福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2023年8月号 月報
弁護士会と調停協会の懇談会 ~アフターコロナの調停実務と面会交流
月報記事
会員 辻 陽加里(64期)
1 はじめに~3年半ぶりの開催!~
令和5年6月29日、弁護士会と調停協会の懇談会が約3年半ぶりに開催されました。本懇談会は、調停委員と弁護士が、家事調停の実情について認識を共有し、それぞれの立場での思いや悩みについて語り合い、相互に信頼関係を深めるための機会として開催されました。
議題は、①新型コロナウィルス流行後に急速に普及したウェブ調停と②面会交流の調整を行う調停事件の運営の2点です。
本懇談会に先だって、調停委員と弁護士双方に議題に関するアンケート調査が実施されました。
2 ウェブ調停について
⑴ ウェブ調停の普及
ウェブ会議方式による調停は今や一般的となりました。福岡家庭裁判所でも、これまで850件以上のウェブ調停が実施されたとのことです。アンケート結果によれば、回答した調停委員41名中38名がウェブ調停の経験があると回答しました。
⑵ 利用の感想
ウェブ調停を利用した感想として、登壇した調停委員と弁護士双方から、電話調停に比してコミュニケーションが格段に取りやすく、利用者(調停の当事者)と信頼関係を築きやすいという共通の意見が出されました。
調停委員からは、「画面で利用者の表情が見えるように画面の設定を工夫している。」、「身振り・手振りや相槌を大切にしている。」との発言があり、利用者が納得して調停を進められるよう試行錯誤しているとのことでした。
⑶ ウェブ調停のメリット
調停委員と弁護士の双方から、事件の種類を問わずウェブ調停を利用するメリットがあるとの認識が示され、具体的なメリットについては、感染症の感染が防止できること、利用者の利便性が高く、特に遠隔地の方や育児介護中の方は大幅な負担軽減となること、仕事がある方は半休の取得で済むことが挙げられました。また、登壇した調停委員から、DV事案については、出頭の場合が完全に防ぐことが難しい利用者同士の接触を防止できるとの大きなメリットが指摘されました。登壇した弁護士からは、当事者の意向を尊重すること、事案をより正確に伝えたい場合などに出頭するとの発言がされました。
アンケート結果によれば、弁護士の立場から出頭に積極的な意見もあり、これについて登壇した調停委員からは、「出頭してもらえば、より当事者を身近に感じ、当事者の置かれた状況や熱意が伝わる。」、「来ていただけるとありがたいという気持ちになる。」との発言がありました。
⑷ ウェブ調停の課題
ウェブ調停の課題については、調停委員から、裁判所にウェブ会議の体制が3台分しかなく、期日の間隔が空いてしまうことが、弁護士からは、事務所のレイアウト等の問題で、調停の秘匿性の確保の問題が生じうることが指摘されました。
3 面会交流の調整を要する事案について
⑴ 「新たな運営モデル」の導入
まず調停委員から、福岡家庭裁判所における面会交流の調整を要する調停は、東京家庭裁判所で策定された運用モデル(「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家庭の法と裁判2020年6月号)を基本に運営されていること、この「新たな運営モデル」が弁護士に浸透していないこと(アンケート結果によれば回答した弁護士の45名/66名が「知らない」と回答)。が述べられました。
この「新たな運用モデル」は、従来の原則実施論的な調停運営から転換を図るもので、①当事者の主張・背景事情の把握、②課題の把握と当事者との共有、③課題解決のための働きかけ、調整、④働きかけ・調整の結果の分析評価などのサイクルを繰り返し検討し、種々の利益を調整しながら子の福祉を実現するモデルであることが説明されました。従来の進行では、面会交流が監護親に与える負担やストレスについての理解が乏しかったとの反省が率直に述べられました。
