福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)
2018年10月号 月報
LGBT研修報告 ~スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル~
月報記事
LGBT委員会 委員 石井 謙一(59期)
1 はじめに
去る2018(平成30)年8月1日、福岡県弁護士会館3階ホールにて、LGBTに関する研修会が開催されました。
3部構成で、第1部は久保井会員からLGBTに関する基礎知識について、第2部は入野田会員からLGBTに関する裁判例についての講演があり、最後に福岡市の人権推進課課長から、LGBTに関する福岡市の取り組みについてご紹介いただきました。
2 当事者がかかえる困難~社会は変えられるか~
久保井会員からは、いわゆる性的マイノリティであるLGBTに関する基礎知識と、当事者が抱える困難について、社会学の文献まで引用しながら非常に分かりやすくご説明いただきました。
LGBTに対する根深い社会的差別があるため、我が国ではそもそもいないものとされていること。ひとたび露見すれば強い差別や嫌悪にさらされる恐れがあり、当事者は時に自死にもつながる様々な困難を抱えていること。
どうにかしなければと思いつつ、社会を変えるなんてどうしたらいいんだと頭を抱えてしまいそうですが、久保井会員から希望を感じられるエピソードをご紹介いただきました。
3 スカーレットヨハンソンと宇多田ヒカル
それは、スカーレットヨハンソンをめぐる宇多田ヒカルとそのフォロアーのツイートに関するエピソードです。
映画を観る方なら、ヨハンソンのことはご存じだと思います。著明なハリウッド映画俳優ですが、生まれつき割り当てられた性別が女性で、自認する性も女性である、いわゆるストレートの女性です。その俳優が、トランスジェンダーの役で映画に出演することが決まったのですが、これについて批判を受け、結局その映画への出演を断るに至りました。
このときの批判は、トランスジェンダーの俳優はそもそも出演機会が限られているのに、トランスジェンダーの役をストレートの俳優が演じてしまうと、トランスジェンダーの俳優の貴重な出演機会が奪われる結果となり、少数者がより圧迫されてしまうという趣旨のものでした。そして、ヨハンソンが降板したのは、このような批判に共感したためでした。
これに対し、宇多田が、「ストレートがトランスを演じてはいけないと言うならば、トランスはストレートを演じてはいけないということにならないか」、という趣旨の英語によるツイートをしました。スカーレットヨハンソンに対する様々な批判について困惑してのものと思われます。
これに対し、その発言の間違いを指摘するツイートが多く寄せられました。ここで問題となっているのは「ストレート」(性的指向)ではなく、性自認であり、シスジェンダーであるヨハンソンがトランスを演じること、トランス俳優にはお笑い的な演技以外の活躍の場がない現状、だからこそトランスを扱った映画においてトランス俳優が起用されないことの問題などを指摘するものでした。
しかし、それらの指摘はいわゆる「炎上」というような、相手を非難したり罵倒したりするものではなく、相手の立場を尊重し、理性的に誤りを指摘するものだったそうです。ある投稿者の多少揶揄的な表現への批判について、当の投稿者が誠実に返答し、批判した者が改めてその返答に敬意を示すなど、それなりに「成熟した」会話が見られました。
こうして、宇多田の投稿から数時間内に、何千もの反応があり、それは概ねトランスに対する「正しい」理解の方向へと収束していきました。これを受け、宇多田自身も、性自認と性的指向を混同していたことについて率直に謝罪した上で、「問題の核心であるアイデンティティの問題を見失っていた」、「寛容と忍耐のみが不寛容と無知と闘う唯一の手段だ」というツイートをしました。
このように、意見が対立していた人達も、相手を尊重しつつ率直に意見を述べ、最後にはお互いに理解を深め、他方をリスペクトするという関係になっていきました。
事態は、関わる人達みんながLGBTに関する理解を深める方向で収束していったのです。
それは英語によるやりとりでしたが、炎上→沈静化という過程を辿り、何ら生産的でない言説が垂れ流されがちな我が国の現状と比較すると、なんと素晴らしいやり取りかと感動しました。
4 成熟した議論を
このような成熟した議論が積み重ねられるのであれば、どうでしょうか。LGBTに対する差別や偏見も、少しずつかもしれませんが無くなっていくと思えます。
