福岡県弁護士会コラム(弁護士会Blog)

2017年4月号 月報

交通事故専門研修 共同不法行為について

月報記事

交通事故委員会 委員 黒野 賢大(64期)

1 平成29年1月23日に行われました共同不法行為を題材とした交通事故専門研修についてご報告いたします。交通事故事案では、複数当事者が関与する事案に遭遇することは少なくなく、その事案の処理にあたり、共同不法行為や寄与度減責における論点の理解が必要となりますが、その議論状況は混迷を極めています。そこで、共同不法行為についての理解を深める機会を設けるべく、今回の専門研修の題材とされました。

なお、本研修会は、法科大学院の教員が地元の法曹のスキルアップに助力いただいている九州大学法科大学院主催「継続学修セミナー」プログラムのひとつとしても位置付けられており、今回は、九州大学大学院法学研究院・九州大学法学部の五十川直行教授にご協力いただき、交通事故委員会と綿密な打ち合わせを重ね、当日の開催に至りました。

2 今回の研修は二部構成になっており、第一部は五十川教授による共同不法行為の制度についての講演でした。

五十川教授からは、共同不法行為論の議論状況について、古代ローマ法に遡ったり、また、比較法的な視点に立ったり、と様々な視点から解説があり、そのうえで、共同不法行為論の現況についての解説がなされました。今回の研修のメインである複数行為(原因)が関与して損害が発生するいわゆる競合的不法行為については、特に詳細な説明がありました。

また、共同不法行為論の今後の展望について、不法行為法の改正案や外国の法状況の説明があり、そのうえで、共同不法行為という概念がなくても、結局は因果関係論のなかで解決できるのではないかという考え方なども出てきているとのお話がありました。

五十川教授の講演は、共同不法行為論の第一人者としての視点からの緻密なものが多く、基本的なことを再確認できる、あるいは新たな発見のある大変貴重なものでした。

普段、不法行為法の起源や比較法的視点といった点からの思考や検討を怠っており、理論的思考や検討の重要性を再確認する点でも大変有意義なものでした。

3 第二部は、第一部の講演を踏まえて、五十川教授、小野裕樹先生、高藤基嗣先生をパネリストとして参加いただき、赤木孝旨先生がコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、(1)交際中の女性(甲)が運転する車両の助手席にシートベルトを着用せずに同乗していたXが、信号機により交通整理の行われていない交差点において、甲が一時停止の規制に違反し交差点に進入したところ、右方から交差点に進入してきた乙が運転する車両と衝突する事故により受傷した、(2)本件事故当時、乙車の走行道路では、警備会社丙1が交通誘導、警備を行っていたが、その従業員丙2が、本件交差点の具体的状況を確認せずに、乙に対して、本件交差点の進入を誘導していた事情があった、(3)甲は、受傷後丁1病院に緊急搬送され、勤務医丁2の診察を受けたが、甲には、本件事故前から存在していた椎間板ヘルニアがあったため、本件事故で頚椎捻挫を負い、それと相俟って上肢の痺れが発現したものとの診断を受けた。その後も甲は丁1病院に通院を続け、半年後に頚椎椎間板ヘルニアの除去手術を受けたところ、丁2は、同手術に失敗し、その結果、甲は、頸髄を損傷し、第5級の後遺障害が残存するに至った、という事例をもとに議論が進められていきました。甲から相談を受けた弁護士として、誰を相手として訴訟提起するのか、その場合のメリット、デメリット、といった実務的な議論から、関連共同性や寄与度減責という概念をどう考えるのかという五十川教授がパネリストとして参加しているからこその議論等様々なテーマに基づいて議論が繰り広げられました。本件事案では、医療過誤と交通事故が競合している、さらに、交通事故においては、警備員の過失が競合している、被害者であるXにシートベルト不着用という過失がある、そういったなかで、相手方が寄与度減責を主張してくる可能性が高い、といった様々な問題が複雑に絡み合った事案であり、本件事案を適切に処理するためにどうしたらいいのかを深く考えさせられました。事案を頭の中で整理し、分析と自分なりの回答が追い付かなくなり傍観者となったところもありましたが、ディスカッションの内容が充実しており、時間を感じさせない程白熱した議論が交わされました。

4 今回の研修に際し、五十川教授、パネリスト及びコーディネーターの先生方は、何度も打ち合わせを重ねていただき、その中で、参考とした文献及び判例を挙げていただきましたので、末尾にご紹介させていただきます。

平成20年版赤い本講演録齊藤顕裁判官執筆の『交通事故訴訟における共同不法行為』は、交通事故における共同不法行為(異時事故)についての裁判例の検討並びに要証事実及び立証責任についての整理・検討が簡潔に行われております他、能見善久教授の法学協会雑誌での連載『共同不法行為責任の基礎的考察』は、古い論文ではありますが、学術的・理論的な視点から共同不法行為についての深い考察がなされており、共同不法行為を理解するためのパイブルとも言えるのではないでしょうか。その他にも、共同不法行為を理解するために非常に参考となる文献等は数多くありますが、紙面の関係上、文献及び判例につきましては、論文名(文献名)及び裁判年月日の適示のみとさせていただきます。

