福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2019年10月号 月報
第62回日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「グローバル・スタンダードの人権保障システムを目指して」~入管収容問題を具体例に国内人権機関・個人通報制度を考える~のご報告
月報記事
会員 塩山 乱(64期)
1 令和元年8月24日(土)午後1時から、福岡県弁護士会館2階大ホールにおいて、「グローバル・スタンダードの人権保障システムを目指して~入管収容問題を具体例に国内人権機関・個人通報制度を考える~」が開催されました。
このシンポジウムは、第62回日弁連人権擁護大会第2分科会シンポジウムとして、令和元年10月3日(木)12時30分から徳島県郷土文化会館において開催される、「今こそ、国際水準の人権保障システムを日本に!~個人通報制度と国内人権機関の実現を目指して~」のプレシンポジウムとして開催されました。
2 皆さんは、国内人権機関、個人通報制度を御存じでしょうか。
国内人権機関とは、各国の制度設計でその形式は様々ですが、基本的に①人権保障のために存在する国家機関であり、②憲法または法律を設置根拠とし、③人権保障のために法定された権限を有し、④他の国家機関から独立した機関、という性質を有する機関です。世界では、既に120カ国以上で設置されていますが、日本には未だ設置されておりません。日本に国内人権機関が設置されていないことに対しては、現在まで、多くの条約機関や、諸外国から勧告を受けています。
個人通報制度とは、条約において認められた権利を侵害されたと主張する個人が、条約機関に対して直接に訴えを起こしてその救済を求める制度です。個人通報制度も諸外国においては導入されている制度ですが、日本では未だ導入されておりません。
この二つの制度については、弁護士でもご存じない方の方が多いのではないでしょうか。この二つの制度を、弁護士及び一般の方々に知っていただき、その実現への足掛かりとして、本プレシンンポジウムおよび第62回日弁連人権擁護大会第2分科会のシンポジウムが企画されました。
3 (1)プレシンポジウム当日は、当会会長のご挨拶の後、まず、日弁連国内人権機関実現委員会事務局長である小川政治弁護士により、「国内人権機関の実現に向けて」というタイトルの基調報告を行っていただきました。日本の人権救済システムの不備をご指摘の上、国内人権機関ができた場合には、どのような救済方法が考えられるかについて、わかりやすくご説明いただきました。
(2) 次に、日弁連自由権規約個人通報制度等実現委員会委員である大川秀史弁護士により、「個人通報制度と入管問題」というタイトルで基調報告を行っていただきました。個人通報制度が、どのような仕組みになっているのかわかりやすくご説明いただき、実際に個人通報制度が利用された場合に各条約機関においてどのような判断がなされているかについて、具体例を挙げてご説明いただきました。
(3) その後、福岡県第7選挙区選出の自由民主党衆議院議員である藤丸敏議員から、個人通報制度の実現に向けて、どのような活動が可能かについて、ゲストコメントをいただきました。
(4) 休憩をはさんだ後、大阪大学大学院国際公共政策研究科の安藤由香里招へい准教授により、「日本における入管問題及び国際状況」というタイトルで基調講演を行っていただきました。安藤准教授からは、日本は、国連の人種差別撤廃委員会、自由権規約委員会、拷問禁止委員会から、入管収容施設長期収容問題について早期に解決するよう複数の勧告を受けていることについて、ご説明がありました。また、カナダ最高裁の判決で、入管の長期収容問題について、入管法ではなく、人身保護の観点から憲法問題として争った事案をご紹介いただき、日本においても検討に値する方法ではないかとご教授いただきました。
(5) 引き続き、当会国際委員会委員であり日弁連国際人権問題委員会事務局長である稲森幸一弁護士のコーディネートのもと、現在の日本における入管収容施設の実情および国内人権機関および個人通報制度がどのように長期収容問題を解決することに役立つのかについてパネルディスカッションが行われました。小川弁護士、大川弁護士および安藤准教授に加えて、長崎インターナショナル教会の柚之原牧師および大阪赤十字病院国際医療救援部長である中出雅治医師にご登壇いただきました。
まず、柚之原牧師からは、自己紹介において、大村入国管理センターの収容者の支援活動を長期にわたって行われていること、現在の長期収容者が精神的・肉体的に追い込まれていることについて、実体験をもとにお話しいただきました。今年の6月に、3年7カ月間もの間大村入管に収容されていたナイジェリア人の方が亡くなったことをご指摘され、大村入国管理センターは強制収容所と変わらないではないか、と怒りをもって話されているのが胸を打ちました。また、中出医師からは、自己紹介においてミャンマーからの避難民、パレスチナ難民の支援活動の現状を、写真と共にお話しいただき、世界における難民の実情を伝えていただきました。
自己紹介後、パネリストにより、大村入国管理センターの長期収容問題について実情をお話しいただき、国内人権機関および個人通報制度が実現した場合、現在と異なり具体的にどのような手段を採りうるかが議論されました。例えば、国内人権機関が実現した場合、①裁判をするよりも低額で人権救済の申し立てをすることができ、裁判をするより早く判断がなされること、②国内人権機関の政策提案機能により、入管収容施設の実情に対して勧告をすることが可能であることなどが説明されました。また、個人通報制度ができた場合には、日本の最高裁まで闘う必要はあるものの、その後国際的な水準の判断をうけることができるため、その判断を基に政府が問題解決に向き合うことになると考えられることなどが説明されました。
パネルディスカッションにおいては、各登壇者により、入管収容施設の長期収容問題をどのように解決することができるか真剣に議論をしていただき、非常に内容の濃いものになりました。
(6) 最後に、当会人権擁護委員会および国際委員会副委員長である中原昌孝弁護士より閉会の挨拶があり、シンポジウムは終了となりました。
4 登壇者の詳しくかつ熱心なお話を聞き、参加された弁護士および一般の方々も国内人権機関および個人通報制度の有用性を理解していただけたと思います。日本に住んでいると、根拠もなく日本の人権救済システムは世界水準を超えているような気がしますが、実は、そのようなことはありません。そのことが、一般の方々に少しでも伝わったのであれば、本シンポジウムは成功であったといえると思います。
弁護士である皆さまにも、是非国内人権機関及び個人通報制度についてご認識いただき、将来の実現にご協力いただきたいと思っております。
ご興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、冒頭で記載しております、徳島で開催される人権大会第2分科会シンポジウムにもご参加いただきますよう、お願いいたします。