福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2018年3月号 月報
創業支援研修会 ~中小企業診断士・梅山香里さんを講師に招いて~
月報記事
中小企業法律支援センター委員 松村 達紀(65期)
1 創業支援研修会の開催について
中小企業法律支援センターでは、国家戦略の一つでもある創業支援において、各会員が十分な力を発揮することができるよう各種研修会等を企画しており、これらの活動の一環として、平成30年1月29日(月)、中小企業診断士である梅山香里さんを講師にお招きし、「創業支援」をテーマとしてご講演いただきました。
今回の研修会は、1月中旬までに参加申込みが定員に達するなど、会員の関心が非常に高いことが窺われ、当日は雪も散らつく寒空であったにもかかわらず、会場は満員御礼、熱気ある中で始まりました。
2 創業支援について(創業との関わり方)
(1) 講演会は、主として、(1)中小企業診断士の業務内容の紹介、(2)創業と創業支援に関する動向の紹介・分析、(3)創業支援の実例の紹介の3本立てで行われました。
中小企業診断士の業務内容の紹介においては、まず始めに、中小企業診断士の資格概要を説明いただきました。その後、中小企業診断士として、中小企業の経営に関するアドバイスを行う中で、弁護士・公認会計士・税理士・弁理士・社労士等の各専門家への橋渡し的な役割を果たしていることや、これらの役割を円滑に行うために、各専門家との連携を進めていることの紹介がありました。
また、平成29年に福岡県中小企業診断士協会が中小企業診断士養成機関に登録されたことにより、中小企業診断士試験第1次試験に合格し、この養成課程を修了すれば、第2次試験を省略して中小企業診断士としての登録が可能となったことが紹介されました(これまでは養成機関が九州になかったため、養成課程を経るためには東京等のその他の地域に行くほかなかったそうです。)。
(2) 創業と創業支援に関する動向の紹介・分析においては、我が国における開廃業の現状や男女別・年代別の起業家数等の説明がなされました。また、他国と比較して開業率が低い理由の分析として、創業に当たってのハードル(障害)等の説明がなされ、あわせて創業者が直面しやすいリーガルリスクの紹介がなされました。
【創業におけるリーガルリスク】
- HPリース契約によるトラブル
- 契約書不備に起因するトラブル
- 知的財産権に関する諸問題
- 融資、経営者保証に関する諸問題
- 共同創業者とのトラブル(安易な協業)
- 労務管理に関する諸問題
- 情報管理、情報漏えい
- 廃業に関する諸問題
開業率の分析にあたっては、起業に関する相談相手がいないことが問題である点が指摘されましたが、その場で使用された統計データにおいては、相談相手として(税理士・公認会計士は挙げられている一方)そもそも弁護士は挙げられておらず、ビジネス構築段階における相談である以上、多少役割が異なる点はあるのかもしれませんが、残念ながら、現時点において、弁護士は十分な関与ができていないことを痛感いたしました。また、リーガルリスクの紹介においては、会員にとっては当たり前・自明なリスクであったとしても、創業者にとってはそうでないことも多数あり、創業段階から弁護士が関与し、サポートすることの重要性を改めて実感いたしました。
(3) 最後に、創業支援の実例の紹介においては、創業相談として、相談を持ち込まれることの多いテーマの説明がなされるとともに、相談実例をもとに、具体的にどのような事項をヒアリングし、アドバイスしていくのか、簡単に実例紹介がなされました。事業展開を検討することで見えてくるリーガルリスクもあることから、弁護士においても、ビジネスモデルや経済情勢等にアンテナを張っておく必要があると感じました。
3 おわりに
今回の研修は、18時から20時までの2時間だったのですが、初めから終わりまで終始各会員が熱心に臨んでおり、冒頭にも記載いたしましたが、「創業」に対する関心の高さを改めて感じました。
また、「創業」と一言で表現されたとしても、ビジネスの中身は様々であり、また、創業者ごとに準備のレベル(状況)やリスクの程度は、大きく異なるものと思います。国家的に「創業」が盛り上がっている中、トラブル等により失敗に陥る創業者を防ぎ、より多くの創業の成功への一助となるためにも、当センターとしては、各専門家との連携を深めつつ、早期の段階で創業にタッチし、多くの創業者のサポートを行えるよう、活動を続けてまいりたいと考えております。