福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2023年5月号 月報

「改正プロバイダ責任制限法弁護士実務の変更点」研修講演開催のご報告

月報記事

会員 南正覚 優太(74期)

1 はじめに

令和5年3月7日(火)、福岡県弁護士会館及びZoomウェビナーにて、東京弁護士会の清水陽平先生による「改正プロバイダ責任制限法弁護士実務の変更点」研修講演が開催されました。
清水陽平先生は、ネット中傷の削除や発信者情報開示といったインターネットの分野で、多くの実績を有する方であり、具体的には、TwitterやFacebookへの発信者情報開示を日本で初めて成功させた先生です。最近では、ネット炎上に強みのある弁護士を主人公にした、累計135万部を突破した大人気コミックス「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修もされています。
その清水陽平先生を講師に招き、令和3年に改正された「プロバイダ責任制限法」について、講演をしていただきました。

2 プロバイダ責任制限法とは

まず、プロバイダ責任制限法(以下「プロ責法」といいます。)とは何かという基本的なところから説明が行われました。
SNSや掲示板で、特定個人に対して、誹謗中傷が行われた場合、弁護士としてできる対処法は、(1)誹謗中傷を削除すること(2)誹謗中傷を行った相手を特定して責任追及することになります。
具体的な流れとしては、当該誹謗中傷を保全した上で、SNS事業者等に対し、誹謗中傷の削除の請求ないしは仮処分を行い、発信者の通信記録(IPアドレスとタイムスタンプ)を取得し、その通信記録に基づいて発信者の氏名・住所を通信事業者等に開示させ、それで開示された発信者情報に基づいて発信者に対し損害賠償請求等を行うことになります(この発信者情報開示の流れの説明は簡易的なものです。)。
この流れのうち、SNS事業者等への通信記録の開示請求と通信事業者等への発信者情報の開示請求の際に用いられるのが、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律、いわゆるプロ責法となります。
なお、プロ責法の請求を行うことができる発信は、誰もが閲覧できるインターネット通信であり、メールやLINEといったクローズドなインターネット通信には、プロ責法は無力とのことでした。

3 従来のプロ責法に基づく手続きとその問題点

上記で述べた通り、インターネット上の権利侵害で、発信者を特定するためには、多くの場合、2段階の裁判をしなければなりません。具体的には、(1)SNS事業者等へのIPアドレス(インターネット機器に割り当てられた識別番号をいい、インターネット上の住所のようなものです。)の開示請求(2)通信事業者等へのIPアドレスを割り当てられている契約者の氏名・住所の開示請求です。というのも、多くの先生はご存知だとは思いますが、多くのSNS事業者等や通信事業者等は、任意に情報を開示してくれることは少ないからです(通信の秘密等との関係もあります。)。
このように、最終的な目標である発信者への賠償請求へ行きつくのに、多くの時間と費用を要することが社会問題となっていました。また、プロ責法自体が、2001年に成立した法律であり、TwitterやFacebookといった急速に進化を遂げているインターネットに対応できないという問題もありました。
これらの問題に対応するため、令和3年に改正プロ責法が施行されたとのことでした。

4 改正プロ責法の内容

改正プロ責法の主要な変更点は、(1)ログイン型に関する規定の整備、(2)新たな裁判手続きの創設があげられます。
まず、(1)のログイン型とは、TwitterやFacebookといったログインをして書き込むタイプの類型についてです。従来のプロ責法が成立した2001年頃には、このような類型は想定されていなかったため、このログインのための通信は、法律上開示の対象になっていませんでした。そのため、これまでは、「発信者情報」を拡大解釈することで、発信者の情報開示を認容してきました。しかし、このような解釈論のみで対応することには限界が来ていたことから、このログイン型に対応する「特定発信者情報」という規定を創設しました(法5条1項)。そして、総務省令で定める「侵害関連通信」として、アカウント作成時・ログイン時のSMS等の認証通信が、開示対象として明示されることになりました(施行規則5条)。これにより、権利侵害投稿に紐づく通信ではない、それ自体では適法な通信をたどって発信者を特定していくという流れになるとのことでした。
次に、(2)の新たな裁判手続きの創設としては、上記の2段階の裁判手続きを、一つの非訟手続で行うことができるようになりました。そして、それを行うために「開示命令(法8条)」「提供命令(法15条)」「消去禁止命令(法16条)」という3つの命令も創設されました。これまでは、SNS等事業者と通信事業者等に対して、請求者がそれぞれに請求をする必要がありました。しかし、上記で新設された命令により、SNS等事業者と通信事業者等の間の情報開示が行われるようになり、請求者としては、それぞれに別の裁判手続をする必要がなくなる見込みとのことでした。

