福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2020年1月号 月報
高齢者・障害者総合支援センター「あいゆう」研修報告
月報記事
会員 郷司 佳寛(71期)
1 はじめに
去る令和元年11月20日(水)午後1時から、福岡県弁護士会館2階大ホールにおいて、令和元年度「あいゆう」研修が開催されました。
近年、福岡県内でも豪雨災害などの大規模災害が多発し、災害時における高齢者・障害者の方などの要支援者に対する支援が喫緊の課題となっております。そこで、今年度の本研修は、「避難行動要支援者に対する支援」をテーマに、「避難行動要支援者名簿」の制度の紹介や活用事例の報告などが実施されました。
2 避難行動要支援者名簿制度について(第1部)
第1部では、福岡市市民局防災・危機管理課の小田素久さんを講師にお迎えし、「避難行動要支援者名簿制度について」と題し、同制度の紹介をしていただきました。
まず、避難行動要支援者名簿は、災害対策基本法により、市町村長に作成義務があるもので(同法49条の10第1項)、この名簿には要支援者の氏名、生年月日、性別、住所又は居所、電話番号その他の連絡先、避難支援等を必要とする事由などが記載されます(同条2項)。この名簿に記載される避難行動要支援者は、福岡市地域防災計画によると、(1)移動することが困難な者、(2)日常生活上、介助が必要な者、(3)情報を入手したり、発信したりすることが困難な者、(4)精神的に著しく不安定な状態をきたす者、とされています。
作成された名簿は、避難行動要支援者本人の同意を得て、避難支援等関係者(校区・地区自治協議会等、校区・地区社会福祉協議会、民生委員、児童委員)に提供され、電話等での安否確認や避難所までの避難支援の際にの活用されることになります。福岡市で同意が得られているのは、名簿登録者(36、000人)の約4割に過ぎず、同意文書へ返信をしていない方が約5割、提供を拒否された方が約1割いるとのことでした。
3 避難行動要支援者名簿の活用について(第2部)
(1) 事例紹介(1)
第2部の事例紹介(1)では、福岡市西区金武校区より、同校区自治協議会の藤内寛幸さん、同校区自主防災会の倉光利博さん、同校区社会福祉協議会井長京子さん、西区金武公民館の西知加子さんより、金武校区の名簿の活用事例の紹介をしていただきました。
金武校区は、平成29年10月16日に校区防災会議予備会議を開催し、避難行動要支援者名簿の活用を検討する機会を西区内でいち早く設けたそうです。具体的には、各種団体の連携の機会を設けることや、避難行動要支援者を見守るためのマップを作成し、町内の状況が目で見て分かり、情報の共有がしやすい環境の整備を実施しているとのことでした。
その後、平成30年7月5日から6日にかけての豪雨災害では、初めて避難所の運営や要支援者の避難誘導を経験したそうです。このときは、自主防災会を組織したものの、災害時には各種団体との連携が上手くいかないことや、避難行動要支援者の把握はできていたものの声掛けのタイミングに苦慮し、避難しないといった住民の方もいたこと、などの課題が見つかったとのことでした。そのため、「金武校区よかネット」を立ち上げ、校区内の介護事業所等と地域とが連携し災害時の情報共有や対応などを協議する機会を設けたそうです。また、名簿の活用についても、金武方式として、各町内会・自治会別に連絡網を作成し、名簿に登載されていないが支援が必要と思われる世帯も色を分けて記載するなどの工夫をされているとのことでした。
(2) 事例紹介(2)
第2部の事例紹介(2)では、福岡市社会福祉協議会・地域福祉課の小山浩俊さんを講師に迎え、福岡市社会福祉協議会での取組みについて紹介していただきました。
社会福祉協議会はふれあいネットワーク(見守り活動)やふれあいサロン(閉じこもり予防、孤立予防)といった様々な地域の活動の支援をされており、社会福祉協議会での名簿の活用支援の代表例についても紹介していただきました。
まず、地域の関係団体が集まって座談会やワークショップを開催し、地域の現状や課題を地域で共有することから始めるとのことです。そして、地域で情報収集をして見守りが必要と判断した名簿と、行政が把握した名簿では齟齬が生じていることがあるため、これらの情報を突合し、より詳しい地域の情報を集め、情報共有を図るとのことでした。その後は、把握した情報をもとに、要支援者の居所を地図上に印をつけ、「誰が」「誰を」支援するのか具体的に決めて、支援者と要支援者とを地図上に矢印を付けることで、地図を用いて一目で支援体制を把握することができるとのことでした。その後は、この体制がどれほど機能するのかを検証するため、災害時を想定した安否確認訓練を繰り返し、臨機応変に対応ができるように準備をしている校区が多いとのことです。
4 パネルディスカッション(第3部)
第3部では、第1部と第2部の講師の方々のほか、岡直幸会員が加わり、「避難行動要支援者等の支援のあり方と問題点について」と題して、パネルディスカッションをしていただきました。
岡会員から、骨折をした場合や足を切断した場合には、災害時に支援していただけるのかという疑問が投げかけられました。避難行動要支援者名簿は、福岡市の場合には身体障害者手帳を持っているなどの要件を設けているため、名簿に載ることはなく公助は期待できないとのことでした。また、足を切断した場合には、名簿への登録は可能ですが、年に1回しか更新されず、6月に名簿が避難支援等関係者の手元に渡るため、支援を受ける側も地域の行事などに参加するなどして、普段から地域と方々と顔の見える関係づくりをすることが大事であるとのことでした。
また、地域の活動では、名簿に載っていないが、支援が必要と思われる方の個人情報について、扱いが難しいという悩みがあるとのことでした。地域ごとの取り組みとして、個人情報の手引きを作成し情報を共有する範囲を事前に決めているて校区や、事前に校区版の同意書を作成し一人一人同意を取っていく校区もあるとのことでした。また、ボランティアなどの協力者の高齢化の問題もあり、支援の担い手を探すことも課題であるが、どういった支援ができるか具体的に決めて参加を集えば、それくらいならできると考えて手を挙げてくれる方もいるとのことで、校区ごとの工夫も紹介されました。
5 おわりに
私は、今回の研修を受け、避難行動要支援者名簿という制度があることや、地域の各種団体等が避難行動要支援者として様々な準備をしていただいていることを知ることができ、非常に勉強になりました。講師をしていただきました方々には、改めてお礼申し上げます。