福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2023年1月号 月報
ジュニア・ロースクール2022 in 筑後
月報記事
筑後法教育委員会 委員長 鍋島 典子(66期)
1 2022年11月20日(日)、筑後部会にて「ジュニア・ロースクール2022 in 筑後」を実施しました。
「ジュニア・ロースクール」とは、地域の中高生を対象に、法的な見方考え方や論理的な思考を学び体験してもらうためのイベントで、各部会で法教育委員会が主体となって実施してきたイベントです。筑後部会でもほぼ毎年行ってきましたが、今年も刑事模擬裁判を題材にして実施しました。
2 今年の刑事模擬裁判の事件の詳細は次のとおりです。
ある日の早朝午前5時30分頃、我儘善五さん(44歳)が個人で経営する「すずめ書店」に、泥棒が入りました。物音に気付いた我儘さんは、店のレジ付近にいる怪しい影に近づき声を掛けます。声を掛けられた泥棒は、我儘さんに暴行を加えたあと、店のシャッターにぶつかって逃げていきました。店の前には見慣れない白い車が停車しており、その車の鍵は車内に置きっぱなしでした。我儘さんの通報で警察官が駆け付けた頃、持ち主である雨戸信二郎さんが車に戻ってきました。雨戸さんにはおでこに血が滲んだたんこぶがあり、所持品はポケットの中にむき出しの1万円札が5枚、500円の図書カードが3枚でした。その後、我儘さんが店のレジを確認すると、1万円札が3枚と図書カードが3枚無くなっていました。
雨戸さんは、車を置いていたのは近くに住む友人の家に行くためで、1万円札は友人に貸していたお金を返してもらった、図書カードは友人からもらったと言っています。
さて、強盗致傷罪で起訴された雨戸さんは、この事件の犯人なのでしょうか。
3 当日、生徒たちには検察官チーム、弁護人チーム、裁判官チームに分かれてもらい、数点の書証と、我儘さんの証人主尋問、被告人の主質問を見て、それぞれの立場から証人への反対尋問と補充尋問、被告人への反対質問と補充質問を考えてもらいました。その後、その尋問結果をもとに、論告、弁論および判決を検討してもらいました。
尋問や質問の検討に際しては、被告人を犯人だと認定するだけの材料はそろっているのか、「すずめ書店」から盗まれたものと被告人が所持していたお札と図書カードの同一性、被告人が事件のあった時間帯に現場付近にいることの合理性、証人の目撃証言の信用性などを判断するにあたり、これらの事実を確かめるためにどのような質問をすればよいのかを検討してもらうわけですが、参加した生徒たちは、こちらの意図をほぼ正確に読み取り、お札の状態や事件現場の明るさや距離感、被告人の友人についての突っ込んだ質問などを考えてくれました。また、我々が想定する以上の質問を考えてくれる生徒もいて、毎年のことですが、中高生の柔軟な視点や思考力に今年も驚かされました。
4 イベントの最後に行った質疑応答では、生徒たちから弁護士のことや仕事についても質問がありました。模擬裁判と実際の刑事裁判との違いや、無罪判決の割合について聞かれたり、不倫をしていたという被告人の供述について(被告人質問の時、実は被告人が事件当時に現場付近にいたのは不倫相手と会っていたからだという供述をしました)、その真偽を問うものなど、最後までイベントを真剣に、そして楽しんでくれている様子が伺えました。
今回のイベントは、生徒たちからの質問、尋問にその場で答えるというアドリブ必至の企画であり、役者役には大変な役回りを完遂していただきました。また、生徒の参加が40人を超える例年にない大人数のイベントで、法教育委員ではない部会員にも協力してもらったりと筑後部会の多くの会員の協力によって成り立った企画となりました。
生徒のアンケートでは、楽しかった、また参加してみたいといった感想を多数もらい、大変ながらもやってよかったと思える企画となりました。最後になりましたが、今年のこの刑事模擬裁判、何をオマージュしたか分かりましたか?ちなみに検察官は、辛露寺みつきでした。