福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2023年7月号 月報
シンポジウム「いらんっちゃない?校則」
月報記事
会員 吉田 幹生(67期)
1 はじめに
去る令和5年5月28日(日)、福岡県弁護士会館におきまして、シンポジウム「いらんっちゃない?校則」行われましたので、その概要をご報告致します。
2 基調講演
名古屋大学大学院教授の内田良さんから、「教育という病 学校は子どもをまもっているか」というテーマで基調講演を行っていただきました。
まず、内田さんから、校則だけではなく、学校における様々な問題について紹介がされ、リスクは無限だが、リソースは有限であるといった説明がなされました。特に、柔道や組み体操に関して、事故の件数が多いことや組み体操については、問題提起し、対策をとった結果、負傷事故が大幅に減少したといった報告がなされました。
その後、校則については、保護者の関心が少ないといった点が報告され、1980年代から現在に至るまでの校則に関する流れが説明されました。特に、2000年代以降、生徒はおとなしくなったものの、厳しく細かな校則が継続・拡大した理由として、学校が管理を手放すことの恐れや学校外の保護者や地域住民などの発言力が高まり、教師の権威が低下したこと、生徒のあらゆる側面が、内申書を通じて評価されるといった点が説明されました。特に、内田さんは、厳しい校則が続く理由として、地域住民が学校外での生徒の行動に関しても学校の管理を求めるといった「学校依存社会」となっているといった指摘がされました。
また、学校現場の問題点として、警察の介入を求めることを教育の放棄としており、学校内で問題を抱え込み、更に問題が悪化するといった点が指摘されました。
上記の点から、内田さんから、学校だけでなく、専門家や地域社会が一緒に子どもを見守ることが必要ではないかという指摘がありました。
さらに、内田さんから、全国の学校には「隣の教室に入ってはならない」「ジャンパーは着てはならない」といった明文化されていないルールが存在するといった紹介がされました。他方で、校則がない学校や制服がない学校(長野県の高校の私服率は50%とのことです。)の紹介もされ、そういった学校が荒れているという実態がないといった紹介がされました。そして、内田さんから、校則の本質はルールを作って叱るための仕組みであると説明されました。
3 校則見直しに関する意見書についての報告
当会の佐川民さんから、5月26日に当会の定期総会で採択された「校則の見直しに関する意見書」に関する説明が行われました。
まず、佐川さんから、当会の学校問題に関する取り組みについて説明が行われ、特に、校則との関係では、2020年に当会で採択した意見書について説明が行われました。
つぎに、福岡市立中学校での校則見直しの状況に関して説明がなされ、具体的には、男女による規制の撤廃や衣替えの時期の指定の廃止、ポニーテール・ツーブロックの自由化、下着の単色指定の廃止が行われ、校則に関しても見直しが行われたとのことでした。もっとも、見直された校則を確認すると、靴下や靴、下着を複数の色から選択できるようになったが、色や柄の指定があったり、眉毛を整えてはならないとの規定があるなど、現状の校則の内容を前提として、選択肢を増やすという方向になっており、実際の生徒指導は以前と変わらないのではないかとの指摘がありました。そして、問題の背景として、学校現場での子どもの権利についての理解不足や校則が子どもの人権を制限するとの認識不足が考えられるとのことです。
そして、上述の「校則の見直しに関する意見書」の具体的な中身について、説明が行われました。今回の校則の見直しに関する報告書では、①合意的な理由のない校則は直ちに廃止し、校則の必要性について根本から検討すべきである、②学校において、校則の制定・改廃手続を明確に制定すべきで、校則の制定・改廃手続は、生徒が主体的に関与できるものとすべきである、③校則を検討するために、教職員・生徒・保護者が子どもの権利を学び理解することが必要で、学校は、子どもの権利を学ぶ機会を提供すべきであるとされています。意見書の内容について、詳しくは、弁護士会のHPを参照ください。
4 パネルディスカッション
上述の内田さん、佐川さんに加え、春日市立春日西中学校の校長の大津圭介さん、不登校生の保護者の会の「ぼちぼちの会」の代表の志賀美代子さんがパネリストとなり、コーディネーターの当会の栁優香さんが中心となって、パネルディスカッションを行いました。
まず、大津さんから、大津さんが以前勤務していた春日南中学校での校則改定の取り組みについて、報告が行われました。具体的には、校則見直しに向けて教師間で確認事項を共有し、生徒と共に校則改定を行っていく過程を説明していただきました。そして、校則改定の過程やその後を経験して、校則を変える前に心配していたことは取り越し苦労であったことなどが報告されました。
つぎに、志賀さんから、不登校生の保護者の会の活動や校則と不登校との関係について、報告がありました。志賀さんからは、校則は地域によっても考え方が異なり、福岡に転校してきて、校則の厳しさにショックを受け、不登校になった例もあることなどの報告がありました。
そして、各パネリストでディスカッションを行いました。特に、パネリストからは、教師よりも生徒の方が保守的であることや校則を変えることにより、生徒よりも教師の方が変わったといった発言がありました。
その後、質疑応答を行い、参加者から、多数の質問があり、参加者が意欲的に参加していたことが確認できました。
5 終わりに
今回のシンポジウム参加者数は、会場参加が約50名、オンラインでの参加が約110名の合計約160名であり、校則に対する関心の高さが伺えました。
今後の校則のあり方について、考える良いきっかけになるとともに、校則の見直しに向かっていければいいと思います。