福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2019年9月号 月報

民事介入暴力対策全国拡大協議会旭川の報告

月報記事

民事介入暴力対策委員会 甲谷 健幸(62期)

1 はじめに

本年7月19日、北海道の旭川市にて開催された、民事介入暴力対策全国拡大協議会旭川に参加してきましたので報告いたします。

協議会のテーマは、「給付行政等における反社会的勢力排除」と「暴力団排除条項の裁判規範性に関する諸問題」であり、昨今何かと話題となっている反社会的勢力の排除に重点が置かれた内容となっていました。

2 テーマ設定の背景

21世紀最初の民事介入暴力対策大会は、平成13年(2001年)5月に旭川で開催されています。この18年前に開催された大会において、旭川の民暴委員会は先進的に暴力団排除条項をテーマとされました。

暴力団排除条項については、平成19年6月19日の政府指針が、世間へと浸透していく契機となったのですが、その約6年前にはすでに旭川で開催された民事介入暴力対策大会において提言がされていたのです。

今回の拡大協議会では平成13年(2001年)5月に旭川で開催された民暴大会の経緯を踏まえ、契約関係の解除などの現実に問題となる場面が裁判の場に持ち込まれた場合に暴力団排除条項が裁判規範としてどの程度機能するのか、暴力団排除条項を遡及的に適用することに問題はないのかといった視点から「暴力団排除条項の裁判規範性に関する諸問題」のテーマが設定されました。

また、北海道では約2億4000万円もの生活保護費が不正受給されるという事件が発生し世間に大きな衝撃を与えたこともあり、生活保護費の不正受給に関する事例等を分析して諸論点を取りまとめ、特に、暴力団員という属性認定の判断要素はどのようなものなのかについて検討すべきとして「給付行政等における反社会的勢力排除」のテーマが設定されました。

