福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2024年9月号 月報

「刑事身体拘束手続研究会~韓国の現在」の研修を受けて

月報記事

刑事弁護等委員会 松本 拓馬(72期)

1 はじめに

2024年6月25日、福岡弁護士会館(Zoom配信有り)にて、「刑事身体拘束手続研究会~韓国の現在」が開催されました。全国的にも珍しいテーマ・企画での研究会であったこともあり、当日は、多数の会員の方にご参加いただくことができました。ご参加を希望されていたにもかかわらず、ご都合によりご参加できなかった方もいらっしゃいましたので、今回、研修内容をご紹介させていただきます。

2 本研修会の趣旨について

刑事弁護等委員会では、刑事身体拘束手続PTを中心として県内外の研究者とともに「刑事身体拘束手続研究会」を2023年5月から定期的に開催し、刑事身体拘束手続の現状や問題について議論・研究を続けてきており、今回、同研究会に韓国国立警察大学法学科の李東熹(イ・トンヒ)教授をお招きし、韓国における刑事身体拘束手続の制度やその変化についてご報告いただきました。

本研修会では、日本の制度や実情との比較の中で韓国の制度や変化を知ることができ、翻って日本の刑事身体拘束手続の問題を異なる観点から検討・分析する貴重な機会になりました。

3 刑事身体拘束の流れ
(1) 起訴前の身体拘束制度

韓国では、起訴前の身体拘束制度として、日本と同様に通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕が用意されているということでしたが、勾留(韓国では「拘束」)の場面において、逮捕前置主義は採用されておらず、在宅の被疑者を「拘束」することができるとのことです。

(2) 勾留期間

次に、起訴前の身体拘束期間について、日本では逮捕から最大23日間であることに対して、韓国では最大30日間(=司法警察10日+検察官20日)と日本よりも身体拘束期間が長くなっています。

また、起訴後の身体拘束期間について、韓国では、第1審(最大6ヶ月)、控訴審(最大6ヶ月)、上告審(最大6ヶ月)となっており、起訴前と起訴後で身体拘束期間は最大19ヶ月になるということでした。

4 逮捕・勾留制度(令状審査・逮捕拘束適否審査制度・弁護人接見)
(1) 令状審査

まず、逮捕状が書面審査であること、勾留するかどうかの判断が裁判官による対面審査で行われることは日本も韓国も変わらないようです。

ここでは、李教授から、韓国における勾留状請求に対する「却下率」の推移についてのご説明がありました。韓国において、1996年以前は、却下率約7%に過ぎなかったにもかかわらず、1997年から勾留状に対する実質審査(対面審査)が試行されたことにより、それ以降、却下率約14%前後になったそうです。

また、2007年には身体不拘束の原則が明文化されたことにより、却下率は約20%の状況が続いているとのことです。日本では、却下率が数パーセントにとどまっている現状を考えますと、韓国では勾留状に対する審査が非常に慎重に行われているのではないかという印象を持ちました。

さらに、李教授から、第1審刑事公判における勾留率の推移について、2020年以降はわずか約8%程度であることのご説明がありました。日本では約50%であることと比べて、あまりに数値が異なっており、驚きを隠せませんでした。

(2) 逮捕拘束適否審査制度

次に、韓国における逮捕拘束適否審査制度についてご説明いただきました。当該制度は、逮捕又は拘束された被疑者、その弁護人、法定代理人、配偶者、直系親族、兄弟姉妹、家族、同居人及び雇用主は、管轄法院に逮捕又は拘束の適否審査を請求することができるというものです。日本では勾留決定に対する準抗告という手続きがありますが、準抗告が裁判官による書面審査であることに対して、逮捕拘束適否審査は裁判官による対面審査で実施されているとのことでした。

(3) 弁護人接見

今回の研修レジュメの中では、韓国の弁護人接見室の写真が掲載されていました。私自身、韓国映画やドラマを観たときに印象深く感じていましたが、韓国では日本のようにアクリル板で遮られていません。どちらが望ましいのかについては色々な意見がありそうですが、被疑者・被告人と弁護人との関係性を考えるにあたって非常に参考になりました。

5 保釈制度(被疑者及び被告人保釈・保釈保証保険)

日本では、現在、保釈は起訴後にしか認められませんが、韓国では、起訴前の保釈制度として、保証金納入条件付きの被疑者釈放制度があるようです。また、保証金の納入には、保釈保証保険制度も用意されており、保険会社が発給する「保釈保証保険証券」を添付した保証書をもって、保釈保証金に代えることができるとのことです。当該制度により保証金を納入する資力がない方でも保証金納入条件付きの被疑者釈放制度を利用することができ、利用率としては、保釈全体の50%から60%程度とのことです。日本においても、2011年1月20日付けの「保釈保証制度に関する提言」(日弁連)の中で、「韓国では、この保釈保証保険制度の導入が身体不拘束捜査の原則の実効化に貢献し、『人質司法』は既に過去のものとなったと評されている。」との記載があり、制度の導入が検討されていたことを知りました。

6 韓国における司法改革の沿革及び内容(勾留制度の変化)

ここでは、残念ながら時間の関係で全体についての詳細なご説明はありませんでしたが、韓国における「国選専担弁護士制度」についてのご説明をしていただきました。

「国選専担弁護士制度」とは、国選弁護事件のみを担当する条件で選抜して各審級法院に所属させ、月給制で勤務させる弁護士制度です。国選弁護の質を向上させる目的で2006年2月から正式に施行され、2023年においては韓国全体で234人が選抜され、国選弁護事件全体の35.4%を担当しているそうです。韓国では、弁護士数の急増により、弁護士業界の競争が激しくなったため、国選専担弁護士の選抜の倍率が毎年高くなっている状況ということです。また、韓国では、法曹一元制度が導入されており、裁判官は法曹経験者から採用されるため、将来裁判官として活動したいと希望している方の中で、あえて国選専担弁護士となり、刑事弁護の経験を積んでいる方もいるそうです。

7 最後に

以上、今回の研修の概要を説明させていただきました。

韓国と日本では、刑事身体拘束手続の制度において類似点もありますが、韓国では制度改革を重ねたことにより、すでに「人質司法」から脱却しているとの印象を受けました。韓国が実現している身体不拘束の原則は、日本における刑事身体拘束手続の運用の改善のための手掛かりになり得ると思い、非常に参考になりました。

今回、李教授には、本研修だけでなく、研修後の懇親会でも、韓国の制度などについてご説明いただき、心より御礼申し上げます。

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