福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2024年9月号 月報

「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」の研修を受けて

月報記事

刑事弁護等委員会 宮脇 知伸(73期)

1 はじめに

本年6月24日に、刑事弁護等委員会身体拘束手続適正化PT主催で、韓国国立警察大学校の李東熹(イ・トンヒ)教授を講師として、「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」が開催されました。李先生は、神戸大学で三井誠先生の指導の下、法学博士号を取得されています。日韓両国の刑事法に精通しており、日弁連や各弁護士会等の韓国視察等でも大変お世話になっています。李先生は日本語が堪能であり、今回、日本語にてご講義いただきました。拙筆ながら、今回の講演会の内容及び感想を報告いたします。

2 韓国の被疑者取調べ制度の概要

韓国では、捜査段階で捜査機関に許容される身柄束制度として、日本と同様に、逮捕と勾留があります。捜査機関が逮捕を行った後、勾留するためには、逮捕から48時間以内に管轄の地方法院判事に勾留状を申請する必要があります。勾留状の発付を受けた司法警察官は、10日以内に検察官に引致しない場合に、被疑者を釈放しなければならず、また、司法警察官から被疑者の身柄を受け取った検察官は、引き続き被疑者を10日間勾留することができます。起訴する前に、捜査を継続するに相当な理由があると認められるときには、1回に限り最大10日を超えない限度内で勾留延長を受けることができます。したがって、警察の逮捕から検察の起訴まで理論的に最大限30日間の勾留が認められています。

日本の捜査段階の身柄拘束と比べると、司法警察段階の勾留期間(10日間)が別途にあることに相違点があります。

「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」の研修を受けて
3 取調室の場所的な特徴

韓国の警察の取調べは、従来から捜査を担当する部署の一般事務室でそのまま取調べが行われており、外部からの状況を確認することができます。そのため、事務室にいる警察官、同室で取調べを受けている他の被疑者やその他の一般人等に取調べの様子が容易に観察できる構造になっています。こうした開放型の取調室が、韓国警察のもっとも一般的な取調室の形態であり、捜査機関による拷問・暴行・脅迫等の違法な捜査を抑止する効果が期待できています。加えて、このように取調室に併用される捜査部署の一般事務室には、原則としてCCTVが設置されており、事務室の全体的な様子を映す画像が録画され、一定の期間保存されることになります。

一方、検察の被疑者取調べは、通常部外者の出入りが制限されている検察官の事務室で行われており、そこは被疑者以外に担当の検察官とその所属の検察職員のみが在室しています。検察の取調室は、外部から観察することができない閉鎖型の密室形態となっています。

「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」の研修を受けて
4 被疑者取調べの録音・録画制度の導入と展開
(1) 2007年の刑訴法改正と録音・録画制度の導入

2007年の刑訴法改正では、捜査機関が被疑者取調べを録音・録画することができるよう、その根拠規定が設けられました。

捜査機関が録音・録画するときには、取調べの全過程及び客観的な状況を録音・録画しなければならないとされています。もっとも、数日にわたる複数の取調べの場合には、特定の日に行われる取調べの「すべて」を録音・録画すれば良いとされています。

さらに、捜査機関による編集や偽造を防止するため、被疑者又は弁護人の面前で、直ちにその原本を封印し、被疑者に記名捺印又は署名させるようになっています。

(2) 映像録画物の証拠としての使用
  • 2007年の刑訴法改正
    2007年の刑訴法改正では、取調べの録音・録画により製作された映像録画物を犯罪事実を立証するための実質証拠として使用するのを禁止し、弾劾証拠としての使用についても厳格な制限を加えています。
  • 2020年の刑訴法改正による検察官作成調書の証拠能力
    2020年の刑訴法改正により、検察官作成の被疑者調書の証拠能力が実質的に否定されるようになっています。検察官作成の被疑者調書は、警察官作成の被疑者調書と同様に、被疑者であった被告人が公判廷でその調書の内容を認めた場合に限り、その証拠能力が認められるようになっています。
5 被疑者取調べにおける弁護人立会制度
(1) 制度の導入経緯

2003年11月11日、大法院から、被疑者取調べにおける弁護人立会を認めた判例が出されました。当時、刑訴法には弁護人立会に関する明文規定がありませんでしたが、憲法上の弁護人の助力を受ける権利を法的根拠として、現行刑訴法においても弁護人立会が認められるとされています。翌年の2004年9月23日には、身柄不拘束の被疑者についても弁護人立会権を認めると共に、被疑者が弁護人の助言と相談を求める権利があることを明らかにした判例も出ています。

