福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2023年11月号 月報

社外役員に関する連続講演会(杉原知佳先生)

月報記事

弁護士業務委員会 委員 德永 淳(71期)

1 本講演会について

去る令和5年7月26日、福岡県弁護士会館(ZOOM併用)にて、杉原知佳先生(51期)をお招きし、「社外役員に関する連続講演会~コーポレートガバナンス・コードと社外役員~」と題して、講演会を開催しました。
講師の杉原知佳先生は、東証プライム上場企業を含めた複数の企業の社外取締役に就任されております。
本講演会は、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会の一環として行われました。
「WODIC」とは「Whistleblower Protection Act(公益通報者保護法)」、「Outside Director(社外取締役)」、「Independent Committee(第三者委員会)」の頭文字をとった造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるため、各分野の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足したPTです。
WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。また、令和5年10月2日には、第三者委員会(IC)をテーマとした研修会も開催しました(同研修会については、来月以降の月報でご報告予定です。)
本講演会は、社外取締役(OD)をテーマにした連続講演会の第4回目であり、会場参加・オンラインで多数の先生にご参加いただきました。

2 本講演会の内容

⑴ コーポレートガバナンス・コード(CGコード)
CGコードとは、上場企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目的とし、実効的なコーポレートガバナンス(会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み)の実現に資する主要な原則を取りまとめたものです。
CGコードは、強い法的拘束力を有さないいわゆるソフト・ローの一種であり、上場会社は、CGコードの各原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明することが求められています(東証有価証券上場規定436条の3)。

⑵ 社外取締役に求められること
社外取締役は、CGコードにおいて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点からの助言を行い、経営の監督や会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督するとともに、経営陣・支配株主等から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させることが求められています。
近年、このような社外取締役の機能がより必要とされており、令和3年のCGコード改訂の際には、プライム市場上場会社においては、社外取締役を少なくとも3分の1以上(その他の市場の上場会社においては2名以上)選任することが求められるようになりました。

⑶ CGコードにおける多様性の要求
CGコードにおいて、取締役会は、ジェンダーや国際性、職歴、年齢の面を含む多様性と適正規模を両立させる人員で構成されることが求められ、監査役には、財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されることが求められています。
ジェンダーの観点については、令和3年のCGコード改訂の際、上場企業に、管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標を設定し、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表することが求められています。

⑷ 杉原先生が社外取締役として心掛けていること

・守秘義務
社外取締役は、企業の外部公表前の重要情報に触れる以上、守秘義務の遵守は最も大事です。

・枝葉を見ずに森を見る
社外取締役は、弁護士業務における契約書のリーガルチェックのような細かい作業を求められているわけではありません。
鳥の目(広く視野を持ち、俯瞰して大局を見る能力)、虫の目(細部にわたって色々な角度から情報を処理し、分析する能力)、魚の目(時代の変化を的確に捉える能力)、コウモリの目(物事を反対側から見て、発想を広げる能力)を持ち、上手く活かす必要があります。

・会社のことを知りたい姿勢を示す
前回の講演会で講師を務められた平田えり先生には、自身が会社への愛を持っていることを熱く語って頂きました。
杉原先生としても、平田えり先生のように、会社を愛し、会社のことを知りたいという姿勢を示すことが大事とお考えでした。

・法令違反の有無・リスクの検討
弁護士として社外取締役に選任されている以上、経営陣からは法的観点の指摘が求められており、これが社外取締役としての業務の重要部分となります。

・会社で当たり前になっていることを外部の目で指摘する
社外取締役は、通りすがりの旅人であり、旅の途中で村に寄った際、村人たちの同質性による過度な弊害に気付くことができます。
会社の常識は世間の非常識と言われるように、会社で当たり前になっている悪い部分を指摘することも、重要な業務の一つです。

・他社の例や新聞・ニュース等の情報の紹介
顧問先から聞いた話では、などとして、他社の例を紹介したり、日頃から日経新聞等を読み情報に接することで、その分野の様々な情報を紹介したりすることができます。

・男女共同参画の視点
自身が女性であるからこそ、このような目線は常に持って、業務に取り組んでいるとのことです。

・分からない言葉はその場で調べる
弁護士の業界では出てこない言葉が多数出てきます。最低限の共通理解は求められる以上、資料を読み込む段階で、その都度意味を調べる必要があります。

⑸ 社外取締役に関する研鑚の積み方

・日弁連eラーニング
「コーポレートガバナンスに関わる弁護士のための連続講座」等、日弁連eラーニングでは無料でかなり質の高い研修を受けることができます。

・コード、ガイドライン、指針
紹介したCGコードに加え、「社外取締役ガイドライン」(日弁連)、「社外取締役の在り方に関する実務指針」(経産省)、「社外取締役向け研修・トレーニング活用の8つのポイント」(経産省)、「社外取締役向けケーススタディ集」(経産省)等、様々なガイドラインや指針が作成され続けています。

