福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2021年9月号 月報
セミナー「この人に聞く コロナ時代に打ち勝つ経営」
月報記事
中小企業法律支援センター 委員 山本 恭輔(71期)
1 はじめに
令和3年7月20日、株式会社タケノ代表取締役・竹野孔氏、エンドライン株式会社取締役・石谷莉沙氏のご両名を講師としてお招きし、「この人に聞く コロナ時代に打ち勝つ経営」との題でご講演いただきました。本セミナーは、「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」の一環として行われたものです(詳しくは後記2をご参照ください。)。本年は、新型コロナウイルス感染症の影響により、エルガーラホール7階中ホールを主会場としつつ、Zoom配信も併用する形で開催されました。
本年は、中小事業者の方々をはじめ、大企業の社員の方、弁護士や隣接士業の先生方などから多数のご参加を賜り、会場参加が約70名、Zoomによる参加が約30名と、合計約100名程度にご参加いただく盛況ぶりとなりました。
本稿では、本セミナーの内容と、本セミナーに関連する中小企業法律支援センターの取組みについて報告いたします。
2 「一斉シンポ」について
中小企業法律支援センターでは、例年、日弁連の要請により、全国の弁護士会と共に「全国一斉中小企業のための無料法律相談会及びシンポジウム」を開催してきました。
中小企業庁は、令和元年より、中小企業基本法の公布・施行日である7月20日を「中小企業の日」としましたので、昨年からはこれに合わせ、7月に「一斉シンポ」が開催されています。本年は、「中小企業の日」当日、7月20日に開催することができました。
伊藤会長の開会挨拶
3 セミナーの内容
本年は、新型コロナウイルス感染症の影響が継続している状況に鑑み、中小企業の方々に実践的にお役立ていただくため、実際にコロナ禍と闘いながら企業の舵を取られている経営者の方々にご講演いただくというコンセプトで、標記のようなタイトルにてセミナーを実施することとなりました。
私も参加のうえ拝聴して参りましたで、以下にそれぞれのご講演内容を私の雑感と共にまとめさせていただきます。
(1)第1部(竹野氏ご担当)
第1部は、「博多ぐるぐるとりかわ」などが人気の居酒屋「竹乃屋」をはじめ、福岡県を中心に12業態44店舗を展開する飲食チェーン、株式会社タケノの竹野孔社長にご登壇いただきました。テーマは、「コロナ時代に打ち勝つ経営」です。
同社は、酒類を提供する飲食事業を中心とするため、やはりコロナ禍で業績は大きく落ち込んだとのことです。竹野氏は、誰にも答えが見えず、勘に頼らざるを得ない意志決定の連続であったとこれまでのコロナ禍を振り返りました。その中で、竹野氏が改めて思ったこととして、①内部留保と金融与信による事業継続力の強化②お客様、ご縁のある方の支え③業態と業種の多角化によるリスクヘッジ④事業継続計画(BCP)の策定等による危機管理といった4点の重要性を挙げられました。
このうち、③の「多角化によるリスクヘッジ」については、株式会社タケノでの取組みをかなり具体的にご紹介いただき、掘り下げてくださいました。同社は、竹野氏のモットー「完璧よりもスピード」にのっとり、この一年でなんと6つの新規事業を立ち上げたそうです。元々の主軸であった店舗事業、店舗事業に付随した農業事業に加え、通販事業、催事事業、食物販事業、発酵食品事業、FC事業、ヘルスケア事業を立ち上げることで、コロナ禍に対応できる多角化体制を目指されていることが理解できました。元来事業の中心であった店舗事業についても、売上げの苦戦による撤退だけでなく、コロナ禍の中、過去最多の出店計画を立てており、本年上半期だけで9店舗をオープン済みで、以降も16店舗をオープン予定とのことです。このお話を最初に伺った際には、コロナ禍の影響で赤字が拡大するかもしれない中、積極路線をとることに驚きました。しかし、竹野氏からは、スクラップアンドビルドによる事業の再構築であるとの説明があり、コロナ禍への対応、そしてその先を見据えた経営戦略なのだと得心いたしました。
最後に、「人生もビジネスもご縁、出会いで決まる」「挑戦すれば答えは二つ 成功か学びか」の二言と、「まだまだ当社は大変な状況だが、この挑戦の答えは1年後に出る。挑戦しなければ失敗はないが、成功も学びもない。」という熱いメッセージにて、セミナーは締めくくられました。
