福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2018年4月号 月報

憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」

月報記事

憲法委員会委員 山崎 あづさ(54期)

去る3月2日、憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」が行われました。会員の他に市民の参加も50名ほどあり、なかなか盛況な会となりました。

今回は、日弁連憲法問題対策本部事務局の井上正信弁護士(広島弁護士会所属)を講師にお迎えしました。井上弁護士は、これまで法律雑誌等で、憲法問題(特に憲法9条、安全保障、防衛政策)に関する論文を多数執筆されているとあって、豊富な知識に基づき、わかりやすく、明快な解説をしてくださいました。以下、その内容をご紹介します。

1 こんなにある、9条加憲論の論点

○ 現在の9条加憲論の特徴は、「イメージ先行型」、「感情論」である。条文案が示されない段階なのに「9条加憲で何も変わらない」と宣伝し、「自衛隊をきちんと憲法に位置づけないと、命をかける隊員に失礼だ」と情緒的に訴えかける。

○ 9条の最大の特徴は2項にあるが、「加憲」により2項との矛盾が生じ、2項の効力が変わることになるのではないか?

○ 「何も変わらない」と言うなら、わざわざ何のために改憲するのか?

○ 政府は60年間、自衛隊合憲論を積み重ねてきているのに、自衛隊違憲論を払拭するためだけに改憲する必要があるのか?現憲法の下では自衛隊員は誇りを持てていないというのか?

2 「何も変わらない」論への徹底批判

○ 現在の自衛隊は9条2項の下で作られた自衛隊法により規定されているが、加憲により9条の2に書き込まれる「自衛隊」は、それとは別物となり、9条の2の解釈に全て委ねられてしまう。そうして結局、9条2項はほとんど死文化してしまう。「何も変わらない」という主張は、憲法に書き込む意味を過小評価しているか、全く理解していないか、あるいは、ごまかしている、と理解するしかない。

○ 9条の2に自衛隊を書き込めば、次は、これを実行するための法律が必要となる。軍事秘密保護法、軍事法廷、安保法制のバージョンアップなど、フルスペックの軍隊を持つことが可能になる。

○ 自衛隊が憲法上の国家機関となれば、自衛隊の活動や任務と基本的人権が衝突する場面では、基本的人権が制約されることになる。

○ 9条が築いた平和な社会がどんな社会であったかを再確認しよう。9条は、自由な社会を下支えしている。なぜなら、「戦争は最大の人権侵害」である。

3 安保法制下の自衛隊の実態

○ 「専守防衛政策」が、安保法制制定後の防衛白書でも全く同じ文言で書き込まれているが、実際は、「再定義」という形で意味を変えられ、それまでの「専守防衛」とは似て非なるものとなっている。

○ 専守防衛政策の意義は、我が国が他国に対する脅威とならないことを宣言し、安心を供与することで我が国の平和と安全を図るところにある。しかし、これが揺らがされ、葬り去られる恐れがある。

4 9条改正と北朝鮮脅威論

○ 現在のマスコミ等の報道の仕方には問題がある。一度リセットしてみよう。世の「常識」に囚われず、現実・事実を踏まえて考えてみよう。

○ 抑止力を強化して平和と安全が守られるのか?「抑止」とは、互いに相手国の市民を人質に取る政策である。抑止が破れたときに犠牲になるのは、私たち国民・市民である。

○ そもそも北朝鮮の弾道ミサイルと核兵器だけが脅威なのか?挑発しているのは北朝鮮だけなのか?約束を破ったのは北朝鮮だけなのか?アメリカはどうなのか?「万一日本が攻撃されたら」というが、どの国がなぜ攻撃してくるのか?その想定は現実的か?

○ 北朝鮮の脅威というのは、9条の問題ではなく、対北朝鮮政策の問題である。場当たり的に、派生した問題だけを解決しようとしても本当の解決にならない。

○ 私たちが北朝鮮の脅威に向き合うときに大前提に置くべき条件は、絶対に武力紛争にしてはならないとの強い意思である。

井上弁護士のお話は、時に細かい情勢分析や実態報告を交え、事実を踏まえて理論的な指摘を展開するものでありながら、とても熱く、パワフルなものでした。特に印象的だったのは、「絶対に武力紛争にしてはならないという強い意思」が大前提だとの言葉です。何が大切なのかという点を見失うことなく、冷静に考えていきたいと改めて思いました。

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー