福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)
2017年5月 1日
「転ばぬ先の杖」(第30回) 子どもの加害行為と親の民事責任
転ばぬ先の杖
会員 小坂 昌司(52期)
このコーナーは、弁護士会の月報を読まれる一般の方に向けて、役に立つ法律知識をお伝えするものです。今回は、子どもの権利委員会が担当します。
子どもは失敗しながら成長します。子どもが興味を持つことには、積極的に取り組ませてあげたいものです。その中で子どもが失敗をしたときには、それを成長の糧とできるように親が見守っていくことが必要です。
もっとも、子どもの失敗が、ときに、他人に損害を与えてしまうことがあります。もし、そのような事態になったときには、親は、まずは子どもと一緒に被害者に対して真摯に謝罪をするべきです。そして、同じようなことを繰り返さないように子どもを指導して自覚させることが必要でしょう。
被害者との関係では、謝罪をすることで許される場合も多いのですが、ときに法律上の責任問題に発展することがあります。
子どもの加害行為が犯罪に該当するような場合には、刑事上の責任として、子どもの年齢によって、家庭裁判所の手続きの対象となります。年少の子どもの場合には、児童相談所の指導の対象になります。
また、他人に財産的な損害を与えた場合には、民事上の責任として賠償の問題が発生します。そして、このような場合、加害行為をした子どもだけでなく、親が賠償の責任を負うことがあります。
以下では、どのような場合に、親が賠償責任を負うか考えていきます。
まず、民法は、故意または過失によって他人に損害を与えた者は、その損害を賠償する義務があると定めています。従って、未成年者も含めて、わざと、あるいは不注意で行った行為(これを「不法行為」といいます。)で第三者に損害を与えた場合には、その損害を賠償する義務を課されます。
もっとも、民法は「未成年者が、自分の行為の責任を理解する能力を備えていなかったときには賠償の責任を負わない」としています。この「能力」(これを「責任能力」といいます。)を備えているかどうかの明確な基準はありませんが、おおよそ12歳くらい(小学校を終える頃)から、この能力があると判断される場合が多いようです。
さらに民法は「子どもが(責任能力がなくて)責任を負わない場合には、子どもを監督する法律上の義務を負う者が賠償義務を負う。」と定めています。つまり、子どもの年齢が低く、責任能力がない場合には、子ども自身には賠償責任はなく、法律上の監督義務者である親が子どもに代わって賠償責任を負うことになります。なお、「法律上の監督責任を負う者」としては、親以外にも、例えば、児童養護施設の施設長や未成年後見人など、親に代わって子どもの監督をする立場にある人も含まれます。この親の責任は、親が監督義務を怠らなかったこと、あるいは、監督義務を果たしていても子どもの加害行為を防止できなかったであろうことを証明すれば免除されますが、これまでの裁判では、親が責任を免れることは稀でした。
なお、最高裁判所まで争われた事件で、当時11歳の子どもが小学校の校庭で友人とサッカーをして遊んでいたところ、蹴ったサッカーボールが校庭から路上に転がり出て、このボールを避けようとしたバイクを運転中の高齢者が転倒して最終的に亡くなったというものがあります。
この事件について地方裁判所と高等裁判所は親の責任を認めました。しかし、最高裁判所は、本件で子どもがしていたのはゴールに向かってサッカーボールを蹴るという通常の行為であり、一般的には他人に危害が及ぶとは考えられない行為であることや、親が危険な行為をしないように日ごろからしつけをしていたことなどを考慮して、親は責任を負わないと判断しました。平成27年に出されたこの最高裁判所の判決が裁判実務に影響を与える可能性があります。
次に、子どもの年齢が一定以上で、子どもに責任能力があるとされ、子ども自身に賠償責任が認められる場合でも、同時に親にも賠償責任が認められる場合があります。先に述べた「子どもに代わって責任を負う」という場合とは違って、親自身に課されている監督義務に違反したこと自体を不法行為と考えるのです。
子どもには賠償するための資力がない場合が多いので、被害者にとっては、親に賠償責任が課されるほうが、実際には損害の補填がされやすいという事情があります。従って、大きな被害を受けた場合には、子どもとともに、親に対しても賠償責任を追及する場合が多くなります。
実際に裁判となった例としては、高校2年生の子どもが友人から借りた原動機付自転車を、夜間に前照灯を付けずに走行させ、道路を歩いていた被害者をはねて死亡させたという事案があります。この子どもは、この当時生活が乱れ、夜間に外出して仲間と徘徊することが多く、バイクに無免許で乗ったり、シンナーを吸うなどの問題行動を繰り返していました。親はそれに気づいて何度も注意していましたが、子どもは親の指導を無視して従いませんでした。
この事案について裁判所は、親の教育、指導、監督が十分であったとは言い難く、常態化していた夜遊びと本件事故との間には密接な関係があるとして、親の賠償責任を認めました。この事案では、親は子どもに対して注意はしていました。他の有効な手立てを思いつかなかった可能性があり、親の責任を認めることは親にとって厳しいものとも考えられます。
なお、子どもの問題行動が収まらない場合には、親だけで悩むのではなく、児童相談所や少年サポートセンターなど、非行にかかわる専門機関に相談する方法もあります。そのようなことをしているかどうかによって、親の責任についての判断が異なる可能性もあると思われます。
以上のように、子どもが第三者に加害行為をした場合に親が責任を負うかどうかは、子どもの年齢、子どもがした行為の内容、普段の子どもの行動や親の指導状況などに応じて、かなり微妙な判断になります。
子どもが起こした事件・事故で他人に損害を与えてしまうと、親としては、被害者への対応に頭を悩ませることになるでしょう。もし、こうした問題が生じたときには、賠償責任などの難しいことは専門家に相談し、親としては、子どもの指導や加害者への謝罪に力を注ぐことが、子どもの成長のためにも重要です。法律的なことは迷わず弁護士に相談されることをお勧めします。
また、子どもの加害によって生じる賠償責任について、一定の場合は保険で賄える場合もありますので、保険への加入も検討する必要があります。