福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2018年1月号 月報

遺言セミナー・無料相談会(11/12・11/25) ~どんな方が参加するのか・どんなセミナーにすればいいのか~

月報記事

法律相談センター運営委員会委員 井手上 治隆(60期)

1 はじめに

平成29年11月12日(日曜)と25日(土曜)、天神弁護士センターにて、一般の方を対象とした遺言セミナーと無料相談会を開催しました。

当初は12日のみの開催を予定しておりましたが、朝刊3紙(毎日・朝日・西日本、掲載順)にセミナーの記事が載ったこともあり、12日分が定員(20名)に達したため、急遽、25日も開催することになりました。

当日は、まず、遺言・相続の基本的事項についてのセミナーを1時間行い、その後、希望者に対し無料相談会を実施しました。セミナー講師は、千綿俊一郎会員(12日)と吉永裕介会員(25日)が担当しました。

会員の皆様もこの種のセミナーの講師を務める機会があるかと思いますので、その際の参考になればとの視点から、以下報告させていただきます。

2 どんな人がやってくる?(参加者の実像)

年齢層でみると、やはり高齢者の方が多く、何らかの問題に直面している方が多かったようです。また、ご夫婦や親子での参加も一定程度ありました。

当然かもしれませんが、皆さん、「そろそろ」から「すぐにでも」と幅がありますが、遺言書を作成することに対する意識が高い方ばかりでした。なかには、遺言書の文案を自ら作成して持参され、相談時にこれで問題ないかと質問される参加者もいらっしゃいました。総じて、「ちゃんとしておきたい」という想いを共通して持たれているように感じました。

ただ、遺言・相続に関する知識・情報量及びその正確性については、かなりの幅があるように見受けられました。

3 どんな心配ごと?(疑問・悩みの中身)

各参加者の置かれている状況により、疑問・悩みも異なります。ただ、以下のように、いくつか共通する点もありました。

  • まず、どうしたらいいのか、何から始めないといけないのか。
  • 自分で作成する場合に、形式面で注意しなければならない点は、どのようなことか。
  • 自分の希望する内容の遺言が本当にできるのか、その遺言で問題が生じないのか。
  • 費用がいくらかかるのか(公正証書遺言を作成する場合や弁護士に依頼する場合など)。
  • 相続税はどうなるのか。等々

ここのところは、日々の法律相談で会員の皆さんが実感されているところと、大差ないと思います。

4 セミナーをより良くするには?(セミナーの向上)

セミナーでの参加者の質問や反応、またアンケート結果から、気づいた点・感じた点は以下のとおりです。

(1) 声と文字は大きく

参加者には、高齢で少し耳が遠い方もおられます。声は、少し大きいかなと思うくらいで丁度よい感じです。

資料は細かい字で書いてあると、なかなか読んでもらえません。文字の大きさは、少なくとも、高齢者が拡大鏡などの補助器具なしで読める程度にしておかねばなりません。

(2) 気軽に質問ができる雰囲気作り

今回は、講師の絶妙な雰囲気作りが功を奏し、参加者の皆さんは、セミナー中も、気兼ねすることなく、自由に質問されていました。講師が説明している途中でも、疑問に思ったら、割り込んで質問をするという状況でした。今回の規模くらいだと、「あとで質問時間を設けます」ではなく、「適宜、自由に質問してください」という形式でよかったように思います。この点は参加者にも大変好評でした。

ただし、講師にとっては、流れが断ち切られたり、時間配分などが予定どおりにいかなくなったりするため、大変ではあります。

(3) 導入部分と遺留分

今回は、導入部分で、「遺言があれば揉めなかったのに」という身近な事案をいくつか挙げて説明し、その後、相続と遺言の基礎知識について解説していきました。いきなり用語等の説明から入るより、身近な具体例から入った方が、興味が湧き、また、基礎知識の説明の糸口にもなるため、この構成は良かったです。

