福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2019年10月号 月報
裁判官評価アンケート分析
月報記事
裁判所制度改革・裁判官選任充実化委員会 委員長 野田部 哲也(43期)
第1 はじめに
2019年の裁判官評価アンケートを実施しましたので、その結果を報告します。
人は、社会生活を送るにあたり、常に、相互に評価するものです。頼りになるか、強いか、優秀か、温かいか、大きいか、速いか、公平か、親切か、美しいか、好きか等、種々の観点から評価しています。
我が会が、毎年、実施している裁判官評価アンケートは、「市民の司法」を築くため、利用者である市民の目線に立って、一定の評価項目を設定し、アンケートに答えて頂きました。
また、裁判官の評価をできるだけ客観的に明らかにするべく、お声掛けを行い、多くの会員から回答を頂きました。
皆様から頂いた回答は、次のとおりであり、数多くの個別意見も頂戴しました。
部会 | 回答者数 | 回収率 |
---|---|---|
福 岡 | 333 / 968 名中 | 34% |
北九州 | 82 / 214 名中 | 38% |
筑 後 | 50 / 100 名中 | 50% |
筑 豊 | 11 / 37 名中 | 30% |
総 計 | 476 / 1319 名中 | 36% |
裁判所は、国民に公平・平等な裁判を実施するため、全国の全裁判官が均質となるべく努力しているように思われますが、裁判官の独立が保障されている以上、同じ裁判官といえども、個々の裁判官には個性があり、多様であるように思われます。
この報告が、裁判官の現状の把握に役立ち、利用者である国民の視点から望ましい裁判官像を描く糧になれば、幸いです。
第2 アンケートの分析
高裁民事
全体の評価
- 総合平均は、3.51であり、他の分野の裁判官と比較すると、若干低めの評価となりました。
高裁は、事後審であり、弁護人の主張をしっかり聞いてくれたといった感想を抱きづらいという背景事情があると考えられます。 - 他の項目と比較すると、「和解案の妥当性」の評価は高い一方、「審判・判決の説得力」の評価は低くなっています。
最終的な事実審となる高裁の判決には、とくに説得力が求められているといえます。
個人別の評価
- 総合評価の良い裁判官は、総じてすべての項目について、平均的に良い評価を受けているのに対し、総合評価の悪い裁判官は、いずれの項目についても、悪い評価を受けているという傾向が見受けられました。
ただし、総合評価が3点台後半であっても、「和解案の妥当性」のについては4点台後半と、高い評価を受けていた裁判官が数名いました。 - 最上位の裁判官は4.38、最下位の裁判官は2.58であり、大きな差がありました。もっとも、地裁民事の裁判官に比べると、極端に低評価の裁判官はいませんでした。
個別意見
- 審理を主宰する能力、審理に応じた柔軟性
☆ 肯定的な意見- 訴訟資料をしっかりと読み込んでいる印象
- 相手方の立場や状況に配慮し、柔軟に対応しつつも、当方の意向もふまえた訴訟指揮をしていた
- 記録を丹念に検討し、素直で自然な観点から問題提起する、信頼できる裁判官である
- 訴訟手続をまったく理解していないことが分かり、驚いた
- 裁判官として対応すべきことを他の職員に委ねている
- 和解協議において、まったくまとめようという気がなく、あいだをとりもとうという気配すらない
- 訴訟関係者に対する態度
☆ 肯定的な意見- 温厚な人柄と絶妙なバランス感覚で、事件をうまくコントロールしている
- 物腰が柔らかく、当事者本人に対する態度も親身
- 和解案を強引に勧めるのはいかがかと思う
- 和解案の妥当性、審判・判決の説得力
☆ 肯定的な意見- 裁判官としてしっかりとした見識を持ち、踏み込んだ判断をしている
- 公平な評価をしている
なし
高裁刑事
全体の評価
