福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2024年1月号 月報
特商法5年後見直しシンポジウム 「あなたも危ないSNS詐欺被害~特定商取引法の改正ポイントとこれからの課題」(令和5年12月9日開催)~
月報記事
消費者委員会 委員 吉田 大輝(68期)
1 はじめに
去る12月9日、福岡県弁護士会2階大ホールにおいて、特商法5年後見直しシンポジウム「あなたも危ないSNS詐欺被害~特定商取引法の改正とこれからの課題~」を開催いたしました。
私達シンポジウム実施PTメンバーは、(参加自由・予約不要でしたので)当日の動員に気を揉んでいましたが、終わってみれば、会場・ZOOM参加合わせて約100名もの皆様にご参加いただくことができ、特に、会場参加のうち大学生9名、弁護士以外の市民メンバーで約26名参加いただくなど、弁護士にとどまらず大盛況のうちに終えることができました。
以下、簡単にですが、実施報告をいたします。
2 動画「鷹男の悲劇」
今回は、市民シンポということもあり、特定商取引法の現状と課題を明らかにすべく、PTメンバーで10分程度の動画を作成し、シンポジウムの冒頭に動画視聴を行いました。この動画は、オリジナルの事例を基に、PTメンバーで音声を入れ、動画として編集したものです。
新卒で22歳の福岡鷹男君が、ある日、SNSで「月+10万円」を謳う副業ビジネスに興味をもち、SNSを通じて業者と連絡を取り始め、あれよあれよという間に業者の口車に乗せられて遠隔操作アプリを用いて消費者金融から借財をさせられ、副業ビジネスのための研修費名目で大金を支払ってしまう、、、という内容です。
この動画は、実際に消費生活センターの現場でも同様の被害が多数寄せられており、実例を基にしたシナリオでした。アニメ仕立てになっており、声の出演は、南正覚文枝会員(ナレーター)、前田和基会員(鷹男)、当職(業者)、小野遙河会員(消費者金融)となっています。
現在の特定商取引法の規定では、鷹男の事例のようにSNSを用いた勧誘に関しては規制対象になっておらず、また、通信販売についてはクーリング・オフ制度がないために被害救済としては不十分であることをあぶり出す動画でした。
3 基調報告
動画視聴の後、千綿俊一郎会員から、「特定商取引法のキホンと抜本的改正の必要性」と題し、鷹男の動画に触れながら特定商取引法の概要、SNS関連被害の実情、法の制定からこれまでの改正の経緯、現状における問題点及び抜本的改正の必要性、諸外国の法整備の状況や今後の展望に至るまで、多岐に渡る事項を網羅的に、かつ簡潔にご報告いただきました。
千綿会員のご報告は、一般市民や特定商取引法に馴染みのない弁護士でもわかりやすい内容で、特にEUや韓国においては通信販売に撤回権が認められていることをご紹介いただくなど、今後の展望を明らかにする示唆に富んだご報告でした。限られた時間に大変密度の濃いご報告を要請するという、無茶振りとも言える達成困難なミッションを見事達成いただきました。千綿会員、ありがとうございました。
4 パネルディスカッション
次に、消費生活相談員の穐山美江様、桑原義浩会員、藤村元気会員にご登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。
穐山様からは、SNS関連の相談件数が右肩上がりに増加していること、特商法を用いて有効な対処を検討することが困難であることなど、豊富な実例を挙げつつ相談現場のリアルを詳らかにしていただきました。特定商取引法の改正の必要性を現場から強く訴える内容であり、実務に即したご報告をいただきました。
桑原会員からは、(相談者の許諾を得て匿名化した上で)実際の相談・受任事例におけるSNSの生のやり取りをスライドに投影していただき、市民がSNS関連被害に遭う様子をご報告いただきました。実際に、一人の人が被害に遭っていく様子(SNSのやり取り)は、映画のような鮮烈なインパクトを残しました。
会場の参加者は、穐山様からのご報告や桑原会員からの事例報告など、やはりリアルな被害実態について、特に熱心に耳を傾けている様子でした。
パネルディスカッションを経て、藤村会員からは、本シンポジウムのまとめとして、①SNSを用いた勧誘類型を特定商取引法の新たな規制対象とすべき、②事業者がSNSに登録する際に、住所・名称・責任者の登録を義務付け、かつ、SNS運営業者に対しては早期の開示を可能とすべき、③事業者がWEBを通じて消費者に消費者金融等から借り入れさせることを規制すべき、という提言をご発案いただきました。
5 最後に
質疑応答では、内閣府消費者委員会委員としてSNS問題にも取り組んでおられる黒木和彰会員から、SNS関連被害をより効果的に防止するためには、特定商取引法の改正にとどまらず、SNSそのものへの規制も必要と考えられ、総務省との調整をつけることは容易でないとの指摘もあり、問題の根深さをあらためて感じました。また、参加した大学生からは、学生ならではの素朴かつ率直な質問が次々に寄せられるなどして、会場は大いに盛り上がりました。