そして、このような建設的な議論を展開することがそんなに難しいことなのかというと、真摯に学び続けようとする姿勢や態度さえあればできることなのではないでしょうか。
先入観や固定観念に縛られ、思考停止して他者の言説を否定していては何かを学ぶことなどできません。無知であることを認めないなどもっての他です。
真摯に学び続けようとするからこそ、他者の言説に耳を傾け、自らの誤りを認めることができる。手の届く努力で、社会を変えることができるかもしれません。
私自身が、学び続けようとする態度や姿勢を持てているのか、まずは見直してみようと考えさせられました。
5 裁判例に見る事件処理上の注意点
入野田会員からは、LGBTに関する裁判例をほぼ網羅する形で紹介していただきました。
印象に残ったのは、LGBTについて理解が不足していると指摘せざるを得ない裁判例が比較的多いとの指摘があったことです。
紙面の関係で多くはご紹介できませんが、例えば、生物学的な性が男性で、自認する性が女性であるトランスジェンダーの当事者が、会社に女性の服装、化粧等をして出勤したり、会社に対して女性としての取扱を求めたところ、それを理由として解雇された東京地判平成14年6月20日の事案では、結果として解雇が違法であるとしたことは妥当なのですが、理由の中で「女性の容姿をした債権者を就労させることが、債務者における企業秩序又は業務遂行において、著しい支障をきたすと認めるに足りる疎明はない。」とされており、仮に当事者の見た目が社会的には女性として受け入れられにくいものである場合にはどうなるのかと疑われる認定になっているとのことでした。
我々も、実際の事件を取り扱うときには、LGBT当事者を巡る法律関係を正確に理解し、LGBTであることについて言及する際には不正確な表現や誤った主張にならないよう、裁判所にも誤った認定をさせないよう、細心の注意を払う必要があると感じました。
6 福岡市の取り組み
福岡市のLGBTに関する取り組みについて、人権推進課の合屋四郎課長からご紹介いただきました。目玉となるのは、パートナーシップ宣誓制度を創設されたことです。既に20組を超える利用があるとのことでした。LGBT当事者のための交流会も定期的に開催しておられ、毎回多くの方が参加されているそうです。
行政が人権課題として取り組んでくれているのは心強い限りです。
当会とは電話相談を共同で実施していますが、今後も色々な面で連携していければと思います。
7 最後に
今回の研修は盛りだくさんでしたので、印象的なお話に絞ってご紹介させていただきました。
今後も充実した研修を企画する予定ですので、奮ってご参加ください。
第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~
月報記事
法教育委員会 委員 見越 あけみ(69期)
1 はじめに
平成30年8月10日(金)福岡ビル9階 大ホールにおいて開催されました「第1回 新科目<公共>授業セミナー ~新しい授業のあり方を考える~」について、ご報告致します。
本セミナーは、教育関係者(高等学校・小中学校の教員や教育委員会)、教科書出版社など教科書作成に携わる方々、弁護士を対象として、2022年度より高校の必修科目として導入される「公共」(現行科目「現代社会」は廃止となります。)について、授業のあり方や教科書(教材)の内容について考えることを目的として開催されました。
2 セミナーの内容
セミナーは、(1)基調講演2本、(2)「公共」の授業内容・教科書に関する報告、(3)弁護士が目指すモデル授業案の提示、(4)パネルディスカッションという盛りだくさんの内容でした。
まず、(1)基調講演(その1)として、橋本康弘先生(福井大学教授)より、「『公共』の基本的な考え方と授業づくり」というテーマでご講演いただきました。新科目「公共」のキーワードは「見方・考え方」、授業づくりのポイントは「見方・考え方」をしっかり使うことにある(=主題を設定し、「見方・考え方」を使いながら、その主題の解決のあり方を構想する。)とのことでした。「公共」では、決論に至る手続の公正、機会の公正、結果の公正という視点に加え、「世代間公正」「地域間公正」という視点からも結論の妥当性判断が求められるようです。
基調講演(その2)では、吉村功太郎先生(宮崎大学大学院教授)が、「シティズンシップ教育から新科目『公共』に期待するもの~社会の担い手である市民としての資質・能力の育成~」というテーマでご講演されました。英国のシティズンシップ教育論に触れた上で、問題を多面的・多角的に捉え、自らの選択・判断基準を反省的に磨いていくことのできる授業が求められる旨お話しされました。
