福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2021年2月号 月報
ジュニア・ロースクール2020in筑後
月報記事
法教育委員会 委員 渡部 裕太郎(71期)
1 はじめに
令和2年11月29日、福岡県弁護士会筑後部会会館において、「ジュニア・ロースクール2020in筑後」がZoom開催され、筑後地域の中高生13名にご参加いただきました。筑後部会法教育委員会では、例年、筑後地域の中高生を対象としてジュニアロースクールを開催しておりますが、コロナ感染対策のため、今回は初のZoom開催となりました。
そこで、本稿では、当日の様子等を、Zoom特有の技術的な観点を交えながらご報告させていただきます。
2 会場選択
会場選択について、当初は、臨場感を持たせるため、久留米大学の模擬法廷において弁護士が模擬裁判を実演し、その様子をZoomで中継することを検討していました。しかし、久留米大学では、Wi-Fiが使用できなかったため、Wi-Fiが使用できる弁護士会館が選択されました。
3 当日の流れ
(1) 題材
今回は、殺意の有無が争点となる刑事事件が題材であり、事案は、被告人が、自分の交際相手を略奪した被害者の腹部を果物ナイフで刺してしまったという殺人未遂事件でした。なお、登場人物は、某国民的漫画がモチーフとなっています。
被告人の言い分は、話し合いをするために交際相手の自宅を訪問したところ、被害者が出てきた。被害者は、「お前のものは俺のもの」「お前のくせに生意気だ」等と威圧をしてきた。そこで、被害者を怖がらせるため、台所に置いてあった果物ナイフを手に振り下ろしたところ、被害者の右腕を傷付けてしまった。それに怒った被害者が憤慨して近付いてきたため、被害者を遠ざける目的でナイフを前に差し出したところ、腹部にナイフが刺さってしまった。ナイフの近くには万能包丁も置いてあったが、包丁はさすがに危ないと思ったのでナイフを選んだ等というものでした。
(2) 模擬裁判
弁護人、被告人、検察官、被害者、目撃者、裁判官の役に扮した弁護士が、人定質問から被告人質問までの流れを実演しました。また、技術的な面では以下のような工夫を行いました。
① 「法廷の様子カメラ」の活用
実演にあたっては、弁護人席、検察官席、裁判官席及び証言台の上にZoomにログインしたパソコンをそれぞれ設置し、各担当者がカメラの前でセリフを話しました。また、証言台パソコンの前では、犯行状況の再現等も行いました。
もっとも、それだけでは、基本的に各弁護士の顔しか見えず、臨場感に欠けるため、Zoomにログインしたスマートフォンを「法廷の様子カメラ」として使用し、生徒が全体の様子も見ることができるような工夫しました。
また、集音の方法ですが、各パソコンのマイクをオンにしてしまうとハウリングが生じるため、「法廷の様子カメラ」用のスマートフォンでの集音に一元化しました。
模擬裁判の様子
Zoomの画面(証人尋問の様子)
② 「チャット機能」の活用
模擬裁判を見ながら生徒が疑問に感じたことをその都度質問できるよう、チャット担当の弁護士を配置しました。また、参加生徒には、資料を事前に送付していましたが、紛失や不足の可能性もあるため、チャット上に資料のデータをアップするようにもしました。
(3) グループディスカッション
模擬裁判を見た後、生徒は4つの班に分かれ、裁判官の立場で殺意の有無と量刑を検討するための議論を行いました。
議論にあたっては、Zoomの「ブレイクアウトルーム」機能を活用し、班のメンバーだけで議論ができるようにしました。そして、各班には、担当弁護士が1名参加し、議論の進行を行いました。
議論の様子についてですが、どの班でも活発な議論が行われました。当初、対面でなければ発言に消極的になるのではないかとの懸念がありましたが、それば杞憂でした。
私が担当した班の生徒達は、「ナイフを使ったからといって安易に殺意を肯定してよいのか」という疑問から出発し、攻撃の回数、被害者の行動、被疑者と被害者の関係性、凶器の選択等の観点から事案を深く分析することができていました。その結果、被害者の行動が原因で偶発的にナイフが刺さった可能性がある。被告人は昔から被害者にいじめられていて、強く反抗できない立場にあり、殺意までは抱かないのでないか。殺意があれば、ナイフでなく包丁を選択するのではないか、何度も攻撃を加えるのではないか等の理由で「殺意なし」と判断し、傷害罪で懲役2年という結論になりました。
また、議論は、予定されていた45分をほとんど全て使い切りました。
<6>(4) 各グループの「判決」の発表6>4班あったうち、殺意ありが2班、殺意なし2班で結論が2分されました。
また、班によっては、執行猶予を付けるか否かについても深く議論したところもありました。
4 さいごに
Zoom開催は初の試みでしたが、特段のトラブルなく、無事に成功で収めることができました。参加生徒達からのアンケートも好評で、特に、被害者役の先生の演技力は大好評でした(松﨑先生、本当にありがとうございました)。
また、ジュニアロースクールに限らず、今後、Zoomは他の弁護士会の活動にも活用できるのではないかと感じました。
最後に、Zoom開催にあたって、ご尽力していただいた先生の皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。