福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2023年3月号 月報
「福岡・釜山フォーラム」の報告
月報記事
会員 山口 雅司(43期)
1 令和5年2月4日、韓国釜山広域市にあるロッテホテルにて、「第15回福岡・釜山(釜山・福岡)フォーラム」が開催されました(本来は令和4年11月5日の開催を予定していたのですが、ソウル梨泰院で発生した大きな事故の影響で日程が変更されていました)。
私が、当会の野田部会長とともに参加しましたのでその報告です。
2 さて、そもそも「福岡・釜山フォーラム」って何?と質問されそうですね。これまで余り広報されてこなかった印象は拭えませんが、重要な会合なので興味を持っていただければと思います。
端的にいえば、福岡市と釜山広域市に所在する企業や大学を主要な構成団体とする産学の交流と提言を行う場です(両方の市も若干の関与をしています)。
その歴史は、九州大学韓国研究センター(福岡市)と東西大学日本研究センター(釜山広域市)の学術交流の中で構想が浮上し、呼び掛けに応じた福岡・釜山両地域の産学関係者らが2006年9月に発足させたことに始まります。
その目的は、提言機関として、九州と朝鮮半島の間の海峡を挟んだ超広域海峡圏の経済的・文化的交流の促進と活性化を図ることです。
福岡市と釜山広域市は姉妹都市関係にあり、その距離は直線にして約200㎞(福岡市と鹿児島市との距離くらい)であり、朝鮮半島南部と九州北部とは遙か昔より大陸との往来の拠点となってきました。国家・民族・言語・文化などの垣根があるものの、両地域は共通課題を多く抱えています。福岡・釜山フォーラムは、そのような関係の両市の企業や大学の間で協議を行っているというものであり、ここ暫くは、首都圏への経済・人口の集中に対する地方の活性化という観点から、「福岡・釜山超広域経済圏」形成に向けた話し合いを行っています。
その構成団体は、福岡側では、JR九州、福岡商工会議所、西日本新聞社、九州大学、西日本シティ銀行、福岡県弁護士会、九州経済調査協会、テレビ西日本、住友商事九州、九州電力、福岡大学、ふくや(順不同)の12団体であり、釜山側では同様のカウンターパートナーとなる17団体が参加しています。
3 毎年1回、福岡市と釜山広域市で交互開催の全体会議を開き、福岡側ではその準備としてメンバー会議を年3~4回行っています。
ただ、正規メンバーは団体の代表者ということになっている点で、協議内容のレベルは高いのですが、他方で、年齢層が高く閉鎖的な状況であることは否めません(「もっと若い世代に開放したらどうか」と提案はしているのですが)。
福岡県弁護士会は、釜山地方弁護士会との交流を30年以上続けるとともに、福岡・釜山フォーラムのメンバーとしての交流も行っています(会長が弁護士会代表のメンバーとなり、原則として前会長が随行者として補佐役で参加しています。私が今回随行者として参加したのは、新型コロナの影響で、私が会長として参加した会議ののち2年間は会議が開けず、直前の会長での補佐が難しいという事情からです。)
4 今回の福岡・釜山フォーラムでは、福岡県弁護士会・釜山地方弁護士会を含めて両市の企業や大学の関係者などおよそ60人が出席して次のようなテーマで会議を行いました。
基調講演 「日韓観光活性化のための提言」
韓国観光公社 社長 金 長 實 氏
第1セッション 「釜山-福岡国際地産学協力構想」
釜山広域市 経済副市長 李 成 權 氏
福岡商工会議所 会頭 谷川浩道 氏
第2セッション 「未来志向の釜山-福岡次世代交流を考える」
株式会社ふくや 会長 川原正孝 氏
釜山経済振興院 院長 陳 良 鉉 氏
当会の野田部哲也会長は、第1セッションでの討論意見として日韓間の取引における法的障壁について述べ、釜山地方弁護士会の廉正旭会長は、第2セッションでの討論意見として日韓間の共通決済制度の提案をされました
会議前日の懇親会では釜山広域市の市長自らが出席し、会議当日には釜山広域市副市長、駐福岡大韓民国総領事が本人出席していますので、韓国側の気合いの入れようは推察できると思います。