5 最後となりましたが、本研修に際し数多くの文献判例のご検討や打合せ、レジュメの作成、そして当日の大変有意義なご講演及びパネルディスカッションをいただきまして、五十川教授をはじめ、小野先生、高藤先生、赤木先生にこの場を借りて御礼申し上げます。

参考文献 (敬称略)
  • 北河隆之 「交通事故損害賠償法(第2版)」
  • 田山輝明 「事務管理・不当利得・不法行為(第3版)」
  • 森冨義明・村主隆行(裁判官)編著「交通関係訴訟の実務」
  • 中西 茂ら(裁判官) 「交通事故損害賠償実務の未来」
  • 神田孝夫 「共同不法行為」(「民法講座第6巻 事務管理・不当利得・不法行為」)
  • 平井宜雄 「不法行為法理論の諸相」(「共同不法行為に関する一考察」)
  • 北河隆之 「共同不法行為」(「判タ1088」)
  • 現代不法行為法研究会 「不法行為の立法的課題」(「別冊NBL No.155」)
  • 内田 貴 「近時の共同不法行為論に関する覚書」(「NBL No.1081、1082、1086、1087」)
  • 能見善久 「共同不法行為」(「民法の争点」)
  • 能見善久論文 「共同不法行為責任の基礎的考察」(法学協会雑誌)
  • 能見善久 「寄与度減責―被害者の素因の場合を中心として」(加藤一郎ら編「民法・信託法理論の展開」)
  • 能見善久 「複数不法行為者の責任」(「司法研修所論集82号26頁」)
  • 原田和徳 「自動車事故と共同不法行為」(「現代損害賠償法講座3」)
  • 冨上智子 「複数加害者関与事故の損害賠償における諸問題」(佐々木茂美編「民事実務研究Ⅰ」)
  • 大塚 直 「共同不法行為・競合的不法行為に関する検討」(「NBL1056」)
  • 淡路剛久 「共同不法行為 因果関係と関連共同性を中心に 変動する日本社会と法(加藤一郎先生追悼)」
  • 中村哲也 「共同不法行為論の現状と課題」(「法政理論第40巻3−4号(新潟大学)」)
  • 齊藤 顕裁判官 「交通事故訴訟における共同不法行為」(「平成20年赤い本講演録63頁」)
  • 神谷善英裁判官 「時間的、場所的に近接しない複数の事故により同一部位を受傷した場合における民法719条1項後段の適用の可否等」(「平成28年赤い本講演録5頁」)
  • 南 敏文 「不法行為責任と医療過誤」(「新・裁判実務体系5交通損害訴訟法」)
  • 塩崎 勤 「自賠法三条の運行供用者責任と製造物責任」同上
  • 北河隆之 「自賠法三条と道路管理者責任」同上
  • 藤村和夫 「事故の競合」同上
  • 宮川博史 「医療過誤との競合」(「現代裁判法体系(6)」))
  • 手嶋 豊 「医療過誤と交通事故の競合」(ジュリスト1403)
  • 窪田充見 「交通事故と医療事故が順次競合した事案における共同不法行為の成否と損害賠償」(ジュリスト1224)
  • 橋本佳幸 「交通事故と医療過誤の競合における賠償額の限定の可否」民商法雑誌125巻4・5号579頁
  • 本田純一 「交通事故と医療過誤との競合」(ジュリスト861号131頁)
  • 塩崎 勤 「複数医療関係の医療過誤と複数原因の競合」(「現代損害賠償法の諸問題」144頁)
  • 山口斉昭 「交通事故と医療事故の競合」(「交通賠償論の新次元」)
  • 山本 豊 「加害者複数の不法行為と過失相殺-交通事故と医療過誤の競合事例と加害者複数の交通事故の事例を中心に」(紛セ40周年)
  • 大塚 直 「原因競合における割合的責任論に関する基礎的考察―競合的不法行為を中心として―」(中川良延ら編 「日本民法学の形成と課題・下」 879頁)
  • 奥田隆文 「原因競合による減額―共同不法行為者の一部連帯」(「裁判実務体系第15巻」)
  • 曽根威彦 「不法行為法における相当因果関係論の帰趨」(「早法84巻3号」)
  • 野村好弘 「因果関係の割合的認定」(「賠償医学NO.10」)
  • 若杉長英ら「死亡・後遺障害に関する因果関係の割合的認定のための新基準」(「賠償医学NO.18」)
  • 池田清治「割合的責任論の現在−共同不法行為事例を素材として−」(「紛セ40年周年記念」)
  • 石橋秀起 「不法行為法における割合的責任の法理」
  • 谷口 聡 「寄与度減責理論の展開と本質的課題 法学研究論集第5号」
  • 馬場純夫裁判官 「交通事故と医療過誤の競合と寄与度減責の可否」(「平成12年赤い本講演録287頁」)
  • 丸山一朗 「交通事故における共同不法行為の過失相殺の方法」(「交通賠償論の新次元」233頁)
  • 武田昌之「動車交通事故民事損害賠償における複数加害者と被害者の関係」(「専修大学社会科学年報第40号」)
  • 前田陽一 「交通事故における共同不法行為と過失相殺」(「ジュリスト1403」)
  • 藤村和夫 「共同不法行為における「連帯」の意義」(「交通事故損害賠償の新潮流(紛セ30年記念)」)
  • 奥田昌道 「紛争解決と規範創造―最高裁判所で学んだこと、感じたこと」
  • 潮見佳男 「民事過失の帰責構造」
  • 石橋秀起 「不法行為法における割合責任の法理」