3 協議会の内容
(1) 給付行政等における反社会的勢力排除について
  • 生活保護制度を所掌する厚生労働省は、暴力団員は稼働能力の活用要件、資産・収入の活用要件を満たさないとして、生活保護の受給を基本的に認めないという通知を発出しています(以下「平成18年通知」といいます。)。そのため、暴力団員が生活保護の受給申請をするに当たっては、暴力団員ではない又は既に離脱した等の虚偽の事実を述べて申請することになり、これが発覚した場合には、詐欺事件として取り扱われることとなります。他方で、真実暴力団員ではない者や、暴力団を離脱し生活に困窮した者が生活保護の受給申請をする場面もあることから、生活保護の現場においては、不正受給を目論む暴力団員を排除しつつ、暴力団員ではない者や暴力団を離脱し生活に困窮している者に適切な保護費を支給する必要があり、暴力団員という属性認定が重要な課題となっています。
  • このテーマについては、札幌、函館、釧路の各弁護士会の民暴委員が担当し、生活保護申請者が真実暴力団を離脱したかが争われた事例、離脱の真実性ではなく現役の暴力団員かどうかが争われた事例をそれぞれ検討の上、論点整理と暴力団員の属性認定の判断要素について整理がなされました。
    暴力団員該当性の判断においては、①警察における暴力団員登録の有無、②当該人物の外部からの評価・認識、③当該人物の活動実態、④当該人物の交友関係、⑤当該人物の外形的特徴、⑥当該人物の生活状況を要素とし、①の要素については推認力が強く、その余の要素については事実関係によって推認力の軽重は生じるものの、概ね、この6要素によって、暴力団員該当性の判断されるのではないかとの報告がされました。
  • 協議会ではさらに進んで、仮に、誤情報により生活保護申請を却下し、後に国家賠償請求がされた場合には、どのような判断がされるのかという点の検討もされました。
    国家賠償請求においては、職務行為基準説により違法性が判断されることは周知のことですが、警察の依頼に基づく口座凍結について銀行の不法行為責任が争われた事例において、銀行の不法行為責任を否定した裁判例とパラレルに考察することができるのではないかという視点で報告がされました。
(2) 暴力団排除条項の裁判規範性に関する諸問題について
  • 平成3年5月に暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律が制定され、その後、同19年6月の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の公表によって、企業に反社会的勢力との一切の関係遮断が求められ、さらには同年23年10月までに全国の都道府県に暴力団排除条例が施行されるに至ったこと等を契機に暴力団排除条項の導入が広がりました。もっとも、暴力団排除条項を具体的に適用する場面、特に契約関係の解除の場面において、どこまでの効力が認められるかについてなお具体的検討が必要な重要な課題となっています。
  • このテーマについては、旭川弁護士会の民暴委員が担当し、法人内部における暴力団等反社会的勢力の排除、金融取引における暴力団等反社会的勢力の排除、不動産取引における暴力団等反社会的勢力の排除について、それぞれ暴力団排除条項の裁判規範性の視点から検討がなされました。
    加えて、ゴルフ場からの暴力団等反社会的勢力の排除と保険契約における暴力団等反社会的勢力の排除(重大事由解除)についても検討がなされました。ゴルフ場からの暴力団等反社会的勢力の排除と保険契約における暴力団等反社会的勢力の排除(重大事由解除)については、実務経験豊富なパネリストとのパネルディスカッションの形式で行われました。
  • 法人内部からの暴排については定款や就業規則に暴力団排除条項を加えた場合の効力、金融取引からの暴排については改正民法下で定型約款に暴力団排除条項を加えた場合の効力、不動産取引からの暴排については不動産流通4団体作成のモデル条項例や国土交通省作成のマンション標準管理規約の暴力団排除条項の効力が、それぞれ報告されました。
  • ゴルフ場からの暴力団等反社会的勢力の排除については、具体的な事例の寸劇が披露され、特に暴力団排除条項を導入する前から当該ゴルフ場の会員になっていた暴力団員(既存会員)を排除できるかについて検討がされました。これについては、そもそも暴力団排除条項の導入が既存会員に及ぶかについて難しい論点があり、最高裁判所平成12年10月20日判決(判例タイムズ1046号89ページ)、最高裁判所昭和61年9月11日判決(判例タイムズ623号74ページ)、東京地方裁判所平成22年7月30日判決(ウエストロー・ジャパン2010WLJPCA07308002)、東京地方裁判所平成22年11月4日判決(ウエストロー・ジャパン2010WLJPCA11048002)などの裁判例の検討、さらに暴力団排除条項の導入に加えて、受付において表明保証や誓約等を求めることにより暴力団等反社会的勢力の排除の実効性がより高まるという整理がされました。
  • 保険契約における暴力団等反社会的勢力の排除(重大事由解除)については、暴力団員と判明した時点と解除行使の時点、保険金支払いの有無などの内容により場面を分け、具体的な検討がされました。これについては、解除すべきか否か、どの時点で暴力団員であることが必要か、支払った保険金や弁特保険金の返還請求ができるかなどの検討がされました。
4 最後に

今回の拡大協議会は、反社会的勢力の排除について基本的なところを押さえつつ、現時点における到達点が報告され、資料もよくまとまっており非常に有益なものでした。

反社会的勢力の排除は近時でも某芸能事務所で問題になったように実際には様々な論点の絡み合う解決困難なテーマです。反社会的勢力なのか否かの判定や、反社会的勢力の排除が、これを逆手に取った「ゆすり」や「たかり」などの材料にされないような配慮も必要です。

反社会的勢力の排除を少しでも容易にし、かつ、仮に反社会的勢力であることが発覚した場合にも適切な対応をするための道具として反社会的勢力排除条項が生み出され、今日まで様々な場面で活用されてきました。今回参加して、同条項の適用には、なお検討の余地もあることや、(折しも某芸能事務所で問題となっている)反社会的勢力とのかかわりが発覚した場合の適切な対応とは何なのかについて、深く考えさせられました。

反社会的勢力排除の問題はこれから先もまだまだ議論の発展がなされるものと思われます。議論に遅れることなくアップツーデートで対応できるよう今後も研鑽を続けていきたいと思います。

最後に、令和元年11月15日に第89回民事介入暴力対策大会が、大分市で開催されます。この大会のテーマは「暴力団の資金に対する課税について」となっています。暴力団の資金を根絶することは、暴力団被害の根絶の最たる方法と考えられます。暴力団資金への課税の場面に弁護士として関与することはなかなかないことではありますが、暴力団への金銭請求に弁護士が関与することはあり得るところです。かかる場面における一助となり得るテーマと思いますのでふるってご参加ください。

民事介入暴力対策全国拡大協議会旭川の報告

旭川会場

民事介入暴力対策全国拡大協議会旭川の報告

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