5 福岡・釜山フォーラムでの行事として前夜および当日の懇親会が行われ、当会と釜山地方弁護士会との間では、このほかに釜山地方弁護士会の会長や理事など4名の方々との懇親会を行いました。
懇親会では雑談を取り留めもなくしているのですが、その中で、韓国から日本に行く留学生が減っているという話題がありました。新型コロナ問題の影響は当然にあるのですが、それよりも日本に行く魅力がどんどん無くなっている、なぜなら、民間企業の初任給は今や韓国の方が高いし、日本では外国人の将来のキャリア・ビジョンを描くことが難しいからという話しであり、かなり辛辣でした。
細かな話しは別の機会に譲るとして、今回の会議や懇親会での協議を通じて感じたことは、韓国の一生懸命さと成長、日本の現状認識の甘さです。私も含めて、日本全体が過去の「貯金」に頼っていて、人口は減る、経済力は低下する、世界の潮流に乗り遅れているのに、ただ何となく内向きに過ごしているのではないかということでした。
6 来年度(といっても今年、令和5年ですが)の福岡・釜山フォーラムは、11月11日(土)に、福岡市で開催されます。
この会議がどこまで多くの人に「開放」されるのかは分かりませんが、開催情報には注意をしていただければと思います。
あさかぜ基金だより
月報記事
壱岐ひまわり基金法律事務所前所長 西原 宗佑(71期)
1 はじめに
私は、2019年1月よりあさかぜ基金法律事務所で約2年間執務し、2020年12月より長崎県壱岐市の壱岐ひまわり基金法律事務所へ赴任しました。この度、本年1月末で2年間の任期を満了し、3月より福岡県弁護士会へ再登録することになりました。そこで、一足早いですが、私から壱岐のこと、そして壱岐ひまわりで行った業務について簡単ですがご報告させていただきます。
2 壱岐とは?
まず、壱岐はご存じの方も多いかと思いますが、福岡市から約80km北北西に離れた離島で、福岡市内(博多ふ頭)からは、高速船でわずか約1時間、フェリーでも約2時間30分で向かうことのできる島です。人口は約2万5000人、面積は133.82k㎡でありまして、これは島内を一周するのに自動車で1時間程度走らせれば足りる程度の面積です。これだけ面積の小さな島に2万5000人の島民が暮らしている島になります。壱岐の主な特産物は、ウニ、壱岐牛や麦焼酎です。壱岐と言えばウニというくらいウニは多くの方に知られている特産品だと思います。ただ、壱岐で採れたウニの多くは福岡や東京などの都市部へ出荷しますので、島内でのウニの流通量が少なく、意外と島内での価格は割高です。そのため、島民の方でも頻繁に食べることはできないということでした。壱岐牛は、島外の方にはあまり知られていないかもしれませんが、後に神戸牛や松坂牛など高級和牛になる前の子牛として日本各地の畜産家の方が購入して飼育しているほど立派なもののようです。肝心の味ですが、壱岐牛は食べると肉の中にも柔らかく甘みがあるのが特徴で非常に美味しいです。
また、壱岐では麦焼酎も有名です。壱岐が麦焼酎の発祥地だそうです。実際、島内には麦焼酎の酒蔵が現在7か所あります。古代から稲作が盛んな地域ですので、麦焼酎が飲まれるようになったのではと思います。
このように壱岐は多数の方が第1次産業に従事されて生活されている状況です。
3 壱岐ひまわりでの業務
次に私の壱岐ひまわりでの業務をご紹介します。私の2年間の任期中、事務所での総相談件数は255件、毎月1回の社会福祉協議会での出張相談を含めればさらに多くのご相談を担当しました。また、2年間の間に実際に新規で依頼を受けた件数も合計で121件に上ります。そのため、任期中の手持ち事件も平均して50~60件を同時進行しており、相談予約が1週間待ちとなることもありました。少なくとも任期中新件の仕事が来ないという期間は全くと言ってよいほどありませんでした。