ただ、遺言作成を考えている方は、法定相続分と異なる配分を意図し、相続人間の不均衡を気にされている方がほとんどです。今回のセミナーでも、導入部分の段階から、遺留分についての質問が出ていました。あとで説明しますと講師が言っても、その後も遺留分についての質問が何度も出ていました。皆さん、遺留分については非常に気にされているようでした。そのため、遺留分については、一般の方にとっては難しい概念かもしれませんが、比較的早い段階で説明しておいた方がいいと思いました。

(4) 基本的事項もかみ砕いて丁寧に

「嫡出子」「検認」など我々が日々接している用語でも、一般の方にとってなじみの薄い言葉については、丁寧に補足説明をしなければ、理解してもらえないなと感じました。

また、参加者の年齢層によるものかもしれませんが、参加者の中には、あまり配付資料を見ずに、話しだけを聞いているという方も一定数いました。説明する側は、文字(漢字)も当然の前提としていますが、聞く側にとっては、そうではない場合もあるんだなと気づきました。例えば、自筆証書遺言は、全て自分で書かないといけない、「じしょ」しなければならないと口頭で説明した場合、その段階で、条文の文言どおり「自書」の意味で受け取ってもらえる方もいます。その反面、それだけの説明だと、署名だけ自分で書けばよい「自署」を想定されている方がいるようでした。それに続く補足説明(内容が複雑だと全て手書きすることがいかに大変か、訂正することがいかに面倒か等)をすることにより、「あ~、何から何まで自分で書かないといけないってことね」と理解される方もいたようでした。

対象とする参加者の構成にもよりますが、基本的な事項もかみ砕いて、丁寧に説明する必要を再認識しました。

(5) どこまで説明するか

遺言の説明をするには、前提として相続の知識についても説明する必要があります。ただ、どの程度の知識まで説明するかは、時間との兼ね合いで難しいところです。あまり細かいことを話してもしょうがないので、ある程度割り切って、遺言に必要最小限の範囲にうまく絞る必要があります。

今回、配布資料については、一通りの基本的な知識を網羅したものを作成したものの、記載している事項を全て説明しておりません。資料については、セミナーの冒頭で、細かい事項も記載しており、全て言及しない旨を述べ、この資料はおみやげ的なものとお考えくださいと説明しております。この方法も良かったと思います。

(6) セミナーと相談会の役割分担

参加者の皆さんは、単に遺言・相続の基礎知識を修得することだけが目的ではなく、自分の悩みや疑問を解消するためにセミナーに参加されています。そのため、場合によっては、セミナーでの質問が個別具体的な事情に基づくものとなり、他の参加者とってあまり有益ではない場合も出てきます。

個々の参加者特有の事情に基づく質問は、セミナー後の相談で質問してもらうように冒頭で誘導しておいた方がいいかなと感じました。

(7) 課題(広報と集客、実施方法)

今回は、対外広報PTに尽力いただき、セミナーの開催が新聞に掲載されたこともあり、盛況となりました。しかし、掲載前は、県弁のHP等で広報をしていたものの、申込者が3名しかなく、どうしたものかと気を揉んでおりました。今後、このようなセミナーを継続的に開催するとした場合、毎回、新聞に掲載してもらえるとは考えづらいので、どうやって広報し集客していくかが課題です。

また、実施方法については、弁護士会の施設に来てもらうのではなく、コミュニティセンター等へ弁護士が出向いていくことも検討していかなければならないと考えております。

5 おわりに

今回は福岡部会での企画でしたが、各部会でもこの種のセミナーが開催されております。特に、筑後部会では先進的な取組がなされており、今回もいろいろ参考にさせていただきました。

現在、高齢者・障害者等委員会と法律相談センター運営委員会の有志で、遺言や相続に関する関連業務について、試行的にPTを立ち上げ、研修会や、継続的な遺言セミナー・相談会等の実施を検討しております。また、今後、会員の皆さんがセミナー講師を担当される際に利用いただけるようにレジュメ等を改良してサンプルを提供したり、法律相談センターでの遺言相談が増加するような取組を重ねていきたいと考えています。

まだ試行段階ですが、本格的な実施に至った場合には、会員の皆様にもご協力をお願いすることになると思いますので、その際は、よろしくお願いします。

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