福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2017年10月号 月報

転ばぬ先の杖(第35回) 自殺問題は今なお非常事態、ちょっとした知識と相談窓口としての頼れる弁護士会へ

月報記事

自死問題対策委員会委員 椛島 敏雅(31期)

弁護士会で自殺問題の法律相談や講演会等を実施

自殺、それは本人には取返しのつかないことであり、残された親族に対しても一生、その人生に深い傷を負わせるものです。福岡県弁護士会は、自殺は最大の人権侵害であり、本人や親族並びに社会に対して大きな災いをもたらすものとして、それを防ぐ立場から、自死問題対策委員会を設けて、自死問題支援者法律相談や自死遺族法律相談及び自死問題に関する研修会や講演会並びに専門職との交流会等の活動を行っています。

自殺対策の成果で自殺者は大幅な減少傾向にあるが、今なお非常事態は続いている

不名誉な自殺大国だった日本も、2006(平成18)年10月に自殺対策基本法が施行されて以降、個人の問題と認識されがちであった自殺問題について、2007(平成19)年6月、政府が内閣府(現在は厚労省所管)に自殺総合対策会議を設置して「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指す」という観点から自殺総合対策大綱を策定しました。この官民挙げての総合的な自殺対策に取り組んだ結果、最も多かった2003(平成15)年の34,427人から、2016(平成28)年には21,897人まで減少しました。

福岡県も多い時は一時1,350人を超えていましたが、精神保健福祉センターが中心になって自殺対策に取組んだ結果、2015(平成27年)には937人まで減少しています。

しかしながら、今年7月に閣議決定された自殺総合対策大綱によると、「我が国の自殺死亡率は主要先進7か国の中で最も高く、年間自殺者数も2万人を超えている。かけがえのない多くの命が日々、自殺に追い込まれており、非常事態はいまだ続いている」と総括し、2026(平成38)年までに、10万人当りの自殺者数を現在の18.5から、先進7か国並みの13に減少させる目標を立てて対策に取り組む事にしています。

自殺問題の専門家によると自殺未遂者は既遂者の約10倍いて、自殺を考えた事のある自殺念慮者になると更に裾野が広がると言われています。以前、多重債務が大きな社会問題になった頃、全国クレジット・サラ金問題対策協議会でアンケート調査をしたところ、多重債務者の約4割近い人が自殺を考えたことがあるという結果が出て吃驚したことがありました。過労やパワハラ、ギャンブル依存症等でうつになって苦しんでいる人たちも同様で、自殺問題はそれだけ根深く裾野が広がっていると思います。自殺という大事に至らないため、私たちを含め、本人、その家族や友人知人の方がちょっとした知識や相談先を知っていることは大変重要なことだと思います。

自殺の背景とサイン

自殺は本人が多重債務や倒産、生活困窮、過労、パワハラ、セクハラ、いじめ、離婚問題や健康問題等の社会的要因によって追い込まれた末に生命がその人自身によって絶たれることです。また、ギャンブル依存症、アルコール依存症、統合失調症等のハイリスク者等による自殺も含めて、自殺者は自殺の前に何らかのサインを出していると言われています。早くからこの問題に取組んできたライフリンクの調査によると、自殺者の60%以上の人が自殺する1月前にいずこかに相談に行っているという結果が出ています。相談先は法律家も含まれています。追い込まれて相談に行っているのに、「それはあなたの責任です」とか、「そのくらいは仕方がないです」等と誤った「助言」をしたら、その人は自殺リスクを著しく高めてしまいます。私たちは国民の権利擁護を使命とするプロとして正しい知識を身に着け、自殺予防のゲートキーパーとしての役割を担う必要があると思います。

自死念慮が懸念される相談者への対応

相談者には「ストレスが多い時は、ゆっくり休むのがいいですよ」、「眠れていますか」、「食事はとれていますか」など聞き、眠れていないことが続いている時は精神科医や県、市の精神保健福祉センターの相談窓口に繋ぎ、TALKの原則で相談に乗ることが大切です。

(Tell 誠実な態度で話しかける Ask 自殺する意思についてはっきり尋ねる Listen 傾聴する Keep safe 安全を確保する相談原則)。「死にたい」と言われた時は、「あなたに死んでほしくありません。一緒に解決方法を考えて行きましょう」と寄り添って、精神保健福祉センター等の団体や専門職に繋ぐようにしましょう。(2017.09.13記)

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