  • 前田達明・原田 剛 「共同不法行為法論」
参考判例
(大審院・最高裁判例)
  • 大正2年4月26日判決民録19輯281頁
  • 大正3年10月29日民録20輯834頁
  • 昭和12年6月30日民集16巻1285号
  • 昭和31年10月23日判決民集10巻10号1275頁
  • 昭和32年3月26日民集11巻3号543頁
  • 昭和35年4月7日判決民集14巻5号751頁
  • 昭和41年11月18日民集20巻9号1886頁
  • 昭和43年4月23日判決民集22巻4号964頁
  • 昭和45年4月21日判決判タ248号125頁
  • 昭和48年1月30日判決判時695号64頁
  • 昭和48年2月16日民集27巻1号99頁
  • 昭和57年3月4日判決判タ470号121頁
  • 平成3年10月25日判決民集45巻7号1173頁
  • 平成6年11月24日判決判時1514号82頁
  • 平成8年4月25日判決民集50巻5号1221頁
  • 平成8年5月31日判決民集50巻6号1323頁
  • 平成10年9月10日民集52巻6号1494頁
  • 平成13年3月13日判決民集55巻2号328頁・最高裁判所判例解説民事篇平成13年(上)228頁
  • 平成15年7月11日判決民集57巻7号815頁
  • 平成20年6月10日裁判集民事228号181頁
(下級審判例)
  • 東京地判昭和42年6月7日判時485号21頁
    (控訴審:東京高判昭和45年5月26日判タ253号273頁)
  • 神戸地尼崎支判昭和45年2月26日交民集3巻1号304頁
  • 千葉地判昭和45年9月7日判時619号80頁
  • 東京高判昭和47年4月18日判時669号69頁
  • 津地四日市支判昭和47年7月24日判タ280号100頁
  • 京都地判昭和48年1月26日判時711号120頁
  • 静岡地沼津支判昭和52年3月31日交民集10巻2号511頁
    (控訴審:東京高判昭和57年2月17日判時1038号295頁)
  • 札幌地判昭和52年4月27日判タ362号310頁
  • 新潟地長岡支判昭和53年10月30日交民集11巻5号1525号
  • 東京地判昭和54年7月3日判時947号63頁
  • 岡山地津山支判昭和55年4月1日交民集13巻2号453頁
  • 山形地判昭和56年6月1日交民集14巻689号
  • 横浜地判昭和56年9月22日交民集14巻5号1096頁
  • 岡山地判昭和57年10月4日判タ487号140頁
  • 横浜地判昭和57年11月2日判時1077号111頁
    (控訴審:東京高判昭和60年5月14日判時1166号62頁)
  • 浦和地判昭和57年11月26日判タ491号126頁
  • 大阪高判昭和58年6月22日判タ506号176頁
  • 東京地判昭和58年7月20日判時1132号128頁
  • 横浜地判昭和59年3月23日判タ527号121頁
  • 浦和地川越支判昭和60年1月17日判時1147号125頁
  • 高知地判昭和60年5月9日判時1162号151頁
  • 東京地判昭和60年5月31日判時1174号90頁
  • 横浜地判平成2年3月15日判タ739号172頁
  • 名古屋高判平成2年7月25日判時1376号69頁
    (原審:岐阜地多治見支判昭和63年12月23日判タ686号147頁)
  • 横浜地判平成3年3月19日判タ761号231頁
  • 大阪地判平成3年3月29日訟務月報37巻9号1507頁
  • 名古屋地判平成4年9月7日交民集25巻5号1108頁
  • 広島高判平成4年9月30日交民集25巻5号1064頁
  • 浦和地判平成4年10月27日交民集25巻5号1272頁
  • 名古屋地判平成4年12月21日判タ834号181頁
  • 神戸地判平成5年10月29日交民集26巻5号1345頁
  • 岡山地判平成6年2月28日交民集27巻1巻276頁
  • 岡山地判平成6年3月23日判タ845号46頁
  • 神戸地尼崎支判平成6年5月27日交民集27巻3号719頁
  • 大阪地判平成6年9月20日交民集27巻5号1284頁
  • 仙台地判平成6年10月25日判タ881号218頁
  • 東京地判平成6年11月17日判タ第879号164頁
  • 神戸地判平成7年3月17日交民集28巻2号419頁
  • 大阪地判平成7年6月22日交民集28巻3号926頁
  • 大阪地判平成7年7月5日訟務月報43巻10号249頁
  • 神戸地判平成8年2月29日交民集29巻1号282頁
  • 神戸地判平成8年3月8日交民集29巻2号363頁
  • 大阪地判平成9年5月16日交民集30巻3号714頁
  • 仙台地判平成9年11月25日自保ジャーナル1249号
  • 大阪地判平成10年6月29日交民集31巻3号954頁
  • 名古屋地判平成10年12月25日自保ジャーナル1316号3頁
  • 浦和地判平成12年2月21日交民集33巻1号271頁
  • 大阪地判平成12年2月29日交民集33巻1号407頁