事件類型としましては、離婚事件をはじめとした男女間トラブルの相談・依頼が圧倒的に多く、次に債務整理や相続が続きます。他方で交通事故や刑事事件は比較的少ない印象です。壱岐での一般民事の訴訟事件は、例年裁判所のワ号事件の事件番号が20までいくかいかないか程度の事件数です。さらに、壱岐ひまわりへの相談者は属性が偏っているかと思いきや、農家・漁師をはじめ、公務員、法人事業者、専門職などあらゆる属性の方からの相談を頂き、壱岐でもこれだけひまわりが認知され頼りにされているということが分かりました。このように弁護士過疎地域での弁護士の存在意義は都市部と比べて非常に大きいことが壱岐での弁護士業務のやりがいの一つになっていたと感じます。
他方で、壱岐のような弁護士過疎地域では利益相反が頻発します。壱岐ではひまわりと法テラスとの対立構造となることが多く、仮に3人以上の利害関係者が出現した場合には、利益相反の観点から3人目以降は島外の弁護士に相談依頼することになります。私の任期中でも過去に利害関係者からの相談を断らざるを得なかったケースも複数件ありました。また、利益相反とまでは言えないけれども、島内のコミュニティが狭いがゆえに依頼を受けている別事件同士の関係者が繋がってしまうこともありました。たとえば、私がある事件を受任中に、相手方から提出された資料から現れた利害関係者が他の事件の依頼者だったというケースもありました。このように、依頼者やその他の関係者間の人間関係が非常に近いということが壱岐の特徴だということも分かりました。
そのため、弁護士過疎地域の弁護士としては、利益相反、守秘義務に留意することが特に重要だと感じました。
近年九弁連管内ではひまわり事務所の定着化が進んでいますが、壱岐での定着はほとんど不可能ではないかと思います。先に述べたとおり、壱岐は離島かつその面積が狭いため、利益相反が頻発することに加え、事件関係者が繋がってしまう状況が頻繁に生じるため、定期的に所長弁護士が交代することでこうした事態を一旦リセットする必要があるからです。実際、壱岐ひまわりでは2代以上以前の所長が受けた事件記録を含む関係者情報は全て遮断して、後任所長のもとで新件として受任できるような体制を作っています。このように、壱岐ではむしろ定期的に所長が交代する必要があるとさえいえます。
4 壱岐での生活
次に私の壱岐での生活についてご紹介します。赴任当初は、コロナ禍まっただ中であったため、島外への移動も制限される状況でした。当初は壱岐でコロナの感染者が出れば、たちまち島内で犯人(感染者)探しが始まり、見つかれば島民から迫害をされてしまう状況になるといっても過言ではありませんでした。毎日夕方の島内一斉放送で壱岐市内でのコロナの感染者数が発表されていましたのでそのことも犯人探しに拍車をかけていました。そのため、私も島外に出て万が一コロナに感染したということが島内に広まればたちまち壱岐ひまわりの信用は地に落ちると思いまして、赴任当初は壱岐島外に出ることはなくひっそりと島内で生活していました。しかし、休日を壱岐で生活した場合、ショッピングモールや島内の飲食店などに出かけることになるのですが、休日のショッピングモールは依頼者の子どもたちの面会交流の場となっており、島内の飲食店の経営者が相手方だったり、仕事と関係のない飲食店に行っても事件関係者を見かけたりするため、休日も仕事の感覚から解放されることはなく若干の息苦しさを感じていました。壱岐は対馬や五島などと比べて面積が狭い島ですので、他の離島と比べても比較的このような事態が生じる頻度が高いのではないかと思います。
赴任1年目の終盤になって、ようやくコロナ禍も落ち着いてきて、島外に出るハードルが下がってきたので、私も島外への移動が多くなりました。私は単身赴任で壱岐へ行っておりましたので、気分転換のために福岡の妻のもとに帰る頻度も自然と増えていきました。
4 今後ともよろしくお願いいたします
赴任当初は不安だらけでしたが、ひまわり基金法律事務所を支えて下さる先生方を始め、あさかぜの時にお世話になった先生方からのサポートのもとで何とか2年間の任期を果たすことができました。壱岐ひまわりでは、私の後任の宇佐美竜介弁護士が昨年12月に着任しまして、本年2月6日に壱岐市内のホテルにて私から宇佐美弁護士へ所長を引き継ぐ引継式・記者会見を実施しました。引継式には日弁連の壱岐ひまわり支援委員会委員長や九弁連理事長、事務局長と長崎県弁護士会長が参加され、島内からは地元の新聞社等が出席されていました。また、同日に壱岐市長や商工会、検察庁や裁判所へ所長交代の挨拶にも行きました。このように、壱岐ひまわり所長の交代は島内では一大イベントとなっています。
