福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2017年5月号 月報

「実務に役立つLGBT連続講座」番外編/マンガで知ろうLGBT

月報記事

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 石田 光史(53期)

■ これまで6回にわたり、実務に役立つLGBT基礎知識をお送りしてきました。ただもしかしたら会員のみなさんの中には、「そうは言っても、自分の周りには(自分はそうであるとカミングアウトしている)LGBTの方がいなくて、実感として何だかよく分からん。」という方もおられるかも知れません。

そういう自分の経験の不足を補ってくれるのは、今も昔も、小説であり、映画であり、マンガです。今回はLGBT講座の番外編として、筆者の好きなマンガという分野から、LGBTを知るためにうってつけのマンガをセレクトしてみました。もっとも、このジャンルは最近非常に流行りのようで、とても多くのマンガが出ています。今回は字数の関係上、厳選5つのご紹介ですが、もし興味を持たれたら、ご自身でも探してみてください。

■ 志村貴子『放浪息子』全15巻(エンターブレイン)

「女の子になりたい男の子と、男の子になりたい女の子のおはなし」。そう紹介すると、これまでこの連載を読んでくださった方は、ああ、トランスジェンダーの話ね、と思うかも知れませんが、このマンガは、そう一筋縄ではいきません。マンガの中で、トランスジェンダーとか性同一性障害という単語は、ただの1回も出てきませんし、様々な性自認・性的指向を持った人が登場します。女の子になりたいという願望を持ち、男の子が好きな男の子。男の子になりたいと思っているわけではないけど自分が着たいからと学生服を着る女の子。女の子になりたいと思う主人公を好きになる女の子。はっきりと描かれてはいないけどおそらく性別適合手術を受けているのではとうかがわれるMtoFの人。

私は、研修などで、「LGBTというのは分かりやすくひとくくりにした言葉だけど、本当はそんなに4種類にきっちり分けられるものではなくて、みなそれぞれ、性自認・性的指向でいろいろな傾向を持っているんだ。」と聞くたび、理屈としては分かるけど今ひとつ実感としてピンとこないところがありました。が、このマンガを読んで、その意味がよく分かったような気がします。

このマンガは、主人公2人の小学生時代から高校卒業までの成長を描いたものであるだけでなく、彼・彼女らを取り巻く友人や家族など非常に多くの人物が登場する一大群像劇です。LGBTの知識といった観点を離れても、マンガとしてとても読み応えのある、イチオシの作品です。

※ちなみに、ジュンク堂福岡店の4階マンガコーナーに、この『放浪息子』の原画が展示されています。お好きな向きはぜひチェックを!

■ 熊鹿るり『とある結婚』全1巻(太田出版)

ロサンゼルスに住む日本人の早紀とドイツ系アメリカ人のアンナ。2人はレズビアンのカップル。同性婚を禁止したカリフォルニア州の「提案8号」を無効とする連邦最高裁判決(ちなみにこの訴訟については3月29日に原田執行部の提案で上映会を行った映画「ジェンダー・マリアージュ」に描かれています。)を機に、アンナは早紀にプロポーズします。しかし早紀は、これまでレズビアンであることを家族に打ち明けておらず、また上司に自分がレズビアンであることを知られて憎悪の念を向けられたことなどから、このままアンナと結婚できるんだろうか、アンナと結婚するということはずっと周囲からそういう目で見られるかも知れないということなんだ、と不安を感じ、結婚に前向きになれず・・・。

2人の隣には、ゲイで、一緒に暮らしていたパートナーを亡くしたショーンと、ショーン(と亡くなったパートナー)の養子・コニーが住んでいます。舞台であるロサンゼルスはLGBTが多くフレンドリーな地域と言われていて、その雰囲気が伝わってくるマンガです。

■ 田亀源五郎『弟の夫』1~3巻(双葉社)

主人公の弥一は、妻との離婚後、娘の夏菜と2人暮らし。そこに突然、弥一の亡くなった弟・涼二と結婚していたというカナダ人男性・マイクが訪れます。弥一は、突然の訪問者に戸惑い、時に迷惑に思いますが、涼二を偲んで日本を訪れたマイクを突き放せず、3人での同居生活が始まります。他方、夏菜は、叔父の同性の結婚相手というマイクに強い興味を抱き、偏見のない目でマイクと交流を始めます・・・。

弥一は、弟がゲイであることを本人から知らされていました。そのときに弥一は、あからさまな嫌悪の感情を見せたり否定したりはしなかったけれど、それから自分は弟に対してよそよそしく接してきていたのではないか、それで良かったのか、と思います。「自分はLGBTに偏見はない。」と言い、そう思っていても、いざ身近な人にカミングアウトされた場合、あなただったら、どう接していきますか?

■ 鎌谷悠希『しまなみ誰そ彼』1~2巻(小学館)

高校生のたすくは、夏休みに入る2日前、同級生に「お前、ホモ動画観てたん?」と言われます。「お前、そうなん?」同級生の続けての問いに対し、必死にごまかすたすく。もう終わりだと思い、崖から飛び降りようかと思っていたたすくは、「誰かさん」と呼ばれる不思議な人物に導かれるように、「談話室」を訪ねます。そこは、ゲイ、レズビアンなど様々な人々が集う場所でした。

印象的なシーンを2つ。1つは、冒頭の、友人に同性愛の動画を見ていたことがばれたときのたすくの反応です。「兄貴が送ってきた釣り動画だよ。」と何気ないふりをして否定しますが、顔は引きつり、それでも必死で作り笑いを浮かべます。お前はホモっぽいと思っていたとさらに続ける同級生に対し、「バカじゃねーのホモなんて。きもいわ、そんなの。」・・・たすくは、自らを守るために、自分を否定する言葉を口にせざるを得なかったのです。

もう1つは、女装をする小学校6年生の男の子、美空。美空は、男性が好きというわけではないようです。女装について、「僕が着たいから(女性の服を)着るんです。」と堂々と述べる美空。しかし、女の子になりたいのか、と問われた美空は、「さあ。」としか答えられません。さらに問われた美空は、「僕のことなんか、僕にも分からん。誰にも。何にも分からん。」と、体を震わせてただ泣くだけでした・・・。

まだ2巻までしか出ていないので、今後どのように話が展開していくか分かりませんが、とても楽しみなマンガです。

■ 平沢ゆうな『僕が私になるために』全1巻(講談社)

このマンガの作者は、性同一性障害の診断を受け、タイで男性から女性の体になるための性別適合手術を受けました。これは、その過程を自らマンガ化したものです。

当然ながら、トランスジェンダー、性同一性障害の方には、その方ならではの辛さや苦悩、受けてきた差別的言動などがあるわけですが、このマンガでは、多少はそういった記載もあるものの、そのあたりよりも、性同一性障害の診断が出てから性別適合性手術を受け、戸籍の性別変更に至るまでの出来事を具体的に描写することに重点が置かれています(あとがきには、このマンガではあえてそのような方針をとったことが書かれています。)。したがって、「話には聞くけれど、実際にはどんな感じなんだろう?」と思っていた点が克明に描かれていて、とても興味深いマンガでした。

特にタイでの性別適合手術について頁を割いて紹介されており、「ええ!そんなことするの!?」とか、「うわ~、痛い~、やめてくれ~!」とか、それはもう、実際に体験した人でなければ描けない、冷や汗もののリアル描写が絶品です。どういうことが描かれているかは、ぜひどうぞ、実際に本を手に取ってみてください。

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