次に、(2)「公共」の授業内容・教科書に関し、日弁連 市民のための法教育委員会 委員長の野坂佳生先生(福井弁護士会)よりご報告がありました。公(おおやけ)と私(わたくし)の概念、事実と論拠に基づいて主張を組み立てることなど、「見方・考え方」に関する分析的な視点が示されました。
続いて、(3)当会の法教育委員会 委員長の甲木真哉先生より、弁護士会が目指すモデル授業案のご提案がありました。法教育委員会が行っている「出前授業」と「公共」が目指す思考訓練には通ずるものがあるという観点から、「公共」の授業運営のヒントとして、出前授業の教材や授業進行案が提示されました。
そして、本セミナーのメイン企画、(4)パネルディスカッションです。当会会員で九弁連の法教育に関する連絡協議会委員長を務める春田久美子先生をコーディネーターとして、基調講演をしてくださった橋本先生、吉村先生に加え、福岡県折尾高校社会科教諭の中野孝太先生、当会法教育委員会副委員長の柏熊志薫先生の4名のパネリストが、それぞれのお立場から意見を述べ、議論されました。「論理的思考力」という世界ベースで求められる能力を、教育課程の中でいかに生徒に習得させるか、教員の指導力に依拠する面もあり、期待と不安が混在する現場の状況が窺えました。
「公共」は、単に知識の習得を目的とするのではなく、多角的・論理的な思考力の習得を目指す科目であるという特性から、質疑応答の場面では、評価方法に関する質問も多く出されました。評価するためには思考過程の見える化が必要なこと、その際には言語力も求められること、だとすれば国語で使用される評価基準も参照に値するのではないか・・・などなど、活発に意見交換が行われました。
3 最後に(感想)
今回、「現社(現代社会)」が「公共」に変わる!?、「公共」とは何ぞや・・・という興味から本セミナーに参加させていただきました。
高校の授業で論理的思考力が重視されることは歓迎すべきことと思いますが、授業内容や評価方法、試験対策など未知数の部分が多くあり、教育関係者も不安を抱えているように感じました。
「公共」と法教育委員会が行う出前授業とは精通する部分も大いにあるように思いますので、教育関係者と弁護士とが密に協力・連携することで、「公共」も出前授業も質の向上につながればよいなと感じました。私もその一助となれるよう尽力出来ればと思います。
全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」ご報告
月報記事
子どもの権利委員会委員 浅上 紗登美(69期)
1 はじめに
去る平成30年8月18日、天神ビル10号会議室にて、全面的国選付添人制度実現をめざすシンポジウム「なんで、弁護士ついとらんと?」が開催されましたのでご報告致します。
2 開会のご挨拶
知名健太郎定信委員長の開会のご挨拶とともに、ご多忙の中駆け付けて下さった、野田国義参議院議員、大島九州男参議院議員、山内康一衆議院議員、仁戸田元氣福岡県議会議員、鬼木誠衆議院議員の秘書の方よりご挨拶いただきました。
それぞれの皆様のご挨拶では、少年に裁量で国選付添人がつけられていることへの驚き、そして早急な解決に向け尽力したい旨の熱いお言葉を頂戴しました。
3 基調講演
「少年法講義」でお馴染みの武内謙治九州大学大学院教授による「国選付添人制度の課題」と題した基調講演が行われました。
全ての少年に国費で付添人がつかないといった現行少年法の問題点やその原因が国費を拠出することへの国民の納得を得ようとする制度設計になっていること等をご説明いただきました。
環境調整の重要性は明らかであるにも関わらず、環境調整の役割を果たしている付添人がつかない現行制度では、少年の特質、環境等の要保護性を勘案した適切な処遇をすることができず、結果的に少年の立ち直りを阻害しているのではと感じました。
4 九弁連報告
九弁連子どもの権利に関する連絡協議会吉田孝光委員長より、九州各地の独自の付添人活動のご報告、そして、九弁連としても各地でのシンポジウム開催や宣言など、全面的国選付添人制度実現に向け活動することが表明されました。
5 パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、ご講演いただいた武内教授、NPO法人田川ふれ愛義塾理事長の工藤良さん、SFD21JAPAN理事長の小野本道治さん、野口石油中原給油所所長兼保護司の野口純さん、そして元少年2名をパネリストとしてお招きし、少年との関わり方、付添人の関与による利点、少年自身の経験をお話いただきました。