3 むすび

本講演会においては、杉原先生にCGコードの概要についてご解説頂いた上で、社外取締役として普段から心掛けていることや、社外取締役に関する研鑚の積み方等をご講演頂きました。
社外取締役をはじめとした社外役員について、令和3年のCGコードの改訂等をきっかけに、今後も弁護士に対する需要の高まりが予測されます。
本講演会は連続講演会となっており、第6回は、令和5年12月5日(火)18時より、桝本美穂先生にご講演頂く予定です(第5回講演会は本稿執筆時点で開催済みです。)。
次回以降も、たくさんの皆様のご参加をお待ちしております。

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あさかぜ基金だより

月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)

九州外の公設事務所に見学に行きました

日弁連は公設事務所の見学のための交通費と宿泊費を援助しています。この制度を使って、紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所に見学にいきました。

紀中ひまわり基金法律事務所

まず、今年の2月に紀中ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
紀中ひまわり基金法律事務所は和歌山県の御坊市にあります。御坊という名前は、もともと日高御坊と呼ばれたお寺があり、そこから付けられた地名だそうです。御坊駅のそばには田園地帯となっていて、市街地は駅からすこし離れた場所にありました。
御坊市には他のひまわり基金法律事務所の所在地にはない映画館があり、栄えている様子でした。
紀中ひまわり基金法律事務所には、毎週のように新規に相談が舞い込んでくるそうで、事件処理が停滞しないようにするのが難しいとのことでした。事件の種類についても、偏りがなく、市民からさまざまな事件の相談がくるそうです。
紀中ひまわり基金法律事務所はとても地域に根づいて信頼されている事務所だと感じました。

中村ひまわり基金法律事務所

次に、8月には中村ひまわり基金法律事務所へ見学に行きました。
中村ひまわり基金法律事務所は、高知県の四万十市にあります。四万十市は高知県の西の端にあるので、九州から近いと思っていましたが、調べてみると高知市を経由し、高知市から特急列車(電車はありません)で2時間かかると知り、かなり交通の便が悪い場所にあるのだなと感じました。
しかし、中村ひまわり基金法律事務所の周辺は生活や業務に必要な施設はすべてそろって居ました。裁判所・市役所・郵便局・法務局・銀行・警察署はすべて徒歩圏内にありますし、事務所の目の前にはスーパーとドラッグストアが並んでいます。四万十までいくのは大変だけれども、生活するには住みやすい場所のようです。
受任事件については、刑事事件と債務整理の事件がそれぞれ4分の1だというのが特徴的とのことでした。地域特有の事件としては、うなぎの稚魚の窃盗事件を受任したことがあるそうで驚きました。
壱岐や対馬の公設事務所に赴任した先輩弁護士から、島では利益相反が多発するから注意が必要であるとの話を聴いていましたので、中村ひまわり基金法律事務所の弁護士にも、利益相反の点について訊いてみました。すると、四万十でも利益相反はよく発生するとのことでした。島ではなく陸続きの場所でも利益相反が多いと聴いてビックリでした。
交通の便が悪いと、陸続きでも離島のような問題が発生してしまうことに思い至りました。

地域に根ざした事務所

紀中ひまわり基金法律事務所と中村ひまわり基金法律事務所のいづれも地域に根ざした事務所として市民から大いに頼りにされた存在なのだと実感できじました。 私も、過疎地に赴任するにあたっては、地域の人たちから頼りにされるよう、しっかり努力したいと決意を固めたのでした。

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刑事法廷内の手錠腰縄問題に関するシンポジウムが開催されました

月報記事

会員 木上 貴裕(73期)

1 はじめに

令和5年8月5日(土)13時より、2023年ローエイシア福岡プレシンポジウム第3弾として、刑事法廷内の手錠腰縄に関するシンポジウムが開催されました。
手錠腰縄問題とは、勾留中の被告人について、裁判官の法廷警察権に基づく指揮の下、手錠・腰縄をされたままの状態で法廷内に連れて来られ、手錠・腰縄が外されるまで、被告人は訴訟関係人だけでなく傍聴人からも、手錠・腰縄が施された状態を見られることになり、被告人における手錠・腰縄姿をみだりに人に見られないという人格的利益が侵害されている、という問題です。
手錠・腰縄姿をみだりに人に見られない利益が、被告人の人格的利益であることは、これまでの判例・裁判例で指摘されていますが(例えば、東京地判平成5年10月4日・判時1491号121ページ、大阪地判平成7年1月30日・判時1535号113ページ、最一小判平成17年11月10日・民衆59巻9号2428ページ)、実際には、被告人の意思に関係なく、手錠・腰縄がされている状態を、訴訟関係人や傍聴人に見られる運用がされています。
そこで、日弁連や全国の弁護士会においてPTが設置され、被疑者・被告人の手錠・腰縄姿が訴訟関係人や傍聴人に見られない状態の実現に向けた取り組みが行われており、その活動の一環として、今回のシンポジウムが開催されました。