(2) 2007年刑訴法改正による弁護人立会権の明文化

2007年の刑訴法改正によって、取調べの場所に「立会い」するのみならず、取調べに実質的に「参与」することができるようになりました。

この改正は、前述の2003年11月11日の大法院決定により認められた弁護人立会権を正式に立法化した意味をもち、被疑者の身柄拘束の有無を問わず、取調べ中の被疑者には、弁護人の立会いが正当な事由がない限り保障されることと、また弁護人との接見が許容されることを明示しています。

(3) 実務と判例の動向

2020年に検察改革の一環として行われた刑訴法改正に伴い、捜査機関の従うべき一般的捜査準則が大統領令として新たに制定され、その捜査準則では、弁護人会について、以前よりその権利を厚く保護しようとする傾向が見られています。同規則では、(1)被疑者取調べに参与した弁護人が実質的な助力をすることができるよう、被疑者の隣に着席させること、(2)正当な理由がなければ、被疑者に対する法的な助言・相談を保障すること、(3)法的な助言・相談のためのメモを許容することを明文で規定しています。さらに、弁護人の意見陳述についても、(4)検察官又は司法警察官の取調べ後、調書を閲覧して意見を陳述することができ、検察官又は司法警察官は当該の書面を事件記録に編纂すること、(5)取調べ中であっても、検察官又は司法警察官の承認を受け、意見を陳述することができ、検察官又は司法警察官は、正当な理由がある場合を除いては、弁護人の意見陳述要請を承認しなければならないこと、(6)不当な訊問方法については、検察官又は司法警察官の承認がなくても、異議を提起することができることを保障しています。

(4) 運用状況

弁護人立会の状況を見ると、警察の場合は、1999年から内部指針により自主的に実施しており、施行初期には、年間200件前後の様子でしたが、その後、2021年には31、533件、2022年には30、801件となっています。警察の全処理事件が年間約170万件であることを勘案すれば、弁護人立会の割合としては低いですが、毎年徐々に増加しており特に、2020年には、初めて年間2万件を超えたのち、2021年からは3万件を上回る状況を見せています。

6 懇親会

勉強会の後は、李教授を交え懇親会が催されました。懇親会の中では、「爆弾酒」というお酒を飲む機会があり、初めての経験でした。

「爆弾酒」とは、ビールの中にアルコール度数の高い酒が入ったショットグラスを沈めたもの、あるいはそれを飲む習慣のことをいうようです。

この「爆弾酒」を懇親会の場では、指名した人と指名された人が早飲みをして、遅かった方が残っていくという方法で飲みました。韓国では友好のしるしとして飲むこともあるようで、私も参加させていただきましたが、李教授と友好関係を築くことができたのではないかと思います。

「韓国における取調べ可視化の道程―取調べの録画・弁護人立会い―」の研修を受けて
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「刑事身体拘束手続研究会~韓国の現在」の研修を受けて

月報記事

刑事弁護等委員会 松本 拓馬(72期)

1 はじめに

2024年6月25日、福岡弁護士会館(Zoom配信有り)にて、「刑事身体拘束手続研究会~韓国の現在」が開催されました。全国的にも珍しいテーマ・企画での研究会であったこともあり、当日は、多数の会員の方にご参加いただくことができました。ご参加を希望されていたにもかかわらず、ご都合によりご参加できなかった方もいらっしゃいましたので、今回、研修内容をご紹介させていただきます。

2 本研修会の趣旨について

刑事弁護等委員会では、刑事身体拘束手続PTを中心として県内外の研究者とともに「刑事身体拘束手続研究会」を2023年5月から定期的に開催し、刑事身体拘束手続の現状や問題について議論・研究を続けてきており、今回、同研究会に韓国国立警察大学法学科の李東熹(イ・トンヒ)教授をお招きし、韓国における刑事身体拘束手続の制度やその変化についてご報告いただきました。

本研修会では、日本の制度や実情との比較の中で韓国の制度や変化を知ることができ、翻って日本の刑事身体拘束手続の問題を異なる観点から検討・分析する貴重な機会になりました。

3 刑事身体拘束の流れ
(1) 起訴前の身体拘束制度

韓国では、起訴前の身体拘束制度として、日本と同様に通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕が用意されているということでしたが、勾留(韓国では「拘束」)の場面において、逮捕前置主義は採用されておらず、在宅の被疑者を「拘束」することができるとのことです。