最後に、本シンポジウムの準備・運営に多大なるご貢献をいただきました皆様に謝辞を述べ、ご報告とさせていただきます。
「来たれ、リーガル女子! in福岡2023」のご報告
月報記事
男女共同参画推進本部・両性の平等に関する委員会 細永 貴子(62期)
1 はじめに
2023年10月29日(日)、福岡県弁護士会館において、「来たれ、リーガル女子!in福岡2023」が開催されました。2018年に始まった本企画も今年で6回目です。第1部パネルディスカッション、第2部法曹になるための進路説明、第3部グループセッションという構成で行いました。 コロナ禍がひと段落したことから、今年は第1部及び第2部のみオンライン(ZOOMウェビナー)での配信をし、第3部は会場でのリアル参加のみとしました。今年も鹿児島大学司法政策教育研究センターとの共催となりましたので、第3部は鹿児島大学会場でもリアルで実施しました。 第1部・第2部の参加者は福岡会場75名(中高生52、保護者22、教員1)、ウェビナー参加者17名、鹿児島会場13名(中高生12、保護者1)、第3部はグループセッションの参加者が福岡会場39名、鹿児島会場12名、質問コーナーの参加者が7名(中高生2、保護者5)と多数の方々にご参加いただきました。
2 第1部 弁護士による対談
第1部に先立ち、九州弁護士会連合会の笹川理子理事長から開会挨拶、福岡県弁護士会北九州部会長の小倉知子会員からメッセージをいただきました。笹川理事長は、鹿児島県弁護士会で初めての女性弁護士であり、九弁連初の女性理事長でもあります。また、北九州では今年、地方裁判所小倉支部、検察庁小倉支部、及び弁護士会北九州部会のすべてで女性がトップになるなど、女性法律家が活躍しています。お二人から、これから進路を決める学生さんたちを勇気づけるお言葉をいただき、会場がとても活気に満ちた雰囲気になりました。 第1部では、様々な職業を経て弁護士になった女性弁護士の対談を行いました。パネリストは、航空会社の客室乗務員を経て弁護士になった河内美香会員及び外交官を経て弁護士になった塩飽梨栄会員、インタビュアーとして井芹美暎会員が登壇されました。民間企業勤務や外交官という国の仕事を経て弁護士を志した経緯や、司法試験合格に向けてどれくらい勉強したのか、弁護士としてどのような活動をしているのかなど、三者三様のお話を聞くことができ、興味深い対談でした。客室乗務員や外交官など、それ自体とても魅力的なお仕事を辞めて弁護士をめざしたという河内会員と塩飽会員の経験談は、参加者の方々にとっても新鮮だったようです。アンケートに「法曹界に携わっている人は幼少期から法曹への志があった人ばかり、というイメージがあったのですが社会人になってから方向転換した方々の話をきき、法曹への道はいつでも開けるんだなと親近感を感じました」「違う仕事から弁護士に転職した方の話が衝撃的でとても参考になった」「法学部からストレートでなくても、なりたいという気持ちがあれば法曹になれるということが分かりました」など多数の感想が寄せられました。
3 第2部 法曹になるための進路説明
第2部は、中谷正太会員を進行役として、山下昇教授(九州大学)、藤村賢訓准教授(福岡大学)、濱﨑録教授(西南学院大学)のお三方から、法曹になるための進路説明をしていただきました。大学の法学部から法曹を目指す流れ、法学部や法科大学院では何を学ぶことができるのか、法学部教育と法科大学院教育を連携する法曹コースについて、各先生方の所属する大学の特色などが紹介されました。 アンケートでは、「九州内の大学法学部の制度を知ることができ、今後の進路選択の参考になりました」「法曹になるための手段は思いの外いろいろ種類があることを知りました。また、各大学の特徴も聞けて今後の進路を考えるに当たってとても勉強になりました」などの声がありました。
4 第3部 グループセッション/質問コーナー
第3部のグループセッション(以下、「GS」といいます。)では、少人数のグループに分かれて、弁護士・裁判官・検察官が中高生の質問に答え、より法曹について具体的なイメージを持ってもらおうという企画です。福岡会場では、中学1年生から高校3年生までの39人が参加してくれました。どんな人が法曹に向いていると思うか、仕事のやりがいやワークライフバランスのとり方など様々なテーマについての質問が出ていました。アンケートには、「弁護士の皆さんの日々の働き方や休みの日の過ごし方、弁護士というものを深く教えて下さってとても参考になりました」「お話を聞いて、法曹という仕事が身近に感じられました」「具体的な仕事内容からどんな人が向いてるか、今からできることなど知らなかったことが多くあって、とても参考になったし、楽しかったです」、「とてもフラットな環境だったので、気軽に質問しやすかったです」など満足度の高い回答が多く寄せられました。少人数でのGSで裁判官・検察官・弁護士から直接話を聞ける機会は、中高生にとって貴重で有意義であると感じました。 GSと同時並行で行った質問コーナーには、第2部でご登壇いただいた大学の先生方に加え、福岡地方裁判所飯塚支部の柴田大裁判官も飛び入り参加してくださいました。弁護士も9人ほど同席しました。保護者の方からは「子どもが司法試験を頑張れるのか」「弁護士は逆恨みが心配だが実際どうですか」などの質問があり、大学の先生方や裁判官、弁護士がそれぞれの意見を述べ、充実した質疑応答になりました。子どもを応援したい半面、心配も尽きないという親御さんにとっても有意義なイベントになったのではないかと思います。