全体を通して、コロナ禍で苦境に立たされながらも挑戦を続ける竹野氏の姿勢が印象的で、聴いているこちらも前向きになることができるセミナーでした。このようなセミナーで、コロナ禍で試行錯誤する企業の実態を知ることは、企業と接する弁護士業務にも役立ちますし、竹野氏の経営に関する視点は事務所経営にも活きてくるように思われます(「完璧よりもスピード」などは、何事もつい二の足を踏んで後回しにしがちな私にとって胸に刺さるお言葉でした。)。竹野氏は、終始ユーモアを交えながら語る一方で、お世話になった方とのご縁の話題になるとやや感極まられるなど、まさに笑いあり涙ありのセミナーになり、会場も非常に盛り上がっていた印象でした。
コロナ禍の振返りをされる竹野氏
(2)第2部(石谷氏ご担当)
第2部は、エンドライン株式会社取締役の石谷氏に講師をご担当いただき、「コロナに打ち勝つ 超アナログ会社のDX実践術!!」をテーマにセミナーが行われました。「DX」とは、Digital Transformationの略で、ITの浸透が人々の生活をより良いものへと変化させるという概念のことです。
エンドライン株式会社は、「モリアゲアドバイザー」をキャッチコピーに、住宅・工務店・各種店舗の集客サポートや、スポーツ会場の装飾などを手掛ける会社です。石谷氏は、今回のセミナーでもまさしく「モリアゲアドバイザー」として、同社商品であるのぼり旗を背負って登壇され、会場は大いに沸きました。
同社は、かつてはあらゆる資料を紙媒体で管理し、人事評価は社長次第という「超アナログ会社」だったそうです。しかし、書類の管理が負担になること、出張・外回りで業務が滞る不便さから、ペーパーレス化などITを活用した業務改善を平成29年頃からスタートさせました。その結果、昨年の新型コロナウイルス感染症の流行を受け、昨年4月・5月を完全在宅勤務にするなど、スムーズにコロナ禍に対応できたということでした。
セミナーでは、エンドライン株式会社でのDXに関する取組みを、具体的に多数ご紹介いただきました。一例を挙げると次のとおりです。
- 社内コミュニケーション
会議をオンライン化することはもちろん、次のように在宅勤務に対応している。- 社員各自のスマートフォンからの発信で会社の電話番号を相手に通知し、電話代は会社に請求されるアプリを活用する→在宅でも電話対応が可能に。
- 在宅での業務依頼・管理依頼には、内容と期日が表示されタスク管理が可能になるアプリを利用。
- 様々なデザインの「サンクスカード」を贈りあうアプリの導入→社内コミュニケーションが希薄になるという在宅勤務の難点を緩和。
- 営業活動
商談のオンライン化、電話代行や名刺管理アプリの活用をはじめ、営業資料をクラウドで共有するなどしている。 - 勤怠管理
システム上で出社退社の打刻ができ、残業・有給申請にも対応したアプリを導入し、在宅勤務に対応している。 - 経費申請
領収書をスマートフォンで読み取って経費申請ができるアプリを活用している。 - 人事評価
評価のポイントを決定して公開し、各々のポイントについての従業員の自己評点、評価者による評点と評価の理由を相互に「見える化」することで、在宅でも公平な評価を実現している。
以上のほか、SNSによる情報発信についても簡潔にご紹介がありました。
ITの導入に関する話題でしたが、石谷氏は、まったく小難しくなることなく、全体を通して明るく楽しくお話してくださいました。内容としても、機能が完成されたアプリをインストールして運用するという取り組みやすいものが多く、IT化の遅れが指摘されている弁護士にとっても、大変役立つセミナーだったと感じました。個人的には、「IT化=効率化」というイメージを持っていましたが、人事評価をIT化することで公平さを担保できるといった視点が特に興味深かったです。
のぼり旗を背に講演される石谷氏
4 セミナー終了後のイベントについて
本セミナー終了後には、質疑応答が行われました。竹野氏にはメニュー開発やマーケティングの裏側、石谷氏にはIT化の際の社員からのハレーションなど、踏み込んだ内容にもお答えいただき大変ありがたかったです。
その後、株式会社日本政策金融公庫の中嶋氏より、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」につきご案内いただきました。
当会からは、当会の本年5月27日付け「中小企業・小規模事業者の経営を支援することにより、経営者、従業員とその家族の生活、取引先の経営を守る宣言」を紹介し、セミナーは閉会となりました。
セミナー閉会後は、無料法律相談会が開催されました。会場には4つのブースが設置されていたところこれが満席となり、Zoomでも4件の相談をいただくなど、多くの方々が活用してくださいました(私も法律相談員を担当させていただき、とても勉強になりました。)。
5 おわりに
以上のとおり、本セミナーは、中小事業者の方にとっても弁護士にとっても、大変有意義なものになったのではないかと考えております。
私自身も、本セミナーで得た知見を活かして、今後の中小企業支援に還元していきたいと考える次第です。
満席の会場の様子