(2) 勾留期間

次に、起訴前の身体拘束期間について、日本では逮捕から最大23日間であることに対して、韓国では最大30日間(=司法警察10日+検察官20日)と日本よりも身体拘束期間が長くなっています。

また、起訴後の身体拘束期間について、韓国では、第1審(最大6ヶ月)、控訴審(最大6ヶ月)、上告審(最大6ヶ月)となっており、起訴前と起訴後で身体拘束期間は最大19ヶ月になるということでした。

4 逮捕・勾留制度(令状審査・逮捕拘束適否審査制度・弁護人接見)
(1) 令状審査

まず、逮捕状が書面審査であること、勾留するかどうかの判断が裁判官による対面審査で行われることは日本も韓国も変わらないようです。

ここでは、李教授から、韓国における勾留状請求に対する「却下率」の推移についてのご説明がありました。韓国において、1996年以前は、却下率約7%に過ぎなかったにもかかわらず、1997年から勾留状に対する実質審査(対面審査)が試行されたことにより、それ以降、却下率約14%前後になったそうです。

また、2007年には身体不拘束の原則が明文化されたことにより、却下率は約20%の状況が続いているとのことです。日本では、却下率が数パーセントにとどまっている現状を考えますと、韓国では勾留状に対する審査が非常に慎重に行われているのではないかという印象を持ちました。

さらに、李教授から、第1審刑事公判における勾留率の推移について、2020年以降はわずか約8%程度であることのご説明がありました。日本では約50%であることと比べて、あまりに数値が異なっており、驚きを隠せませんでした。

(2) 逮捕拘束適否審査制度

次に、韓国における逮捕拘束適否審査制度についてご説明いただきました。当該制度は、逮捕又は拘束された被疑者、その弁護人、法定代理人、配偶者、直系親族、兄弟姉妹、家族、同居人及び雇用主は、管轄法院に逮捕又は拘束の適否審査を請求することができるというものです。日本では勾留決定に対する準抗告という手続きがありますが、準抗告が裁判官による書面審査であることに対して、逮捕拘束適否審査は裁判官による対面審査で実施されているとのことでした。

(3) 弁護人接見

今回の研修レジュメの中では、韓国の弁護人接見室の写真が掲載されていました。私自身、韓国映画やドラマを観たときに印象深く感じていましたが、韓国では日本のようにアクリル板で遮られていません。どちらが望ましいのかについては色々な意見がありそうですが、被疑者・被告人と弁護人との関係性を考えるにあたって非常に参考になりました。

5 保釈制度(被疑者及び被告人保釈・保釈保証保険)

日本では、現在、保釈は起訴後にしか認められませんが、韓国では、起訴前の保釈制度として、保証金納入条件付きの被疑者釈放制度があるようです。また、保証金の納入には、保釈保証保険制度も用意されており、保険会社が発給する「保釈保証保険証券」を添付した保証書をもって、保釈保証金に代えることができるとのことです。当該制度により保証金を納入する資力がない方でも保証金納入条件付きの被疑者釈放制度を利用することができ、利用率としては、保釈全体の50%から60%程度とのことです。日本においても、2011年1月20日付けの「保釈保証制度に関する提言」(日弁連)の中で、「韓国では、この保釈保証保険制度の導入が身体不拘束捜査の原則の実効化に貢献し、『人質司法』は既に過去のものとなったと評されている。」との記載があり、制度の導入が検討されていたことを知りました。

6 韓国における司法改革の沿革及び内容(勾留制度の変化)

ここでは、残念ながら時間の関係で全体についての詳細なご説明はありませんでしたが、韓国における「国選専担弁護士制度」についてのご説明をしていただきました。

「国選専担弁護士制度」とは、国選弁護事件のみを担当する条件で選抜して各審級法院に所属させ、月給制で勤務させる弁護士制度です。国選弁護の質を向上させる目的で2006年2月から正式に施行され、2023年においては韓国全体で234人が選抜され、国選弁護事件全体の35.4%を担当しているそうです。韓国では、弁護士数の急増により、弁護士業界の競争が激しくなったため、国選専担弁護士の選抜の倍率が毎年高くなっている状況ということです。また、韓国では、法曹一元制度が導入されており、裁判官は法曹経験者から採用されるため、将来裁判官として活動したいと希望している方の中で、あえて国選専担弁護士となり、刑事弁護の経験を積んでいる方もいるそうです。