- 例年、事後審ということもあり、証拠がなかなか採用されにくく、弁護人の主張に耳を傾けてもらっているという感想をもちにくいという構造的な問題から、低評価が続いていましたが、今年は例年に比べて高評価です。
- 審理を主催する能力、審理に応じた柔軟性、訴訟関係者に対する態度、証人等の採否の適否の項目の点数が高い傾向があり、事後審であるとはいえ、事件の内容、筋からして適切に裁判所が証拠採否をふくめて審理していると弁護士から評価されているようです。
逆に、被告人の権利の保障、判決の説得力の項目の点数が他に比べると低い傾向があり、被告人本人に対してはやや高圧的で、判決でもなかなか言いたいことに立ち入って判断してもらえない、という評価です。
個人別の評価
総合平均点は最低が3.43、最高が4.53で、極端に低評価の裁判官はいませんでした。
裁判官への個別意見では、肯定的な意見が目立ち、今年は、否定的な意見はありませんでした。
個別意見
- 審理を主宰する能力、審理に応じた柔軟性
☆ 肯定的な意見- 一刻も早く無辜の者を救済しようという気概を感じた
- 刑事裁判官として、刑事司法のさまざまな改正の趣旨にしたがい、弁護人の弁護活動や検察官の立証活動の活発化、直接主義の趣旨に沿う訴訟運営をしている
- 裁判官として、公平・中立な立場で、双方の納得が得られる訴訟指揮をしている
なし - 訴訟関係者に対する態度
☆ 肯定的な意見- 人柄の良さを感じる
なし - 判決の説得力
☆ 肯定的な意見- 大変説得的な判決をもらった
なし
地裁民事
全体の評価
- 各評価項目の全体平均と全評価項目の総合平均は、いずれも4.0前後でした。
「裁判官として必要な能力・素養を備えている」という回答が4点であることからすると、福岡地裁の民事裁判官は、全体として求められる基準に達していると言えます。 - 「訴訟関係者に対する態度」、「証人等採否の適否」については、それぞれ他の項目と比較すると、評価が高くなっています。
- 「和解案の妥当性」、「審判・判決の説得力」については、それぞれ他の項目と比較すると、評価が低くなっています。
総合平均が3点台の裁判官は、これらの項目が低い傾向にありました。
個人別の評価
- 総合評価の良い裁判官は、総じてすべての項目について、平均的に良い評価を受けているのに対し、総合評価の悪い裁判官は、いずれの項目についても悪い評価を受けていました。
- 上位10名の裁判官は、40期代前半から60期代後半の裁判官まで幅広く含まれていて、ベテランの裁判官ばかりではありません。
- 上位の裁判官のグループと、下位の裁判官のグループとでは、平均点が大幅に異なりました。最上位の裁判官は4.95、最下位の裁判官は2.43であり、きわめて大きな差が目立ちます。
個別意見
- 審理を主宰する能力、審理に応じた柔軟性
☆ 肯定的な意見- 議論が噛みあわない事件では双方に毎回宿題を出するが、宿題の内容がとても適切で納得できる
- ざっくばらんに心証を開示し、法的問題を議論する裁判官であり、解決の見通しが立てやすい
- 内容を的確に整理してまとめ、期日において適切な求釈明するなど、熱心に記録を読んで考えている様子が伝わった
- 当事者代理人が気づいていない抗弁について、安易に意見を求めるなど、不適切な訴訟指揮が見られる
- 記録を読んでおらず、期日において、原告被告のどちらから主張が出ているかすら確認していない
- 訴訟物を理解していないのに閉口した
- 訴訟関係者に対する態度
☆ 肯定的な意見- ご本人の雰囲気も非常に親しみが持て、当事者の納得を得られやすいと思う
- 訴訟関係者に対する敬意を忘れていない
- 初回期日開始時に、当事者に対して、席で立ちあがって名乗ったうえで挨拶していたのが印象的だった
- 尋問中、突然激しい口調になるなど、人間性を疑う
- 訴訟代理人に対して侮蔑的な言葉が多い
- 訴訟指揮の随所で、弁護士を疑い、見下しているとしか思えない発言や行動が見受けられる
- 証人等採否の適否
☆ 肯定的な意見- 証拠について疑問に思っている点などもわかりやすく示唆するため、紛争の早期解決にもつながっていると思う