このモデルの導入に当たっても、調停委員からは、「モデルを理解しても、実際にその理念を実現することは簡単でない。」「面会交流の実施を禁止し制限する事情が無ければ、面会交流の実施が子の福祉に適うとの前提で、面会交流を実施する方向で話し合いを進めることになり、利用者からすれば原則実施論で進行しているように受け止められることがある。」などの苦労が語られました。
⑵ 高葛藤な事案への対応
特に未成年者が幼い場合、調整事項が多くなりますが、両親間の葛藤が高い場合、話し合いで円滑に進めるのは至難の業です。
調停委員からは、話し合いの視点を夫婦間の紛争から「子の福祉」に向けさせ、子の視点から建設的な話し合いができるように促しているとのことでした。
弁護士からは、監護親の視点から、面会交流の実施が困難になっている事情を詳しく聞取り、実施条件を工夫していること、また、非監護親の視点からは、面会交流を実施することを前提に、面会交流の実施によって子どもにメリットがある方法を提案して監護親に受け入れやすくするという工夫が紹介されました。
⑶ オンラインによる面会交流
新型コロナウィルスの流行後に、オンラインでの面会交流を実施する例が増えているようです。
弁護士からは、非監護親の視点から、非監護親が希望するのは対面での面会交流であって、対面の面会交流へのステップとして利用するイメージを持っていること、特に子どもが小さい場合には、オンラインであっても子の著しい成長を確認できるというメリットがあるとの発言がされました。また、非監護親が離島に住んでいた事案での利用例が紹介されました。その他に、子が非監護親と連絡先を交換することで、非監護親から居場所を把握されたり、頻繁に連絡が来たりするのではないかと不安に思うなどオンライン特有の悩みが生じた事案が紹介され、子の意向を丁寧に組む必要性も指摘されました。
調停委員からは、オンライン面会を条項化するに当たっては、子どもの年齢や、子と別居親の生活リズムなどを考慮しているとの発言がありました。
⑷ その他
パネルディスカッションでのその他の発言を簡単に紹介します。
・調査官調査の活用について
(調停委員から)「非監護親から、子の成長の様子や現在の監護状況、子の心情を確認して欲しいという要望があり、監護親に尋ねても、非監護親に対する誹謗中傷に終始し実態が分かりにくい場合は、早期に調査官調査を行っている。代理人からも調査官調査を希望する意見を貰うことはありがたい。」
・主張書面の活用について
(調停委員から)「弁護士がついている場合、主張を明確するに目的で、主張書面や資料の提出をお願いしている。弁護士の場合は求めた意図を汲んだ書面が提出されるため、調停の効率化に繋がっている。夫婦喧嘩の内容など細かい事実を書面化し、それに反論するなど、葛藤を助長するような議論を書面で行うことは求めていない。利用者のみで調停を行う場合は、必ずしも求めた内容の書面が提出されないことが多く、主張書面の提出は求めていない。」
・将来的な子どもへの影響
(調停委員から)「子どもに関する追跡調査などはないのか。」
(弁護士から)「経験談ではあるが、非監護親の代理人として活動した事案で、当時未成年者だった男性と彼が成人した後に話す機会があった。男性は、『両親が言い争うのを見るのがすごく辛かった。一時は自分が父に会わない方が良いとすら思っていた。しかし、両親がお互いに男性の為に頑張って面会交流に協力してくれたことがとても嬉しかった。今ではとても感謝している。』と話してくれた。反対のケースもあると思う。」
4 最後に
本懇談会を通じて、調停委員の方々が、利用者双方の話を公平に聞こうしていること、利用者の納得を一番に考えていることが伝わり、調停委員への信頼感が増しました。
また、「新たな運用モデル」は調停委員と監護親、非監護親、それぞれの代理人弁護士が協働して初めてその理念が実現できるモデルであると私は理解しました。ただ、対立する当事者が協働することは経験上簡単ではありません。その難題を弁護士と調停委員でどうにか紐解いていくためにも、本懇談会は今後も継続されて欲しいと思います。