福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2018年3月号 月報
あさかぜ基金だより ~あさかぜを卒業します~
月報記事
弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 若林 毅(68期)
3月から対馬へ
あさかぜの弁護士は、およそ2年の養成を終えたあと、九弁連管内の弁護士過疎地域で弁護士として活動することとなります。私が入所してから3名の先輩弁護士が養成を終え、弁護士過疎地域で活躍されていますが、いよいよ私もあさかぜから巣立つこととなりました。2月末であさかぜでの養成を終え、3月から長崎県の対馬ひまわり基金法律事務所の後任所長として弁護士過疎地域での活動をはじめます。任期は2年の予定です。
あさかぜでの日々
およそ2年間の養成期間は、あっという間に過ぎていきました。私が公設事務所の中でもあさかぜに入所を希望したのは、多くの経験豊富な先輩弁護士と一緒に事件を担当でき、事務所経営も学べ、弁護士として大きく飛躍ができる環境にあると思ったからです。
実際にあさかぜ基金では、数多くの民事・家事・刑事の事件を、多くの先輩弁護士と共同受任でき、およそ2年の養成期間でたくさんの得がたい経験を積むことができました。特に、少年や両親に対する医師によるカウンセリングの設定、両親以外の親族の協力、学校や仕事先との調整など、指導担当の先輩弁護士と環境調整に尽力し再抗告まで争った少年事件や、外国人の子の引渡し事件などが印象に残っています。また、あさかぜでは、扶助事件の相談・受任、当番弁護士の出動・受任、国選弁護、破産申立事件など公設事務所で必ず求められる事件を数多く経験することができました。さらに、あさかぜ委員会を通じて、キャッシュフローデータを意識した事務所経営、事件処理(相談の受け方、受任率の向上、依頼者とのトラブル防止など)、ホームページ等の広報、事務職員の労務管理などについても学びました。これらの経験は、弁護士過疎地域である対馬における活動にも必ず役立つものと思います。
対馬ひまわり
対馬ひまわり基金法律事務所は2005年10月に開設された公設事務所です。井口夏貴弁護士、伊藤拓弁護士、青木一愛弁護士に続き、あさかぜで養成を受けた弁護士が4代連続で所長として活動することとなり、私で6代目の所長となります。島には、ひまわり基金の弁護士1名のほかに、法テラスのスタッフ弁護士1名が常駐しています。
離島である対馬においては、九州本土と異なり、島内に身近に相談できる弁護士がいなければ、法的ニーズを広く汲み取ることが難しくなります。また、島内だけで生活圏が完結しているため、人と人とのつながりが濃密で人の目を気にして弁護士への法律相談を控えてしまう人も多いと思われます。そうした離島特有の事情を少しでも改善し、島の身近な弁護士として法の支配を広く根づかせる手助けをしたいと思い、対馬を希望しました。弁護士へのアクセスの問題は、歴代の所長が築いてきた行政や福祉とのつながりをより密にすることや、各種の講演や広報活動等を通じて、事務所の存在を広く知ってもらい、気軽に相談できるように工夫することで解消していきたいと思います。
対馬の魅力
対馬は面積の9割が山林を占める自然豊かな島です。国の天然記念物に指定されている原始林や、リアス式海岸など勇壮な自然が広がっています。また、国の天然記念物であるツシマヤマネコや、渡り鳥など動植物もたくさん生息しています。人口はおよそ3万人。福岡からは飛行機で35分(1日4往復)、高速船で2時間強(1日2往復)で行くことができます。島の北端から韓国の釜山まではおよそ50キロしか離れていません。朝鮮半島に近い地理的条件から、古くから大陸と日本を結ぶ中継地として朝鮮半島との交流が盛んに行われていたため、書物・仏像・建造物・古墳などの文化財が多く残されています。また、砲台跡が島に31カ所もあり、対馬が古くから国境の島であったことを想起させます。青く澄んだ海の景色とともに、シーカヤックや釣りを楽しむこともできます。
対馬に来られたときは、ぜひ事務所にお立ち寄りください。
むすびに
私は、あさかぜを卒業しますが、これからはあさかぜや福岡県弁護士会で経験したことを活かして、対馬の人々のために力を尽くします。あさかぜ所員の弁護士は、弁護士過疎問題解消への思いを抱きながら、日々研鑽を積んでいます。引き続き、ご支援ご協力をいただきますよう、よろしくお願いします。
最後に、あさかぜ委員会をはじめとする会員の皆様方にはたいへんお世話になりました。ありがとうございました。