福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2022年5月号 月報
あさかぜ基金だより
月報記事
あさかぜ基金法律事務所 所員 佐古井 啓太(72期)
こんにちは
あさかぜ基金法律事務所の佐古井です。あさかぜに入所して、はや2年が過ぎました。入所当時はこんなに長く福岡にいないと思っていたのですが、あっという間に過ぎる時間にびっくりしています。私の入所当時は6人いた弁護士も、うち4人は既に司法過疎地へと旅立ちました。あさかぜの養成期間は、上限が3年と決まっていますので、私もいよいよ赴任先を真剣に検討しないといけない頃合いです。
あさかぜでは、年に数回、赴任先となる事務所を研修として訪問していますが、今回は、あさかぜから旅立った1人である西原宗佑弁護士が所長をつとめる壱岐ひまわり基金法律事務所を訪問しましたので、その時のことを報告したいと思います。
壱岐ひまわり基金法律事務所
壱岐ひまわり基金法律事務所は長崎県壱岐市にある公設事務所です。壱岐市は人口2万5000人の市で、壱岐島全体で一市を構成しています。壱岐市一市を管轄する長崎地家裁壱岐支部が置かれており、裁判所や市役所のある郷ノ浦は、壱岐島の南西に位置する港町です。郷ノ浦が壱岐の中心部となっていて、壱岐ひまわり基金法律事務所もここにあります。
壱岐島は玄界灘に浮かぶ島であり、福岡市の北西70キロメートルに位置しています。福岡市の博多ふ頭から高速船ジェットフォイルで1時間程度で結ばれていて、長崎県ではありますが、福岡県とも結びつきの深い島です。隣の対馬とは「壱岐・対馬」とセットにされることが多いのですが、壱岐は円形の平らな島で、車で2時間もあれば一周できる比較的小さな島です。対馬は細長く地形も山がちで、端から端まで車で2時間以上かかる大きな島ですから、なんとも対照的です。
離婚事件の多い島
壱岐には、博多ふ頭からジェットフォイルに乗って行きました。船というと遅くて時間のかかるイメージでしたが、ジェットフォイルは、「海を飛ぶ」と形容されるとおりとても速く、時速80キロメートル近くも出るそうです。外海を通るので、時期によっては揺れがすさまじく、船酔いが大変だと聞いていましたから、非常に心配していましたが、この日は海も穏やかで、眠っている間にいつの間にか郷ノ浦港に着いていました。
郷ノ浦港に着いてから、西原弁護士に島を一周案内してもらいました。まずは猿岩。海に突き出た岩が、猿の顔に見えるから猿岩とのことです。海風が吹き付けて少し寒かったのですが、時間が朝であり、晴れていたのでなんともいい気持ちでした。そのあと月讀神社に行ったら、なんとここは神道発祥の地とのことで、こんなところで発祥したのかと驚きました。神社自体は、森の中の傾斜のきつい石段を上った先に小さな社がある、なんの変哲もない神社でしたが、なんとなく厳かな雰囲気のある空間でした。その後も何か所か観光地を周って、最後に原の辻遺跡に行きました。復元された高床式倉庫が建っていたので弥生時代の遺跡なのでしょうが、あたり一面が広大な平野になっていて、いかにも稲作に適した土地だろうなと思いました。聞くと、この辺りは長崎県下第2位の平野だそうで、まさか離島にそんな広い平野があると知ってびっくりしました。遺跡から見える山の上には、博物館があり、ここも大変面白いところだそうですが、この日は時間がなく次回までお預けとなりました。
壱岐をぐるりと周ったあとは、事務所を訪問し、西原弁護士から壱岐での弁護士活動について話を聞きました。壱岐は、福岡市に近いことの影響からか、とにかく離婚事件が多いとのことで、常時何件もかかえているそうです。島には2つしか事務所がないので、いろいろな種類の事件が来るようでしたが、裁判官が月に2回しか壱岐支部に来ないので、期日が集中して入ることになり、準備書面の作成が大変だとの話も出ました。なにより、小さな島なので、「利益相反」が頻繁に生じるということでした。島を移動すると、そこら中に関係者がいるので、心が休まらないという話も聞かされました。なるほど島ならではの問題だなと実感しました。
壱岐は、法テラスの法律事務所が先にできたこともあり、法律事務所といえば法テラスという土地だそうです。そんな中、ひまわりの先代所長弁護士が苦労して築き上げた信用を引き継いでやっていくのは、責任のともなう仕事でもあると思いました。
いよいよ司法過疎地へ!
あさかぜで2年間弁護士をやってきましたが、1人で司法過疎地へ赴任するとなるとまだまだ不安です。それでも、今回、壱岐を訪問して、数多くの事件を抱えながらも、順調に事件を解決している先輩弁護士の頼もしい姿を見て、勇気づけられもしました。私も、いよいよ間近に迫った赴任に向けて、より一層研鑽に励んでいきますので、これまでにも増してのご指導ご援助をお願いします。
また、最後に宣伝ですが、現在、YouTubeの日弁連公式チャンネルにおいて、日弁連ひまわり基金20周年動画として「ここに弁護士がいてよかった(離島・長崎壱岐編)」(https://www.youtube.com/watch?v=C34O71Tvj04)が公開されています。あさかぜから壱岐に赴任した古賀祥多弁護士と西原宗佑弁護士の2人がひまわり基金法律事務所の意義について語っているのでぜひご覧ください。