5 清水先生の改正プロ責法に対する見解

清水先生は、これらを理論整然と説明してくださった後、ただし、改正プロ責法の運用は、まさに新しく始まったばかりであり、以前の手法も残存することから、どうなっていくかはいまだ不透明という話もされていました。また、プロバイダ側が異議の訴えをする等の抵抗をすれば、開示手続の迅速化という題目が絵に描いた餅になりかねないという話もされていました。

6 終わりに

発信者情報開示の分野で著名な清水先生の講演ということもあり、多くの先生方が会館又はZoomで講義を聞いており、質疑応答では、多くの質問が飛び交っていました。
私自身、プロ責法を使うような事件を扱ったことはないですが、清水先生の講義を聞いていて、新たな技術の出現とそれに対応する法律家の熱意に感動しました。また、SNSが発達した現代において、こういったインターネット上の誹謗中傷についての問題は増加していく一方であり、多くの弁護士も注目していることが分かりました(日弁連のeラーニングで同様の講義が人気講座としてランクインし続けているのも、その証左でしょう。)。

私自身、発信者情報開示の分野は、聞きなれない単語だったり迅速性が求められる手続だったりで、なんとなく苦手意識がありましたが、今回の講義で発信者情報開示の分野の魅力を知ることできたので、今後はしっかり勉強をしていこうと思いました。

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「ジュニアロースクール2023春in福岡」リアル開催!

月報記事

法教育委員会 委員 土田 礼二朗(74期)

1 はじめに

令和5年3月29日、「ジュニアロースクール2023春in福岡」が開催されました。
新型コロナウイルス感染症対策の規制緩和に伴い、今年のJLSは、4年ぶりに完全リアル(オフライン)で開催されました。
私自身は最近福岡県弁護士会に入会させていただいたばかりで、JLS当日のみの参加でしたので、以下、主に当日の様子についてご報告させていただきます。

2 今回のテーマ

2022年4月から、民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられたのに伴い、18歳から裁判員になることができるようになりました。これにより、高校在学中や高校を卒業したばかりで、まだほとんど社会経験がない人でも、実際に裁判に参加し、重大な判断を迫られることになるかもしれません。
そこで、法教育委員会では、成人が身近に迫った中高生に対して、刑事裁判の仕組みを学ぶと同時に、他人の意見を聞くこと、他人を説得すること、そして人を裁くということについて考えてもらいたいと思い、今回のJLSでは、刑事模擬裁判を行い、中高生には裁判官として参加してもらうこととしました。
具体的には、傷害事件の模擬裁判を委員の先生方が実演し、参加者の皆さんには、証人や被告人への補充尋問(質問)を行ってもらったり、実際に被告人が有罪か無罪かの判決を下してもらいました。

野田部会長による開会の御挨拶
3 当日の様子

⑴ 今回は、4年ぶりのリアル開催ということに加え、人気の刑事模擬裁判ということもあり、定員100名が申込み締切の約10日前に埋まるという盛況ぶりでした。
当日は、残念ながら急遽不参加となってしまった生徒さんもいましたが、総勢98名(中学生23名、高校生75名)の生徒さんにご参加いただきました。
生徒さんには7~8名ずつの班に分かれてもらい、それぞれの班に1人もしくは2人のサポート弁護士が同席しました。