全ての方々が共通してお話していたのは、「少年は必ず変わることができるが、時間がかかる。1ミリでも軌道修正できるよう、諦めず見守っていくことが大切」、「責任ある仕事を与え、社会での役割を与える」、「怒られることに慣れているので、とにかく褒めてあげる」ということでした。
大人を敵視していた元少年たちは、工藤さんたちに引き合わせてくれたり、処遇決定後も面会に来る弁護士の姿を見て、周囲のありがたみ、自分のしたことの重大さを知ることができ、立ち直るきっかけとなったそうです。
さらに、元少年たちが、100名以上もの参加者を前にして、「これからは、少年たちに辛い思いをさせないよう寄り添い、時には本気でぶつかりながら、人としての筋道を教えていきたい。少年たちのおかげで日々自分も成長させられ、日々感謝して過ごせている。」と話していました。
大人を信じられなくなるような境遇で過ごしたはずの元少年たちの堂々とした姿を見て、私自身も感動しましたが、何より、元少年たちに携わってきた弁護士の先生方や受け入れ先の方には、万感胸に迫るものがあったのではないでしょうか。
少年の立ち直り支援、全面的国選付添人の必要性について、参加者の方々に深く考えるきっかけを与えた大変意義深いパネルディスカッションであったと思います。
6 集会宣言
少年更生を支える各団体の皆様と賛同者一同で「全面的国選付添人の実現を求める集会宣言」を行い、付添人の質の向上及び全ての子どもたちへの支援実現を宣言しました。
7 閉会のご挨拶
最後に、当会の上田英友会長より閉会の挨拶がなされ、盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じました。
8 おわりに
本シンポジウムは、他の少年には付添人がいるのに、自分には付添人がおらず適切な支援を受けられない少年の不平等間をなくしたいという想いから、タイトルを「なんで、弁護士ついとらんと?」にしました。
当日は、100名以上の方々にご参加いただき、アンケートにもご協力いただきました。アンケートでは「弁護士の支援の重要性をよく理解できた」、「支援に関わる人・機関の連携の重要性を改めて感じることができた」、「若気の至りで間違っても、長い人生の中で次代を担う市民として健全に育っていく機会をもっと増やしていくべきと考えた」等の意見が大多数でした。少年の不平等感をなくしたいという想いにご賛同いただけたことを喜ばしく思いました。
他方で、制度実現に伴う付添人の質の低下を懸念する意見もあり、付添人としての質の向上に努めることが、制度の早期実現の近道なのかもしれないと感じた次第です。
私自身も「愛は与えっぱなし」という言葉を体現できるよう、付添人として日々邁進して参ります。
最後に、この場をお借りして、携わって下さった各関係機関の皆々様に厚く御礼申し上げます。
養育費110番、スタートしました!
月報記事
両性の平等に関する委員会 委員長 山崎 あづさ(54期)
8月25日(土)、福岡県による「養育費110番」の第1回が行われました。当日の様子と、この新たな取り組みの内容をあわせて、ご報告いたします。
養育費の受給率向上への取り組み
ひとり親世帯の親子の生活を支える上で、養育費の経済的な支払いはとても重要です。しかし、離婚の際に言い出せなかった、金額を決めたのにその後一切貰えていない、あるいは数か月や数年で支払われなくなったなど、様々な経緯で養育費を受け取れていないケースは多々見られます。
平成28年度福岡県ひとり親世帯当実態調査によると、ひとり親(母子世帯)の平均年収は約240万円、離婚の際に養育費の取り決めをしている割合は44%、実際に養育費を受給している割合は約24%にとどまっているといいます。
こうした、ひとり親世帯が抱える養育費に関する問題などの解決を図るため、福岡県と福岡県弁護士会は、今年、2つのサービスについて協定を締結しました。
それが、「養育費110番」(弁護士による無料電話相談の開催)と、「養育費クーポン無料相談」(福岡県ひとり親サポートセンターが発行するクーポンを利用して県内17カ所にある福岡県弁護士会の法律相談センターで、60分の無料面談相談を受けられるサービス)です。
特に「養育費110番」は、ひとり親世帯の所得向上を図るための新たな事業であり、全国的にも珍しい取り組みだということです。
110番当日・・・次々と電話が!
