福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2019年12月号 月報
「日弁連第11回貧困問題に関する全国協議会」の報告
月報記事
会員 平尾 真吾(66期)
1 はじめに
令和元年9月21日(土)、東京霞が関の弁護士会館17階会議室にて行われた「第11回貧困問題に関する全国協議会」に参加してきましたので、その様子を報告致します。
本協議会は、各単位会の代表者が集まり、貧困問題に関する日弁連・各単位会の取組みの状況等を報告することを目的とする会です。
2 貧困問題に関する日弁連の取り組み
まず、日弁連貧困問題対策本部事務局長吉田雄大先生(京都会)より、貧困問題に関する日弁連の取り組みについての報告がありました。
日弁連として重点的に取り組む課題として、労働相談事業の強化や奨学金問題などを含む15点があり、とりわけ生活困窮者自立支援法の相談事業の拡大、ブラック企業対策を目的とした労働相談事業の充実等が挙げられるとのことでした。これらの問題は、法テラスの司法ソーシャルワーク、行政や他の関連委員会との連携を図り対応する必要があることが強調されました。
3 滞納処分に対する対応策
次に、佐藤靖祥先生(仙台会)より、「あるべき滞納処分とは」と題して講義がありました。
近年、自治体が国民健康保険税などの公金の債権回収業務を強化しており、一部自治体で本来的には差押禁止債権である給与等が送金される口座(預金口座自体は差押禁止ではない)に滞納処分を行ったり、無理な分納誓約をさせるケースが見られるとのことでした。
佐藤先生は、このような過酷な滞納処分がなされている背景として、自治体が広汎な調査権(国税通則法141条)と裁判所を介さずに自ら差押えをすることが出来る権限を有していることがあると指摘されていました。
佐藤先生からは、滞納自体には問題があるとの前措きがありました。しかしながら、自治体が対象者の生活困窮状況を鑑みずに一方的滞納処分を行っていることが問題であるとの説明がありました。そのような過酷な滞納処分を行った結果、滞納処分を受けている人が、生活保護よりも厳しい資産状況となり、生活困窮者を増加させているとの指摘がありました。
対処法として、(1)納税の猶予(国税通則法46条2項・3項、地方税法15条1項・2項)、(2)換価の猶予、(3)滞納処分の停止(国税徴収法153条1項、地方税法15条の7)という方法があります。佐藤先生は、この問題に対応するには、まずは、職権による換価の猶予(国税徴収法151条、地方税法15条の5)と滞納処分の停止を念頭に入れればよいのではないかとのことでした。特に、滞納処分の停止とは、滞納処分を回避するものであり、停止が3年間継続すると納税の義務自体が消滅する制度です。
また、一部自治体で先進的な取り組みを行っていることも報告されました。例えば、滋賀県野洲市では、税金滞納を生活困窮の徴表と捉え、徴税部署と生活困窮者支援部署が連携し、生活支援を行っているとのことでした。税務情報を生活困窮者対策に活用するためには、税法等に規定される公務員(特に徴税吏員)の守秘義務との関係が問題となります。ただし、先進的な対応をしている自治体では、対象者に税務情報の取扱に関する同意書の作成を求め、税務情報を徴税部署と生活困窮者支援部署で共有するという運用を行っているようです。
4 労働相談・生活困窮者自立支援法の各会の取り組み
その後、労働相談や生活困窮者自立支援法に関する取り組みについて、特に顕著な実績のある単位会より報告がありました。
当会は、平成30年度の労働相談件数が1235件と、東京会に次いで多く、件数が多い理由について報告を求められました。労働相談が多い単位会は、法律相談センターの振り分けが機能していること、労働相談が無料化されていること、ターミナル駅の駅前に相談箇所を設置したり、夜間の相談を行っていること、会員向けの労働相談連続研修会の開催といった共通の特徴があるのではないかとの分析もなされました。
また、生活困窮者自立支援法の取り組みについては、各単位会が、自治体の生活困窮者自立支援部局と連携し相談業務を行っている様子が紹介されました。特に、大阪会では、困窮者相談担当弁護士経験交流会(年2回)、困窮者支援相談担当弁護士向けの連続研修会(基礎編・応用編)、滋賀県野洲市や大阪府豊中市といった先進自治体の事例を学ぶシンポジウムを開催するなど、積極的な活動を行っているとの報告がありました。
生活困窮者自立支援法の取り組みについては、当会のリーガルエイドプログラムのような先進的な取り組みもありますが、多くの単位会で、社会福祉協議会や自治体などと連携を行い、弁護士が電話相談を行ったり、生活困窮担当の職員向けの研修や協議会を立ち上げるといった取り組みが定着しているように感じました。しかしながら、相談件数などをどうやってあげていくかといった課題に直面している単位会もあり、各単位会として生活困窮者に対する相談の掘りおこしをどうしていくかが課題であるように思いました。
5 法テラスの準生活保護者免除申請制度について
法テラスの準生活保護者免除申請制度についての各単位会での周知状況についての報告がありました(具体的な制度紹介については、当報569号41頁の東会員の報告をご確認下さい。本協議会にも参考資料として配布されていました)。
ただ、どの単位会も当該制度についての十分な広報がなされておらず、結果的に当該制度に関しての十分な周知がなされていないという指摘がなされていました。参加会員からは、その理由として、事例の蓄積が少ないとの意見がありました。本協議会では、今後の事例の蓄積を弁護士会側でどのように行っているのかという課題が議論されていました。また、当該制度が、高齢者や障害年金・障害者手帳を受けている身体・精神障害者に限定して、その対象としていることも指摘されました。特に、当該制度が、経済的に困窮している母親の養育費請求などといった母子家庭問題に対応できておらず、制度として不十分ではないかといった意見もありました。
6 生活保護法にかわる「生活保障法」の制定の提言
日弁連では、平成31年2月に、生活保護法改正要綱案(改定版)を作成・公表しており、本協議会では、その要綱案の説明がありました。
具体的には、生活保護法にかわる「生活保障法」を制定すべきとし、5つの改正案の柱があるとの説明がありました。すなわち、(1)権利性の明確化、(2)水際作戦(保護申請をさせずに窓口で突き返すこと)を不可能にする制度的保障、(3)保護基準決定に関する民主的コントロール、(4)生活困窮層に対する積極的支援、(5)ケースワーカーの増員と専門性の確保の5つです。
特に、(4)生活困窮層に対する積極的な支援の制度設計が印象的でした。これは、生活保護利用世帯とその一歩手前の困窮世帯の「逆転現象」(困窮世帯が医療費などの自己負担金を支出したことによって、結果的に困窮世帯の可処分所得が保護利用世帯よりも少なくなること)を防ぐことを目的とするものです。手段としては、困窮世帯の収入が最低生活費の130%未満の場合には、当該困窮世帯が教育・医療・住宅・生業扶助の生活保護法上の給付を単独で利用できるとするものです。
7 終わりに
本協議会に参加し、特に、各単位会が、生活困窮者に対する支援をどのようにしていくのかという課題に直面していることが良く分かりました。その中で、当会が運用しているリーガルエイドプログラムは画期的なものであると感じました。
一方で、大阪会のように、生活困窮者の支援を積極的に行い、各種研修会やシンポジウムを行っている単位会もあるなど、今後の会務に参考になる(かつ刺激にもなる)情報を得ることができ、極めて有意義な協議会でした。