  • 東京地判平成12年3月29日交民集33巻2号619頁
  • 名古屋地判平成12年8月30日交民集33巻4号1407頁
  • 京都地判平成12年9月18日自保ジャーナル1368号
  • 大阪地判平成13年3月22日交民集34巻2号411頁
  • 横浜地判平成13年8月10日自保ジャーナル1410号
  • 京都地判平成13年10月2日自保ジャーナル1434号17頁
  • 大阪地堺支判平成14年4月17日交民集35巻6号1738頁
  • 岡山地判平成15年6月13日交民集36巻3号846頁
  • 東京地判平成16年1月19日
  • 水戸地土浦支判平成16年2月20日自保ジャーナル1537号9頁
  • 神戸地判平成16年3月12日交民集37巻2号336頁
  • 大阪地判平成16年5月17日交民集37巻3号635号
  • 鹿児島地判平成16年9月13日判時1894号96頁 (控訴審:福岡高宮﨑支判平成18年3月29日判タ1216号206頁)
  • 横浜地判平成16年9月16日自保ジャーナル1590号
  • 東京高判平成16年9月30日交民集37巻5号1183頁
  • 大阪高判平成17年1月25日交民集38巻1号1頁
  • 東京地判平成17年3月24日交民集38巻2号400頁
  • 高松高判平成17年5月17日
  • 山口地下関支判平成17年11月29日
  • 名古屋地判平成18年7月28日自保ジャーナル1667号2頁
  • 名古屋地判平成18年11月7日交民集39巻6号1547頁
  • 東京地判平成18年11月15日交民集39巻6号1565頁
  • 東京地判平成19年11月22日
  • 横浜地判平成19年1月23日自保ジャーナル1690号
  • 名古屋地判平成19年3月16日自保ジャーナル1706号8頁
  • 東京地判平成19年9月27日交民集40巻5号1271頁
  • 東京地判平成19年11月22日交民集40巻6号1508頁
  • 名古屋地判平成20年8月22日交民集41巻4号1003頁
  • 東京地判平成21年2月5日交民集42巻1号110頁
  • 福岡高判平成21年4月10日自保ジャーナル1787号
  • 千葉地判平成21年6月18日自保ジャーナル第1817号
  • 横浜地判平成21年12月17日自保ジャーナル1820号93頁
  • 大阪地判平成22年3月15日自保ジャーナル第1837号
  • 京都地判平成22年3月30日自保ジャーナル1832号76頁
  • 東京地判平成23年2月14日自保ジャーナル1854号79頁
  • 大阪地判平成23年2月23日自保ジャーナル1855号28頁
  • 東京地判平成23年3月15日自保ジャーナル1852号
  • 名古屋地判平成23年5月27日判決自保ジャーナル第1855号
  • 福岡高判平成23年10月19日判決自保ジャーナル第1862号
  • 大阪地判平成24年3月27日自保ジャーナル1877号
  • 横浜地判平成24年4月26日自保ジャーナル第1878号
  • 東京地判平成25年2月27日自保ジャーナル第1896号
  • 横浜地判平成25年3月14日交民集46巻2号397頁
  • 東京地判平成25年3月27日自保ジャーナル1900号28頁
  • 名古屋地判平成25年3月27日自保ジャーナル第1899号
  • 神戸地判平成25年5月23日交民集46巻3号637頁
  • 東京地判平成25年5月29日交民集46巻3号693頁
  • 名古屋地判平成25年7月3日交民集46巻4号865頁
  • 東京地判平成25年7月23日交民集46巻4号968頁
  • 名古屋地判平成25年11月14日交民集46巻6号1466頁
  • 名古屋地判平成26年1月28日交民集47巻1号140頁
  • 名古屋地判平成26年1月31日交民集47巻1号205頁
  • 東京地判平成26年3月12日交民集47巻2号308頁
  • 東京地判平成26年3月28日交民集47巻2号468頁
  • 名古屋地判平成26年4月25日交民集47巻2号551頁
  • 大阪地判平成26年5月13日自保ジャーナル1928号62頁
  • 名古屋地判平成26年6月27日自保ジャーナル1931号85頁
  • 大阪地判平成26年9月12日交民集47巻5号1161頁
  • 東京地判平成26年10月28日交民集47巻5号1313頁
  • 大阪地判平成27年1月16日交民集48巻1号87頁
  • 東京地判平成27年1月26日交民集48巻1号159頁
  • 東京地判平成27年3月6日自保ジャーナル第1949号
  • 東京地判平成27年3月13日自保ジャーナル第1949号
  • 名古屋地判平成27年4月27日交民集48巻2号527頁
  • 横浜地判平成27年5月15日自保ジャーナル1953号
  • 大阪地判平成27年7月2日交民集48巻4号821頁
  • 横浜地裁平成27年7月15日交民集48巻4号862頁
  • 名古屋地判平成27年8月24日交民集48巻4号982頁
  • 東京地判平成28年2月19日自保ジャーナル1973号142頁
  • URL