会場の様子

⑵ 今回の題材は、
「とある大学の学生が襲われた。被害者は犯人の顔を見ていなかったが、事件前に被害者と口論していた同じ和太鼓クラブの部員が犯人として起訴された。」
というものでした。
被告人が所持していた太鼓のばちから被害者の服の繊維が検出されたり、犯行状況を見ていた目撃者も存在していたのですが、それらの存在から本当に有罪と認定できるのか、という点が主な争点となり、私がいた班でもこれらについての意見がよく出てきました。
補充尋問は、各班で意見をまとめた上で、代表者が挙手して質問するという形式で行われましたが、時間の関係で質問を打ち切るまで、途切れることなく手が挙がっていました。

補充質問の様子

「目撃者と被告人の位置関係はどのようなものであったか」「被告人の太鼓のばちが被害者に接触する機会は他にもあったのか」などの質問は当然のように出てきており、被告人のアリバイや被告人の動機について触れた質問もありました。
回答の際は、被告人役の吉田幸祐先生、目撃者役の平嶋先生、被害者役の高尾先生が名演技を披露してくださりました。生徒さんにも受けが非常に良く、回答の度に会場が沸いておりました。あまりにも名演技だったためか、平嶋先生の発言が全面的に信用されなかったのが印象的でした。中高生の生徒さんたちの中にも、酔っ払いの発言は信用できないとの印象があったのでしょうか。
生徒さんたちは実にたくさんの質問をしてくださり、裁判長役の吉田俊介先生が補充で質問する必要がほとんどないほどでした。

評議の様子

⑶ 判決の評議も班ごとに決めてもらい、それを集計して判決を下すという形式で行いました。
議論の際は、付箋を用いて有罪方向の事実と無罪方向の事実とを整理して判断している班が多くありました。

論告と弁論の際に、判断方法について触れたおかげで、生徒さんたちも考え方は迷っていなかったように思えます。
有罪とするか無罪とするかの結論で迷っている班は多数ありましたが、目撃者の証言が信用できず、合理的疑いを差しはさむ余地がないというには証拠が足りないことから、全ての班で無罪の結論となりました。吉田幹生先生による講評の際に、班としては無罪判決としたが、個人的には有罪の意見だったという生徒さんに手を挙げてもらったところ、意外と多くの手が挙がったので、個人的には、どういう理由から有罪と思ったのか、なぜ班の意見として押し切れなかったのかなど、詳しく聞いてみたかったなと思います。

4 おわりに

約3時間半で模擬裁判を最初から最後までやり、かつ、間に議論の時間を2回設けるという非常にタイトなスケジュールでしたが、鎌田先生をはじめとして、キャップの稲吉佑紀先生をはじめとする実行委員の先生方(陰のキャップは鎌田祥太先生とうかがっています。)の入念な準備や、吉田俊介先生をはじめとする当日のキャストの先生方の名演技のおかげで、滞りなく盛況に終えることができました。私は当日の参加だけでしたが、今回のJLSも大成功であったと思っております。 今回のJLSは4年ぶりの完全リアル開催でしたが、委員の先生からは、やはりリアル開催のほうが議論などを円滑に進めやすいし、何より盛り上がって楽しいという意見が多数ありました。

オンラインにはオンラインの良さがありますが、対面でなければ伝わらないこともあると思いますので、今回リアル開催できたことは非常に喜ばしいことであったと思います。

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あさかぜ基金だより

月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 代表社員弁護士 石井 智裕(72期)

壱岐の引継式
あさかぜ所員も、西原弁護士・宇佐美弁護士の引継式に参加し、その後に開催されたひまわり基金法律事務所の支援委員会にオブザーバー参加し、事務所見学にも参加しました。

西原弁護士の活躍

西原弁護士は、令和3年1月より壱岐ひまわり基金法律事務所の6代目所長に就任し、2年間業務をしていました。西原弁護士は、任期中に255件の相談を受け、うち、新規案件を121件を受任したということです。 西原弁護士は、退任の挨拶の中で、任期中を振り返り、弁護士のハードルを下げたい思いだったが、多くの相談があり、ハードルは下がったのではないかと思う、後任の宇佐美弁護士にも引き続きハードルを下げていってもらいたい、と述べていました。