その第1回が、8月25日(土)に行われました。
午前10時から午後4時まで、福岡県弁護士会館にて、電話4台、弁護士8名(午前・午後各4名)という体制で待機しました。
事前に新聞各紙や自治体の広報誌等で告知されていたためか、午前10時に電話回線をつないだ途端、次々と電話が鳴り、あっという間に4台とも埋まりました。相談を終えて受話器を置いたら、すぐにまた電話が・・・!時間帯にもよりますが、その後もほぼ途切れることなく電話が鳴りました。
相談の内容は、やはりご自身の抱えておられる問題についてのものが多く、事案を聞き取って、法的なアドバイスをして・・・と、通常の法律相談に近い対応が必要でした。さらに弁護士による支援が必要だと判断されるケースについては、福岡県の無料相談クーポンの対象地域にお住まいの方であれば、クーポンの利用を案内しました。
相談結果の集計
この日の相談件数は、全部で32件でした。
相談者は20歳代から70歳代まで幅広く、「娘の件です」といって電話をかけてこられている方も数名いました。お住まいの地域も、福岡市をはじめ、久留米市、筑紫野市、宗像市、八女市、行橋市など、県内全域に及んでいました。
相談内容の集計結果は、以下のとおりでした。(複数回答あり)
- 離婚問題 全般 2件
養育費の取り決め方法 4件
養育費の金額 4件 - 離婚後の問題 全般 1件
養育費の不払い 16件
養育費の金額 3件
養育費の取り決め方法 4件
その他 1件(支払いが遅れ気味) - 未婚の場合の養育費 1件
これを見ると、養育費の不払いの相談が突出して多いことがわかります。やはり、養育費の不払いが深刻な状況にあるのだと実感しました。
今後の開催について
今回、初めて開催した「養育費110番」でしたが、予想を超える電話の件数でした。また、内容も、どれも切実なものでした。後日、県の担当の方から、「本当にこの事業を実施してよかった」との言葉をいただきました。
「養育費110番」は、今年10月27日(土)と来年2月にも実施することが決まっています。また、少なくとも3年間は継続して実施する予定だということです。
ということは、それだけのメンバーを確保していかなければならないわけで・・・今後、110番の相談担当にご協力いただける弁護士の名簿を作成することを考えています。
みなさま、ぜひご協力をよろしくお願いいたします!
事業承継セミナー・個別相談会のご報告
月報記事
中小企業法律支援センター 委員 三角 亘平(67期)
第1 はじめに
当会は、毎年、日弁連及び全国の弁護士会と連携して全国一斉で中小企業向けシンポジウム及び無料相談会を開催しています。
当会では、同シンポジウム及び無料相談会を、福岡、北九州、筑後、筑豊の4地区で同時開催しておりますが、今年は、平成30年9月7日(金)、例年同様に同4地区で同時開催されました。
具体的には、福岡地区では天神のエルガーラホールにおいて、事業承継に関するセミナー等が開催されました。
同セミナーにおいては、まず「伝統の味をつなぐ」と題し、因幡うどん前社長竹﨑敏和氏による、当事者側から見た事業承継に関する講演、次に「事業承継支援ネットワーク事業について」と題して承継コーディネーター田淵耕一郎氏による講演、さらに「弁護士による事業承継支援」と題し、当委員会の委員である高柴弁護士の講演が行われました。その後、それに付随して、弁護士による個別相談会も実施されました。
セミナーは、ほぼ満員の大盛況であり、弁護士にとっても大変ためになるものでした。
以下、福岡地区での個々のセミナー及び個別相談会それぞれの概要についてご報告いたします。
第2 「伝統の味をつなぐ」
創業65年の歴史と伝統を持つ因幡うどんにおいて、工場設備の老朽化による大きな再投資が必要になり、後継者選定の必要性が現実のものとなって事業承継が検討されることとなりました。
