福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2017年12月号 月報
転ばぬ先の杖(第37回) 契約書って重要!
月報記事
法律相談センター運営委員会 副委員長 松尾 佳子(55期)
このコーナーは、弁護士会の月報を読まれる方に向けて、役に立つ法律知識をお伝えするものです。
■契約書を作らなくても契約は成立します
法律相談の際、例えば、「契約書がない場合でも契約は有効ですか?」と質問されることがよくあります。
原則として、書面がなくても契約の「申込」と「承諾」の意思表示が行われた時点で、契約は成立します。
もっとも、金銭消費貸借契約の場合には、実際に金銭の交付がなければ契約は成立しませんし、保証契約は書面等によらなければならない等の例外はあります。
■なぜ契約書を作成するの?
それでは、なぜ契約書を作成する必要があるのでしょうか。
(1) 契約内容の確認のために
契約は、書面がなくても、言葉で決めただけでも成立します。
ですが、言葉で決めただけでは、「いつ」、「どこで」、「誰が」、「何を」、「どのようにするか」等の取り決めを忘れてしまいます。複雑な取り決めは、契約した当事者本人でも正確に覚えることはできません。
そこで、契約の当事者が、自分がどのような内容で取り決めをしたか確認するために契約書を作成するのです。
契約内容を書面で定めておかなければ、契約の記憶が曖昧になり、言った言わないの争いになることは珍しくありません。
契約書を作成しておくと、言った言わないの争いを、ある程度未然に防止することができます。
(3) 証拠を作る
相手方との間で争いとなっても、契約書があれば、無用な争いを防止できます。
仮に裁判となった場合、契約書があれば、裁判所は、契約書を一つの証拠として、どちらの当事者の主張が正しいかを判断します。
ですが、契約書がなければ、証拠となるものがありませんので、自分の主張を根拠づけることが極めて難しくなります。
契約締結の有無、また、契約内容や合意事項を証明することができるようにするために、契約書を作成しておくのです。
この点、「契約書」という表題でなくとも「合意書」、「確認書」、「念書」など、合意内容を示すものであればよいです。
取引の相手に契約書の作成をお願いしにくいという場合では、証拠を残しておくという点から、単なる口頭合意ではなく、例えば、発注書に取引の条件を記載し、相手から承認を得ておくという方法もあります。また、メールやFAXを活用し、合意内容を証拠として残しておくと、将来証拠として役立つことがあります。
■契約書作成時の注意点
契約書を作成するとき、以下のことに注意しなければなりません。
- 契約当事者及び契約の目的が明確であること
- 文章ないし文言の意味が平易かつ理解しやすいものであること
- 内容が適正であること
- 当該契約類型における法律上の要件を満たしていること
■特に契約書を作成すべき契約について
(1) 損害賠償の危険がある場合
受任契約、業務委託契約、下請契約など、相手からの依頼で業務を行う場合には、依頼どおりに業務を履行しないと、相手から損害賠償を請求されることがあります。
(2) 無償でモノ・金銭等を譲り受ける場合
無償で相手からモノや金銭を受ける場合、相手方が心変わりする可能性がありますし、相手方の相続人と紛争が生じる危険があります。
(3) 自分が相手方を監督できない場合
たとえば、将来判断能力が低下したときに備えてする「任意後見契約」や、死亡後に効力が発生する「遺言」などは、相手が自分との約束をきちんと守ってくれているか、自分では監督できません。
以上のような場合は、特に契約書を作成すべき要請が高いといえるでしょう。
■弁護士等の専門家へ相談するかどうか
契約書作成について、弁護士等の専門家に相談、依頼するかどうかは自由です。
しかし、例えば、契約内容が定形のものであっても、過去に一度でも紛争が生じた経験のある相手方との契約であれば、弁護士等へご相談される方が無難な場合があります。また、契約内容が特殊ないし専門的なものであれば、定型的な書式では対応ができません。
少しでも契約内容に気になる点がある場合には、積極的に弁護士等の専門家へ相談されることをお薦めいたします。
■法律相談センターを積極的にご利用ください
弁護士会では各地で法律相談を行っています(事前予約制:ナビダイヤル0570−783−552(ナヤミココニ))。是非ともご利用ください。