「実務に役立つLGBT連続講座」第5回/刑事弁護とLGBT

月報記事

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 石井 謙一(59期)

1 はじめに

さて、5回に亘って連載してきたLGBT連続講座ですが、今回で一応最終回ということになります(もしかしたら番外編等あるかもしれませんが。)。

これまではLGBTに関する基本的知識をベースに、LGBTをめぐる社会情勢や日常業務において弁護士が注意すべきことなどをご紹介してきました。

今回は、少し場面を限定して、刑事弁護活動において配慮すべき点を取り上げつつ、これまでの連載の内容をおさらいしてみたいと思います。

2 刑事弁護とLGBT

これまでこの連載で繰り返し紹介してきましたが、LGBTは13人に1人はいるといわれている、ありふれた個性です。

ということは、当然、担当することとなった被疑者・被告人がLGBTである可能性も十分にあるということです。

事案の内容によっては、例えば、同性カップル間でのDV事案等、性的なアイデンティティが事件の内容に直接かかわる場合もあります。また、LGBTが抱える生きづらさが事件の背景になるなど、間接的に関わってくる場合もあります。事案とは関係がなくても、保釈請求など、身柄解放を目指す場合、家族関係を始めとして、被疑者・被告人の人間関係に踏み込んだ検討を行う必要もあります。

したがって、刑事弁護においても、性に多様性があることを前提に活動を行う必要があることは言うまでもありません。

3 被疑者・被告人とどのように接するか

では、具体的にどのような配慮を行うべきでしょうか。

まず、被疑者・被告人と接する場面で、性の多様性に配慮した対応をする必要があります。

例えば、男性の被疑者・被告人にパートナーがいる場合、それが「妻」や「彼女」であることを当然の前提とすべきではありません。同性パートナーである可能性もあることを前提とし、「交際相手」や「パートナー」という言い方をすることが適切です。

いわゆる「ホモネタ」「オカマネタ」を話題にすることなど、言語道断です。

もし、被疑者・被告人が、あなたに性の多様性に関する理解がないと感じれば、接見で自分の性的アイデンティティについて口にすることはないでしょう。

後述するように、LGBTであったとしても、そのことを必ずしも弁護活動に反映させる必要はありません。しかし、知っているかどうかでその後の手続において配慮できるかどうかが変わってきます。また、弁護活動に反映させる必要がある場合には、被疑者・被告人の更生にとって必要な情報に触れることができないまま活動することになります。

知ってから配慮するのではなく、まったく白紙の状態で接する場面から配慮する必要があるということです。

4 主張における配慮

被疑者・被告人がLGBTである場合、弁護人の主張においてどのような配慮が必要でしょうか。

弁護人としては、大前提として、LGBTという特性が生まれ持ったものであり、変えられないもの、変える必要がないものであること、そして、ありふれた個性であることを十分に理解しておく必要があります。

「LGBTであることが事件の原因である。」したがって「更生のためには原因となったLGBTという特性を治療すればよい。」などという主張は完全に間違いです。それだけでなく、被疑者・被告人に回復し難い傷を負わせることになりますので、絶対にすべきではありません。

むしろ、裁判官や検察官に上記の点について偏見がある場合、これを取り除く努力をしてください。

LGBTであることによる生きづらさが事案の背景にある場合は、これをどのように主張に盛り込むかは悩ましいと言えます。この生きづらさは解決が困難なだけに、これを不利な情状として受け取られる可能性があるからです。どのような主張や結論と結びつけてLGBTであることを明らかにするのか、慎重に判断する必要があります。背景となっている生きづらさについて被疑者・被告人が前向きに取り組むことができそうなら(例えば、もともと家族にはカミングアウトしようと考えていたので、これを機会にカミングアウトし、悩みを共有するなど)、弁護人としては、被疑者・被告人の決意が偏見によって誤解されないよう、最善を尽くす必要があります。

一口にLGBTと言っても、そのあり方はとても多様であり、それぞれが抱える生きづらさも千差万別です。個々の被疑者・被告人の個性に応じた対応をしなければならないのが難しいところではありますが、当事者がLGBTではない事案においても、事件の背景となる事情が千差万別であり、決まった答えがないことは同じです。違うのは、担当する弁護人にLGBTに関する知識や経験が欠けていることが多いことだけだと思います。

