福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2021年9月号 月報

よりよい高齢者支援とは?

月報記事

消費者委員会 委員 川渕 春花(72期)

第1 シンポジウムの概要

令和3年7月17日、弁護士会館及びウェビナー併用にて「地域共生社会と消費者の安全~地域社会は、高齢者一人ひとりを取り残さないケアが可能か~」と題して、第63回人権擁護大会プレシンポジウムを開催しました。

筆者は、シンポジウムを主催した消費者委員会の委員であり、当日の司会進行役を務めましたので、その立場から見た本シンポジウムの様子についてご報告いたします。

本シンポジウムでは、東京大学名誉教授の上野千鶴子先生によるオンライン基調講演を行いました。著名な上野先生のご講演ということで、当日は、法曹関係者のみならず市民の方々にも多数ご参加いただきました。

第2 シンポジウムの趣旨説明

まずは冒頭、藤村元気弁護士より、高齢者社会の進行及び高齢者の消費者被害の件数が多い現状に鑑み、高齢者のケアについて考えるという本シンポジウムの趣旨説明がなされました。

第3 上野千鶴子先生の基調講演

続いて、上野先生のオンライン講演(「賢い消費者になるために~当事者主権の福祉社会へ~」)を行いました。

上野先生からは、「当事者主権」をキーワードに、よいケアの最終判定者は当事者である高齢者本人にもかかわらず、高齢者本人(介護される側)を対象とした研究が進んでいないことの指摘、そして、実際に独居高齢者の在宅医療・在宅看取りを可能にしたケースをご紹介いただきました。

なかでも、高齢者ケアとは、決して現・高齢者だけの問題ではなく、"自分が高齢者になった時にどのようなケアを受けたいか"というどの世代にも通じる問題であるとのご指摘が非常に印象的でした。

第4 自治体からのご報告

続いては、福岡県・久留米市・大牟田市より基調報告をいただきました。

  1. 最初は、福岡県人づくり・県民生活部生活安全課消費者安全係長の石川正洋氏より、高齢者・障がい者の消費者被害の現状と特徴にふれたうえで、消費者安全確保地域協議会の設置状況を示し、春日市での取組について具体例をあげてご説明いただきました。
  2. 次に、久留米市健康福祉部地域福祉課長吉塚哲氏より、久留米市の取り組みをご紹介いただきました。久留米市が行う重層的支援会議・支援会議はオンラインを利用して開催され、この支援会議では、本人の同意がなくても守秘義務のもとで個人情報の共有ができるそうです。
  3. 最後に、大牟田市保健福祉部福祉課・総合相談担当課長の松枝芳昭氏より、大牟田市の包括的支援体制構築事業についてご報告いただきました。企業の人手不足問題と地域とのつながりづくりを組み合わせる取組として、宅配におけるラストワンマイルの配達を、小規模多機能型居宅介護施設の利用者が可能な限り手渡しで行う等の取り組みが紹介されました。
第5 パネルディスカッション

休憩をはさんだ後半は、司会進行を是枝秀幸弁護士にバトンタッチしまして、後半のメインイベント、上野先生、大牟田市の松枝氏、消費生活相談員の青峰万里子氏、消費者委員会委員の桑原義浩弁護士によるパネルディスカッションが行われました。

前半の基調講演でフォーカスされた、高齢者本人が意思決定の主体であることと、第三者が介入して消費者被害から高齢者を守る法的制度(成年後見人の契約取消等)との対比が気になるところでしたが、桑原弁護士が挙げられた成年後見の具体例が呼び水となって活発な議論が行われ、聴き応え抜群のパネルディスカッションとなりました。

パネルディスカッションの後は、時間の許す限りで質疑応答を行い、本シンポジウムは無事閉会いたしました。

第6 最後に

本シンポジウムでは、高齢者にとって良いケアは何かという観点及び高齢者を狙う消費者被害の防止という観点から、今後の高齢者支援のあり方について検討を行いましたが、いずれの観点からも周囲の見守り及び情報の共有が非常に重要であることが度々指摘されました。

弁護士は、特に成年後見人として、高齢者の見守り・情報の共有の一翼を担う立場にあります。既に進んでいる自治体や医療・介護分野の取り組みにアンテナを張りながら、よりよい高齢者支援のあり方を常に模索し、アップデートしていく必要があることを実感しました。

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