福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2022年4月号 月報
朝見行弘会員内閣総理大臣表彰記念講演会 ~茶のしずく石鹸訴訟における実務と研究の架橋~
月報記事
消費者委員会 是枝 秀幸(60期)
昨年5月、当会の朝見行弘会員が、2021年度消費者支援功労者表彰の最高賞となる内閣総理大臣表彰を授与されました(福岡県内初の表彰)。
そこで、令和4年2月23日(祝)、福岡県弁護士会会館において(zoom併用)、福岡県弁護士会主催の記念講演会が開催されました。
藤村和正会員と中村啓乃会員が司会をしました。
1 経歴と表彰
朝見会員は、当会会員であるとともに、久留米大学法学部教授、特定非営利活動法人消費者支援機構福岡(CSO福岡)理事長でいらっしゃいます。
弁護士としては、茶のしずく石鹸訴訟等の製造物責任訴訟に関わられており、僭越ながら私も被害者弁護団にて約10年間ご一緒しました。
表彰に関する主な活動実績は次のとおりです。
- 消費者法の専門家として、消費者契約法、製造物責任法等の法制度の研究や大学で講義を通じて消費者保護の法理論確立や人材育成に尽力。
- 福岡県消費生活審議会の会長として、第1次及び第2次の福岡県消費者教育推進計画の策定等に尽力し、消費者行政の推進に寄与。
- 消費者庁消費者安全調査委員会の委員として4年間(第2期及び第3期)にわたり、様々な事案について消費者安全のための原因究明に貢献。
2 会長挨拶と祝辞
記念講演会では、まず、伊藤巧示会長から、朝見会員の製造物責任法等の研究や消費者被害防止の活動を讃えるご挨拶をいただきました。
次に、九州産業大学岡田希世子准教授や当会黒木和彰会員から、祝辞をいただきました。
岡田准教授は、朝見会員から、福岡大学大学院で指導を受けていたそうですが、いつも印象に残っていた言葉が「外に行きなさい」「現状を知らないとダメだ」という現場主義だったそうです。
黒木会員は、朝見会員とは、黒木会員が日弁連の貸金業の金利規制に関する調査で2001年に米国に行く際、朝見会員へコーディネーターをお願いしてからのご縁ということでした。
お二人の祝辞の後は、消費者庁を始めとする様々な団体からの祝辞が披露されました。
3 朝見会員の記念講演
朝見会員からは、参加者へ、これまでの活動に関する講演と感謝の言葉をいただきました。
- 元々は大学人・研究者
朝見会員は、名古屋大学大学院修士課程終了後、1979年~80年に米国留学をされたそうです。
当時、森嶌昭夫教授の指導の下、環境法を研究しており、学部時代は四日市ぜんそくの住民調査に、米国留学中は米国で行政訴訟となっていた湿地保護の現地調査に、取り組まれていたそうです。
そんななか、米国留学中にシカゴで弁護士の集まりがあるということで参加してみたところ、それが製造物責任のシンポジウムだったそうです。
今の我々にとっては製造物責任やその無過失責任は最早当たり前の考え方ですが、1979年当時はとても突拍子のないものに感じたそうです。
そして、民事陪審制度やディスカバリー等、日本と米国で訴訟手続が大きく異なることから、面白いと思い、米国法にのめりこんでいったそうです。
とはいえ、当時は今と違い全てが紙媒体であり、じっくり読むのは帰国後にしようと考え、朝見会員は、環境法の研究の合間に、毎日夜遅くまで図書館であらゆる文献をコピーする毎日だったそうです。
そんな朝見会員も、当時どうしても欲しくてNYの古本屋で買った書籍があり、「Restatement 2nd」という本(米国で異なる内容の各州の法律の共通ルールをまとめた書籍)だそうです。この本は今でも大切に持っているそうで、勝手ながら朝見会員の青春時代を仄かに感じ取れるお話でした。 - 製造物責任法への立法提案「実質的製造業者」
朝見会員は、帰国後、大量のコピーを持ち帰り、製造物責任を研究するようになったそうです
。 しかし、1975年に我妻栄博士を中心とする製造物責任研究会が「製造物責任法要綱試案」を発表した程度で、1980年前半は日本国内で無過失責任である製造物責任に関する学者は少なかったそうです。
それでも研究を続けていたところ、1985年のEC指令により製造物責任法制定の機運が高まりました。
そして、私法学会も1990年のシンポジウムで製造物責任を取り扱うことになり、朝見会員もパネリストとして参加したそうです。
その後、シンポジウムの内容を取りまとめて立法提案をしたそうですが、そこで、朝見会員たちは、責任主体について、「表示製造業者」に加えて「実質的製造業者」についても、提案したそうです。
当時、たくさんの立法提案がなされていたそうですが、この提案は他にはないもので、「表示製造業者」だけでは責任主体から逃れられてしまうことを防ぐために「実質的製造業者」を加えたそうです。
その後、朝見会員は立法担当者へ助言をする等、製造物責任法の成立に関与したそうです。
このようにして、製造物責任法の2条3項3号に、実質的製造業者の規定も盛り込まれました。 - 茶のしずく石鹸訴訟と弁護士登録
製造物責任法の成立は、当時、ニュース等で華々しく取り上げられたそうですが(余談ですが、当時中3だった私も通学時のラジオで製造物責任法施行のニュースが流れたことをよく覚えています。)、その後、特に大きな事件もなく、学者の関心も薄れるなか、朝見会員は研究を続けていたそうです。
2011年5月、茶のしずく石鹸の小麦アレルギー誘発問題が大きく取り上げられると、平田広志会員から朝見会員へ連絡があり、朝見会員が弁護団へアドバイザーとして参加することになり、弁護士として参加すべきだろうということになり、朝見会員は大学の許可を得て10月に当会会員となりました。
ちなみに、弁護団に参加した当初は、言いたいことを理論構築するという研究者のスタンスと、勝つための理論構築をするという弁護士のスタンスの違いに、戸惑いもかなり大きかったそうです。
茶のしずく石鹸訴訟について、差し支えない範囲で紹介すると、販売業者の製造業者性も一応争点になっていたのですが、販売業者が自身を製造業者として表示せずに販売した製造物についても、朝見会員が立法提案した「実質的製造業者」のおかげで、特段問題なく、製造業者性が認められました。
朝見会員は、来年古希とのことですが、今後は、デジタルプラットフォーマー(DPF・要するにamazon等)の製造物責任に関して研究・活動していきたいとのことで、研究意欲はつきないようです。
その他にもご紹介すべきお話はまだ沢山あるのですが、紙面の都合で割愛させていただきます。
朝見先生
4 花束贈呈と閉会
記念講演会終了後は、司会の中村啓乃会員や、茶のしずく石鹸訴訟の事務局長の鳥居玲子会員から、朝見会員へ、花束が贈呈され、閉会しました。
コロナ禍で朝見会員のお好きな祝賀会はお預けになりましたが、刺激的な内容の記念講演でした。
今後も、研究者と実務家を架橋する存在として、朝見会員のご活躍とご健勝を祈念いたします。
花束贈呈