福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2023年7月号 月報

精神保健当番弁護士30周年記念公開シンポジウム STOP!強制入院~「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議の紹介と実現に向けた取り組みを考える」~・ご報告

月報記事

精神保健委員会会員 近藤 健司(73期)

1 はじめに

令和5年5月20日、当会会館において、精神保健当番弁護士30周年記念公開シンポジウム STOP!強制入院 ~「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議の紹介と実現に向けた取り組みを考える」が開催されましたので、ご報告いたします。
本シンポジウムは、精神保健当番弁護士制度が設立から30周年となったことを記念するとともに、2021年10月14日開催の日弁連人権擁護大会にて「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」が採択されたことを受け、その内容を改めて確認し、その実現について考える場を設けることを目的として開催されました。
当日は、会場では30名ほどの方、webでは80名ほどの方にご参加いただきました。

2 パネリストのご紹介

本シンポジウムでは、当会会員の八尋光秀弁護士をコーディネイターとして、パネリストとして認定NPO法人大阪精神医療人権センター副代表の山本深雪さん、一般社団法人福岡県精神保健福祉士協議会前会長である大山和宏さん、多摩あおば病院の医師である中島直さん、日弁連高齢者障害者権利擁護センター精神障害のある人の強制入院廃止及び尊厳確立実現本部長代行の池原毅和弁護士、精神保健当番弁護士の登録弁護士として活動している田瀬憲夫弁護士にご登壇いただきました。

3 シンポジウムのプログラム

式の開始は、当会会長である大神昌憲会長からご挨拶を賜り、その後のプログラムについては、以下のとおり進行しました。

⑴ 基調講演
基調講演では、池原毅和弁護士から、人権大会決議の内容とロードマップの具体的な内容についてご説明いただきました。日弁連決議が出されることとなった背景を、強制入院の被害実態調査の内容や、ハンセン病患者隔離政策の反省、障害者権利条約の内容なども交えて詳細にお話しいただきました。また、ロードマップの内容については、短期工程、中期工程、最終段階の各工程についてそれらの具体的な内容をビジュアルを用いて明瞭にご解説いただきました。

⑵ 基調報告
精神保健当番弁護士として活動している田瀬憲夫会員から、制度発足当初の1993年から2021年までの歩みについて精神保健当番弁護士名簿の登録弁護士数の推移、法律相談活動の件数の推移、審査請求代理人活動件数の推移のデータを踏まえて報告がされました。

⑶ パネルディスカッション
基調報告後には、パネルディスカッションが行われました。まず、当事者である山本深雪さんから、自身の鬱病に苦しんだ経験や、大和川病院事件でのご経験等をお話いただくとともに、地域移行の実現のためにピアサポーターや地域生活相談支援員等による相談のチャンネルの確保に予算を振り分けることや、普段の生活や環境から一時的に離れて心を落ち着けて暮らせるような場所を提供する等といった当事者に寄り添った形での医療制度改革を進めてほしいとのご意見をいただきました。
また、大山和宏さんからは、自身が代表理事をしている一般社団法人えのき舎での取り組みやその理念、社会的リハビリテーションの内容、障害福祉サービス事業所の現在の事業所数などの障害福祉サービスを取り巻く現状についてご説明いただいたうえで、精神保健福祉士としてサポート続けてきたお立場から現状の決議案に関して問題提起をいただきました。
次に、医師である中島直さんからは、日弁連決議は各工程の目標を達成するための手段が不明確であり、実際に強制入院を廃止した場合の想定が不十分であると感じられたこと、日本の長期任意入院が多すぎるという問題点について指摘が認められないことなど、様々な角度からの鋭いご指摘をいただきました。
当日は、出席者からの質問も募集しており、実際に福岡県内外で精神保健当番弁護士として活動している弁護士の方や、精神科医療を受けておられる当事者の方、その関係者の方、支援者の方などから様々なご質問をいただきました。いずれの質問も、実際に精神医療を取り巻く環境下に置かれている方々の生のご意見やお悩みであり、重要な内容を含むものばかりでした。

4 終わりに

日弁連決議につき、弁護士のみが集まって検討することだけでは見えてこなかったものが、異なる立場に立つパネリストからの意見によって可視化できたものと思います。どのような環境にしていくべきなのか、その手段をどうしていくべきなのかを考えるといったことについて、非常に示唆に富んだシンポジウムだったと感じました。
最後に、ご尽力いただいた登壇者の方々やシンポジウムの開催にご協力いただいた方々に、この場を借りて御礼申し上げます。

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