今後は宇佐美所長の下で、壱岐ひまわりを存続させ、壱岐の島民のために頑張ってくれると思います。あさかぜ、ひまわりといった公設事務所は、会員の皆様のサポートをもって成り立っている部分も大きいですので、皆様におかれましても、どうか引き続きあさかぜをはじめとした弁護士過疎地域にかかるサポートをよろしくお願いいたします。今回の私の報告が皆様の弁護士過疎地域への支援における判断の一助になっていただければ幸いです。
社外役員に関する連続講演会(第1回)
月報記事
会員 阿部 雄大(74期)
1 はじめに(WODICについて)
去る令和5年1月16日、弁護士業務委員会におけるPTの一つである「WODIC」勉強会において、「社外役員に関する連続講演会」の第1回目が行われました。本稿では、ご講演の内容のご報告の前に、簡単に「WODIC」についてご紹介させていただければと思います。
「WODIC」とは、「公益通報者保護法(=Whistleblower Protection Act)」「社外役員(=Outside Director)」「第三者委員会(=Independent Committee)」の頭文字から名づけられた造語であり、これらの企業法務分野において法の支配を貫徹させるための制度の理解を深めるべく、令和4年1月25日に発足した新しいPTです。WODICでは、これまでに企業の法務担当者や社労士の先生等の外部の方もご参加いただき、改正公益通報者保護法(W)に関する勉強会を継続して行ってきました。
今回、新たに「社外役員」(OD)をテーマとする連続講演会を開始することになり、その記念すべき第1回の講師として、古賀・花島・桑野法律事務所の古賀和孝弁護士(38期)をお招きし、ご講演をいただきました。講演会は弁護士会館だけでなく、ZOOM配信も併用する形で開催し、会場参加が15名、オンラインでの参加が52名の合計67名と多数の先生にご参加いただきました。
私もWODICメンバーの一人として現地にて参加し、拝聴して参りましたので、以下ご報告させていただきます。
2 社外役員就任のご経歴
古賀先生の最初の社外役員就任は12年ほど前で、そのときは顧問先企業から打診されたそうです。そこから、現在では、東証プライム上場企業から地場の中小企業に至るまで、合計4社の社外役員のご経験があるそうです。古賀先生は、多くの企業において社外役員に就任されていますが、その端緒としては、紹介や顧問先からの打診が多いとのことでした。
日頃、弁護士として企業の役員や担当者、他士業の方と関わる中で、法律知識、経験や人柄といったところを知ってもらい、信頼を得られからこそ、社外役員という役職が回ってくるということが多いのだろうと思いました。
3 社外役員の業務内容・業務時間・役割
古賀先生が社外役員を務めておられる会社では、その企業の規模等によって多少の差異はあるものの、基本的には、月に1度(中小企業であれば2か月に1度)の役員会に出席することであり、平均的に1,2時間程度の役員会議が行われるそうです。もっとも、全体の役員会の前にさらに監査役会や取締役会といった個別の会議での議論も含め、最も長いところでは1日合計で約10時間も会議を行う企業もあるそうです。
弁護士である社外役員の役割・業務としては、事前に議題を頭に入れて会議に臨み、法律のプロとしての視点から意見を述べるということが求められているとのことです。従来は、会社内部の意見や決定に対して外部の視点からブレーキをかけるという面が強かったそうですが、近年は、会社の意向を把握した上で、単なるリスク説明やストッパー的な役割を果たすのみならず、会社の一メンバーとして、法律上のリスクを説明した上で、各企業の意向を実現するためにどのようなことができるかという解決策や改善策といった具体的な提案をすることが求められることが多くなったと仰っていました。一方、中小企業等、経営者の個性や発言力の強い企業においては、社内役員では日頃の関係性上、意見しづらい部分についても強く意見をいうことで会社の軌道修正を行うことも求められるとのことでした。企業の規模や体質、事業内容、経営者の個性などによって求められる社外役員の役割が異なってくるというのは、さまざまな企業で社外役員を務めてこられた古賀先生ならではのご実感であり、一言で社外役員と言っても各企業の個性や性質を理解し、求められる役割を果たすところに難しさがあると同時にやりがいや面白みがあるように感じました。
