福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2018年2月号 月報
中小企業法律支援センター企画「事業承継における会計と税務」
月報記事
中小企業法律支援センター委員 井川原 有香(69期)
1 はじめに
平成29年12月4日(月)、福岡県弁護士会館において、公認会計士・税理士の内田健二先生に「事業承継における会計と税務」というテーマのもとご講演いただきました。本講演は、中小企業の相談を受ける際に必要な知識や情報の提供・共有を目的に、中小企業法律支援センターが企画・実施する研修の一つでもあります。
2 概要
内田先生には、(1)事業承継のタイプ、(2)事業承継手法の選び方、(3)事業承継に向けての事前準備、(4)事業承継に際して生じる税金、(5)事業承継に関する節税論点、(6)特徴的な事業承継事例という6つの柱に分けて、ご経験を交えながらお話していただきました。
3 事業承継スキームの策定
(1)に関しては、親族内承継、親族外承継、M&A、株式上場といったタイプ別に分類した上で、それぞれのメリット・デメリットをご教示いただきました。その上で(2)として、そもそも利益を出せているのか・先行きは明るいのかという議論の前提ともいえる問題点(=事業承継ではなく清算や破産を検討すべきではないのか)、有能な後継者がいるのかという現実的な問題点、そして経営者の心情と実際の事業状況とにギャップがある場合の問題点等着目すべき事項を数多く挙げていただきました。得意先・協力業者の安定、特色ある技術の保持、安定的かつ長期的な利益を生みだす見込みがある等の理由から実際にはM&Aを検討するようなケースでも、当初から選択肢に含めない経営者の方もいらっしゃるとのことでした。
(3)に関連した情報として、福岡県事業引継ぎ支援センターについてお話しいただきました。同センターのホームページには、平成29年12月21日時点で、事業の譲渡希望が191件、譲受け希望は213件が登録されており、事業承継のサポートの需要が高いことを改めて感じました。
また、(3)の具体的な内容としては、親族内承継における暦年贈与非課税枠の活用のみならず内部統制の整備のあり方(経理部門の充実、経営企画部門、監査部門の創設、月次試算の適時報告、分析、予算管理)についても具体的にお教えいただきました。M&Aの場面では、過度な節税をするのではなく利益決算を組むことで印象が良くなり、結果的に譲渡金額も上がるとのことでした。そのほか上場の場合には、監査報告書の準備との関係で少なくとも上場の3期前から準備を開始すること、また上場準備コストや専門的な経理スタッフの人件費、監査報酬等を考慮すると年間2000~3000万円の負担が生じるという具体的数値も示していただきました。
4 事業承継と税金
(4)と(5)に関しては、まず大原則として、節税に注力し過ぎてその他の大切なこと(持続的な利益の作出)を見失ってはいけないと仰っていました。この点につき留意した上ではありますが、節税のために会社のサイズ指標を上げて評価額低減を目指す場合には合併は避けるべきということや(合併して業種に変更が生じると類似業種比準方式自体が採用されない可能性があるため)、相続税や遺留分の問題が生じた場合でキャッシュ資産の確保も不十分なときは経営者貸付や種類株式発行なども早めに視野に入れるといったご指摘がありました。なお、M&A等で生じる譲渡所得税については、売却益を算定する計算上節税の論点になるところがほぼないため、本講演では主に相続税に関する節税論点をご教示いただきました。
5 最後に
円滑な事業承継を進めるにあたっては、会計・税務に関する知識が必要不可欠ですが、本講演において初めて知ることも多くあり、非常に貴重な機会となりました。引続き中小企業を取り巻く問題にアンテナを張り、支援の一助となる活動ができたらと思います。