当事者がLGBTであるということだけで尻込みせず、被疑者・被告人あるいは関係者とよく話し合って、必要があれば刑弁ネット等で情報収集をするなどしてみてはいかがでしょうか。会員間でも知識や経験を共有することが必要であり、そのための企画は現在LGBT小委員会でも検討中です。

ただ、本人がLGBTであることをオープンにしていない場合、これを主張に盛り込むべきかどうかは慎重に検討する必要があります。

残念ながらLGBTに対する偏見は現在も根深く存在し、これをオープンにするかどうかは被疑者・被告人のその後の人生に大きくかかわる問題です。同性愛の少年が同性愛者向けの雑誌を万引きして見つかり、迎えにきた家族にセクシャリティを知られることを恐れて投身自殺してしまったという事案もあるとのことであり、本人にとっては生死を左右するほどの問題であることを念頭に置くべきです。

まずは被疑者・被告人の意思を確認し、本人が望まない場合は絶対にオープンにしないでください。

本人の承諾がある場合でも、本当にそれに触れる必要があるかどうかを慎重に吟味する必要があると言えます。

5 公判廷における配慮

被疑者・被告人がLGBTであることをオープンにしていない場合、公判廷でこれが公開されないように配慮する必要があります。

情状証人として家族が法廷に出頭している場合はもちろん、そうでなくても、公開の法廷ですから、知人等が傍聴に来る可能性も否定できません。一度オープンになってしまえば取り返しがつきませんので、「大丈夫だろう」と安易に考えないようにしてください。

この点については、弁護人が配慮するだけでは足りず、裁判所や検察官に配慮を求める必要があります。

事案によっては、パートナーの性別に言及しないなど、性的アイデンティティに触れずに公判運営を行うことも可能です。事前に裁判所・検察官と協議して理解・協力を求めましょう。

事案の内容にもよりますが、この連続講座でもご紹介したように、国においてもLGBTへの取り組みが広がりつつあり、理解・協力してくれることも十分期待できます。

6 刑事収容施設での問題

刑事弁護活動特有の問題として、収容施設での処遇の問題があります。

被疑者・被告人がトランスジェンダーの方で、ホルモン剤の定期的な投与が必要な場合、施設収容によって、これが止められてしまうことがあります。ホルモン剤も、中止によって脳梗塞や心筋梗塞などの発生率が上昇するなど、重大な疾患の原因となることがあります。

これは、まさに生死に直結する問題であり、万が一このようなことがあれば、刑事収容施設に投薬再開を求める活動を行うことが不可欠です。

法務省が「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針」を出していますが、ホルモン剤の投与については「医療上の措置の範囲外」にあるとして原則認めないとされています。しかし、2016年1月の国会において安倍晋三首相が「医師がホルモン療法の必要性を認めれば実施する」旨答弁しているので、これを前提に交渉を行う必要があると思われます。

7 さいごに

以上つらつらと述べて来ましたが、刑事弁護とLGBTについてより詳しいことを知りたい方は、現代人文社が出している「季刊刑事弁護」という雑誌の89号で「セクシャルマイノリティの刑事弁護」が特集されておりますので、ぜひご参照ください。

刑事弁護においても、それ以外の事件と基本的に配慮すべき点は共通していることがご理解いただけたのではないでしょうか。

LGBTへの配慮は相対する人間の個性への配慮です。普段は忘れていても、事件処理のときだけ「スイッチを入れる」ことなどできるような性質のものではありません。

適切な弁護活動ができるように、という観点からも、例えば飲み会の席などでいわゆる「ホモネタ」「オカマネタ」を口にしないなど、普段の生活から自分の行動を見直してみましょう。

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IT委員会だより 「OK Google!」

月報記事

会員 本山 悠宇吉(65期)

1年程前に事務所で車を購入し、最近は近場の移動であれば専ら車を使用するようになりました。電車やバスの移動に比べて車が便利だと感じることの1つは、移動中に電話ができることです。スマートフォンと車のナビをBluetoothで接続すれば、ハンズフリーで通話ができますし、事務所にいる弁護士との簡単な打合せや事務員に対する指示などは運転中に済ませることができます。

先日、外出先から車で事務所へ帰っていると、突然、充電器に繋いでいたスマートフォンの音声検索機能が起動しました。一時CMでもやっていましたが、Androidのスマートフォンは、待受状態で「OK Google」と話しかけると、手で何も入力しなくても音声検索を始められる機能があるのですが(iPhoneの場合、「Hey Siri !」です)、私自身は何も話しかけていないのに、この機能が独りでに起動したのです。一体何事かと思って少し考えたのですが、おそらく、そのとき車内で流していた音楽(何の曲だったかは忘れましたが)の一部をスマートフォンが拾い、「OK Google」と聞き間違えたのだろうと思います。

私はスマートフォンの機種変更をしたときに設定して以来、この機能を使用したことがなかったのですが、折角なので何か検索してみようと思い、試しに「ここから○○まで車で」と、近くの餃子屋さんまでの道を訊いてみました。すると、「○○は現在地から車で8分です。こちらがルートです」と音声が流れ、「開始」という表示をタップすると、ナビが開始されました。勘違いで勝手に起動したりする割には、聞き取り精度はなかなか高いようで、運転中などは意外と便利なのではないかと今更ながら気づきました。