また、弁護士という立場ではあるものの、経営陣に参画することについて、古賀先生ご自身は、あくまで専門的な経営判断については、経営のプロとして社外役員を務めている他の役員に任せてあまり深入りしすぎず、法律のプロという視点で意見をするということを仰っていました。また、社外役員として活躍するためには、ある程度の経営の知識は身に着けるべきではあるものの、財務に関する知識は相当奥の深いものであるため、全て自分で身に着けなければならないというものではなく、わからないことは周囲の役員に聞くことも重要であるとのことでした。法律のプロとしての誇りを持ちつつ、他の役員に対してリスペクトをもって、謙虚に接される姿勢にも学ばされました。私自身今後経験や年次を重ねても古賀先生のような謙虚さを忘れずにいたいと思った次第です。
4 社外役員になることのメリット
弁護士が社外役員をすることのメリットの一つとしましては、争点を素早くつかみ、企業の抱える問題の解決の糸口を考えるという視点やその解決策についてのエビデンスについても考えるという思考方法そのものも弁護士業務に活きるとのことでした。また、実際に企業の内部に入ることで、日々の紛争案件の背後の知識がわかるということもあるとのことでした。
弁護士の業務分野の拡大という意味において、社外役員という活躍の場があるということに加え、そのような分野に取り組むことによって従来の弁護士業務にとってもプラスになる経験を得られるというのは、(もちろん役員としての重責は負いますが)社外役員になることの魅力の一つであると思います。
5 弁護士が社外役員として活躍するために意識すべきこと・準備すべきこと
この点については、企業が営利活動を行うことに対しての理解があるかということが重要であるとのことでした。確かに、私自身、日頃の法律相談等では、無意識的に法的な検討やリスクの説明に傾倒してしまいがちですが、上記でも触れた通り、単なるリスク説明にならず、営利活動によって利益を生み出すということの意味を理解し、一定のリスクを背負ってでも利益を生み出すためにどんな手段を取りうるのかという一歩進んだ提案をできるよう意識を持って日々の業務に取り組もうと感じた次第です。
また、社外役員として活躍する機会を生み出すためにも、弁護士自身が法律的な専門知識だけでなく、最新のトレンド(最近だと、「環境問題」や「ダイバーシティ」等がアツいそうです)を踏まえ、自身の見解を積極的に発信するということも重要であるということでした。
また、弁護士は研修や会合等で積極的に外にでて、外部の人々と交流することが重要であるというお話は特に印象的でした。自分自身の強みやセールスポイントを作るために、積極的に法律以外についても知識を身につけ、それを外部に発信することや、外部の人々と交流をする中で、見聞を広め、人間関係を構築していくことも業務と同じぐらい重要なことなのだと改めて感じさせられ、色々と考えるきっかけをいただきました。
6 おわりに
「社外役員」については、講学上、当然知ってはおりましたが、どうやって社外役員になるのか、なったとしてどのようなことをすればよいのか、社外役員になるためにどのような準備や心づもりが必要なのかといった個別具体的な部分についてのイメージは持てずにおり、それ故に社外役員としてご活躍されている古賀先生の実体験に基づくお話を伺えたことは大変貴重な機会となりました。
