講演会の内容
(1) 第1部(笹井氏によるご講演)
シャベリーマンこと笹井氏は、平成28年に株式会社悪の秘密結社を、福岡県福岡市博多区に本社を置くヒーローショーに特化したイベント会社として創業されました。その後、令和2年にテレビ番組「ドゲンジャーズ」がスタートし、「悪意を持つプロフェッショナル集団」というキャッチコピーにして、他の企業が行わないようなイベント、プロモーション、映像制作を手掛けております。笹井氏の行う事業はエンターテインメントという特殊なビジネスモデルなため、エンターテインメントを如何にしてビジネスとして成立させるかについて以下のように語られております。
エンターテインメントがなぜ世の中に必要なのか、たとえば、キャナルシティ博多に訪れた人々がショーの催し物を見ることにより楽しい気持ちになったり、普段の嫌なことを忘れたりなど、人の感情に入り込んで考え方や人生に意義を生み出すものがエンターテインメントであり、世の中にとって必要な存在である。
もっとも、エンターテインメントを行うにはビジネスとして成立することが重要であり、それには以下のような過程を経ることになる。
講演する笹井氏(1)
まずは、コンセプトがあり、そのブランディングをし、それを宣伝して、マーケティングするという過程を経てビジネスとして成立することになる。ここでいう、ブランディングとは共感させたい思いのことであり、宣伝とは人と人をつなぐこと、そして、マーケティングとは売り上げが成立する仕組みを作ることである。
これをドゲンジャーズに置き換えて説明すると、ドゲンジャーズの共感してもらいたい思いとは、たくさんの人々に愛されたい、世代を超えた価値になりたい、この町の当たり前になりたいという思い、すなわち「この町の文化になりたい」というものである。一般の市民の方が手の届かない社会貢献活動を任せてほしい。誰でも誰かのヒーローになれる。この活動こそがこの町の未来になると確信している。
そんな思いを実態の伴う思いにすべく、フードドライブ、小児病棟訪問、親不孝通りでのマナーアップ活動、横断旗の寄贈活動を行っており、人々には手の届かない社会貢献活動をドゲンジャーズが代わって支えていく。
しかし、ドゲンジャーズだけではどうしてもできないこと、それは活動資金や運営・映像制作資金の確保であり、ドゲンジャーズの前に立ちはだかる大きな壁である。それではドゲンジャーズはこの壁をどのように乗り越えてきたか。
制作会社に映像を作ってもらう際に一般的に制作委員会方式を取っており、東京では制作委員会のみで権利をビジネス化することができる。他方で、地方都市である福岡では、東京と異なり、制作委員会のみでは権利をビジネス化できず出資者への利益の還元が難しい。そこでドゲンジャーズはIPパートナー委員会やオフィシャルパートナー委員会を設立し、そこから出資を受けてから、制作委員会によって映像を制作しているという仕組みを作り、出資者へはIP保護・ビジュアル利用権という形で利益を還元している。このように三つの委員会を運用することによって、はじめて地方都市でも映像制作をすることができるようになった。三つの委員会を運用することは途轍もない労力ではあるが、だからこそ、立ちはだかる大きな壁を乗り越えられて、ドゲンジャーズを続けていくことができ、「この町の文化になりたい」という思いを人々に伝え続けることができている。
最後に、ドゲンジャーズは等身大で馬鹿馬鹿しい作風ではあるが、等身大だからこそ一緒に共感できる大切な時間と空間を作ることができると思うし、これからも作っていきたいと語られて、笹井氏は講演を締めくくられました。
講演する笹井氏(2)
(2) 第2部(笹井氏と松村弁護士のトークセッション)
ここからは悪の秘密結社の創業時から顧問弁護士として関わられている松村弁護士と笹井氏による事業者と弁護士の伴走支援について、トークセッションが行われました。
トークセッションの内容としては、ドゲンジャーズという名前が商標登録できるかなどの知的財産関係、制作委員会やパートナー等との間で交わされる契約書作成の過程、視聴者やお客さんとの関係やドゲンジャーズの権利関係への法的対応やルール作り、カスタマーハラスメントやトラブルに対する法的対応、会社内の従業員の労働環境等への助言、脚本作りにおいての法的トラブルを未然に防止する助言、弁護士以外の士業との関係性、事業者と顧問弁護士の理想的な関係性など、様々な場面での伴走支援の過程について具体例を用いて紹介していただきました。
トークセッションの様子(1)
トークセッションの様子(2)
4 講演会後の無料法律相談会
今年も無料法律相談会を開催いたしました。今後も委員会活動等を通して一般市民の方々や事業者の方々が気軽に法律相談ができる環境づくりに貢献できるよう、これからも会務に励みたいと思いました。
5 おわりに
笹井氏はドゲンジャーズのキャラクターであるシャベリーマンの仮面を被って登壇され講演をされておりました。仮面を被ったまま講演をされる方を見るのは初めての経験であり、のっけから度肝を抜かれたまま、いつの間にか笹井氏のトークに引きずり込まれました。シャベリーマンという名前からも分かるように軽妙な語り口で、会場の方々に終始笑いを提供しつつ、ドゲンジャーズの事業サービス展開のポイント・組織作りの肝について分かりやすく説明する様は、弁護士活動においても大変参考になる部分が多く、興味深く勉強させていただきました。
また、笹井氏と松村弁護士の事業者と顧問弁護士の関わり方についてですが、お二方のトークセッションの絡みから、笹井氏と松村弁護士は長年の戦友のような関係に思えました。弁護士成りたてほやほやの私にとっては羨ましく理想の関係性だなと思い、これからの弁護士人生において、事業者の方とこのような関係性を作れるように歩んでいきたいと思う所存です。
最後となりますが、笹井氏は、講演が終わってもシャベリーマンの仮面を外さず、そのまま会場を去っていきました。キャラクターイメージを壊さないためなのか、はたまたヒーローらに顔バレしないためかは分かりませんが、さすがは「悪意を持つプロフェッショナル集団」だなと感心するとともに、私も自身のプロフェッショナルを貫いていこうと強く思った次第です。
会場の様子