7 最後に

以上、今回の研修の概要を説明させていただきました。

韓国と日本では、刑事身体拘束手続の制度において類似点もありますが、韓国では制度改革を重ねたことにより、すでに「人質司法」から脱却しているとの印象を受けました。韓国が実現している身体不拘束の原則は、日本における刑事身体拘束手続の運用の改善のための手掛かりになり得ると思い、非常に参考になりました。

今回、李教授には、本研修だけでなく、研修後の懇親会でも、韓国の制度などについてご説明いただき、心より御礼申し上げます。

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講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

月報記事

中小企業法律支援センター 委員 藤家 寛之(76期)

1 はじめに

令和6年7月18日、株式会社悪の秘密結社の代表取締役である笹井浩生氏を講師としてお招きし、第1部には「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」との題でご講演をいただき、第2部では、悪の秘密結社の顧問弁護士である松村達紀弁護士を加え、弁護士による中小企業への伴走支援に関わるトークセッションが行われました。本講演会は、「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」の一環として行われたものになります。

本年は、中小事業者やその他他業種の方々をはじめ多数のご参加を賜り、会場参加が52名、オンラインでの参加が56名の合計108名にご参加いただきました。

本稿では、本講演会の内容と本講演会に関連する中小企業法律支援センタ―の取り組みについて報告いたします。

2 「一斉シンポ」について

中小企業法律支援センターでは、例年、日弁連の要請により、全国の弁護士会と共に「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」を開催してきました。

中小企業庁は、令和元年より、中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としました。本年は7月18日に「一斉シンポジウム」が開催されています。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

栁副会長のご挨拶

3 講演会の内容
(1) 第1部(笹井氏によるご講演)

シャベリーマンこと笹井氏は、平成28年に株式会社悪の秘密結社を、福岡県福岡市博多区に本社を置くヒーローショーに特化したイベント会社として創業されました。その後、令和2年にテレビ番組「ドゲンジャーズ」がスタートし、「悪意を持つプロフェッショナル集団」というキャッチコピーにして、他の企業が行わないようなイベント、プロモーション、映像制作を手掛けております。笹井氏の行う事業はエンターテインメントという特殊なビジネスモデルなため、エンターテインメントを如何にしてビジネスとして成立させるかについて以下のように語られております。

エンターテインメントがなぜ世の中に必要なのか、たとえば、キャナルシティ博多に訪れた人々がショーの催し物を見ることにより楽しい気持ちになったり、普段の嫌なことを忘れたりなど、人の感情に入り込んで考え方や人生に意義を生み出すものがエンターテインメントであり、世の中にとって必要な存在である。

もっとも、エンターテインメントを行うにはビジネスとして成立することが重要であり、それには以下のような過程を経ることになる。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

講演する笹井氏(1)

まずは、コンセプトがあり、そのブランディングをし、それを宣伝して、マーケティングするという過程を経てビジネスとして成立することになる。ここでいう、ブランディングとは共感させたい思いのことであり、宣伝とは人と人をつなぐこと、そして、マーケティングとは売り上げが成立する仕組みを作ることである。

これをドゲンジャーズに置き換えて説明すると、ドゲンジャーズの共感してもらいたい思いとは、たくさんの人々に愛されたい、世代を超えた価値になりたい、この町の当たり前になりたいという思い、すなわち「この町の文化になりたい」というものである。一般の市民の方が手の届かない社会貢献活動を任せてほしい。誰でも誰かのヒーローになれる。この活動こそがこの町の未来になると確信している。

そんな思いを実態の伴う思いにすべく、フードドライブ、小児病棟訪問、親不孝通りでのマナーアップ活動、横断旗の寄贈活動を行っており、人々には手の届かない社会貢献活動をドゲンジャーズが代わって支えていく。

しかし、ドゲンジャーズだけではどうしてもできないこと、それは活動資金や運営・映像制作資金の確保であり、ドゲンジャーズの前に立ちはだかる大きな壁である。それではドゲンジャーズはこの壁をどのように乗り越えてきたか。