2 第1部 基調講演

⑴ 講演の概要について
第1部は、基調講演として、近畿大学法学部教授の辻本典央先生と大阪弁護士会所属の田中俊先生より、ご講演をいただきました。
辻本先生は、日弁連手錠腰縄問題PTや参議院院内学習会などに参画されており、本講演では、「法廷での手錠腰縄姿は当たり前のこと...なのか?法廷への入退出時における手錠腰縄措置の法的検討と制度改善に向けて」と題し、被告人が、手錠腰縄をされた上で刑務官に脇を固められて法廷に入廷する姿が当たり前のことなのかということに関し、被告人としての立場から見つめ直す、すなわち基本的人権の観点から被告人の法的利益に対する侵害の有無及び救済方法についてご講演をいただきました。
田中先生は、日弁連手錠腰縄PTの座長であり手錠腰縄措置により人格権等を侵害されたことを理由とする国家賠償訴訟を複数担当されており、本講演では、「これまで問題となった手錠・腰縄使用事例と弁護士会の活動について」と題し、過去に手錠腰縄の使用が問題となったケースや実際に田中弁護士が実際に担当された国家賠償訴訟、日弁連手錠腰縄問題PTの活動内容等についてご講演をいただきました。

⑵ 大阪地裁判決及び大阪高裁判決について
辻本先生及び田中先生からは、主に大阪地裁令和元年5月27日判決(以下「大阪地裁判決」といいます。)及び大阪高裁令和元年6月14日判決(以下「大阪高裁判決」といいます。)を中心に講演を頂きました。
大阪高裁判決は、「明らかに逃走等のおそれがない場合など手錠等を使用する具体的な必要性を欠く場合にはその使用が許されないというにとどまる。」として、手錠・腰縄等の使用について裁判所の広範な裁量を認めています。
他方、大阪地裁判決は、「個人の尊厳と人格価値の尊重を宣言し、個人の容貌等に関する人格的利益を保障している憲法13条の趣旨に照らし、身柄拘束を受けている被告人は、上記のとおりみだりに容ぼうや姿態を撮影されない権利を有しているというにとどまらず、手錠等を施された姿をみだりに公衆にさらされないとの正当な利益ないし期待を有しており、かかる利益ないし期待についても人格的利益として法的な保護に値する」との見解を示したうえで、「裁判長は、勾留中の被告人を公判期日に出廷させる際には、法廷において傍聴人に手錠等を施された姿を見られたくないとの被告人の利益ないし期待を尊重した法廷警察権の行使をすることが要請され、被告人の身柄確保の責任を負う刑事施設の意向も踏まえつつ、可能な限り傍聴人に被告人の手錠等の施された姿がさらされないような方法をとることが求められているというべきである。」と判示しました。そのうえで、入退廷に際して、手錠等を施された被告人の姿を傍聴人の目に触れさせないようにするため、
①法廷の被告人出入口の扉のすぐ外で手錠等の着脱を行うこととし、手錠等を施さない状態で被告人を入退廷させる方法
②法廷内において被告人出入口の扉付近に衝立等による遮へい措置を行い、その中で手錠等の着脱を行う方法
③法廷内で手錠等を解いた後に傍聴人を入廷させ、傍聴人を退廷させた後に手錠等を施す方法
の3点の具体例を挙げるなど、裁判所に可能な限りの是正措置を要求しました。

⑶ 大阪地裁判決後の状況について
大阪地裁判決後は、画期的な裁判例が出たことに伴い、日弁連から関係省庁に対し、刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める意見書の提出が行われるなど、弁護士会における活動も活発化しました。また、手錠腰縄申し入れ活動に関する新聞記事が出されるなど、弁護士会外における活動も行われるようになりました。
しかしながら、大阪地裁判決が出されたばかりの頃は、裁判所の対応にも変化があったようですが、現在では、弁護士からの申し入れに対して、裁判所が何らかの措置を講じることに難色を示すこともあるようです。