私自身は、まだ弁護士1年目の見習いですので、万が一、将来的に社外役員というお役をいただけるとしてもまだまだ現実味のないことのようにも思っておりました。しかし、日頃の顧問先への対応一つ、企業における営利活動の意味合いを理解できるよう努め、法的なアドバイスに終始せずに企業のニーズにあったご提案をするなど、自分の業務に対して付加価値を付けられるよう日々意識することは、弁護士として非常に有益な視点であり、今からでも意識すべきことのように思いました。今回の講演会での学びを日々の業務に活かせるよう精進したいと思った次第です。
この「社外役員講演会」は連続講演会でありますので、今後も素晴らしい講師の先生方からご講演をいただけるものと確信しております。今回参加された皆様も、参加されなかった皆様も、ぜひ次回以降のご参加をお待ちしております。
障害者差別解消法改正等に関する研修のご報告
月報記事
会員 國府 朋江(65期)
1 開催の経緯
1月23日、日弁連と共催で障害者差別解消法に関する研修(キャラバン)が開催されました。本キャラバンは、日弁連が会員になじみのない障害者差別解消法について、基礎知識を付けてもらうとともに、この分野で自治体と連携していく単位会が増えることを期待して開催しているものです。福岡県弁護士会では、2019年8月に障害者差別解消法に基づき、会内で職員対応要領及び会員向けの対応指針を作成しており、次の段階として、自治体との連携を目指すべく、研修を開催することになりました。
2 障害者差別解消法の改正と障害者権利委員会からの総括所見
黒岩海映弁護士(新潟県弁護士会)より、障害者差別解消法の改正点及び2022年9月に日本に対して出された国連障害者権利委員会からの総括所見についての説明がありました。
障害者差別解消法の重要な改正点としては、民間事業者が障害のある人から合理的配慮の提供を求められた場合に、その提供が法的義務となった点です。弁護士も一民間事業者として、合理的配慮の提供義務を負いますので、注意が必要です。
国連障害者権利委員会からの総括所見は多岐にわたりますが、(1)精神障害者への強制入院や合意のない精神科治療などの扱いをやめること(2)障害児を含む障害者の脱施設化(3)障害者の司法アクセスの制限の廃止・配慮のための訴訟費用を国負担にするなど手続上の配慮を保障すること(4)分離特別支援教育を廃止し、個別の支援を保障することなどです。
3 雇用分野に関する権利条約の実現状況
田中伸明委員(愛知県弁護士会)からは、労働分野に関し、総括所見で保護作業所や雇用関連の福祉サービスから、民間および公的部門における開かれた労働市場への移行を加速させることなどが勧告されていることの紹介や、国内の法制度である障害者雇用促進法についての説明がありました。また、名古屋市では、名古屋市障害者差別相談センターが設置され、毎月1回、同センターの対応方針に問題がないか、学識経験者も参加しての協議・検討が行われているとのご報告がありました。
4 福岡市障がい者110番の取り組み
福岡市障がい者110番の専任相談員の高次美佳さんからは、福岡市における障害者差別禁止条例制定後に相談窓口に寄せられている差別相談の傾向や、相談員として相談にあたり心がけていることについて、相談者の心理状況や身体的な症状、差別する側の心理などにも触れつつご説明いただきました。 高次さんは、日弁連で作成した「自治体担当者向け障害者差別解消相談対応マニュアル」(2017.9.29)をご参照いただき、相談対応をしておられるとのことで、大変うれしく思いました。
5 労働分野における差別解消の取り組み
福岡労働局の篠原直樹さんからは、雇用促進法についての説明、実際に相談があった場合の対応の流れ、相談内容の傾向などについてご説明がありました。私が印象的に感じたのは、合理的配慮に関する相談は、上司・同僚の障害理解に関するものが最も多く38%、次いで相談体制の整備、コミュニケーションに関するものが19%もあるということです。これらは、コミュニケーションを取り、理解のための努力をすれば、多くの悩みが解決されるということを示す結果だと思います。 今回は日弁連のキャラバンとして研修を行いましたが、今後も差別解消法についての理解を深める機会を持てるよう、研修などを開催していきたいと思います。