制作会社に映像を作ってもらう際に一般的に制作委員会方式を取っており、東京では制作委員会のみで権利をビジネス化することができる。他方で、地方都市である福岡では、東京と異なり、制作委員会のみでは権利をビジネス化できず出資者への利益の還元が難しい。そこでドゲンジャーズはIPパートナー委員会やオフィシャルパートナー委員会を設立し、そこから出資を受けてから、制作委員会によって映像を制作しているという仕組みを作り、出資者へはIP保護・ビジュアル利用権という形で利益を還元している。このように三つの委員会を運用することによって、はじめて地方都市でも映像制作をすることができるようになった。三つの委員会を運用することは途轍もない労力ではあるが、だからこそ、立ちはだかる大きな壁を乗り越えられて、ドゲンジャーズを続けていくことができ、「この町の文化になりたい」という思いを人々に伝え続けることができている。

最後に、ドゲンジャーズは等身大で馬鹿馬鹿しい作風ではあるが、等身大だからこそ一緒に共感できる大切な時間と空間を作ることができると思うし、これからも作っていきたいと語られて、笹井氏は講演を締めくくられました。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

講演する笹井氏(2)

(2) 第2部(笹井氏と松村弁護士のトークセッション)

ここからは悪の秘密結社の創業時から顧問弁護士として関わられている松村弁護士と笹井氏による事業者と弁護士の伴走支援について、トークセッションが行われました。

トークセッションの内容としては、ドゲンジャーズという名前が商標登録できるかなどの知的財産関係、制作委員会やパートナー等との間で交わされる契約書作成の過程、視聴者やお客さんとの関係やドゲンジャーズの権利関係への法的対応やルール作り、カスタマーハラスメントやトラブルに対する法的対応、会社内の従業員の労働環境等への助言、脚本作りにおいての法的トラブルを未然に防止する助言、弁護士以外の士業との関係性、事業者と顧問弁護士の理想的な関係性など、様々な場面での伴走支援の過程について具体例を用いて紹介していただきました。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

トークセッションの様子(1)

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

トークセッションの様子(2)

4 講演会後の無料法律相談会

今年も無料法律相談会を開催いたしました。今後も委員会活動等を通して一般市民の方々や事業者の方々が気軽に法律相談ができる環境づくりに貢献できるよう、これからも会務に励みたいと思いました。

5 おわりに

笹井氏はドゲンジャーズのキャラクターであるシャベリーマンの仮面を被って登壇され講演をされておりました。仮面を被ったまま講演をされる方を見るのは初めての経験であり、のっけから度肝を抜かれたまま、いつの間にか笹井氏のトークに引きずり込まれました。シャベリーマンという名前からも分かるように軽妙な語り口で、会場の方々に終始笑いを提供しつつ、ドゲンジャーズの事業サービス展開のポイント・組織作りの肝について分かりやすく説明する様は、弁護士活動においても大変参考になる部分が多く、興味深く勉強させていただきました。

また、笹井氏と松村弁護士の事業者と顧問弁護士の関わり方についてですが、お二方のトークセッションの絡みから、笹井氏と松村弁護士は長年の戦友のような関係に思えました。弁護士成りたてほやほやの私にとっては羨ましく理想の関係性だなと思い、これからの弁護士人生において、事業者の方とこのような関係性を作れるように歩んでいきたいと思う所存です。

最後となりますが、笹井氏は、講演が終わってもシャベリーマンの仮面を外さず、そのまま会場を去っていきました。キャラクターイメージを壊さないためなのか、はたまたヒーローらに顔バレしないためかは分かりませんが、さすがは「悪意を持つプロフェッショナル集団」だなと感心するとともに、私も自身のプロフェッショナルを貫いていこうと強く思った次第です。

講演会「ドゲンジャーズはどうやって壁を乗り越えたか~事業サービス展開のポイント・組織作りの肝~」

会場の様子

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「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

月報記事

子どもの権利委員会 委員 長本 祐佳(67期)

第1 はじめに

今年は日本が「子どもの人権条約」を批准して30周年!という節目の年ということで、令和6年7月27日(土)、福岡県弁護士会館にて子どもの権利条約批准30周年記念イベントを開催いたしました。

第2 今回のテーマ

今回のテーマは「インクルーシブ教育」。

皆様、インクルーシブ教育をご存知ですか?インクルーシブは和訳すると「すべてを包み込む」という意味になります。インクルーシブ教育は、多様な特性や個性を持ったすべての子どもたちが、同じ学校に通い、同じ環境で一緒に学ぶ、という新しい教育の考え方です。このような教育を通して、子どもたち一人ひとりが、自分とは違った個性や価値観を受け入れる心を育み、それぞれの長所を最大限に生かして、より自由に社会で活躍できる共生社会の実現に繋がると考えられています。