⑷ まとめ
以上の状況を踏まえ、辻本先生及び田中先生から、何よりも刑事事件に携わる弁護士が、裁判所への申し入れを活発化させ、裁判所に働きかけてほしいとの要望がありました。
被告人への手錠及び腰縄の使用に関する申入書については、福岡県弁護士会の会員専用ページの「書式・資料」→「刑事事件」→「手錠・腰縄問題に関するPT」内に書式が用意されておりますので、被疑者・被告人事件を担当される際にぜひご活用ください。

手錠腰縄問題シンポ
3 第2部 ゲストスピーチ

⑴ 第2部では、ゲストスピーチとして、法廷内の身体拘束についての海外報告及や国会報告がされました。

⑵ 海外報告 海外報告では、韓国、マレーシア、バングラデシュ、オーストラリアの弁護士ないし裁判官から、各国における手錠腰縄の運用状況について報告がされました。特に韓国では、法律で公判廷での被告人の身体拘束が原則として禁止されているとの報告がされました。

⑶ 国会報告 国会報告では、福島みずほ議員から、手錠・腰縄問題を立法的に解決するための活動を国会から行うとの報告がされました。

4 第3部 パネルディスカッション・質疑応答

第3部では、パネルディスカッション及び質疑応答として、基調講演をいただいた辻本先生及び田中先生に加え、元福岡高裁総括で弁護士の陶山博生先生及び福岡県弁護士会手錠腰縄PT座長の黒木聖士先生をパネリストに迎えた上、パネルディスカッションのコーディネーターとして福岡県弁護士会手錠腰縄PT副座長の市場輝先生にご担当をいただきました。
ディスカッションでは、福岡における手錠・腰縄措についての現状として、手錠・腰縄の使用に関する申し入れに対して措置を講じる例が1割程度しかないことや、大阪地裁判決が出された当時に比べ裁判所の動きも下火になってきている状態にあるとの問題点が示されました。
そのうえで、根本的な解決として立法的な解決を図ることも必要ではあるが、個々の弁護士が裁判所に申し入れ活動を積極的に行い、成功事例を積み重ねていくことで、立法的解決にも資すると考えるとの意見が示されました。

5 最後に

刑事法廷において、被告人が手錠・腰縄を施された状態で入廷し、裁判関係者及び傍聴人が見ることができる状態で手錠・腰縄を外すという光景が当たり前だと思っている弁護士も一定数いるのではないかと思います。かくいう私も、手錠・腰縄PTに加入させていただくまでは、当たり前の光景だと思っていました。
裁判官が、手錠・腰縄使用に関する申し入れに対し措置を講じる例が少ないのも、措置を講じることが特別なことだと考えているからではないでしょうか。現在は、手錠・腰縄使用に関する申し入れを行う件数が少なく、裁判官も特異な例だと考えているのだと思います。そのため、刑事事件に携わる弁護士が積極的に申し入れを行うことで、裁判官にも手錠・腰縄を使用することが当たり前ではないと認識させていくことが、手錠・腰縄問題を解決する近道だと考えます。
皆様も、刑事事件に携わる際には、是非、手錠・腰縄の使用に関する申し入れを実践してみてください。

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ローエイシアの報告

月報記事

会員 杦本 信也(61期)

1 9月2日から4日まで、福岡県弁護士会館で、ローエイシア福岡人権大会が開催されました。シンポジウム「アジア地域の死刑廃止に向けた弁護士および弁護士会の役割」に参加しましたので報告します。発言は全て英語でしたので、私は同時通訳で聞きました。

2 シンポジウムでは、マレーシア、オーストラリア、日本及びインドの弁護士がパネリストを務めました。最初に、各国の死刑制度の現状や、死刑廃止を求める活動の状況について話がありました。

⑴ マレーシアでは、かつて総選挙で政党が変わった際、政府が死刑廃止の政策を打ち出し、死刑の執行を停止しました。でも、国内で死刑存置を求める人が多く、宗教団体、被害者団体が死刑存置を求めたため、死刑廃止には至っていません。ただ、今年4月に、重大犯罪で有罪が確定した場合に裁判所が裁量の余地なく死刑判決を行う「強制死刑」制度を廃止する法案と、同法が適用され確定した判決について連邦裁判所に見直す権限を付与する法案が可決されました。今後1300人を超える死刑囚が、再判決を受ける予定とのことです。
マレーシア弁護士会は、1985年以降、5回にわたり死刑廃止を求める決議を行い、政府の死刑廃止検討会議にも参加しています。その他、重度の精神病の人の死刑執行を停止させ終身刑に減刑させる活動を行ったり、シンガポール政府に対してマレーシア国民に死刑を執行しないように求める活動を行ったということです。