その際、店を閉める、子供に経営を譲る、社員に経営を譲るといった選択肢も検討されましたが、資金力の問題や、従業員の雇用の問題、別の仕事を生き生きとしている子供の意思といった問題を考慮し、最終的に第三者に経営を譲るという選択をされたということでした。
第三者に経営を譲るとの決断をしてから、弁護士、会計士、税理士を含む専門家集団に譲受企業の紹介から、会社の客観的価値の評価、譲渡対象にどこまでの資産を含めるのか、会社分割等利用するスキームの選択、具体的契約内容まで支援を受けることになりました。
この際、前社長が最も重視していたのが、演題でもある「伝統の味をつなぐ」、すなわち、味と品質を承継する、ということでした。
実際に事業承継を終えた後も、前社長は顧問として承継会社に残り、店で出汁を取ったり、味と品質の維持に関わり続けており、非常に満足感を得ているとのことでした。
仮に専門家集団の支援がなければ、伝統の味や品質が維持できなかった可能性があるばかりか、そもそも伝統ある会社が廃業していた可能性もあります。弁護士を含む専門家集団の支援の必要性が痛感されるとともに、その影響の大きさに感銘を受けました。
第3 「事業承継支援ネットワーク事業について」
承継コーディネーターの田淵氏からは、主として事業承継の現状と課題及びネットワーク事業の意義等の説明がありました。
まず、事業承継の現状と課題として、好業績企業でさえ、高齢化の波に押され、後継者難に瀕し、廃業の可能性がある現状が指摘されました。
第2で取り上げた因幡うどんといえば、博多うどんといえばココ!というほどの有名店なわけで、そのような好業績企業が廃業予定企業の中に存在しているということでした。
因幡うどんの場合はうまく弁護士等が入ることで成功した例ですが、実際には、事業承継がなされずに廃業予定の企業が多数あり、それにより雇用、技術、ノウハウが失われてしまう可能性が指摘されました。
なお、廃業予定企業の廃業理由は下のグラフのとおりであり、後継者難という消極的な理由が3割近く占めていることが目を引きます。
(田淵氏の当日配付資料より引用)
他方、事業承継を支援するに当たって、弁護士を含む支援機関の支援が細切れになっているという問題点が指摘されました。
そこで、福岡県事業承継支援ネットワークでは、この点を解決すべく、地域中小企業支援協議会と商工団体、金融機関、士業等専門家、行政が連携するネットワーク構築を重要視しているとのことでした。
具体的には、事業承継診断を実施して、潜在的な事業承継問題を顕在化させ、連携する専門家への相談が適当と判断される場合には、専門家を派遣するとともに、診断ヒアリングの実施者がこれに同席して連携していること等が説明されました。
また、診断においては、事業承継前に経営改善を図り、後継者候補等が継ぎたいと思えるような経営状態に高める取り組みや経営の「見える化」、企業の魅力作りを進める取り組みについて、わかりやすい説明がなされました。
第4 「弁護士による事業承継支援」
高柴弁護士からは、M&A以外の事業承継の場合に何が問題になるのかといった説明や、事業承継における法的問題の指摘がなされ、弁護士の支援の必要性が説かれるとともに、ひまわりほっとダイヤルが一般向けに周知されました。
第5 個別相談会
その後、個別相談会が催され、こちらも事業承継を主たるテーマに設定してはおりましたが、その周辺分野も含め、不動産の所有権について、M&Aで買い取る場合の法的問題点について、M&Aによる買収の進め方について、労働関係について、契約書について、といった様々な相談がなされ、大変盛況でした。
第6 おわりに
事業承継は、高齢化が進む現在において、ホットな分野であることは間違いありませんが、中小企業経営者にとっては先送りしがちな問題です。
我々弁護士が、その支援をしていくことの重要性が痛感されるとともに、逆に当事者からのフィードバックを受け、より良い支援体制を構築していくことが重要だと感じました。
あさかぜ基金だより ~豊前ひまわり基金法律事務所に行ってきました!
