福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2022年10月号 月報

シンポジウム「人と動物が共生する社会の実現のために」のご報告

月報記事

公害・環境委員会 委員 藤田 裕子(68期)

1 はじめに

2022(令和4)年8月27日(土)、福岡県弁護士会主催の市民向けシンポジウム「人と動物が共生する社会の実現のために」が開催されましたのでご報告いたします。

2 シンポジウム開催の背景

近年のペットブームのなか、動物が人にとってかけがえのない存在になっている一方で、野良猫の糞尿・ゴミ漁り等により、人の生活環境への被害が問題となっています。公害・環境委員会では野良猫の問題を人の生活環境の問題と捉え、2020(令和2)年度に動物愛護PTを発足して調査を始めました。

従来、野良猫対策としては専ら殺処分の方法が取られてきました。しかし、動物愛護法は改正を重ね、「動物は命あるもの」であることを認識し、人と動物が共生する社会を目指すことを定め、環境省も殺処分をなくすことを推進しています。そこで、動物愛護法の概要や改正の経緯、現状や取り組むべき課題等を参加者に知ってもらい、人と動物が共生できる社会の実現のために何が必要かを参加者とともに考える機会を持つために、本シンポジウムは開催されました。

3 シンポジウムの内容
(1) 法律の解説

公害・環境委員会委員の朝隈朱絵会員が、動物愛護法の概要、改正の経緯について解説しました。

動物愛護法は、1973(昭和43)年に「動物の保護及び管理に関する法律」という名称で制定されました。その後、犬や猫等のペット動物が人の生活の中で重要な位置を占めるようになってきたこと等から、1999(平成11)年に「動物の愛護及び管理に関する法律」という名称に変更され、基本原則に「動物が命あるもの」との文言が加えられました。動物取扱業規制や飼い主責任徹底なども新たに盛り込まれました。2012(平成24)年には、法目的に「人と動物の共生する社会の実現」が追加され、所有者の終生飼養の責務や都道府県等が犬猫の引き取りを拒否できること等が規定されました。また、2019(令和元)年の改正では、犬や猫に所有者の情報を記録したマイクロチップ装着を義務付け、動物の殺傷等に対する罰則を強化しました。

動物愛護法はこのような改正を重ねてきましたが、実効性の確保等の課題を抱えています。人と動物の共生は、SDGsの推進とも関連しており、今後も議論が必要だということが確認されました。

(2) 基調講演

福岡市保健福祉局生活衛生部動物愛護管理センター所長吉柳善弘氏から「動物愛護管理の現状とこれから」というテーマでお話しがありました。

センターでは、放浪犬の「捕獲」、所有者不明の犬猫や負傷した犬猫、飼い主が飼えなくなった犬猫の「引取り」を行っています。2012(平成24)年の動物愛護法改正により犬猫の引き取りが拒否できるようになったことから収容頭数は減少傾向にありますが、子猫の占める割合が高い状況にあります。

収容された犬猫は元の飼い主に返還あるいは新しい飼い主に譲渡していますが、感染症や攻撃性などにより譲渡困難な犬猫については殺処分を行っています。福岡市では、「殺処分ゼロを達成した」と言われていますが、譲渡困難と判断した数を除く実質的殺処分ゼロが達成されたという意味であり、令和3年度は、感染症等を理由として125頭の犬猫が殺処分されているそうです。

福岡市は引き続き、収容数の削減や飼い主のいない猫問題などに取り組むとのことで、新しくペットを飼う際におとなの犬猫を迎え入れることや迷子対策としての犬の鼻紋認証システムの紹介がありました。

(3) ブレイクタイム

立花高等学校の皆さんより、同校での授業「命のつなぎ方」の取り組みについて紹介がありました。一人の生徒が猫を拾って学校に連れてきたことがきっかけで、「果てようとしている命に素通りする人でいて欲しくない」という考えから、授業の一環で保護猫活動が始まりました。動物愛護管理センターへの見学、相島への訪問、保護猫のお世話をしているそうです。

(4) パネスディスカッション

兵庫県弁護士会所属弁護士の細川敦史氏、福岡県獣医師会所属獣医師の中岡典子氏、特定非営利活動法人SCAT代表理事の山﨑祥恵氏に吉柳氏を加えて、「人と動物の共生する社会の実現のために」というテーマでパネルディスカッションが行われました。

はじめに、細川氏から、人権擁護を使命とする弁護士会が動物愛護に取り組むことの意味についてお話いただき、動物が暮らしやすい社会が人にとっても暮らしやすい社会であるということ、つまり動物の尊重が人権の尊重につながっているということを確認しました。

次に、殺処分の対象となる犬猫が生まれる背景について、中岡氏と山﨑氏にそれぞれお話いただきました。中岡氏からは、特に最近増加している高齢者の中途飼育放棄、多頭飼育崩壊の紹介がありました。入院・死亡等の事情で最後まで飼えなくなる場合、不妊去勢手術を怠ったためにあっという間に飼えない数まで増える場合等多くの具体的な事例があるそうです。山﨑氏からは、大量生産・大量消費を前提とするペットショップによる遺棄の問題、ペットショップが病気の犬猫を販売している事例についての紹介がありました。細川氏からは、特にペットショップの規制は弁護士が入っていきやすい分野であるが、これらの問題に対し弁護士が関わっていくには、公害・環境委員会だけで活動するのではなく、高齢者障害者委員会や消費者委員会との協働が必要ではないかとの意見が述べられました。また山﨑氏から、多頭飼育崩壊やペットショップによる遺棄は動物虐待の一種であるが、警察に通報しても捜査されないことへの問題提起もありました。

そしてセンターに収容された犬猫を殺処分しないための取り組みについて吉柳氏からお話がありました。センターではなるべく新しい飼い主に譲渡をしようとしているが、譲渡までには時間や手間がかかり、行政だけでは対応できずボランティアに頼っているという問題があるということでした。

最後に、パネリストの方々から、「人と動物の共生する社会」の実現のためには、動物愛護行政や福祉行政、動物保護団体や獣医師、弁護士や警察などが連携し、お互いの知識を共有していく必要があるのではないかという意見が述べられました。

(5) 閉会挨拶

公害・環境委員会委員長高峰真会員より閉会の挨拶として、持続可能な社会の実現のためには動物と上手く共生していくことが必要であり、シンポジウムで確認できた課題に今後とも取り組んでいきましょうという言葉とともに、福岡県弁護士会がSDGs官民連携プラットフォームに加入したことの紹介がありました。

4 最後に

本シンポジウムには、会場34名、オンライン112名の方にご参加いただき盛況となりました。公害・環境委員会は、今後も残された課題の解決、SDGsの推進に向けて取り組んでいきます。

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