福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2024年8月号 月報
中小企業の準則型私的整理に関する研修会
月報記事
倒産業務等支援センター委員会 委員 西田 裕太朗(71期)
第1 はじめに
令和6年5月31日(金)に開催された、中小企業の準則型私的整理に関する研修会についてご報告します。本研修は、倒産業務等支援センター委員会と中小企業活性化協議会(以下「協議会」と言います)が共同で開催したものです。
協議会は、産業競争力強化法の規定に基づき、すべての都道府県に設置され、中小企業の財務状況等に応じた様々な支援を実施する公的な機関です。
第2 登壇者のご紹介(敬称略)
次の4方にご登壇頂きました。
【司会進行】
倒産業務等支援センター委員会 委員 佐藤 雄介
【パネリスト】
中小企業活性化全国本部 プロジェクトマネージャー
浅沼 雅人(東京弁護士会)
福岡県中小企業活性化協議会 統括責任者 補佐
吉松 翔(福岡県弁護士会)
倒産業務等支援センター委員会 副委員長
管納 啓文
第3 研修の内容
前半では私的整理の基本的な考え方やスキームの説明等、後半では具体的な事例を参照しながらの解説が行われました。
1 私的整理とは
今回の研修では、そもそも私的整理とは何か、という点から説明がありました。私的整理は、破産などの法的整理と異なり、債権者の同意を得て債務整理を行うことが特徴です。法的整理にも、民事再生、会社更生といった再建型の手続がありますが、近時は、取引先の喪失や商圏の劣化の懸念等から、会社側、金融機関の双方が私的整理を望む傾向にあるようです。
2 私的整理のスキーム
私的整理のスキームとしては、対象債権者と相対で手続を進める純粋私的整理や、公表された一定のルールに則って手続きをすすめる準則型私的整理等があります。今回の研修では、準則型私的整理の代表例である、協議会スキーム、中小企業の事業再生等に関するガイドラインが取り上げられました。
協議会スキームでは、企業が直接金融機関と交渉するのではなく、協議会が企業と金融機関の間にたって金融調整を行います。協議会は公的機関であること等から、金融機関に基本的には協力的な姿勢で臨んで頂けます。
中小企業の事業再生等に関するガイドラインは、令和4年3月に策定されました(その後一部改訂されています)。コロナ融資により過剰債務を抱えた中小企業が増加し、事業再生等に対するニーズが高まる中で、協議会以外の受け皿として機能することが期待されています。
3 弁護士の役割
私的整理の代表的な手法としては、債務の支払い期限を繰延べてもらう方法(リスケ案件)と、過剰な債務の一部をカットしてもらう方法(カット案件)の2種類があります。リスケ案件における弁護士の関与は限定的ですが、カット案件では、事業再生計画の作成や、事業再生計画の妥当性の検証を弁護士が行います。
パネリストからは、私的整理のやりがいとして、事業、従業員を守ることができる点や、多様なスキームがあり創造力が試される点が挙げられました。
協議会の立場からは、私的整理に関与する弁護士を増やしたいという話がありました。企業から廃業方向の相談を受けた際に、私的整理の道がないかを是非ご検討頂き、適宜協議会の窓口相談(無料)をご活用頂ければと思います。
第4 おわりに
閉会挨拶の中で、倒産業務等支援センター委員会委員長の髙松弁護士より、私的整理関与の入り口としては、経営者保証に関するガイドライン単独型の利用が良いのではないかという話がありました。単独型とは、経営者保証に関するガイドラインによる保証債務整理の一類型であり、主債務者である法人とは別個の手続において債務整理を行うことを指します。代表的なケースは、主債務者である法人は破産し、保証人である個人は経営者保障に関するガイドラインによる債務整理を行うかたちです。
今回の研修では保証債務の整理は対象とされませんでしたが、本年7月30日(火)に、北九州部会において、単独型に関する研修が予定されています(皆様のお手元に本月報が届くころには終了しているかもしれません)。