福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2023年7月号 月報

あさかぜ基金だより あさかぜ基金法律事務所は本当に必要なのか

月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 社員弁護士 藤田 大輝(74期)

「司法過疎問題は解消した」?

「九州沖縄の各県の弁護士会で構成される九州弁護士会連合会(九弁連)は、その管内の弁護士過疎地に派遣する弁護士を養成するために基金を作り、その基金から資金を拠出して、平成20年9月、福岡市に当事務所を設立しました」。あさかぜ事務所のホームページに記載されている文章です。あさかぜ事務所は、この9月に設立15周年を迎えます。
この15年のあいだ、多くの先輩弁護士たちが司法過疎地に旅立ち、司法過疎問題の解消に取り組んできました。現在も、あさかぜ事務所に所属する私たちは司法過疎地への赴任に向けて奮闘しています。

先輩!ちょっと教えてください!

藤田
「実は最近、『司法過疎問題は解消したらしい』という噂を聞きました。司法過疎問題が解消しているのなら、九弁連として司法過疎対策を続ける必要ってあるんでしょうか」

先輩
「君は修行が足りないね。ひまわり基金法律事務所は、全国には31ヶ所、九弁連の管内にはまだ3つあるんだよ。ひまわり事務所は、2年か3年の任期で赴任して、希望すれば、その事務所を自分の事務所として残ることもできる。こうして赴任地で自分の事務所として残ることを『定着』というんだけど、定着したくなければ、後任を確保して交代することもできる。こういうシステムは理解しているよね」

藤田
「はい」

先輩
「こうしたシステムだと、まだ定着していないひまわり事務所が九弁連管内に3つあるからには、そこの弁護士が定着したくなかったら、後任が赴任しないといけないでしょう。それに、定着したはずの弁護士がいろんな事情で事務所を畳んだら、代わりの誰かが司法過疎地に行かないと、またまたゼロワン地域になってしまうじゃないの。司法過疎問題ってのは、いったん解消すれば、それで終わりというのではなくて、ずっと取り組み続けないといけないんだよ」

藤田
「確かにそうですね」

先輩
「ほかにも、弁護士自治とか、弁護士法による法律事務の独占が崩されてしまう危険もあるんだよ。何より、司法過疎地で弁護士を待っている人々がいるじゃないの。君は、あさかぜ事務所は必要だと本気で思っているのかな?」

三池港は味があって、なんか好き

3月30日午前8時55分、三池港発島原港行フェリーに乗り込み、島原中央ひまわり基金法律事務所(現・島原中央総合法律事務所)の定着式に参加してきました。あさかぜ事務所OBでもある河野哲志弁護士が、島原に定着すると決断されたとのことでした。その決断がどれだけ勇気が必要なことだったのか、私にはとても想像できませんが、決意を聞いて身震いする思いでした。 また、5月29日には対馬ひまわり基金法律事務所の引継式がありました。任期を終えられた前任の安河内弁護士は本当にお疲れさまでした。後任の佐古井弁護士にちょっと電話してみましょう。

藤田
「引継ぎおめでとうございます。どんなお気持ちですか」

佐古井
「不安ですよ」

藤田
「そりゃそうでしょうね」

先ほどの「あさかぜ事務所は必要だと思うかね?」という質問に対し、適切に答える言葉を私はまだ持ちあわせません。ただ、現実に司法過疎地があって、いま現在なんとかなっている地域も「使命感」と「不安」と「やりがい」とをごちゃまぜにして踏ん張っている先輩弁護士たちのおかげで「なんとかなっている」のだと思います。そして、私は、そうして踏ん張っている先輩弁護士たちを「カッコイイな」と思います。だから私も、司法過疎地に赴任してがんばってみようと思います。

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