福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2024年9月号 月報

「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」の研修を受けて

月報記事

刑事弁護等委員会 宮脇 知伸(73期)

1 はじめに

本年6月24日に、刑事弁護等委員会身体拘束手続適正化PT主催で、韓国国立警察大学校の李東熹(イ・トンヒ)教授を講師として、「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」が開催されました。李先生は、神戸大学で三井誠先生の指導の下、法学博士号を取得されています。日韓両国の刑事法に精通しており、日弁連や各弁護士会等の韓国視察等でも大変お世話になっています。李先生は日本語が堪能であり、今回、日本語にてご講義いただきました。拙筆ながら、今回の講演会の内容及び感想を報告いたします。

2 韓国の被疑者取調べ制度の概要

韓国では、捜査段階で捜査機関に許容される身柄束制度として、日本と同様に、逮捕と勾留があります。捜査機関が逮捕を行った後、勾留するためには、逮捕から48時間以内に管轄の地方法院判事に勾留状を申請する必要があります。勾留状の発付を受けた司法警察官は、10日以内に検察官に引致しない場合に、被疑者を釈放しなければならず、また、司法警察官から被疑者の身柄を受け取った検察官は、引き続き被疑者を10日間勾留することができます。起訴する前に、捜査を継続するに相当な理由があると認められるときには、1回に限り最大10日を超えない限度内で勾留延長を受けることができます。したがって、警察の逮捕から検察の起訴まで理論的に最大限30日間の勾留が認められています。

日本の捜査段階の身柄拘束と比べると、司法警察段階の勾留期間(10日間)が別途にあることに相違点があります。

「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」の研修を受けて
3 取調室の場所的な特徴

韓国の警察の取調べは、従来から捜査を担当する部署の一般事務室でそのまま取調べが行われており、外部からの状況を確認することができます。そのため、事務室にいる警察官、同室で取調べを受けている他の被疑者やその他の一般人等に取調べの様子が容易に観察できる構造になっています。こうした開放型の取調室が、韓国警察のもっとも一般的な取調室の形態であり、捜査機関による拷問・暴行・脅迫等の違法な捜査を抑止する効果が期待できています。加えて、このように取調室に併用される捜査部署の一般事務室には、原則としてCCTVが設置されており、事務室の全体的な様子を映す画像が録画され、一定の期間保存されることになります。

一方、検察の被疑者取調べは、通常部外者の出入りが制限されている検察官の事務室で行われており、そこは被疑者以外に担当の検察官とその所属の検察職員のみが在室しています。検察の取調室は、外部から観察することができない閉鎖型の密室形態となっています。

「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」の研修を受けて
4 被疑者取調べの録音・録画制度の導入と展開
(1) 2007年の刑訴法改正と録音・録画制度の導入

2007年の刑訴法改正では、捜査機関が被疑者取調べを録音・録画することができるよう、その根拠規定が設けられました。

捜査機関が録音・録画するときには、取調べの全過程及び客観的な状況を録音・録画しなければならないとされています。もっとも、数日にわたる複数の取調べの場合には、特定の日に行われる取調べの「すべて」を録音・録画すれば良いとされています。

さらに、捜査機関による編集や偽造を防止するため、被疑者又は弁護人の面前で、直ちにその原本を封印し、被疑者に記名捺印又は署名させるようになっています。

(2) 映像録画物の証拠としての使用
  • 2007年の刑訴法改正
    2007年の刑訴法改正では、取調べの録音・録画により製作された映像録画物を犯罪事実を立証するための実質証拠として使用するのを禁止し、弾劾証拠としての使用についても厳格な制限を加えています。
  • 2020年の刑訴法改正による検察官作成調書の証拠能力
    2020年の刑訴法改正により、検察官作成の被疑者調書の証拠能力が実質的に否定されるようになっています。検察官作成の被疑者調書は、警察官作成の被疑者調書と同様に、被疑者であった被告人が公判廷でその調書の内容を認めた場合に限り、その証拠能力が認められるようになっています。
5 被疑者取調べにおける弁護人立会制度
(1) 制度の導入経緯

2003年11月11日、大法院から、被疑者取調べにおける弁護人立会を認めた判例が出されました。当時、刑訴法には弁護人立会に関する明文規定がありませんでしたが、憲法上の弁護人の助力を受ける権利を法的根拠として、現行刑訴法においても弁護人立会が認められるとされています。翌年の2004年9月23日には、身柄不拘束の被疑者についても弁護人立会権を認めると共に、被疑者が弁護人の助言と相談を求める権利があることを明らかにした判例も出ています。

(2) 2007年刑訴法改正による弁護人立会権の明文化

2007年の刑訴法改正によって、取調べの場所に「立会い」するのみならず、取調べに実質的に「参与」することができるようになりました。

この改正は、前述の2003年11月11日の大法院決定により認められた弁護人立会権を正式に立法化した意味をもち、被疑者の身柄拘束の有無を問わず、取調べ中の被疑者には、弁護人の立会いが正当な事由がない限り保障されることと、また弁護人との接見が許容されることを明示しています。

(3) 実務と判例の動向

2020年に検察改革の一環として行われた刑訴法改正に伴い、捜査機関の従うべき一般的捜査準則が大統領令として新たに制定され、その捜査準則では、弁護人会について、以前よりその権利を厚く保護しようとする傾向が見られています。同規則では、(1)被疑者取調べに参与した弁護人が実質的な助力をすることができるよう、被疑者の隣に着席させること、(2)正当な理由がなければ、被疑者に対する法的な助言・相談を保障すること、(3)法的な助言・相談のためのメモを許容することを明文で規定しています。さらに、弁護人の意見陳述についても、(4)検察官又は司法警察官の取調べ後、調書を閲覧して意見を陳述することができ、検察官又は司法警察官は当該の書面を事件記録に編纂すること、(5)取調べ中であっても、検察官又は司法警察官の承認を受け、意見を陳述することができ、検察官又は司法警察官は、正当な理由がある場合を除いては、弁護人の意見陳述要請を承認しなければならないこと、(6)不当な訊問方法については、検察官又は司法警察官の承認がなくても、異議を提起することができることを保障しています。

(4) 運用状況

弁護人立会の状況を見ると、警察の場合は、1999年から内部指針により自主的に実施しており、施行初期には、年間200件前後の様子でしたが、その後、2021年には31、533件、2022年には30、801件となっています。警察の全処理事件が年間約170万件であることを勘案すれば、弁護人立会の割合としては低いですが、毎年徐々に増加しており特に、2020年には、初めて年間2万件を超えたのち、2021年からは3万件を上回る状況を見せています。

6 懇親会

勉強会の後は、李教授を交え懇親会が催されました。懇親会の中では、「爆弾酒」というお酒を飲む機会があり、初めての経験でした。

「爆弾酒」とは、ビールの中にアルコール度数の高い酒が入ったショットグラスを沈めたもの、あるいはそれを飲む習慣のことをいうようです。

この「爆弾酒」を懇親会の場では、指名した人と指名された人が早飲みをして、遅かった方が残っていくという方法で飲みました。韓国では友好のしるしとして飲むこともあるようで、私も参加させていただきましたが、李教授と友好関係を築くことができたのではないかと思います。

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