- 証拠の採否に関して、事案に応じた適切な判断だった
なし - 和解案の妥当性、審判・判決の説得力
☆ 肯定的な意見- 代理人による説得には応じなかった当事者に対し、和解による解決を諦めず、直接、粘り強く説得し、当事者にとっても利益となる和解を成立させた
- 判決をもらったこともあるが、事実認定、評価とも、丁寧かつ適切と感じられた
- 事件のポイントを見抜いて和解案や和解の説得にうまく反映してくれた
- 判決に明白な事実誤認が多く、浅い考察による説得力を欠いたものとなっている
- 和解案の内容について、当事者の主張、証拠への理解を欠いている
- 和解案に関して、なぜその和解額になるのか不明なまま提示することがあり、依頼者への説得力がない
地裁刑事
全体の評価
「審理を主宰する能力」、「審理に応じた柔軟性」、「訴訟関係者に対する態度」、「証人等採否の適否」、「被告人の権利の保障」、「審判・判決の説得力」の各評価項目は、いずれも平均4.2前後で、おおむね高評価です。
個人別の評価
総合評価のよい裁判官は、個別項目についても高い評価を受けていますが、総合評価の悪い裁判官は、個別項目についても低い評価を受けています。
もっとも、裁判官の全員が、総合評価3.0以上で、総合評価が3.5を下回った裁判官は、ごく少数でした。
個別意見
- 被告人への態度について
☆ 肯定的な意見- 被告人への説諭が分かり易く説得的である
- 被告人や証人に対する接し方がとても丁寧で謙虚
- 知的障害のある被告人に良くわかるように説明した
- 当事者の訴訟活動を鼻で笑うようなところがあり、あまりいい印象はない
- 審理について
☆ 肯定的な意見- 訴訟指揮も非常に分かりやすく、被告人がしっかりと理解できる 表現を用いていた
- 証拠をしっかり読み込み、公判に臨んでいる
- 公平かつ丁寧な訴訟運営である
- 打合期日が多すぎる
- 審理計画遂行のために裁判やっているわけじゃない
- 身柄関係の判断について
☆ 肯定的な意見- 表面的な判断ではなく、じっくりと検討したうえで判断している
- 結論ありきで判断している
- 保釈の判断が厳格に過ぎる
- 事案の特殊性に対する弁護人の主張に対して何ら具体的な回答を示すことなく、漫然と勾留の必要を認めている
- 判決について
☆ 肯定的な意見
なし
★ 否定的な意見- 判決のあっさり加減は、許容範囲をはるかに逸脱している
- 否認事件で消極事実に真摯に向き合っていなかった
- 検察官の主張を切り貼りして記載して、理解していないことが明らか
- 補充質問について
☆ 肯定的な意見- 誠実で的確な印象を受けた
- 被告人に自分の問題点や再犯しないために今後どのように生活していくべきなのかを考えさせる質問が多く、かなり深く掘り下げて聞こうとしている
- 裁判員裁判では、裁判官の尋問事項の発し方によっては、それだけで心証形成されてしまうおそれがあるため、十分に気をつけて尋問してもらいたい
家裁家事
全体の評価
各評価項目と全体平均は、証人等の採否を除いて、いずれも3点台後半でした。
本庁の裁判官の「訴訟関係人に対する態度」は、平均点が3.95とやや低い点数となっています。この点は、当事者と長く接しストレスが溜まりやすい家事事件の性質上、やむを得ない面もあります。
個人別の評価
平均4.0以上の裁判官が16人、平均4未満の裁判官が12人(うち、平均3.0以下の裁判官が2名)となっています。このうち、10人以上の回答を得た裁判官は、おおむね3点台後半の高評価を得ていますが、10人以上の回答を得た裁判官のなかに、総合評価が3点以下の評価を得た裁判官が1名いました。
個別意見
- 審理を主宰する能力、審理に応じた柔軟性
☆ 肯定的な意見- 丁寧な審理だった
- 極的かつ柔軟に解決を目指していた
- 記録を読んでいないと思われる
- 論を決めつけて期日に臨んだ
- 訴訟関係者に対する態度
☆ 肯定的な意見- 粘り強く和解を説得した
- 和解の説得が強引
