福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2018年6月号 月報
シンポジウム「民法の成年年齢引下げを考える~18歳で成人になるということ~」ご報告
月報記事
消費者委員会委員 南正覚 文枝(67期)
1 はじめに
平成30年4月21日、インペリアルパレスシティホテル福岡にて、当会主催、日弁連、九弁連共催で、シンポジウム「民法の成年年齢引下げを考える~18歳で成人になるということ~」が開催されましたので、その概要についてご報告いたします。
2 当日までと当日の様子
本シンポジウム開催に当たっては、県内大学等教育機関への案内状の送付や、会員、後援団体である福岡県、福岡市の消費生活センターや司法書士会、NPO法人消費者支援機構福岡等の呼びかけなど、様々な形で周知がなされました。
その甲斐あってか当日は、会場がほぼ満員になる約100名もの方々が集まってくださいました。
多くの参加者の方々の熱気を感じる中、当会の中村博則副会長の開会挨拶により、本シンポジウムは始まりました。
このシンポジウムの最中に、ご多忙の中、古賀之士参議院議員、稲富修二衆議院議員、野田国義参議院議員、国会議員秘書の方1名も駆けつけられ、ご挨拶いただきました。それぞれの皆様のご挨拶から、立法を担う国会議員の方々もこの問題に対して深い関心を寄せていることが窺えました。
なお、当日のシンポジウムの状況は、当会公式ツイッターで、リアルタイムで伝えられました。
3 基調講演1「成年年齢引下げに関する問題点」
まず初めに、日弁連消費者問題対策委員会副委員長の中村新造弁護士による「成年年齢引下げに関する問題点」と題した基調講演が行われました。
「民法」と「民法以外の法律」の区別がついているか、未成年者取消権、親権とは何かといった基本的な概念の説明から入り、民法の成年年齢は何を定めているのか、民法の成年年齢を引き下げる必要性はあるかといった内容を20歳成年制の歴史などにも言及しながら、パワーポイントを使用してわかりやすく説明していただきました。
4 基調講演2「若年者の消費者被害拡大防止の課題」
次に、日弁連消費者問題対策委員会成年年齢引下げ問題プロジェクトチーム座長の平澤慎一弁護士による「若年者の消費者被害拡大防止の課題」と題した基調講演が行われました。
プロジェクトチーム座長の立場から、民法の成年年齢引下げの問題の現状及び議論状況を詳しく説明していただきました。その上で、そもそも成年年齢引下げの必要があるのか、この問題についてもっと積極的に広報活動を進めていく必要があるのではないか、実践的な消費者教育を実践していかなければならないのではないかといった課題についても言及されました。
5 リレー報告
(1)「未成年者の消費生活相談の現状について」
福岡県消費生活センター相談員の岩尾より子氏より、平成28年度の福岡県消費生活相談の概要から、未成年者の消費生活相談の現状に関する報告がありました。
その中で19歳以下の相談については挙がってこないエステサービスやフリーローン・サラ金についての相談が、20歳代になると上位に挙がってきている現状が報告されました。このことから、未成年者取消権等が行使できなくなる20歳代になるとともに若者に対する業者等からの勧誘が急増すること、それとともに判断能力が未熟な若者が高額な契約金額の契約を締結させられ被害額も急増するといった実態が浮かび上がります。
今後成年年齢が18歳になることで、18歳から20歳までの若者の高額契約にまつわる被害が飛躍的に増えていくのではないかということが強く懸念される報告でした。
(2)「消費者教育の観点からー視点の整理―」
佐賀大学教授であり、適格消費者団体NPO法人佐賀消費者フォーラム理事長の岩本諭氏より、消費者教育の視点からの報告がありました。
「消費者教育推進」政策の動向をご説明いただき、「若年消費者への消費者教育」推進の必要性やその場合どのような教育内容が必要と思われるかについて、実際に大学生と日々接している岩本教授より、現実の若年消費者の実態を踏まえた提言がなされました。
(3)「若年者の契約意識と消費者トラブル」
当会の朝見行弘会員より、若年者の契約にまつわるトラブルについて、消費者契約法改正の内容も交えて報告がありました。消費者のトラブルを予防・解決するための法律である消費者契約法の概要と、本年3月に提出された改正案の改善点等について具体的な説明がなされました。
成年年齢を引き下げることにより想定される若者の契約にまつわる被害拡大を防止する必要性が高いことからすると、今回の消費者契約法改正ではまだまだ十分でないと感じました。
6 シンポジウム閉会
最後に、当会の千綿俊一郎消費者委員会委員長より閉会の挨拶がなされ、盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じました。
7 おわりに
民法の成年年齢引下げに関して、日弁連等が慎重であるべきとの意見を表明する中、法務省は平成30年3月13日、民法の定める成年年齢を20歳から18歳に引き下げることを内容とした民法の改正案を国会に提出しました。
今回この法案が成立した場合に18歳以上の若者の多くに降りかかるかもしれない消費者被害など様々な問題点について、多くの方々に知っていただき、そして考えていただきたいという趣旨で本シンポジウムは企画されました。
4月の天気の良い土曜日の開催となり、シンポジウムへの参加者は少ないのではないかと危惧されましたが、実際には10歳代から70歳代までの学生や教師、消費生活相談員など、様々な年代、属性の方々に多数お集まりいただきました。これは取りも直さず、今回の成年年齢引下げについて、世代等を問わず多くの方々が強い関心を寄せていることの表れだと感じました。
実際に本シンポジウムに参加してくださった方々がどのような感想をお持ちになったか、任意にアンケートをお願いしたところ、参加者の半数以上の58名の方が回答を寄せてくださいました。
そのアンケートによると、アンケートに回答してくださった方の実に82.7%もの方が成年年齢引下げに「反対」若しくは「どちらかといえば反対」との結果となりました。
「反対」、「どちらかといえば反対」の理由としては、法整備等の施策が十分になされていない、若者に対する消費者教育が十分になされていない、議論が深まっておらず拙速であるといった意見が数多く挙げられ、やはり現段階での成年年齢引下げに対しては強い危惧を抱いていることが窺えました。
原稿を執筆している現在、本法案はいまだ成立していない状況ですが、私自身消費者委員会の一員として、今後ともこの問題に強く関心を持ち続け、若者の消費者被害の防止のための消費者教育の推進や消費者被害の相談などにも積極的に関わっていこうと思っています。