福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2017年12月号 月報
憲法リレーエッセイ 「加憲」をめぐる寒中問答
月報記事
会員 永尾 廣久(26期)
トランプ君と大の仲良し
アベくんが得意そうに小鼻をひくひくさせます。
「トランプ君の来日をしっかり歓迎できて良かったね。日本の地位がますます高まったし、これで日本の平和も万全だよね」
「えっ、そうなの・・・」
ヒロくんはポカンと口を開けたまま首をかしげました。
「だって、何回も一緒にステーキ食べて話した日本の首相って、ボクが初めてじゃないかなあ。レストランにだって、同じ大統領専用車に乗っていったんだよ」
ヒロくんは首を元に戻しません。
「一緒に鯉にエサやってるときのボクをちゃんと見てれたかな・・・」
ヒロくんが、「ゴルフも一緒にやったんでしょ?」と言うと、アベくんの笑顔が少し曇りました。
「ゴルフ場でずっこけたんだってね」
「そんな嫌なこと思い出させないでよ。体操選手みたいに一回転して見事だったって、トランプ君はほめてくれたんだよ。それにプロと一緒に仲良く回れたしね」
「でもさ」とヒロくんは渋い顔をして問いかけます。
「北朝鮮の危機が目の前にあるから、その国難打開のために総選挙をやったわけでしょ。その直後に、何時間もゴルフ場にいて優雅にプレーするなんて、ちょっと矛盾してないかなぁ?」
アベくんは口を尖らせます。
「たまにはいいじゃない、たまにはさ。トランプ君だって日本でゴルフをやれて良かったと喜んでいたんだよ」
ヒロくんは納得せずに、次の問いを投げかけます。
「アメリカの大統領が羽田空港じゃなくて横田基地から入って出たって初めてのことなんだよ、どうして羽田とか成田を使わなかったのかなあ・・・」
アベくんは額に汗を浮かべています。
「だってさ、首都東京の守り手として横田基地があるんだから、便利でいいじゃないの。そんな小さいことなんか気にしないでほしいなあ」
北朝鮮を挑発してない?
アベくんは元気を取り戻したようです。
「北朝鮮って、ひどいことばっかりするじゃないの。こらしめてやんないといけないよね。お尻ぺんぺんのお仕置きが絶対に必要だと思うでしょ?」
ヒロくんは首を今度は反対側に大きく曲げました。
「でもさ、軍事的対応って危険なんじゃないかなあ?」
これを聞いてアベくんは右手を大きく突き出しました。
「そんな弱腰でどうするんだよ。無茶する連中には言ってきかせたってダメなんだ。ピシッと制裁して、やつらを抑え込む必要があるに決まってるだろ」
ヒロくんは、腕を組んで真向から反論します。
「だけど、北朝鮮がミサイルを日本に打ち込んできて、それが原子力発電所に当たったらどうするの?」
アベくんは、ふふんと鼻でせせら笑います。
「そんなことさせないために日本海にアメリカ軍の空母がいるんだし、日本の海上自衛隊もいるわけさ」
「でも・・・」ヒロくんは納得しません。
「たくさんの原発が日本海側にあるんだから、一斉にミサイルが飛んできて、そのどれかが当たったら、放射能汚染で日本はどこにも住めなくなるんだよ」
アベくんは突き出していた右手を左右に大きく振ります。
「大丈夫、大丈夫だよ。そのためにアメリカ軍から今度また最新式のF35も買うし、地上型のイージス機器も買うことになっているからね、心配のしすぎは、よほど健康に良くないよ」
ヒロくんは、ますます心配そうな顔になりました。
「F35って、アメリカでも欠陥機だって騒いでいるし、地上版のイージスシステムがあってもミサイルは妨げるはずはないもの・・・」
「いやいや」とアベくんは首を横に振ります。「心配しなくていいんだよ、アメリカがぼくらのバックについているんだからね」
ヒロくんは、まだ納得せず不満顔です。
「アメリカなんて、北朝鮮のミサイルは本土まで飛んでこないので安心しているんじゃないのかなあ・・・」
「加憲」って必要なの?
ヒロくんの目が輝きました。
「そうだ。アベくんは今の自衛隊は憲法違反だって考えているのかい?」
アベくんは、首を大きく左右に振ります。
「とんでもない。合憲に決まってるじゃないの、20万人もいる自衛隊が憲法違反のはずないよ」
「だったら、憲法をわざわざ改正する必要ないでしょ?」
「いやいや」アベくんは悲しそうに顔をしかめます。
「このあいだも言ったけど、日本の憲法学者が悪いんだよ」
「でもさ、憲法に首相は擁護する義務があるって書いてあること知ってるの?」
「ええっ、そんなこと憲法のどこにも書いてないよ、条文をよく読んでよ」
アベくんは得意気に鼻をうごめかします。ヒロくんはすぐに反論しました。
「憲法99条に国務大臣は憲法を尊重し擁護する義務を負うって、明記してあるんだよ」
アベくんはヒロくんにつきつけられた条文を指して勝ち誇ったように言い返しました。「ほら、首相って書いてないだろ」
Jアラートは何のため・・・?
「そんなことより、国を守るのがぼくの使命なんだよ」
こう言いながらアベくんは胸をはりました。
「Jアラートって、国民を守るために役立つかしらん?」
ヒロくんは小首をかしげています。
「ミサイルが飛んできて、その破片に当たってケガしたら痛いでしょ、だから机の下にもぐり込んだり、大きな建物のなかに逃げ込んで身を守るんだよ。何ごとも日頃から訓練しておいたほうがいいからね」
アベくんは、一人で、うんうんと満足そうです。
「だけど、北朝鮮のミサイルって、宇宙空間まで上がって太平洋に落ちたんでしょ。そんな訓練しても意味ないじゃないの」
ヒロくんは納得しません。
「いやいや、北朝鮮のミサイルは怖いって、みんなが実感できるところに大きな意味があるのさ。おかげで先制攻撃しようという声だって高まってきているから、ぼくはうれしいんだ」
アベくんは喜色満面です。
「ええっ、そのためのJアラートだったの・・・」
ヒロくんは、アベくんをきっとにらみつけます。アベくんは目をそらして、まずいことを言ってしまったな・・・と、声のトーンを落とします。
「なにしろ、国あっての国民だからね。それでいいじゃない。何が悪いのさ」
アベくんは完全に開き直りました。ヒロくんは、呆れたという顔をして、アベくんの顔を見つめます。
「国民の幸福とか安全が最優先のはずじゃなかったの・・・。軍隊が国民を守るためのものじゃないってことは、日本でも戦前の沖縄で壕に入った住民を軍人が追い出したっていうんで明らかだと思うよ」
「あれ、また、お腹の調子が何か変になってきたよ。じゃあ、これで失礼するね」
アベくんが足早に立ち去っていくのをヒロくんは腕を組んで見送ります。