福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2020年5月号 月報
2019年度高度専門研修「ファッションに関する法律問題」ファッション・ローってどんなもの?
月報記事
研修委員会
1 はじめに
研修委員会では、毎年、各分野において活躍される方による研修を企画しています。2019年度は、2020年2月7日に、第二東京弁護士会所属の弁護士海老澤美幸先生をお招きし、「ファッション・ロー」についての研修を開催しましたので、ご報告します。
2 ファッション・ローとは
講師の海老澤先生は、自治省(現 総務省)を経て、出版会社に入社し、その後ロンドンにてスタイリストアシスタントとなり、日本においてもフリーランスファッションエディターとして活躍された後、法科大学院を経て弁護士登録されたという、まさにファッションの実務も法務もすべて網羅しておられるご経歴となります。
海老澤先生からは、イントロダクションとして、ファッションブランドをめぐっては、生地屋・縫製工場、ショールーム・小売店、PR会社、モデルエージェンシー・ファッションモデル、デザイナー、経営者、投資家などなど様々な立場の人・会社が関係していることや、ファッションブランドの立ち上げから商品の販売までには、ブランド名やロゴが決定すれば商標、商品デザインの検討にあたっては意匠・ライセンス・著作権・不正競争防止法、商品製造となれば業務委託・OEM・製造物責任・下請法、宣伝段階になれば業務委託・著作権・広告表示規制、販売段階になれば、代理店とのライセンス・業務委託・景品表示法・個人情報保護法・GDPRなどなど様々な権利関係、法律が関係することをご説明いただきました。
3 コピー商品
(1) コピー商品といえるか
ファッションをめぐる権利関係において大きく問題になるのが、コピー商品です。コピー商品を規制する法律としては、まず意匠法が挙げられますが、意匠法は、登録に時間とお金がかかる等の理由から、ファッション業界では、靴・バッグアクセサリー・スポーツ用品等の中でも、長く販売を予定している商品を除き、あまり使われていないとのことでした。
次に、商標については、「フランク三浦」は登録商標「FRANCK MULLER」と類似していないと判断された訴訟(知財高裁平成27年(行ケ)第10219号平成28年4月12日判決)など、ニュースにもなった有名事件を題材にご説明いただきました。
さらに、不正競争防止法があります。特に、同法において規制されている「模倣」(同法2条5項 この法律において「模倣する」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。)について、実際の裁判例で問題となった商品の写真を引用しながら、詳細にご説明いただきました。
そのひとつが、(14)ザ・リラクスが(14)ザラ・ジャパンを相手取り、「ザラ(ZARA)」が「ザ・リラクス」のコートの形態を模倣し販売したことが同法上の不正競争行為に当たるとして、損害賠償を請求した訴訟(東京地方裁判所平成30年8月30日判決)について、裁判所は、まず全体を見た印象を判断し、その次にディテールを見ることで、全体として同一といえるかどうかを判断しているという判断過程のご説明と共に、ディテールの見方を具体的に教示いただきました。
また、(14)アイランドが(14)オフィスカワノを相手取り、(14)オフィスカワノの販売するワンピース等7点が、(14)アイランドの商品を模倣し同法上の不正競争行為に当たるとして損害賠償を請求した訴訟(知財高裁平成30年(ネ)第10058号平成31年2月14日判決)を参考に、色違いが実質的同一性の判断に影響を与えるかのご説明がありました。
(2) コピー商品を販売しないためには
海老澤先生によれば、コピー商品を販売してしまう事態を予防するためには、以下のような方策が効果的であるとのことでした。
- 商品化される商品のデザインが作成されたときには、チャットツールなどを利用して、できるだけ社内でより多くの人の目に触れるようにして、誰かが「あの商品に似てるな」と思うようならばやめておく。
- Googleの画像検索機能を活用して、意図せず似ている商品が既に販売されていないかなどを検索する。
4 契約について
(1) OEM契約
OEM契約について、発注者としては、特に以下の点を注意すべきとのことでした。
- 発注者が製造者に支給する支給品についても、第三者への譲渡禁止や、契約終了後の回収もしくは廃棄を義務付けておくほうがよい。
- (服飾業界に限りませんが)長年契約書なしに取引をしている当事者間において改めて契約書を作成する際には、「本契約締結以前に何らの合意・慣習等が存在しないことを確認する。」といった文言を入れることや、契約書において「書面にて通知する」とされている場合の書面には、「メール、LINE、メッセンジャー等の文面も含む」としたほうがより明確となる。
(2) インフルエンサー業務委託契約
インフルエンサーが企業から商品の宣伝依頼を受ける際に締結している業務委託契約については、基本的に企業側に有利に作成されているが、インフルエンサーとしては、特に以下の点に注意すべきとのことでした。
- 知的財産権はすべて企業側に譲渡する必要があるのか(企業側に使用を許諾することで目的は達せられるのではないか。)
- 契約期間終了後も競業避止義務を設ける必要性があるのか、許容できるのか(契約期間内に限ることで足りるのではないか。)
- 成果物が第三者の知的財産権その他の権利を侵害していない旨を保証する条項がある場合、保証義務の内容が無制限になっていないか(日本国内にしぼる必要はないか、「知る限り」と入れる必要がないか等。)。
- ショールームに対して独占的に販売委託する内容となっていないか。
- 契約期間中に解約した場合、残りの期間の委託料を全額支払う内容となっていないか。
- ショールームへのロイヤリティとして、「ブランドが販売した製品の売り上げの10%をショールームの取り分とする」などと、当該ショールームが関与していない売上もロイヤリティの計算対象とされていないか。
(3) 海外ショール―ムとの独占販売委託契約
ショールームとは、様々な形態がありますが、一般的には期間限定で商品のPR、販売(小売店も含め関係者向け)等を行う会社を指します。
服飾会社が海外のショールームとの契約を締結する際に注意することは種々ありますが、例えば、以下の点に注意すべきとのことでした。
5 そのほか
そのほか、ファッション業界をめぐる投資契約や、労働関係、SNS炎上対策、ECサイト関連、セレブ写真のリポスト、ステルスマーケティング、モデルのWell-Beingについても、盛沢山なレジュメをご準備いただきました。
時間の都合上、すべてを詳細にご説明いただくことまでは難しかったのですが、レジュメは永久保存し、今後の業務において実際に事案に接したときにまずは読みたいと思う記載ばかりでした。
6 最後に
今回の研修は、会員以外にも、ファッションを学ぶ大学・専門学校に参加を呼びかけ、多くの方にご参加いただきました(会員以外の方もご参加いただくことから、会務上の企画の種別としては、研修ではなく、講演会・シンポジウムとなっております。)。
研修委員会においては、はじめて会員と会員以外に向けた専門研修を行ったのですが、今回の研修を終えて、研修の内容によっては、会員以外にも受講の需要があることが分かりました。
もちろん、会の研修ですから、会員が求める研修を行うことが前提ではありますが、内容によっては、会員以外にも参加を呼び掛けることを検討してもいいのではないかと思う今日この頃です。