そこで、特に運転中に使えそうなGoogleの音声検索の機能を調べてみましたので、いくつか挙げてみようと思います。

  1. 「近くの○○まで」
    運転中、急にトイレに行きたくなったら「近くのトイレまで」、「近くのコンビニまで」などと音声入力すれば案内してくれます。ガソリンスタンドや駐車場を探すときにも便利かもしれません。
  2. 「○○に電話をして」
    運転しながら手で操作をしなくても電話をかけることができます。電話帳に登録しているところだけでなく、Googleで検索できるところであれば自動的に発信してくれます。
  3. 「メモをとって」
    運転中に電話をしても、同時にメモをとることはできません。しかし、通話終了後、スマートフォンに「メモをとって。明日11時に事務所で打合せ。」などと言えばすぐにメモを取ってくれます。
  4. 「リマインドして」
    「自宅に帰ったら○○に電話するようにリマインドして」などと言って登録すれば、指定した場所に来たときや指定した時間などにポップアップで通知してくれます。
  5. 「○○の交通状況は」
    どこの道が混んでいるかなども、Googleに聞けばすぐに教えてくれます。

いかがでしょうか。個人的には(3)のメモや(4)のリマインド機能などは運転中でなくとも使えそうですし、慣れればすごく便利ではないかと思います。ただ、私の場合外で携帯に向かって話しかけるのはまだ恥ずかしいので、その意味でもまずは車の中で利用したいと思います。

上記の他にもスマートフォンの音声検索でできることは色々あるようなので、利用したことがない人は是非試してください。

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憲法リレーエッセイ 裁判所は憲法を尊重しているか?

憲法リレーエッセイ

会員 永尾 廣久(26期)

「憲法は裁判規範ではなくプログラム」?

元最高裁判事の泉徳治氏は、最高裁の憲法認識を厳しく批判しています。

「日本の最高裁は憲法のやや抽象的文言から国民の具体的な権利自由を導くことに消極です。国民の権利自由は、法律で規定されて初めて生まれると考えがちです。立法作業を経験した裁判官に特にその傾向が強いようです。最高裁は、まず法律制度から入り、法律制度として合理性を有するものであれば、憲法上の合理性を有する、という判断の仕方をよくします。・・・・・。法律の具体的な制度設計が重要な意味をもつのであり、憲法は単なる要請、指針である、憲法は裁判規範ではなくプログラムである、という最高裁の姿勢が現れているように思われます」(『一歩前へ出る司法』、267頁)

そして、泉徳治氏は憲法秩序を守るために日本の裁判所はもっと積極的な役割を果たすべきだと強調しています。私も、全く同感です。

「社会集団全体の利益と集団構成員の利益はしばしば衝突します。ここでも、規格化を求める集団の利益と、選択的別姓でアイデンティティの保持を求める個人の利益が衝突しております。両利益の調和が必要となりますが、このことについて、憲法13条は『すべての国民は、個人として尊重される』と規定し、個人が尊重されて尊厳が守られる社会を作るという指針の下に個人と社会の利益の調和を図るべきことを規定しております。そして、日本社会では、夫婦の約96%が夫の姓を選択しているという状況の下で、選択的別姓を求める女性は少数派に属します。民主主義的プロセス、多数決原理で動く国会では、少数者の利益は無視されがちです。そこで、裁判所が、選択的別姓を認めず夫婦同姓を強制することが憲法13条の個人の尊重に違反するかどうかを厳格に審査しなければならない、そうしなければ憲法秩序が守られないということになります」(同、269頁)

「社会全体としては同一氏で規格化したほうが便利でしょうが、多少の不便は我慢しても個人としての生き方を認めていくべきですよね。個人としての生き方が集団の中で押しつぶされてしまっている」(同、272頁)

「日本の最高裁の建物の中には憲法問題を研究している人が一人もいないんですね」(同、330頁)

官僚派の裁判官だけではダメ

泉徳治氏は、本人自身が最高裁事務総長から最高裁判事に就任するという超エリートコースを歩んだ人ですが、最高裁の裁判官のうち3人くらいは官僚的な発想にとらわれない、人権重視の人が必要だと断言しています。

「官僚派の裁判官が大勢を占めるようになり、社会秩序重視の判決が多くなったように思われます」(同、294頁)

「団藤先生は、刑事法の権威ではありますが、刑事法以外の分野でも優れた個別意見を書いておられます。一つの分野を究めているような人はやはり違いますね。憲法でも他の分野でも立派なご意見をお書きになる。やはり、ああいう方が三人くらい最高裁に必要です。物事の本質を見ようとする人、官僚的な発想にとらわれない人が、必要なんじゃないですかね」(同、99頁)

裁判官の研修についても、注意を要するという泉徳治氏の指摘は大切だと思います。

「私も、裁判官を外部に出して多様な経験を積ませるということには賛成ですが、それによって裁判所が準行政庁的機関になることがあってはならないと思います。外部研修で、統治機関としての意識を強くして帰ってくる人がいないとも限りません」(同、304頁)