⑵ オーストラリアは、死刑が廃止されています。パネリストは、死刑制度の歴史について次のように説明しました。80年くらい前は、世界のほとんどの国で死刑が執行されていた。現在、死刑存置国は20~30か国しかない。死刑廃止は実現可能であり、実際に多くの国が廃止してきた。文化、政治制度、宗教の違いを超えて、人々が国による殺人を拒否している。歴史は死刑廃止に向かっている。
他の話としては、ほとんどの死刑執行国では死刑が秘密にされている、死刑の正当性の根拠は犯罪抑止とされているのに、秘密があるのは矛盾している、という話が印象に残りました。

⑶ インドでは、死刑事件に対する弁護の質が低く、弁護士の能力も低いことが問題という話でした。刑事裁判を受ける人は、ほとんどが必要な教育を受けておらず、経済的に脆弱であり、実質的に裁判に参加できていない。捜査機関の取調べの弁護士の立会いも認められていない。無罪推定原則が実現されていない。裁判所が、捜査機関の証拠ねつ造を指摘して死刑囚に対して無罪判決を出した事件もあったということです。

⑷ 日本のパネリストは、刑場のイラストを用いて、死刑執行の現状について説明し、医師が死亡確認のために待機するようなシステムは残虐であるという話をしていました。日弁連の活動については、日本では国民の80%が死刑存置もやむを得ないと考えているため、代替刑を提案する必要がある。仮釈放のない終身刑、ただし裁判所により無期懲役への変更が可能な制度を提案している。国会議員100名に会い、この提案を説明した。日弁連は、仏教団体やキリスト教の団体に働きかけており、EU、イギリスやオーストラリアと連携して死刑廃止を求めているという話をしていました。

3 質疑応答では、まず、戦略として死刑廃止を求めるのか執行停止を求めるのか、また、死刑を廃止するための活動に弁護士がどのように関与するのかという質問が出ました。
マレーシアのパネリストは、死刑廃止を働きかけるとき、なぜ死刑が廃止されるべきか理解させることが必要である。一般的に、死刑には犯罪抑止効果があるといわれているが、死刑執行が続いても薬物犯罪は減っていない。国会議員や大臣にデータを提供し、死刑がふさわしくないことを説得する必要があると話していました。インドでは、絞首刑は死刑囚を苦しめるので、死刑囚の苦しみを緩和するべきと主張している、もっと広い観点から議論する必要があると話していました。日本からも、絞首刑の残虐さを争う民事訴訟が提起され、各県の弁護士会が国会議員に働きかけているいることが報告されていました。
弁護士の関与については、オーストラリアのパネリストが、弁護士としての援助は裁判所の中に限定されない、弁護士が事実を語る役割を果たすことが必要であると話していました。

4 最後に、現代では100人以上が亡くなるテロ事件が起きるなど、犯罪の性質が変わってきているが、死刑は廃止できるのかという質問が出されました。ここは印象に残った話を箇条書きします。
・ 国際的にも重罪と考えられるもの、戦争犯罪やジェノサイドがある。司法制度が対応できていない。社会が前進するためには、どうすればよいか。罪を犯した人に対して復讐するのか、更生を図るのか。原則に立ち返ると人権がある。
・ 殺人のない世界に住みたい、だからといって死刑が必要というわけではない。世界を見ても、死刑があるから犯罪がなくなったというケースはない。死刑は社会を安全にするものではない。特定の人に責任を負わせても、それだけでは終わらない。死刑は短絡的な制度である。
・ 第二次世界大戦後の大きな流れとしては、国際社会は、個人の尊厳、人権を守る方向にある。圧政やひどい戦争を経験した国は、死刑を廃止している。暴力からの脱却、残虐性を用いない方法で解決する必要がある。社会復帰や回復は簡単ではない。国により状況が異なる。どう変わっていくか考えていく必要がある。
・ 残虐な事件が起これば被害者について報道される。一般の人は死刑があってもよいと強く感じる。でも、日本では、最近は話し合いの機会を作ることが行われている。被害者側の遺族にも対話を求める人がおり、報道されるようになっている。そういう活動を重ねていくうちに、時間がかかるとしても、社会は変わっていくはずである。

5 シンポジウムの報告は以上です。国際会議というと敷居が高い感じがして、最初は参加することに不安がありました。でも、異なる文化圏でも人権尊重という共通の基盤があります。言葉の壁も、同時通訳さんと、英語を話せる人に助けていただき、乗り切れました。運営スタッフも当会会員で知っている人でしたので安心しました。勇気を出して参加してよかったです。

ローエイシアの写真
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