第3 当日の様子
(1) 映画「みんなの学校」上映

今回のイベントの目玉は映画「みんなの学校」の上映会。

映画「みんなの学校」は、「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、インクルーシブ教育を実践している大阪市住吉区にある大空小学校の日常を描いたドキュメンタリー映画です。"THE・エンターテインメント"という感じの映画ではないので、一体どれくらいの方がいらしてくださるのだろうかと内心ドキドキしていましたが、大人64名、子ども16名、合計80名もの方々がお越しくださいました。その中にはなんと鹿児島からお越しくださった方もいらっしゃったとか!(ありがとうございます!!)この映画に対する、そしてインクルーシブ教育対する社会的な関心の高まりを感じました。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

会場

この映画の舞台である大空小学校では、通常学級の対象となる子どもも、特別支援学級の対象となる子どもも、すべての子どもたちが同じ教室で学んでいます。言葉を持たない子、学校にいるのが苦手な子、感情のコントロールが苦手な子、暴力をふるってしまうこともある子、様々な特性のある子どもたちがいるということもあり、ときにトラブルが発生してしまうこともあります。この映画で描かれている大空小学校での日常は、ある場面では強く共感し、ある場面では深く考えさせられ、嬉しくなったり悲しくなったりと強く感情を揺さぶられるものばかりでした。そのため、心に残った出来事も、ある出来事に対する見方も、考えさせられるポイントも、この映画を観る人それぞれにあるように思います。個人的には、これまで学校に安心できる場所がなく不登校気味で、登校しても校内に2時間いるのが限界で学校から逃げ出そうとしてしまうこともあったお子さんが、何が苦手でどうすれば大丈夫になるのか、何ができて何ができないのかといったことを先生やクラスメイトに伝え、どうするかを一緒に考えていく中で、人間関係を築いていき、最終的に生き生きと学校生活を送ることができるようになっていく過程に強く心を打たれました。これまで逃げ出すほど学校が苦手だったのに、生き生きと学校に通えるようになった我が子を見て涙を浮かべる親御さんの姿に、思わず私も涙してしまいました。「学校で分離されて生活していたのに、社会に出てからいきなり共生なんて難しいに決まっている。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

パネル

学校の中で、ともに学び、ともに遊ぶ中でこそ、関わり合い方を学んでいけるものでしょ。」というある先輩の言葉が思い出されました。この映画の上映時間は106分とそれなりに長いものでしたが、あっという間に感じました。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

クイズラリー

(2) クイズラリー

映画上映後は、福岡県弁護士会館内にて子どもの権利に関するクイズラリーを行いました。福岡県弁護士会館内にあるパネルに隠されているヒントをもとにクロスワードパズルを埋めるとあるキーワードが浮かび上がってくるというもので、皆さん、ユニセフの子どもの権利条約に関する解説パネルをしっかりと読みながら解いてくださっていました。パネルがよくまとまっていて分かりやすいと写真を撮ってくださっている方もいらっしゃいました。

クイズラリーの景品では、やはり手作り缶バッチが子どもたちに大人気で、皆さん楽しそうに作っていました(一時、長蛇の列ができるという盛況ぶりでした!)。個人的には、福岡県弁護士会の弁護士あるあるファイルをゲットできて嬉しかったです。

第4 最後に

今回のイベントでは、子どもたちひとりひとりが自分らしく生きるとは何なのかということや、「インクルーシブ教育」とは一体どのようなものなのかについて、改めて考えることができるよい機会となりました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」開催!

缶バッチ

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森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

月報記事

生存権擁護・支援対策本部 塩澤 裕樹(70期)

1 はじめに

令和6年7月28日、生存権擁護・支援対策本部の夏合宿において、愛知県弁護士会所属、日弁連貧困問題対策本部事務局次長の森弘典弁護士を講師にお招きし、「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」との題で講演をしていただきましたので、ご報告いたします。

2 講演依頼の背景

令和6年10月に開催される日本弁護士連合会人権擁護大会では、「今こそ、『生活保障法』の制定を!」~地域から創る、すべての人の"生存権"が保障される社会~というテーマでシンポジウムが開かれます。

生存権擁護・支援対策本部としては、日本弁護士連合会の公表した平成20年の「生活保護法改正要綱案」、平成31年のその改訂版について再度学び、さらには権利性を明確にした「生活保障法」制定に向けての運動を今後行っていくために、本講演では生活保護法改正要綱案(改訂版)の内容について取り上げていただきました。

