福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2023年10月号 月報

中小企業の日一斉シンポジウム 「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」聴講レポート

月報記事

会員 松下 拓也(69期)

1 はじめに

7月20日、「中小企業の日」の記念イベントとして、福岡市天神のエルガーラホールにて無料セミナーおよび無料相談会が開催されました。
セミナーの今年のテーマは、「老舗を救った学生の熱意 大廃業時代における事業承継の新たな形」です。
今回、セミナーの講師を務めてくださった林田茉優さんは、福岡大学経済学部に在学中「ベンチャー企業論」というゼミで後継者問題に興味を持ち、休業状態であった創業130年超の老舗「吉開のかまぼこ」の再建活動に携わった方です。そして、卒業後、24歳にして、同社代表取締役に就任し、見事再建を成し遂げた、凄腕の経営者です。
テーマに「学生」とあるとおり、今回は現職の経営者にとどまらず、スタートアップを検討している大学生など若い芽もターゲットに見据え、地元の大学にも広報を広げさせていただきました。広報活動の成果か、当日は会場参加者50名、Zoom参加者31名と大盛況でした。

中小企業支援センター  講演風景(林田様〜全体の様子)
2 セミナー

林田さんがゼミで後継者問題に興味を持ったのは岡野工業の岡野社長との出会いからでした。同社は「痛くない注射針」を開発した高い技術力を持った企業でしたが、後継者不在を理由に、廃業せざるを得ませんでした。岡野社長に何度も手紙を送り、面談を実現し、粘り強く再建の道を提案したのですが、残念ながら再建には至らなかったそうです。
この悔しい経験を経て、林田さんは、本格的に後継者不足による廃業問題に取り組むこととし、日本M&A推進財団を通じて「吉開のかまぼこ」の紹介を受けます。
林田さんは、同社の事業承継実現のため、多数の会社への地道な電話がけ、メディアを使った発信、遠方のみやま市まで足を運んでの先代との打合せ、学生達自身でかまぼこを作り試食してその魅力を発信するなど尽力しました。しかし、承継会社が見つからない、漸く見つかっても双方のうまく条件が折り合わない、先代が事業承継を前にマリッジブルーに陥る、工場の移転先が見つからない、工場の騒音について周辺住民から反対の声が上がるなど様々な壁に何度もぶちあたります。その度、林田さんのゼミの学生達はその壁を乗り越えていきました。
こうして、林田さんは3年に渡り、吉開のかまぼこを支援し、その中で先代の熱意、吉開のかまぼこにしかない魅力、そして復活を願うたくさんの地元の人々の存在に触れてきました。そして、先代からの熱い信頼を受け、林田さんは自らが後継者となる道を選んだのです。
承継後、林田さんは、素人(消費者)目線でのリブランディングが自己の使命だと考え、原材料へのこだわりはもちろんのこと、ロゴやECサイトの再構築のほか、クラウドファンディングやオンラインショップ、メルマガやSNSの利用など様々なツールを用いて積極的な販売・広報活動を繰り広げました。そうした結果、事業の存続を果たすことが出来たのです。
林田さんが実際に様々な社長にお会いした感覚としては、後継者に引き継ぐことを考える方よりも、生涯現役という思いを持った方が多いようです。
私自身、会社の経営に関する相談を何度か受けたことはありますが、現社長が高齢であっても後継者のことや事業承継のことをあまり考えていないというケースは多々見受けられました。
確かに、いつまでも現役でありたいと思うことは大変すばらしいことなのですが、万が一の備えを全くしなかった場合、遺されたものに混乱が生じ、最悪の場合、黒字にもかかわらず、そして世に求められている事業であるにもかかわらず、会社を畳まざるをえないということになりかねません。そういった方に事業承継の重要性をどのように説いていくかという点が課題であると感じました。

中小企業法律支援センター  講演風景(林田様〜講師アップ)
3 パネルディスカッション

後半は、若狭先生、鬼塚先生、両角先生を交えたパネルディスカッションが行われました。負債を抱えた企業における事業承継のありかた、経営者保証ガイドラインの活用、NDAなど、事業承継のいかなる場面において弁護士が手助けできるかという点について活発な議論が交わされておりました。

4 終わりに

私自身、直接的な相談ではないにせよ、紛争の根底には事業の後継者問題も絡んでいると思われる事案に何度か遭遇したことがあります。今回のセミナーは、適切な事業承継を考える良い機会となりました。
また、事業承継の一つのパターンとして、大学生など若手起業家による創業支援と上手くマッチングさせることで相乗効果を産むことが出来るのではないか、今回のセミナーは事業承継の新たな可能性を示唆する非常に興味深い内容でした。

中小企業法律支援センター  パネルディスカッション
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