福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2023年7月号 月報

研修「女性が苦しむ5つの問題をめぐって」から見えてきたコロナ禍(下)の真実

月報記事

自死問題対策委員会 委員 野中 嵩之(73期)

1 研修概要

令和5年3月26日、自死問題対策委員会主催「女性が苦しむ5つの問題をめぐって」研修を福岡県弁護士会会館(ZOOM併用)にて実施しましたのでご報告いたします。
本研修は二部構成で行い、前半は、元厚生労働省事務次官で現在は津田塾大学客員教授である村木厚子さんに「女性の抱える困難を考える」と題して女性を取り巻く問題をテーマに幅広く基調講演を行ってもらいました。後半では、村木さんを含め、福岡県労働組合総連合元事務局次長の小川マリ子さん、西日本新聞社編集委員の下崎千加さんにもご参加いただき、当員会の委員である井下顕弁護士がコーディネーターとなって、パネルディスカッションを実施し、本研修のテーマについてより深掘りするという内容でした。
本研修では、前半・後半とも、幅広いご講演及び議論がなされ、本報告ではすべてを取り上げることは難しいため、印象に残った部分に絞らせていただきます。

2 (前半)基調講演・「女性の抱える困難を考える」

⑴ 村木さんは、厚生労働省時代のご経験をもとに、統計データからわかる女性問題について、いくつかご紹介されていました。
たとえば、①先進諸国を比較すると、女性就業率が高い国ほど出生率が高いというデータ(日本や韓国は先進各国と比べるとともに低い)、②夫が休日において家事・育児に割く時間が長いほど第2子以上の出生割合が高いというデータ、③無償労働(家事)の占める時間が日本や韓国の女性は男性と比べて約5倍ほどであり先進諸国と比べて突出しているというデータが紹介されました。
これらの統計データの1つの解釈として、出生率が低い日本や韓国では、女性が社会で就業する環境が十分とは言えず(①)、反面、男性の家事への協力も不十分(②③)ということを導くことができると考えます。
すなわち、少子高齢化に悩む日本において、我々男性にできる身近なことは、家事や育児への協力を本気になって実行していくということであると、実感することができました。

⑵ また、村木さんの講演を通じて、コロナ禍で女性や子供の自殺者数が増加したという問題を考えることは、従来からも問題となっていた男性の自殺者数を抑えるためにはどうすればいいかと考えることにもつながると感じました。
まず、研修において、女性や子供の自殺者数について、統計データからも、コロナ禍において増加していることが明らかとされました。
他方、毎年の自殺者数は男性の方が高いというデータや、悩みを相談できる友人の数は男性だと年代が上がるにつれていないと回答する割合が高くなるとのデータを通じて、男性も決して幸せとは言い切れない現実を浮き彫りにしていただきました。

⑶ そして、村木さんも参加される市民活動「若草プロジェクト」を通じて、相談すること自体、非常に難しいという現実が見えてきたと紹介いただきました。
たとえば、実際の生の声として、相談所とは怒られる場所、というイメージを持たれている方もいるという話には驚かされました。

3 (後半)パネルディスカッション

個人的に印象に残った議題は、「コロナ禍で女性や子供の自殺者が増加している。自殺者増加の背景と、どのような対策が必要か。」です。

⑴ まず、背景としては、①女性や子供の経済面の弱さ、②逃げ場がない状況があげられました。
①経済面の弱さについては、小川さんからは、「自分に価値がないと考える女性、自己否定をする女性。主婦で言うと、働いていないので、経済的に価値がないと思う方が多いのではないだろうか」とご指摘をいただきました。
②逃げ場のなさについては、下崎さんからは、「家を切り盛りして一人前だといわれる。学校が休校になって、3食作って、逃げ場がなくなった末ではないかと思う」とご指摘をいただきました。そして、村木さんからは、DVや児童虐待に携わるスタッフは以前から気づいていたであろうが、コロナ禍で一層家庭問題が浮き彫りとなり、誰にも言えない、自分の責任だと抱えてしまい精神的にも逃げ場がなくなるという背景があるのではないかとご指摘をいただきました。

⑵ 対策として、①経済的な弱さについては、生活保護のみならず、生活支援制度など、もっと活用しやすい制度を知り使ってもらうことがあがりました。
また、②逃げ場がないことについては、村木さんからは、早く、外に相談して切り抜けてほしいこと、誰かに、声を出して言っていいことを、本気で伝えないといけないのではないかとのご提案をいただいております。

4 おわりに

今回の研修で、データ、そして現場の最前線で活躍される方々から、女性を取り巻く問題について、地に足のついた内容を学ぶことができました。また、執筆者としても、男性の立場から、女性問題や自殺者数増加に立ち向かうには、男性の協力も不可欠であると改めて実感しました。
他方、パネルディスカッションでは、男性は外で仕事をして女性は家事・育児という価値観と、現代の男女共同の価値観とが混在する時代であるという指摘もありました。自らの親、祖父母世代と現代の狭間にいる執筆者としても、無意識のうちに当たり前の中に見直すべき部分があるのではないかとの視点が大切ではないかと思います。また、女性や子供のしわ寄せについて本気で取り組んでいくことが男性、ひいては日本社会全体の居心地の良さにもつながるという感覚を、本研修では持つことができたと感じる次第です。

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