また、当本部が編集し発行している「生活保護の実務最前線Q&A」の改訂作業に向け、生活保護に関する論点についても併せてご講義いただきました。

3 生活保護法改正要綱案(改訂版)について

平成31年2月、日本弁護士連合会が生活保護法改正要綱案(改訂版)を作成・公表しました。

その改正案には、(1)権利性の明確化、(2)水際作戦を不可能にする制度的保障、(3)生活保護基準の決定に対する民主的コントロール、(4)一歩手前の生活困窮層に対する積極的支援、(5)ケースワーカーの増員と専門性の確保という5本の柱があります。

森弁護士の説明で特に印象的であったのは、(2)水際作戦を不可能にする制度的保障についてです。具体的には、簡単に書ける申請書の窓口備置きを義務付けることや、捕捉率の調査・向上義務を規定するといった内容になります。捕捉率とは、生活保護を利用できる人のうち、実際に利用している人の割合をいいますが、厚生労働省が2018年11月に公表したデータでは、所得基準で22.6%、資産を考慮して43.3%となっています。もっとも、相対的貧困率と生活保護利用率からの計算では10.4%となるなど、非常に低い捕捉率であるとのことでした。多くの人が生存権を侵害されているこの現状を打破するためにも、水際作戦を不可能とし、より積極的に必要とする人が利用できる制度を構築していく必要があることがわかりました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

講演の様子

4 生活保護に関する論点

森弁護士からは、生活保護に関する論点につき広く解説していただきました。その中でも、生活保護受給中の自動車保有について、令和3年10月に生活保護問題対策全国会議が作成した「自動車を持ちながら生活保護を利用するために!」というパンフレットを基に説明していただきました。

旧来の「車はゼイタク品」との考えから、福祉事務所等が現行の厚生労働省通知を正しく運用せずに不正確な説明をしたことによって、自動車に乗れなくなるからと生活保護を断念した方の事例を聞き、私たちが生活保護の運用主体に対して正しい知識を伝え適切な運用を広めていく必要性を再確認しました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

研修会場の大丸別荘

5 おわりに

講演でもお話がありましたが、現在、日本中で展開されている生活保護基準引下げに基づく保護変更決定処分の取消等を求める訴訟で、これまでに28の地裁で判決が言い渡され、6割を超える17の地裁で原告である生活保護受給者側の勝訴判決となっています。本講演で学んだことを、本年10月の人権擁護大会でさらに議論を深め、勝訴判決が続く全国の勢いにも乗って、私たちも福岡県から声を上げていきたいと思いました。

森弘典弁護士による講演「生活保護法改正要綱案(改訂版)~権利性が明確な『生活保障法』の制定を!~」のご報告

研修会場の大丸別荘

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あさかぜ基金だより

月報記事

会員 滝本 祥平(75期)

こんにちは

あさかぜに入所して、9か月が過ぎました。この間、公私ともに色々なことがありました。仕事面では、あさかぜで経験できると思っていなかった会社の支配をめぐる事案の控訴審で想定外の理由で控訴棄却されてしまい、厳しい現実を知りました。また、刑事事件で身元引受人になってもらうため、通常在宅していると思われる時間帯にご自宅を訪問したところ会えず、被疑者本人にその方の生活パターンを聞いたところ、深夜1時に帰宅し、翌昼には出掛けてしまうと聞いたので、事務所へ行く前に再度訪問したところ、お会いでき、身元引受人になっていただきました。世の中にはいろんな人がいるという現実を改めて思い知った次第です。私事としてあった色々なことは懇親会などでお話できたらと思います。

さて、あさかぜは養成事務所ですから、研修が充実しています。日弁連の公設事務所研修のほか、不定期であさかぜ研修というあさかぜ独自の研修もあります。あさかぜ研修は、あさかぜの所員が内容を企画し、外部講師の元へ赴いて知識やスキルを習得するものです。直近の実施例としては、7月11日(木)、壱岐ひまわり法律事務所へ出かけ、赴任中の宇佐美竜介弁護士に講義いただきました。このことを報告します。

壱岐ひまわり法律事務所が所在する壱岐ってこんなところ

壱岐島は九州本土の福岡市から北西に約80km、佐賀県北端部の東松浦半島から北北西に約20kmの玄界灘上に位置する長崎県の離島であり、行政区域としては壱岐市のみです。