5 おわりに
イベント終了後のアンケートでは、「当イベントに参加して、将来、弁護士・裁判官・検察官になりたい(または進路として勧めたい)と思うようになりましたか?」との質問に対して、48%が「強く思った」、40%が「少し思った」と回答しました。「イベント参加前は法曹関係のお仕事はすごく堅い感じがしていたけど、お話を聞いて、弁護士さんや裁判官のイメージがかなり変わりました。困っている人を法律を通して助けられることがすごく素敵だな。といいイメージに変わりました」「真面目でとても優秀な人というイメージでしたが、実際に話してみると優しく丁寧な方が多かったというイメージを受けました。またかっこいいなという印象を受けました」などの嬉しいコメントもいただきました。本イベントが法曹に興味関心を持っていただくきっかけとなっており、来年以降もイベントの継続が期待されます。 当職も今回初めてリーガル女子のイベントに関わらせていただき(当日は総合司会を担当)、改めて弁護士という仕事を選択したことに誇りを持つことができました。本イベントにご登壇・ご参加くださった先生方や実行委員の先生方に改めて感謝を申し上げます。
あさかぜ基金だより 季節外れの新人所員の自己紹介
月報記事
会員 滝本 祥平(75期)
自己紹介
75期の滝本祥平と申します。北海道札幌市手稲区という札幌中心部と小樽の中間ほどにある住宅地のマンションで札幌の街並みと小樽の海岸線を望みながら、司法修習に至るまで、修学旅行等を除き北海道を出ることなく育ちました。札幌・小樽観光はもちろんのこと、北海道観光をお考えのときは、ぜひご相談下さい。
司法修習で仙台に配属され、牛タンはもちろんのこと、定義三角あぶらあげ、さいちのおはぎといったグルメや有備館(大崎市)といった史跡名所を楽しむことで、宮城県を概ね満喫し、札幌での就職に拘泥する必要がなくなりました。
私は、弁護士過疎問題の解決に貢献できることから、道内の過疎地域に支部を有する東京都多摩地域の法律事務所に就職しました。残念ながら、この事務所では十分な研鑽を積むことができないまま退所することとなってしまいましたが、修習時代の民事弁護教官である林信行弁護士の紹介といった縁があり、あさかぜ基金法律事務所に入所させていただきました。
九州には、二回試験後、同期と屋久島・種子島を旅行する前後に鹿児島県内の温泉を楽しんだ経験しかなく、多くの未経験のグルメや史跡名所があるので、楽しみです。
なぜ福岡へ
所縁のない福岡へわざわざ転居する理由としては不十分でしょう。
Q 前の事務所の退職を思いとどまることは。
A 考えました。退職を検討したのは、4月頃。ボス弁との折り合いが悪くなったからです。そこで、担当している事件をやり遂げてやめようと考えていたところ、事件の進捗についても、交渉の時宜を失するような状況になってしまいました。依頼者が早期に適切な弁護士サービスを享受するには辞めるほかないと思い辞めました。
Q 東京都での再就職や独立は。
A 就職活動をする中で都内への引っ越しを勧められ、物件を探しましたが、オーナー審査が通らずほぼ諦めていました。また、東京会の刑事弁護研修は一人で当番・被疑者国選事件を受任するところ、いずれも不起訴処分を勝ち取ることができたため、八王子の住居を事務所として国選事件等で食いつなぐことも検討しましたが、弁護士過疎問題の解決への貢献を将来的にしたいという希望を捨てきれませんでした。
Q 札幌へ帰ることは。
A せっかく道外で就職したのに、就職から1年経たずに戻るのは、逃げたようで無様だなと思い、最後の手段に位置付けています。
Q 福岡へ行く決心をした理由は。
A 弁護士過疎問題の解決への貢献を将来的にしたいという希望を捨てきれない状況で、林弁護士から養成事務所に対する日弁連の研修が素晴らしいこととあさかぜ基金法律事務所の人員を探している上田英友弁護士は信頼できると熱心に説明していただいたからです。
Q なぜ弁護士過疎問題の解決への貢献に関心が。
A 社会課題があって解決策が明白なのに、何もしないというのは社会の構成員としていかがなものかと思うからです。
Q 弁護士過疎問題の解決策は明白か。
A 一定の実力を身に着けた弁護士が弁護士過疎地域にて法律事務所を営めばよいという明白なものと考えております。
最後に
一定の実力を身に着け、弁護士過疎問題の解決に貢献できる人材になるために、機会がありましたら、事件の共同受任等ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。