- 訴訟当事者に対する態度が高圧的
- 当事者の面前で、説得的な理由を述べずに審判の取下げを勧めた
- 和解案の妥当性、審判・判決の説得力
☆ 肯定的な意見- バランス感覚が良く、事件の実情に合った和解案を提案した
- 当事者双方の意向と離れた内容での和解案の提示があり、かつ、説明も形式的な理由のみで、説得力に欠けていた
- 客観的証拠に反した事実認定をした
家裁少年
全体の評価
家裁少年事件担当裁判官のアンケート結果は、ほとんどの項目が全体平均3点台であり、他の分野の裁判官の評価と比較して、いずれの項目も低い評価にとどまっています。
個別意見
- 全項目の平均点が3点台の裁判官が、アンケート評価対象者10名のうち6名と過半数を占めています。
- 担当裁判官数が少なく、同一の裁判官が事件を担当することが多いためか、複数の回答者から類似のコメントが多数寄せられました。
とくに、訴訟関係人に対する態度、記録の読み込み不足に関して、厳しい意見が目立ちました。審判結果のみならず、少年・保護者との面接を通して少年の内省を促すという更生へのプロセスが重視される少年審判の特性を反映したものと思われます。
個別意見
- 審理を主宰する能力、審理に応じた柔軟性
☆ 肯定的な意見- 少年に対し、「どうしてそう思うか」「横に座っている少年の父親だったらどう考えると思うか」を具体的に考えさせ、型通りではなく振り返りを促していたのが印象的だった
- 事件全体を把握し、落ち着きどころを模索した訴訟指揮で、法的知識・理解にも優れている
- 少年を困惑させる質問が多い。質問事項が表層的。少年の更生につながる質問ではない
- 審判当日まで、調査官意見書以外まったく記録を読んでいない。当然、付添人意見書も読んでいない
- 個々の事件の特殊性に目を向けることなく、毎回、少年に対して同じ説教を繰り返すのみ
- 訴訟関係者に対する態度
☆ 肯定的な意見- 少年への説示など非常に説得的であり、審判後の少年にとても響いていると感じる
- 態度が高圧的で、少年の話を聞く姿勢が見えない
- 少年への態度が悪い。保護者への対応も悪い
- 審判・判決の説得力
☆ 肯定的な意見
なし
★ 否定的な意見- 処分を告げたあと、処分に至った理由を一切告げなかった
第3 おわりに
以上のとおり、2019年裁判官評価アンケートの結果について、報告させて頂きます。
九州の各単位会も、裁判官評価アンケートを実施し、中には、100%近くの回答を得ている単位会もありますが、単年度で500人近い会員から、回答を得た単位会は、当会が初めてです。これは、裁判官評価アンケートについて、パソコンやスマートフォン等から、会員専用ページにアクセスして回答できるシステムになり、委員皆で力を合わせて声掛けをしたことが大きかったです。声掛けに対応し、裁判官評価アンケートにご協力頂き、誠にありがとうございました。
司法試験に合格し、司法修習を経て二回試験に合格したとき、これが最後の試験と思ったかもしれませんが、私たち法曹は、終わりのない試験を連続して受けなければなりません。その試験は、裁判官、裁判員、弁護士、部長、所長、当事者その他の人々が採点し、評価します。
他者に評価されるプロの職業人は、誰を向いて仕事をするかも大切ですが、自分の仕事を評価する内的基準を持つことが大切です。私たち法曹は、生涯をかけて、自分の内的基準を確立していくものであり、特に、良い結果が出たときは、誰も私たちを批判しないので、この場合でも、正しく、自分の仕事を評価する必要があります。
おおざっぱに言うと、弁護士の場合、自分に依頼したくなる仕事をしているかが問われるでしょうし、裁判官の場合、(裁判官は選べませんが、)自分に裁判をしてほしいと思えるかが問われるのではないでしょうか。
裁判官評価アンケートが、私たち法曹の、内的なスタンダードの確立の役に立てば、幸いです。 最後に、アンケートの回収やその分析に尽力してくれた委員の皆様と、集計作業に尽力してくれた職員に対し、心から感謝します。