月報記事
あさかぜ基金法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)
あさかぜ所員の古賀です。8月25日、豊前ひまわり基金法律事務所に行ってきましたので、そのときのことを報告します。
豊前に行くことになった経緯
私たちあさかぜ基金法律事務所の弁護士は、弁護士過疎地域に赴任することを目的として、日々精進しています。しかし、実際に弁護士過疎地域で弁護士業務を行うために必要なことが何なのか、具体的に知る機会が少ないため、豊前ひまわり基金法律事務所の西村幸太郎弁護士にお願いし、赴任後の弁護士活動に関する研修を開いていただきました。
西村弁護士は、あさかぜ事務所で2年半近く研鑽を積んだ後、豊前ひまわり事務所の初代所長として赴任し、それから2年、豊前市にて法的サービスを提供しています。西村弁護士は、地域に根ざした法律家として、依頼者に寄り添い、最善の結果を出すために日々頑張っているとのことで、私が尊敬している先輩弁護士の1人です。
いざ、豊前へ
研修当日、私たちは、豊前ひまわり事務所に向かいました。私たちは、博多駅で特急ソニックに乗車し、小倉経由で豊前ひまわり事務所の最寄り駅である宇島駅へ向かいました。
博多から宇島まで特急で90分の道のりです。私は、車窓からの景色を眺めながら、北九州市から遠く離れた豊前市の住民にとって身近に弁護士がいることがどれだけ心強いのかと考え、弁護士過疎偏在問題を解消することの重要性を実感しました。
宇島駅には大きな天狗像が鎮座していました。豊前市と築上郡築上町の境界に位置する求菩堤山(くぼてさん)には鴉天狗(からすてんぐ)の伝説が伝えられており、豊前市のマスコットキャラクターである「くぼてん」は、求菩提山の鴉天狗にちなんでいます(豊前ひまわり基金法律事務所のマスコットキャラクターも弁護士姿のくぼてんです。)。
宇島駅からはタクシーで、豊前ひまわり事務所に向かいました。駅から車で約5分の距離にあり、徒歩でも10分程度と非常にアクセスの良い場所です。事務所は、市役所が近くにあり、町の中心に近く大きめの道路が通っていて、交通量も多いため、住民にとって相談に行きやすい場所にあると思いました。
事務所見学、そして研修
事務所に到着してから、まずは、事務所内を見学しました。私たちは、事務所のレイアウトや、備え置かれている什器備品類などを見せてもらいました。このとき、事務所の間取りから備品の内容、置き方に至るまで、西村弁護士のこだわりを強く感じることができました。事務所見学の後、研修がスタートしました。
西村弁護士の研修は、事務所を開設するに際して何をするのか、どのように開設準備を進めていくか、といったところから始まり、開業場所や事務所名の決定、設備投資や広報活動等、従業員の雇用とその内容等、経営理念等について、幅広く、私たちへの質問も交えながら進められ、色々と考えさせられる内容でした。
この中で、一番印象に残ったのは、西村弁護士の担当していた事件に関する話でした。私が西村弁護士から事件の概要を聞いたとき、どのように事件を解決するのか、すぐには思いつきませんでしたが、西村弁護士は、当該事件を受任し、一生懸命自分で考え抜いて、事件を解決したということでした。今回、西村弁護士の話を聞いて、依頼者の言い分を法的主張として整理する能力を身に付けることの大切さを実感しました。
私は、弁護士過疎地域への赴任に際し、何が必要なのか、何となく漠然と考えていたところ、西村弁護士の話を聞いて、改めて弁護士過疎地地域で事務所を開設し、経営することの難しさを知りました。普段の業務では、主として自分が担当する事件のことを考えているだけで、経営についてここまで考えることはあまり無かったものですから、とても勉強になりました。
研修の後は、事務所近くのワインバーで、懇親会となりました。おいしいワインをいただき、楽しく会話が弾みました。
気持ちを新たに
今回は、実際に豊前ひまわり基金法律事務所を訪問し、弁護士過疎地域の最前線で頑張っている西村弁護士に接して、来たるべき赴任に向け、私も気持ちを新たに頑張ろうという気持ちになりました。
今後とも精進していきますので、皆様、何卒よろしくお願いします。