壱岐市の人口は令和6年5月末時点で、2万4012人です。郷ノ浦町(人口8938人)、勝本町(人口4363人)、芦辺町(人口6628人)、石田町(3787人)となっています。やはり、博多とジェットフォイルで行き来できる郷ノ浦町、芦辺町に人口の大半が集中しており、郷ノ浦町が壱岐の中心部といえ、壱岐ひまわり法律事務所もここに所在しています。

なお、4名泊まれる施設を探すことに苦労したことや郷ノ浦港の駐車場はレンタカーでほぼ満車であったことを踏まえると、壱岐の観光業はある程度回復していると考えられます。他方で、HPなどで予約必須とうたわれる遊覧船の乗客数は少なかった印象ですから、回復の程度は十分でないのでしょう。

あさかぜ研修@壱岐

講義に先立って宇佐美竜介弁護士に壱岐の名所をご案内いただきました。あいにくの天気だったため、写真を撮っていない名所もあります。

まず、宇佐美弁護士イチオシの聖母宮(しょうもぐう)をご案内いただきました。写真1は、同宮の手水舎です。パラオから寄進された巨大なシャコガイが手水鉢として利用されています。また、同宮を訪れた際、たまたま宮司さんと出会いました。そのご厚意で本殿を見学することができました。その際に撮影許可をいただいたのが、同宮の収蔵品である掛け軸です(写真2)。

あさかぜ基金だより

(写真1)聖母宮 手水舎

あさかぜ基金だより

(写真2)聖母宮 掛け軸

そのほか、鬼の岩屋(宇佐美弁護士としては、古墳の入口がそのまま観光地として残されている点がおすすめポイントとのことでした)や、はらほげ地蔵(写真3)など島内を万遍なくご案内いただきました。

あさかぜ基金だより

(写真3)はらほげ地蔵さん

講義では、赴任における引継ぎはどのように行ったか、赴任後の受任状況はどうか、どのような分野の事件を受任しているのか、また、事務所の経営状況はどうかなどについて、宇佐美弁護士が実際に受任している事件の内容など詳細にご教示いただきました。

事件の内容に関して、離婚事件が多く、先立ってご案内いただいた名所のいくつかが不倫の現場ということがありました。また、刑事事件について、福岡などの都市部では身体拘束からの解放のため、ご両親が子である被疑者のために示談金を用意すること、身元引受人となることがありうるところ、壱岐では悪いことをしたのだから牢屋の中で反省しろという価値観の人が多く、協力いただけないことが多々あるとのことでした。

ついでに壱岐観光

任期を延長したくなる壱岐の魅力はなにかを探求するため、帰りの船を待つ間、壱岐を一周してきました。

壱岐の最高峰は丘の辻(標高213メートル)です。同所に設けられた展望台からは壱岐を一望できます(写真4)。海に囲まれ風を遮るものが無いため、壱岐の気候は福岡より冷涼です。全国的な猛暑日だと、私の地元である北海道札幌市より涼しいかもしれません。

あさかぜ基金だより

(写真4)壱岐最高峰 丘の辻

最後の写真として、宿泊した宿の方イチオシの観光スポット辰の島周遊時に撮影したもの(写真5辰の島、写真6マンモス岩)を添えます。辰の島周遊の後、お昼を勝本港にある海神というお店で頂きました。たまたま海神での食事をしたため、当該レシートと辰の島周遊の半券をもって前述の聖母宮を再び訪れると、特別な御朱印を購入することができました(今年限定のキャンペーンです)。

あさかぜ基金だより

(写真5)辰の島

あさかぜ基金だより

(写真6)マンモス岩

77期司法修習生へ

あさかぜの研修は充実しています。赴任まえから、過疎地域へ研修として訪れることができ、ついでに観光もできます。

日弁の定期研修会などで他の公設事務所の所員弁護士と交流することがあるのですが、このような充実した研修を実施しているのは、あさかぜだけと思われます。

本年度においてはすでに人吉へも行きました。人吉はいろいろな日帰り温泉が充実し、おしゃれな古民家カフェもありました。進路の一つとしてあさかぜを検討してみませんか。 地域の人々の生活と福祉を支えつつ豊かな自然にも触れる機会がある。この2つを両立できるのが過疎地で弁護士業を営む魅力と言えます。

より詳しい話を聞きたい、応募したい等お問い合わせは滝本(メールs.takimoto@asakaze-law.jp)までお願いします。

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