福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2020年1月号 月報

第19回情報ネットワーク法学会の報告

月報記事

IT委員会委員 後藤 大輔(63期)

【はじめに】

去る令和元年11月2日・3日に、関西大学千里山キャンパスにて開催された第19回情報ネットワーク法学会に参加してきましたので、報告します。

今年度の情報ネットワーク法学会では、開催地である関西大学の河田惠昭教授による基調講演(「国難災害が起これば破綻する災害関連法」)を皮切りに、2日間の開催期間中に11の分科会と14の個別報告が行われました。メインコンテンツともいうべき分科会ではAIやロボット法、eスポーツといった近年社会の関心の高さが伺える話題や、個人情報保護法制、ヘイトスピーチ、プロバイダ責任制限法やシステム開発紛争など、弁護士業務との高い関連性が伺われる分野に関して最先端の議論が繰り広げられ、大いに知的好奇心を掻き立てられる内容でした。ここでその全てを語りつくすにはとても紙面が足りないため、本稿では個人的に特に関心が深かった部分に絞っての報告とさせていただきます。なお、報告内容の紹介に関しては、専ら私の理解不足を原因とする不正確な標記が存在するかもしれませんが、その点はご容赦頂ければと思います。

【1日目の分科会】

学会1日目は、上でも紹介した河田教授の個別報告の後、第2分科会「eスポーツの法律問題」と第3分科会の「ヘイトスピーチ規制の着地点」を聴講しました。ここではそのうち、第2分科会の「eスポーツの法律問題」について報告をしようと思います。

この分科会では、弁護士以外にも日本のゲーム産業史を研究されている大学教授や、実際にプロチームの監督業を行っている元プロゲーマーの方、プロゲーマー育成事業を行う専門学校の方などを報告者として、それぞれの立場からeスポーツの歴史と現状、今後の問題点などを切り取り、解説を加えるというものでした。

まずは、ゲーム産業史からの観点として、日本がゲーム先進国でありながら昨今のeスポーツの流れに乗り遅れた理由についての考察(日本ではコンシューマーとアーケードが発展した一方、eスポーツはPCゲームから発展していったこと)が紹介され、個人的には膝を打つ内容でした。また、プレイヤー育成の面では、ゲーム技術だけではなく人間力(!)が必要とされること、そのために毎日の挨拶や筋トレ、メンタルトレーニングや英会話(海外大会への参戦を視野に入れて)を取り入れているという報告があり、昔ながらのゲームマニアという印象を持っていた自分にとっては目から鱗の内容でした。

監督業との関連では、チームとプレイヤーとの間の業務委託契約に関して契約期間についての現場感覚(3か月毎更新とすることが多く、これでも長いと言われることもある、等)や、プレイヤーの移籍に関して問題に直面することが多いという話を伺うことが出来ました。プレイヤーは大会出場や実績のためにチームに所属するが、同時にチーム内での役割分担を課せられることにもなり、その両立が難しい(チーム内での負担が自身のスキル向上につながらない場合もある)と短期間でも退団という話になる(あるいは引き抜かれる)という話は、実力重視を地で行く話でもあり、制度整備が追い付いてないなと感じる部分でした。

その他、弁護士サイドからは、プレイヤーに関連する契約(選手契約やスポンサー契約、用具提供契約、コーチ指導契約、ライセンス契約、マネジメント契約等々)についての簡単な説明や、特有の法律問題(誹謗中傷対策や、未成年との契約が多くなることとの関係でのゲームのレーティングの取扱いや依存症対策)、eスポーツにおける「プロ資格」の意味合いと獲得賞金額との問題、移籍制限と独禁法違反との関係について)についての議論状況を知ることができ、大変有意義でした。

【2日目の個別報告及び分科会】

2日目ですが、午前中の個別報告では「訴訟記録閲覧の権利化による閲覧情報拡散の抑止」と「デジタルアイデンティティとデータ保護法制に関する一考察」、並びに「「信託としてのプライバシー論」の理論的前提-新たなプライバシー権論に向けた理論構築」を選択し、午後からは第6分科会「セキュリティ要件におけるベンダ・ユーザーの責任分界点~ハッキング事故の分析を通じて~」と第9分科会「プロバイダ責任制限法研究会:デジタルプラットフォームとプロバイダ関連法」、第11分科会「利用規約とプライバシーポリシー~企業の立場から関連施策を考える~」を聴講しました。

個別報告はいずれも興味深い内容だったのですが、ここでは特に信託としてのプライバシー論について少し紹介をします。話の骨子としては、例えばインターネット上のサービスに関して「第三者提供への同意を求める利用規約・プライバシーポリシーの存在」→「利用者はそれらの規約類を読まないが、同意しないとサービスを使えないので規約への同意はする」→「情報管理者が、受けた同意に基づき個人情報を第三者提供する」→「第三者提供に伴い漏えい等の問題が生じる」といったケースで、漏えいさせた第三者に責任追及できないかという問題点に対し、同意の有無(自己情報コントロール権)の問題ではなく信託類似の理論(信認義務)で解決しようと試みるものであり、まさに実務と理論の架橋というべき流れだなと感じたところでした。

午後からの分科会については、第9分科会の内容を簡単に紹介します。この分科会では、まず名誉権侵害に基づく削除請求に関して、近時話題になった最判H29.1.31以降の裁判例の流れが紹介され、次にログイン型投稿(twitterやinstagram)における開示請求の状況に関する流れが紹介されました。余談とはなりますが、その議論の流れで、海外プラットフォーマーに対するディスカバリー制度活用の話が聞けたのは、収穫だったと考えています。その他にも、SNS上のいわゆる企業アカウントの運営に関する大阪高判H31.3.27の紹介や死者の情報・契約上の地位の承継についての話を聞くことができ、まさに最先端の議論が展開されていました。個人的には、最判H29.1.31以降の最高裁の判断枠組みの中でいわゆる「明らか」要件の検討を行うにあたり、プラットフォーマーの性質(情報流通の基盤といえる存在か否かで)次第で要件該当性判断を変えるというのは、ギリギリ理解できなくもないですが、実際の事案で問題となっているプラットフォーマーをどう捉えるかというあてはめの段階における裁判所の判断には甚だ疑問を感じているところです。

【おわりに】

学会で得ることのできた情報は、日頃の業務に従事するだけでは到底キャッチアップできない情報ですし、他方で個人的にも興味を持っている分野に関する最先端の情報でした。そして今回、私が学会に参加する機会を得たのも、所属委員会であるIT委員会の委員の方々からの勧めがあったことによる部分が大きかったと考えております。本稿の内容に多少でも興味を持たれた会員の方は、ぜひともIT委員会への委嘱を希望してみてはいかがでしょうか。

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