「夫婦同姓強制の合憲判断は間違い」

泉徳治氏は、最高裁が夫婦同姓を強制している法律を合憲であると判断したのは間違いだと、すっきりした口調で言い切ります。

「再婚禁止期間の違憲判断は当然であり、夫婦同姓強制の合憲判断は間違いであるというのが私の立場です。・・・・・。(最高裁判決は)まず社会があり、社会の構成要素として家族があり、家族の中に個人があるという発想です。社会の構成要素として家族があるのですから、家族のあり方は社会が民主主義的プロセスで決めればよい、社会全体の便益のためには、家族形態は規格的、画一的であるほうがよい、という発想です。しかし、まず、一個の人間としての男と女があるのではないでしょうか。その男と女が結婚して家庭を作る、家庭が集まって社会を作るのではないでしょうか。個人の尊重、個人の尊厳がまず最初に来るべきところです。多数決原理で個人の人権を無視することは許されないと思います」(同、266頁)

そして、泉徳治氏は、最高裁判決が「権利」よりも先に「制度」ありきとしているとして、厳しく批判しています。

安保法制法は憲法違反

国会で安保法制法案が審議されているとき、山口繁・元最高裁判長官が安保法制法案は憲法違反だと指摘したことが大きく報道されました。

泉徳治氏は、この点について、次のように語っています。

「(問い)2015年の夏に、集団的自衛権の限定的行使を容認する安全保障関連法案の合憲性が大きな争点となっていた頃、山口元長官がインタビューに応えて、法案を違憲だと指摘されたことは意外だった、ということですか。

そうですね。あれは、朝日新聞の記者のお手柄でした。私も山口元長官のご意見に賛成です」(同、308頁)

福岡でも、安保法制法が憲法違反であることを明確にするための裁判(国賠訴訟と自衛隊の派遣差止訴訟)が始まりました。裁判所には勇気を持って事実を見据えて、真正面から判断してもらいたいものです。

憲法を盾に裁判所は一歩前に

泉徳治氏は東京都議会議員定数是正訴訟で、本人が原告となって訴訟を提起しました。これは世間に大変なショックを与えるものでした。その思いを次のように語っています。

「選挙の争点にもならなかった安全保障関連法が国会をすいすいと通過する、憲法改正の論議も始まろうとしている、報道の自由を牽制するような動きもある、一人一票はなかなか実現しない、こういう動きをみておりますと、裁判所も、一歩下がってばかりいて、民主主義国家の中で果たすべき役割を怠っていた責任を免れないのではないかという思いを強くしてきました。また、どこが悪いというよりも、我々世代全体の責任だと思うようになりました」(同、336頁)

その反省の前提となっている司法の現状認識を泉徳治氏は次のように語っています。

「憲法は、立法、行政のほかに司法を設け、国民が、不平等な選挙権などの民主制のゆがみの是正を求め、憲法で保障された権利自由の救済を求めて、立法・行政と対等な立場で議論するフォーラムとして法廷を用意し、裁判所に対し、憲法に違反する国家行為を無効とする違憲審査権を付与しているのです。裁判所は、違憲審査権を行使することにより、民主制のシステムを正常に保ち、憲法で保障された個人の権利自由を救済するという役割を担っております。

したがって、裁判所が、違憲審査権行使の場面で、議会の立法裁量や政府の行政裁量の陰に隠れていては、憲法秩序が保たれません。裁判所は、憲法を盾に一歩前に出て、国会行為が憲法に照らし正当なものかどうかを厳格に審査しなければなりません。ところが、約70年の歴史のなかで、裁判所が法律や処分を違憲と判断した裁判例は20件しかありません。裁判所の中で、憲法で課せられた司法の役割に対する認識が十分に育っていないのです」(同、2頁)

「私は、裁判所が、憲法よりも法律を重視し、法律解釈で立法裁量を最大限に尊重し、法律に適合するならば憲法違反とは言えないとし、条約は無視する、という現状から早く抜け出して、憲法を盾に一歩前に出てきてほしいと願っております」(同、4頁)

形式・枝葉ばかりを気にする裁判官

福岡の法廷に現れる裁判官のうち、まともに当事者の言い分を聞いてくれる人にあたると、正直言ってほっとします。

時間ばかりを気にして、当事者の言い分をまともに聞いていないとしか思えない裁判官が、何と多いことでしょう。形式論には強いけれど、紛争の実質からは目を逸らそうとする裁判官、憲法論を持ち出すと、そんな抽象論なんか主張してもダメでしょ、と言わんばかりに冷たい裁判官が多過ぎます。泉徳治氏の言うように、上が上なら、下も下、そんな気がしてなりません。

でも、私は決して諦めているわけではありません。泉徳治氏の言うとおり、私たちには、今の状況を克服する責任があると思うのです。

泉徳治氏の本に大いに触発され、私も発奮しました。ぜひ、みなさんもご一読ください。

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