福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2017年9月号 月報
九州北部豪雨に関する無料法律相談実施報告
月報記事
災害対策委員会委員長 吉野 大輔(64期)
1 九州北部豪雨に関する福岡県弁護士会の取組み
2017(平成29)年7月5日から6日にかけて、福岡県と大分県を中心とする九州北部で集中豪雨、いわゆる平成29年7月九州北部豪雨が発生しました。
福岡県弁護士会は、7月12日付で、本部長を作間功会長とする九州北部豪雨復興対策本部を立ち上げ、多くの関連委員会に協力いただき、福岡県弁護士会が一体となって被災者支援を行っていく体制を整えました。
これまで、福岡県弁護士会は、広島県弁護士会の今田健太郎弁護士から広島土砂災害に関する被災者支援について講演をしていただいたり、弁護士があっせん人となり災害に関する紛争の円満な解決を図る調停の制度(災害ADR)を整備したり、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の登録支援専門家の依頼を受け入れる準備等、様々な支援活動を行ってきました。また、被災者への情報提供については、弁護士会ニュースの作成及び配布、HPやツィッターなどを通じて被災者支援情報の提供などを行ってきました。
ただし、本報告では、無料法律相談を中心に報告させていただきます。
2 無料面談相談
福岡県弁護士会は、福岡地区及び筑後地区では7月7日から、北九州地区及び筑豊地区では7月10日から、県内17カ所の法律相談センターでの無料面談相談を開始しました。
7月の相談件数は、合計18件で、その内12件が北九州地区の相談でした。相談内容のほとんどが、崖崩れにより隣の家の土砂などが相談者の土地に流れ込んできたなどの相隣関係のトラブルでした。かかる相談傾向は、その分析を今後丁寧に行う必要がありますが、北九州市では多くの崖崩れが確認されており、九州北部豪雨が広範囲に甚大な被害をもたらしたことを物語っていると思います。
3 無料電話相談
無料電話相談は、7月11日から開始しました。8月4日まで、電話相談の時間帯を午前10時から午後4時まで行っていましたが、電話相談の件数等を考慮して、8月5日から、午後1時から午後4時までに変更しました。
8月17日時点で、合計29件の電話相談がありました。
最も多い相談内容は、公的支援・行政認定等に関する相談です。災害被災者への法的支援制度として、住宅に被害が生じた場合にはその被害程度に応じて支援金が給付される被災者生活再建支援制度や被災者のご遺族に弔慰金が支給される災害弔慰金制度等があります。被災者に対し、これらの法的支援制度の情報を提供することは、無料電話相談の重要な役割であります。
次いで多い相談内容は、工作物責任・相隣関係に関する相談です。九州北部豪雨災害は、河川の増水・氾濫や土砂崩れなどにより、周辺地域の土砂や流木が被災者の土地や住居に流れ込む被害が多かったことが原因であると思われます。
4 避難所への出張相談
避難所への出張相談は、不定期ではありますが、7月25日から、随時避難所へ会員を派遣する方法で開始しました。
朝倉市の避難所には、7月25日に1カ所、7月29日に2カ所、8月9日に1カ所、8月11日に1カ所、8月12日に2カ所で出張相談を行いました。東峰村の避難所には、8月8日に1カ所、8月16日に2カ所で出張相談を行いました。8月17日時点で、福岡県の全ての避難所で出張相談を行いました。
弁護士が避難所に行っただけでは、被災者から相談に来ることはほとんどありません。弁護士による被災者への法的支援が可能であることの周知が行き届いていないことが原因と思われます。そのため、弁護士から被災者に声をかけて話を直接聞いて行く方法で行われています。避難所にいる被災者は、住居に住むことができなくなっている方々ですので、罹災証明書の申請の有無、罹災証明取得後の公的支援制度の説明をすると、熱心に聞いていただけますし、被害状況等の話をしていただけます。弁護士にとっても、そうした中で、被災者に必要な支援が何かを把握することに努めております。
5 今後の課題
災害対策員会は、九州北部豪雨の被害状況に比して、法律相談件数が少ないと考えています。弁護士による被災者に対する法的サービスが可能であることが、被災者等に周知できていないことが原因と思われます。また、特に在宅被災者には、公的サービスが行き届かない問題があります。今後は関係自治体の職員やボランティア団体と連携して、法律相談の周知をさらに図って行くことが必要であること考えています。
8月18日から仮設住宅への入居が始まりました。今後は仮設住宅への出張法律相談を行っていくことも検討していかなければなりません。
また、これまでの相談内容を分析することで、被災者支援に必要なことを把握し、関係自治体やボランティア団体に対し、被災者支援に必要な情報提供及び政策提言をしていきたいと考えています。現在の段階では、災害対策委員会では罹災証明の認定が厳格に過ぎることが問題であると考えており、様々なチャンネルを使って、自治体やボランティア団体と問題点の共有を図っています。
6 まとめ
九州北部豪雨に関する法律相談には、多くの会員にご協力いただきました。この場を借りて御礼を申し上げます。ただ、被災地の復興には、継続的かつ長期的支援が必要です。災害対策委員会としては、被災地復興まで継続的支援を行う予定ですので、今後ともご協力のほど宜しくお願い申し上げます。