福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2019年12月号 月報
紛争解決センターだより
月報記事
紛争解決センター運営委員会副委員長 渡邊 洋祐(52期)
今回は、当職が申立代理人として関与した事案についてご紹介させていただきます。
事案の内容は、一戸建ての家屋の建物明渡し請求ですが、当職は、賃貸人の代理人として、あっせん・仲裁申立てを行いました。
賃貸借契約は10数年前に2年契約で締結され、その後、自動更新を繰り返しておりましたが、賃貸人は、県外で家族と離れて働いている80代の男性で、高齢である上、食道がんを患っている状況であったため、本件建物で家族と一緒に暮らしたいとして、当職が委任を受ける前の段階で、自ら賃借人に対して解約通知を送付し、明渡し交渉を行っておりました。
しかしながら、当事者同士の交渉では解決の糸口が見出せなかったため、当職が建物明渡しの依頼を受けることとなりました。
本件においては、賃貸人に建物の自己使用の必要性が認められ得ると考えられたことや、受任前のやりとりにおいては、賃借人は賃貸人の提示する条件での明渡しに抵抗を示してはいるものの、明渡しそのものを頑なに拒絶している様子でもなさそうであったことから、当初から訴訟ではなく、あっせん・仲裁手続きに持ち込む方針で委任を受けることにしました。
当職受任後の手続きは以下のように進んでいきました。
(1) 平成31年1月
受任通知兼明渡し請求書の発送
(2) 平成31年2月
相手方代理人弁護士からの回答書受領
~相手方代理人と交渉し、あっせん・仲裁手続きで紛争解決を図る旨の了解を得る。~
(3) 平成31年3月
あっせん・仲裁申立て
(4) 令和元年5月
第1回あっせん仲裁期日
※申立て当初、高齢・病気の正当事由を主張するのみで、立退料の提示を行っていなかったため、正当事由の詳細について相手方から具体的な主張・立証を求められ、次回期日までに可能な限りの具体的な主張・立証を行うこととなりました。
(5) 令和元年7月
第2回あっせん仲裁期日
※相手方から正当事由に関するより詳細な主張・立証を求められ、これについて準備することとなったほか、双方において立退料の提示についても可能か否か検討することとなりました。
(6) 令和元年8月
第3回あっせん仲裁期日
※双方から期日間において立退料の提示を行っておりましたが、差異が大きかったため、次回期日までに双方にて譲歩案の提示について検討することとなりました。
(7) 令和元年10月
第4回あっせん仲裁期日
※期日間に双方から譲歩案の提示を行い、立退料の差異は相応に縮小されましたが、まだ金額に隔たりがあったため、あっせん人から和解案の提示がなされ、これを双方にて検討することとなりました。
(8) 令和元年11月
第5回あっせん仲裁期日
※期日間にあっせん人からの和解案について双方受け入れるとの合意が調ったため、和解成立となりました。
なお、明渡し日を和解成立の約7ヶ月後とすることとなったため、不履行の際の執行力を確保するため、和解については、仲裁判断の形式で成立させることとなりました。
本件については、あっせん・仲裁申立てから和解成立に至るまで7ヶ月以上の期間を要しました。
しかしながら、同種の事案について、訴訟を提起する場合、より長期の時間を要するのが一般的であり、また、立退料の鑑定、尋問等の重い負担が発生します。
これらの負担を考慮すると、あっせん・仲裁手続きによって、本件を解決することで当事者双方の負担は相当程度軽減されたものと考えられます。
また、あっせん・仲裁手続きは3回程度の手続きにて終了するのが通常ですが、あっせん・仲裁人の先生には、5回にわたる期日に丁寧に対応していただき、また、双方が納得する適切な和解案を提示していただき、このようなあっせん・仲裁人の先生の尽力により本件紛争について合意が成立するに至ったと思います。
建物明け渡し事案については、過去にもあっせん・仲裁手続きにて、仲裁判断の形式で和解を成立させることによって解決した例が存在しており、同種事案の簡易迅速な解決に当たっては、あっせん・仲裁手続きが極めて有効であると思います。