宇佐美弁護士の着任挨拶

続いて、宇佐美弁護士が、着任の挨拶をしました。
壱岐ひまわりの引継式は、新型コロナウイルスの流行もあり、飲食を伴わない形式で実施されたため、引継記者会見が主たる内容となっていました。この引継式に西原・宇佐美という新旧所長のほか、前田憲德九弁連理事長、柏木慎太郎九弁連事務局長、濵口純吾長崎県弁護士会会長、山下俊夫壱岐ひまわり支援委員会委員長が出席しました。また、あさかぜ所員のほかには、地元新聞社から数名、長崎県内の公設事務所の所長、公設事務所支援委員会委員が参加していました。
宇佐美弁護士は、着任にあたって、弁護士を目指した経緯や、ひまわり所長になるにあたっての意気込みを語りました。
宇佐美弁護士は、弁護士になる以前、裁判所書記官として勤務していましたが、そのとき(今から10年ほど前とのことです)大分地裁に勤務していたとき、地元の弁護士から、「弁護士の人口がふえても、過疎地には誰も来てくれないんだよ」との嘆きを聴いて、「自分が求められる場所がある」と思い、弁護士を志したとのことでした。
また、宇佐美弁護士は、裁判所書記官として勤めていたときは、市民からの相談があっても、裁判所という中立公正の立場からは、あきらめるべき事案ではないのにもかかわらず、あきらめないでくださいといえなかったことから、相談に来た人のためにできることには限界があると感じたのも、弁護士を志すきっかけとなったそうです。
さらに、宇佐美弁護士は、「壱岐の地で、最後の人生に一華咲かせたい」と、公設事務所で働くことへの強い意気込みを感じました。

支援委員会

引継式のあと、長崎県内の公設事務所(島原中央・対馬・壱岐・飛鸞)の合同支援委員会が開催されました。あさかぜ所員も、オブザーバーとしての参加が許可されたので、傍聴しました。
委員会では、各所長から、各月の新規相談・新規受任件数、現在の手持ち事件数と進捗状況、収支状況、引継状況について報告があり、あわせていくつかの事件相談がありました。どの事務所も毎月の相談件数は平均して10件程度、手持ち事件数が多い所では60~70件ほどで、ひまわり事務所が地域の人々に頼りにされて忙しいことがうかがわれました。手持ち事件については、案件管理表を用いて、全件の進捗を担当の委員と共有する形になっていて、所長が一人で司法過疎地に放り出されるわけではなく、適切に、サポートを受けられる形になっていたので、これから赴任する私にとっては安心できるものです。
弁護士がいない場所に赴任して、ともすれば孤独を感じやすい環境ではありますから、これから赴任する立場として、年に数回、弁護士がこのように集まる機会があるのはありがたいものです。

事務所見学

引継式の翌日、壱岐ひまわり基金法律事務所を訪問し、宇佐美弁護士から事務所内を案内してもらい、そのうえで、赴任時の注意事項、引継方法について話しを聴きました。
壱岐ひまわり事務所は、あさかぜ事務所の執務室くらいのスペースに、執務室と相談室があり、弁護士1名・事務局1名体制で執務しています。執務スペースとしては、ゆとりがあるような感じです。
ひまわり事務所に赴任するに当たっての準備すべきこと、事務所経営に関することなど、いろいろ役に立つ話しを聴くことができました。

誰もいなくなって......いい!

私は令和2年正月6日にあさかぜ基金法律事務所に入所しましたが、令和5年2月末に佐古井啓太弁護士が対馬ひまわり基金法律事務所に赴任しましたので、令和2年正月にあさかぜ基金法律事務所にいた人間は私だけになってしまいました。

私が過疎地に赴任するときには、宇佐美弁護士を見習い、高い志をもって、赴任したい、そんな気持ちを新たにして帰福しました。

あさかぜ基金だより
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