福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2018年3月号 月報
シンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」報告
月報記事
公害環境委員会委員 中藤 寛(59期)
本年1月20日、九州弁護士連合会及び福岡県弁護士会共催のシンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」が開催されました。大変興味深い内容でしたので、その概要をご報告いたします。
1 基調報告「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」
まず、当会公害環境委員会の埋田昇平先生より、「九州における再生可能エネルギー普及の取組み」について基調報告が行なわれました。
日本の再生可能エネルギーの導入がヨーロッパ諸国に比べて大幅に遅れていること(日本6%、ドイツ24.5%、スペイン26.1%)、国内では都道府県別の再生可能エネルギーの導入比率(水力除く)で大分県が1位であること(40%弱)等が報告されました。
また、再生可能エネルギーについての弁護士会の取組として、福岡県弁護士会館及び北九州部会会館における新電力導入、北九州部会のエコアクション21認証取得などが紹介されました。
2 基調講演「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」
特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也様より、「地域が中心となった再生可能エネルギーの普及」と題する基調講演が行われました。主な内容は以下のとおりです。
(1) 再生可能エネルギーへの産業革命規模の大転換(破壊的変化)
デジタル技術の急速な進歩によって銀塩フィルムのカメラが短期間でほぼ100%デジタルカメラに置き換えられたように、世界では、化石(火力)・原子力の既存エネルギーから風力・太陽光などの再生可能エネルギーへの急速な転換(破壊的変化)が起きている。風力・太陽光発電、蓄電の技術革新がIT革命並のスピードで急激に進んでおり、風力・太陽光の発電コストが急速に低下しているからである。
このような急速なコスト低下により、全世界の発電量に占める割合が、風力発電は10年で10倍、太陽光発電は6年半で10倍に増えており、今後、そのスピードはさらに加速することが予測される。実際、現時点においても、世界的に見れば、風力・太陽光による発電量は、いずれも既に原発の発電量を超えている。
(2) 「ベースロード電源」から「フレキシビリティ」へ
風力・太陽光は、発電量が気象の影響を受けるため安定供給が課題とされ、原発や火力などの既存エネルギーが「ベースロード電源」として重視されてきた。しかし、風力・太陽光発電も、気象予報、水力等他の発電による調整、他地域との電力融通、需要側での調整、蓄電池の活用などの柔軟な需給調整(フレキシビリティ)によって、安定供給という課題は解消できる。
(3) 日本の現状
日本では、固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電が普及し、電力小売自由化も実現したが、以下の課題がある。
すなわち、土地利用規制や環境アセスメントがなく、地域参加が優遇されなかったために太陽光発電開発で事業者と地域の対立が深刻化しつつあること、送電線を独占する既存の電力会社が化石・原子力による「ベースロード電源」にこだわり、変動型電源である太陽光・風力発電について送電線への接続を忌避・抑制しつつあり、太陽光・風力の日本における市場が急激に縮小しつつあること、日本の太陽光発電は世界の水準と比較して未だ2~3倍の高コストであることなどである。
日本において再生可能エネルギーをさらに普及させるには、これらの課題の解決が必要であり、特に、送電線を道路と同様に公共財として競争主体から分離する完全な発送電分離、完全にオープンな市場の実現が不可欠である。
(4) 地域からのエネルギー・デモクラシー
既存の発電は大規模・中央独占型であるのに対し、太陽光・風力などの再生可能エネルギーは、必ずしも大規模な設備が必要ではなく、小規模・地域分散型である。いわばエネルギーの地産地消が可能であり、誰もが発電することが可能である。日本でも各地に小規模分散型のエネルギーシステムで自立を目指す「ご当地エネルギー」が次々と誕生している。
このような発電の担い手の広がり、多様さは、「エネルギー・デモクラシー」というべきものである。
3 パネルディスカッション「地域の力でなしうる取り組み」
パネリストを飯田所長、みやまスマートエネルギー株式会社(みやま市)代表取締役の磯部達様、大分県商工労働部工業推進課エネルギー政策班の渡辺康志様、コーディネーターを当会公害環境委員会委員長緒方剛先生として、パネルディスカッションが行われました。
(1) 大分県の施策
まず、渡辺様から、再生可能エネルギー導入比率全国一位の大分県における施策と実績、及び他の都道府県と異なり、太陽光・風力以外にも大分県特有の地域資源を活かした地熱・バイオマス・小水力など多様な発電方式を導入していることが報告されました。このような再生可能エネルギーの普及は、大分県のエコエネルギー導入促進条例を契機としたものであるとのことでした。
これについて、飯田所長より、地方自治体が条例によって再生可能エネルギー導入促進を図ると、それが他の自治体にも広がっていき、さらには国レベルでの施策につながっていくことから、県レベルでの施策が重要であるとの指摘がなされました。
(2) みやまスマートエネルギーの取組み
みやま市は、多くの地方自治体と同様、人口減少・高齢化による活力減退という問題を抱え、また、電気代として市外へ年間約40~50億円が流出していました。そこで、地域資源を活かし、地域で電力を作って地域で売ることで、安定した雇用を生み出すとともに、その収益を地域に還元する(子育て支援など生活支援に充てる)ため、みやま市が筆頭株主となり、地元企業に呼び掛けて、みやまスマートエネルギー株式会社が設立されました。
実績として、出資者に年間8%の配当ができており、また、大分県豊後大野市、同県竹田市などの自治体の再生可能エネルギー導入支援も行なっていることが報告されました。
再生可能エネルギーの課題である需給調整についてコーディネーターより質問がなされましたが、専門家ではない地域住民を雇用して需給調整を行なっているが、特に問題は生じていないとのことでした。
4 最後に
以上のように、コスト低下により、太陽光・風力を初めとする再生可能エネルギーは急速に普及しており、現在、同時進行しているグローバルなエネルギーの大転換は、大規模・集中・独占型から地域分散・ネットワーク型への移行という点に大きな特色があるようです。
飯田所長がこのような大転換を、「パワーエリート」から「民衆のパワー」へ、「核による戦争」「石油を巡る戦争」から「太陽による自立・平等・平和」へ、と表現していたのが非常に印象的でした。